漢字の読みの獲得におけろ絵刺激の利用に関する研究

漢字の読みの獲得における絵刺激の利用に関する研究
一漢字刺激と絵刺激の同時提示,継時捷示の比較一
藤
Study
A
A
〟
金
of Using
Comparison
鈴
Cards
Picture
健
村
Mediator
as也e
Simultaneous
between
治**
Presentations
Successive
and
”
EANJI
"
of Reading
:
of
Cards.
Picture
KANJIけand
徳*
倫
Michinori
FuJIKANE*
Kenji SuzuMURA**
and
StTM班ARY
This
ing
of
skills
randomly
the
successive
picture
”KANJI”
to
assigned
condition
among
preceding
transfere血ce
of
ference
found
KANJI
KANJI
between
three
cards
Group
and
A
children・
目
Forty-two
preceding
picture
results
B
was
A
under
B,
and
Group
C,
evaluated
the
vas
cards,
cards
best・
were
Group
picture
were
of read-
children
Group
:
groups
and
Group
and
the acquisition
on
of KANJI
The
cards・
control
cards
experimental
presentation
of
stimulus
school
nursery
of simultaneous
cards
of picture
effects
of the
one
presentation
was
the
investigated
study
No
in
terms
of
signi丘cant
dif-
C.
的
本研究の目的は,絵刺激を用いた漢字の読みの指導について,有効な指導法を探ること
である。
現在,学校教割こおける文字の読みに関する指導は,佐名文字学習から漢字学習へと移
行している。しかし,漢字と佐名文字の読みの学習において,漢字学習が坂名文字の学習
に上ヒベ容易であるという知見(Steinberg・岡, 1978)があるoつまり,音に基づく読みの
教育よりも語意に基づく読みの教育の方が容易であり,その意味で,表音文字である飯名
文字よりも表意文字である漢字の方の獲得が容易であると考えられたが,位名文字でも音
単位ではなく語単位に結び付けて指導すると,表意文字である漢字の場合と同様に容易な
学習が行われることが示された(岡・森・柿木,
1979)。しかし一方で,幼児においてほ
表音文字1字が1音を表記することを学習していない(岡・森・柿木,
Student)
*大学院(Graduate
**特殊教育教室(°ept. of Special
Education)
1979)という報告
218
藤金倫徳・鈴村健治
があり,読みの学習を指導する場合,漢字,平仮名,片仮名をどのような順序で教えるか
について,様々な検討が必要である岬・森・柿木,
1979)。幼児が,
1辛が1音を表記
することを学習していないこと,語に結び付けて指導することが有効であるということか
ら,本研究では,表意文字である漢字の読みに焦点をあてることにした。
一方,読みの指導の研究において,以上のように読みの指導順序を探ることと同時に,
読みをどの様な方法で指導するかという指導法を探ることも重要だと考えられる。読みの
訓練に関する先行研究は二つに大別できるo一つは,読みの訓練に先行して弁別訓練を行
い,後続する読みの訓練を促進させる(杉村・久保,
1975;
Samuels,
いま一つは,読みの訓練段階における刺激の操作に関するもの(今井,
Samuels・
1969)も.のである。
1979;杉村,
1974;
1967)であるo読みの訓練段階・つまり後者の立場をとっている先行研究で紘,
その読みの指導で一般に用いられている絵刺激の効果を検討するために,刺激として文字
刺激とそれに対応した絵刺激が用いられている。
絵刺激を利用して文字の読みを獲得させる場合,絵刺激で統制されていた言語反応の刺
激統制を文字刺激へと転移させると考えられるo刺激統制の転移に関しては,
(1971)やToucbette
and
Hovard
(1984)の研究がある。
Touchette
Touchette
and
H。ward
は・刺激統制の転移札非統制刺激に統制刺激が正しく随伴されることによって引き起こ
されると述べているoこのようにした頃合・プロンプト刺激自体が,強化子として機能す
る可能性があるo絵刺激を用いた漢字の読みの訓練では,絵刺激がプロンプト刺激として
綻示されるoそこで文字刺激(非統制刺激)に絵刺激(統制刺激)を随伴させて提示する
ことによって刺激統制の転移が起こり,また,絵刺激自体が強化子として機能するように
すれば,読みの獲得が促進されるのではないかと考えられる。
文字の読みの指導で絵刺激を用いると・読みの獲得の上で抑制的に働くという報告(杉
村・ 1978;
Samuels,
1967)があるoこの要因として,これらの研究で行われた刺激提示
法が同時提示であったので,絵刺激の提示によって,学習者の文字刺激に対する注意が分
散することがあげられているoその点を問題にした今井(1979)紘,注意を分散させない
ために継時提示法を試みているo継時提示法には,絵刺激を文字刺激に先だって提示する
型と文字刺激を先に提示する塑との2つがあるが,今井(1979)紘,前者の方法を適用し
ているo今井(1979)の結果は,読みの獲得において抑制効果も促進効果も見られなかっ
た。
同時提示によって注意が最も分散されるのであれば,同時提示条件の成績は,継時提示
条件よりも劣るをまずであるoまた,継時提示することで注意の分散が防げるのであれば,
文字刺激を先に提示しても絵刺激を先に提示しても同様の結果になるはずである.しか
し,文字刺激を先行提示した場合は・刺激統制の転移が起こり,随伴提示される絵刺激が
強化子として機能するはずである。もしそうであるのならば,文字刺激を先行鍵示する群
の成績が最も優れていよう。
以上のことから,本研究では・文字刺激を先に提示することにより,今井(1979)とをよ
逆の継時提示条件を行い,絵刺激自体が強化子として機能する・ことによって読みの獲得が
促進できないかと考えた。
219
漢字の読みの獲得における絵刺激の利用に関する研究
また,先行研究では,絵刺激と文字刺激の提示の他に言語モデルが示されているが,本
研究でほ,絵刺激と文字刺激の提示の効果を検討することが目的であるので,言語モデル
は提示しなかった。
方
法
(1)被験児
42名の子どもを平均年齢が等しくな
3歳4月から6歳3月の保育園の幼児42名である。
るように,同時提示群,絵刺激提示から文字刺激提示-と変化する絵刺激先行提示群,文
字刺激提示から絵刺激提示へと変化する文字刺激先行提示群の3群に分けた(Table
1.各群紅おける年齢の比較
Table
S・D・
MAX.
MIN.
6歳2月
3歳4月
5歳2月
10・55
絵刺激先行提示群
6歳3月
3歳8月
5歳2月
10・36
文字刺激先行提示群
6歳2月
3歳4月
5歳2月
11・09
GROUP
同
時
提
示
群
1)0
MEAN
法
(2)方
4枚の絵刺激と漢字刺激を使用した(大根,時計,金魚,朝蘇)0
Steinberg
・岡(1978)
は,読みの学習机漢字の複雑性や画数ではなく,ことばの熟知度が大きく影響すると述
べているので,熟知度を重視し,文字とことばの指導のための言語発達診断検査(河井,
1979)の語嚢検査の中の漢字2文字で表記できるものを使用した。絵刺激は,同様に語嚢
検査の絵カードを拡大コピ-したもの(モノクロ)を使用した.絵刺激と漢字刺激は共に
12.5cmx8.8cmの板目紙に印刷されている.刺激の提示は,絵刺激,文字刺激異才ち4秒
とした.刺激は,絵刺激と漢字刺激の間隔を7.7cm離して,子どもと実験者が机ををょさ
んで対面する形で提示した。
(3)手続き
①
プレテスト1
(絵の弁別・絵の命名);
4枚の絵刺激を提示し,
「**はどれ+という
質問によって当該の絵刺激を指さしさせた.つづいて絵刺激の命名は,絵刺激を一枚づつ
提示し,
「これは何ですか+という質問により命名可能かどうかをテストした。絵刺激の
命名ができなかった子どもには命名訓練を行った.この訓練を必要とした子どもはいなか
った。
②
プレテスト2
(漢字刺激の弁別); 4枚の漢字刺激を提示し,
問によって漢字刺激を指ささせたo
③
「束*ほどれ+という質
1つでも正答のあった子どもは,本実験から除外したo
訓練;絵刺激と漢字刺激を同軸こ提示する同時提示条件,絵刺激から漢字刺激の提示
に移る絵刺激先行提示条件,漢字刺激から絵刺激の提示に移る文字刺激先行擬声免件の3
220
藤金倫徳・鈴村健治
つの条件で訓練を行った。各刺準の提示時間は4秒とした。刺激の提示中は,提示されて
いる刺激へ注目することと,
2種類の刺激の提示終了後に命名するように教示された.
-
刺激提示後の命名反応は無視(消去)されたo刺激の提示頓はランダムになるように訓練
に先立ち決められている。強化子は,子どもの言語反応を実験者が逆模倣することと言語
賞賛を用いたoなお,同時提示条件では,刺激提示時の注意がどちらか一方にならないよ
うに,提示位置は左右ランダムに変えられた。
④
テスト;訓練終了後,漢字刺激のみを提示した.これ以外は,訓練と同一の手続きで
あるoテストは2回行い,
2回とも正答であったもののみを正答とした。
実験にかかった時間は,一人あたり20分から30分であった.
結
結果は以下の表の通りである(Table
果
2)。得点は,各刺激に対する正反応を1点とした
ので,最低点は0点,最高点は4点である。
P<.01)o
一元配置分散分析により群間に有意差かみられた(F(2/39)-6.38881,
た,得点を各刺激提示条件間で比較すると,文字刺激先行提示群と同時捷示群間(t
2・06419・
df-26,
df-26,
P<・05),文字刺激先行提示群と絵刺激先行提示群間(
P<・01)に有意差がみられたo
ま
-
t -3.23137,
同時提示群と絵刺激先行提示群の間には有意差
はみられなかった。
Table2.各群の得点
GROロP
MAX・
MIN.
MEAN
S.D.
文字刺激先行提示群
4
0
1. 786
1. 578
同
2
0
0. 786
0. 893
1
0
0. 357
0. 497
時
捷
示
群
絵刺激先行提示群
考
察
結果より,文字刺激先行提示条件において漢字の読みの獲得が最も優れていた。
Touchette
Howard
(1984)は,刺激統制の転移が起こる条件として,統制刺激を
非統制刺激に確実に随伴させることだと述べているoこの条件を満たしているのは,文字
and
刺激先行提示条件のみであり,転移の容易さから文字刺激先行提示群の成蹟がよかったと
考えられる。
本研究では,言語反応は,一連の刺激授示後に行うことが教示され,
1刺激提示後の反
Toucbette
応は無視(消去)された。したがって,
(1971)が測定したような刺激統制の
転移のポイントを測定することは不可能ではあるが,文字刺激先行提示群では,文字刺激
提示後と絵刺激提示後にうなずく行動が生起したo文字刺激提示後のうなずきは,刺激統
漢字の読みの獲得軒こおける絵刺激の利用に関する研究
221
制が絵刺激から文字刺激へ転移したことを現していよう。
また,,絵刺激を文字刺激に随伴させて提示した結果,絵刺激自体が強化子として機能し
たことが考えられる。この群の被験児の中には,訓練中,絵刺激を提示した後にうなずく
者がいた。うなずくことから,あたかも自分の反応が正反応であることを絵刺激の提示に
よって確認しているように思われる。その確認が強化子として機能していたと考えられ
る。いずれの群も正反応に対して,その反応の逆模倣および言語賞賛が強化子として用い
られたが,文字刺激先行提示条件では,これに加えて絵刺激までもが強化子として機能し
たことによって,同時提示群や絵刺激先行提示群よりも迅速な行動形成が起こったと考え
られる。
以上のことから,本研究では,プロソプト刺激の提示開始時間は一定にしていたもの
の,遅延プロンプトで刺激提示時間をフェードアウトした実験と同様の効果が現れたので
あろう。
絵刺激先行提示群と同時操示群の成蹟が文字刺激先行提示群よりも劣っていたのは,上
述し七ように,刺激統制を起こすには非統制刺激の提示後に統制刺激を提示することが重
要になってくる。しかしこれらの群では,その条件が満たされていないことが低い結果を
もたらした。
従来から述べられているように注意は重要であり,継時提示することで注意の分散が防
げることが,文字刺激先行提示群の成績を高めたと考えられるが,今井(1979)が述べて
いるように絵刺激と文字刺激を継時提示することで注意の分散が防げるのであれば,絵刺
激先行提示群でも文字刺激先行提示群と同様の成績が期待できるはずである。また,継時
提示群は同時提示群よりも成績がよいはずである.
_しかし結果は,文字刺激先行提示群が
優れており,絵刺激先行提示群と同時提示群の間には有意差がなかったものの平均点で
紘,同時提示群の方が優れていた。これらのことから,今井(1979)が述べているような
継時提示だけが,注意の分散を防ぐ要因とは考えられない。したがって,他の要因の影響
も考えなくてはならない.今井(1979)の研究と本研究の異なる点は,一つに言語モデル
を提示するかしないかという点である。この違いによって,実験結果に違いが起こったの
でほないかとも考えられ,言語モデル自体の読みの学習に及ぼす効果を明確にする必要が
あろう。
本研究では,絵刺激を提示しない群は設定しなかったので,絵刺激が存在しない条件と
比較して文字刺激先行提示条件に読みの獲得に対して抑制効果があるか促進効果があるか
は明かではないが,絵刺激を用いて読みの獲得をさせる場合は,文字刺激先行提示条件で
獲得させるのが有効であると考えられる。
結
論
本研究では,読みの獲得に及ぼす絵刺激の提示法の効果の違いを検討した.この結果,
文字刺激の提示後に絵刺激を提示する文字刺激先行提示群が他の群に比べ優れていたo
の要因として,非統制刺激を統制刺激に先だって提示したこと,結果的に絵刺激自体が強
こ
藤金倫徳・鈴村健治
222
化子として機能したことが考えられる。
引
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