変形性膝関節症における 手技療法の有効性について 恵仁堂鍼灸整骨院 変形性膝関節症 定義: 『関節軟骨の変性・摩耗と その後の軟骨・骨の新生増殖、 および二次性滑膜炎などに 基づく進行性の変性関節疾患』 基づく進行性の変性関節疾患』 関節の変形は、全⾝のどの関節にも発⽣し、加齢とともに発⽣頻度は⾼くなる。 しかし、関節の変形があっても特に体重のかからない関節においては痛み等の症状が全く出ないケー スも⾒られる。 今回の変形性関節症とは、関節の変形に症状が伴った状態をさす。 変形性関節症は体重がかかり酷使される機会が多い膝関節や股関節に発症しやすい傾向にある。 変形性膝関節症は、⾼齢化が進む日本国内に限っても、患者数は約700万人以上というありふれた疾 患であり、スポーツ選⼿や重労働者、中年以降の肥満⼥性などに多く発症。 X線上明らかな関節症性変化を認める頻度は、60歳代以降に急激に増加し、⼥性では60歳代におい ては約半数、80歳代以上では80%を超えている。 どの年代においても⼥性が男性に⽐べて1.5〜2倍多く、⾼齢者では男性の4倍と言われている。 日本では、畳、布団、和式トイレという下肢の関節に負担のかかりやすい⽣活様式も関与していると 考えられる。 一次性変形性膝関節症 器質的変化が機能の低下をもたらし、 機能の低下が器質的変化を増長させる 器質的変化(OA) 器質的変化( ) 機能の低下 変形性関節症は『一次性』と『二次性』に分けられる。 一次性:関節にもともと既存障害や形の異常がなく、加齢変化に体重や運動などの負荷がかかり発 症するもの 二次性:骨折や靭帯・半⽉板損傷等の外傷や股関節の形態異常、化膿性関節炎、痛風、リウマチな どの病気の後に発症するもの 膝関節においては『一次性』の割合が多い。 (症状)変形性膝関節症の場合、初期には歩きはじめや⽴ち上がり時など、動作開始時に痛みを訴え る例が多く、病期が進⾏するにしたがって動作中の痛みを訴えるようになる。 つまり、階段の昇降、特に降りる時や、更に平地歩⾏にも⽀障を⽣じるようになり、膝の曲げ伸ばし が制限され、正座やあぐらが困難になってしまう。 滑膜の炎症・増殖による滑膜炎が起こると関節に⽔がたまる「関節⽔腫」となり腫脹・圧迫感を訴え る。 さらに関節軟骨や半⽉板の変性・摩耗が進むと、関節を動かした時に痛みを伴って異⾳が出ることも ある。 膝関節の運動 屈曲 膝関節屈曲の動きは、屈曲初期0〜20°の間においては、転がり運動と内旋の運動が起こり、 屈曲20°以降においては滑り運動が起こる。 膝関節の運動 伸展 膝関節伸展の動きは、まず初めに滑り運動が起こり、伸展末期20〜0°の間においては転がり運 動と外旋の運動が起こる。 膝関節の構造 ●膝は大腿骨と膝蓋骨からなる膝蓋大腿関節、大腿骨と脛骨からなる大腿脛骨関節の2つの関節から構成 される。 ●膝関節には、半⽉板、靭帯、軟骨が存在し、各々の働きによって全体重を平均して⽀えると同時に、自 由度の⾼い運動を可能にしている。 ●半⽉板:脛骨に位置し、 ①膝関節の安定化 ②膝関節のスムーズな屈曲・伸展運動 ③ジャンプした時などの膝への衝撃を和らげるクッションの役目を果たしている 靭帯:前十字靭帯・後十字靭帯・内側側副靭帯・外側側副靭帯の4本の靭帯が膝関節における前後左右の 揺れを防止し、その安定化を担っている。 軟骨:膝関節のスムーズな屈曲と伸展運動に役⽴っている。 関節誘導 ScrewScrew-home movement 関節凹凸の法則 LPP・ LPP・CPP 今回ご紹介します変形性膝関節症に対する⼿技の一つである関節誘導のキーワードには ①スクリューホームムーブメント ②関節凹凸の法則 ③LPP・CPPの3点があります Screw-home movement 膝関節における終末強制回旋運動 •屈曲初期(0~20°)→脛骨内旋 •伸展末期(20~0°)→脛骨外旋 →伸展位での膝の安定 (knee locking) Screw-home movement 関節凹凸の法則 関節凹凸の法則(concave-convex rule) 関節凹凸の法則( 関節は凹面関節と凸面関節の組み合わせで出来ています。 骨運動と関節面の運動との間には一定の法則があります。 骨運動が起こる側の関節面の凹凸によって凹の法則と凸の法則に分かれます。 ①凹の法則(concave rule) 凸の関節面を有する骨を固定し、凹側の骨が運動する場合、関節面は骨の運動と同⽅向に滑ります。 これは、運動中心軸が、固定されている凸側の骨に存在するからです。 ②凸の法則(convex rule) 凹の関節面を有する骨を固定し、凸側の骨が運動する場合、関節面は骨の運動と反対⽅向に滑ります。 これは、運動中心軸が、運動する凸側の骨に存在するからです。 LPP・CPP LPP (LEAST-PACKED-POSITION) ) 関節最大ゆるみの位置 膝屈曲約30° 膝屈曲約30° →他動運動のポジションとして有効 CPP (CLOSE-PACKED-POSITION) ) 関節最大しまりの位置 膝完全伸展位 LPP:関節包のゆるんだ位置 関節運動学的アプローチに最も適したポジション CPP:関節を構成する凸面と凹面とが完全に適合し、接触面積が最も大きく、かつ関節 包・靭帯も最も緊張する位置 正常関節ではその可動域の一端においてロックされ、外⼒を加えても動揺しない 膝関節におけるLPP/CPPはそれぞれ膝関節屈曲約30°/膝関節完全伸展位 関節誘導 手技 関節誘導① 患者を腹臥位とし、患側の足関節がベッドから出るようにして、膝関節屈曲をなるべく0°に近い状態から ⾏えるようにする 右膝を患側とした場合、術者は右⼿で患者の下腿上部を、左⼿で足関節を把握する 膝関節屈曲初期0〜20°は転がり運動と内旋の動きが起こる為、少し末梢に牽引を加えながら下腿部を内旋 させ、20°以降は滑り運動が起こるため、右⼿で下腿上部を押し込むように屈曲させていく 膝関節伸展においては、伸展20°までは滑り運動が起こる為、右⼿で下腿上部を⼿前に引き戻すように伸 展させていき、伸展末期20〜0°は転がり運動と外旋の動きが起こる為、末梢牽引を少し加えながら外旋さ せる 関節誘導② 患者を背臥位とし、患側の膝関節を約30°屈曲させる 術者は患側に⽴ち、両⼿で下腿上部を把握し、両大腿部内側で患側下腿部を把握する 膝関節屈曲において、術者が膝を曲げ体勢を落とすと同時に、患側下腿上部を内旋させ、伸展においては、 術者が膝を伸ばして体勢を起こすと同時に患側下腿上部を外旋させる *変形性膝関節症を患っている患者の膝関節ROMには個人差がある事を考慮し、動かす事が出来る範囲 内で⼿技を⾏う事を原則とする 圧迫(compression) 圧迫(compression)の治療効果 )の治療効果 圧迫( 関節面の適合性を高める mechanoreceptor(感覚受容体)の賦活 (感覚受容体)の賦活 ・メカノレセプター 関節構成体の各組織(滑膜・関節包・脂肪体・靭帯・半⽉板・筋・腱)に多数存在し、位置・ 運動に関して反応するセンサーとして姿勢や運動時の筋と静的⽀持組織との協調性や不意な外⼒ に対して反応改善したり予測制御するなどの働きをもつ 圧迫 手技 圧迫 ●患者を背臥位とし、股関節・膝関節を屈曲させる ●術者は患側の位置に座り、患者の患側足底を術者の前胸部に当てながら、両⼿で大腿下部を把握す る ●動かせる範囲内で、膝関節屈曲の角度を変えながら、その都度下腿⻑軸⽅向に軸圧を少しずつ加え ていく *関節誘導・圧迫の⼿技が終わった後は、伸縮性のある弾⼒包帯を⽤いて膝関節を固定する ⇒膝関節の動揺性を軽減させ、かかる負担を減らす目的 指圧による手技 膝関節の運動と関係する筋肉 屈曲:半腱様筋・半膜様筋・大腿二頭筋(薄筋・縫工筋・腓腹筋) 伸展:大腿四頭筋(大腿筋膜張筋) 大腿骨の外旋:膝窩筋(半腱様筋・半膜様筋・薄筋・縫工筋) 大腿骨の内旋:(大腿二頭筋・大腿筋膜張筋) 膝関節の運動と関係する筋肉 屈曲:半腱様筋・半膜様筋・大腿二頭筋(薄筋・縫工筋・腓腹筋) 伸展:大腿四頭筋(大腿筋膜張筋) 大腿骨の外旋:膝窩筋(半腱様筋・半膜様筋・薄筋・縫工筋) 大腿骨の内旋:(大腿二頭筋・大腿筋膜張筋) 上記筋肉を意識しながら、特に筋緊張の強い筋肉を指圧し筋バランスを整えていく 症例1 Y.O.さん 79歳 (⼥性) 自営業(農業) 初診日 2009.4.3 主訴 腰痛、下肢の冷え、歩⾏時、階段昇降時の膝の痛み 原因 ⻑時間の座位による畑仕事 所⾒ ⽼化による関節軟骨の摩耗の為、膝関節の内反変形が著明、 大腿四頭筋の委縮が⾒られる 経過 ・週に2,3回のペースで来院、施術を受ける ・施術後、痛みは軽減するが、仕事中に膝関節に負荷をかけてしま う為、痛みが強く現れる場合もある ・痛みの軽減、変形の予防および進⾏防止の目的で、⼿技療法と 併せて筋⼒トレーニングを取り⼊れる ・初診より3年が経過するが、痛みはなくなる事はないものの、症 状の悪化は⾒られず、現状を維持している 症例2 E.A.さん 72歳 (⼥性) 無職 初診日 2009.7.25 主訴 膝関節伸展時の痛み、動作開始時痛 原因 原因は不詳、⽼化によるものが大きいと思われる 所⾒ 膝関節周囲の腫脹、内反変形、伸展制限、大腿四頭筋の委縮 経過 ・週に4,5回のペースで来院される ・膝関節屈筋群の筋緊張が非常に強い為、膝関節に対する⼿技、 大腿部の筋に対する指圧、筋肉トレーニングを継続的に⾏う ・初診より3ヶ⽉を過ぎた頃から症状の軽減が⾒られ、関節可動域も ほぼ正常可動域まで回復する 症例3 S.S.さん 68歳 (男性) 無職 初診日 2011.12.24 主訴 歩⾏時の膝の痛み 原因 原因は不詳。3年前に急性腰痛、それ以来時々腰痛が起こる為、 姿勢と重心の変化が影響しているものと思われる 所⾒ 右膝関節の腫脹(+)、McMurry test(+)、Apley test(+) 経過 ・週に3回のペースで来院し、施術を受ける ・膝関節と大腿部の筋に対するアプローチに加え、大腿四頭筋の 筋⼒トレーニングを⾏う ・2012年3⽉現在、膝関節の腫脹はほぼ消失、痛みに関しては 軽減するも歩⾏時は痛みが現れる為、プールでの⽔中ウォーキン グも開始する 症例4 S.H.さん 77歳 (⼥性) 無職 初診日 2011.2.7 主訴 左膝の痛み 原因 原因は不詳 1⽉下旬に整形外科受診 X-ray検査の結果 「軽度の変形性膝関節症」と診断される 所⾒ 熱感(±)、腫脹(-)、左膝内側部に圧痛、動作開始時痛(+) 歩⾏時痛(+)跛⾏あり、軽度の屈曲制限、正座が困難な状態 経過 ・週に2,3回のペースで来院、施術を受ける ・施術期間は約5ヶ⽉間 ・各症状は消失し、膝関節のROMにおいても改善が⾒られた ・歩⾏、正座も問題なく⾏えている 症例5 M.I.さん 79歳 (男性) 無職(以前は建具店を営んでいた) 初診日 2011.9.7 主訴 左膝の痛み、正座ができない、腰痛 原因 原因は不詳、⽼化によるものが大きいと思われる 所⾒ 腫脹(-)、左膝内側部に圧痛、屈曲制限、歩⾏時痛(+) 経過 ・初診より1ヶ⽉程は週に3,4回のペースで来院 ・膝関節に対する施術と、筋緊張緩和の目的で、硬くなった腰部・ 大腿部の筋を指圧する 歩⾏時痛は軽減し、膝関節の可動域もやや改善する ・現在も正座は難しいが、歩⾏時の痛みは消失し、週に1回程度の 通院で現状を維持している 症例6 T.T.さん 76歳 (⼥性) 無職(以前は食堂で働いていた) 初診日 2010.11.30 主訴 左膝の痛み 原因 原因は不詳、⻑年の⽴ち仕事の影響が強いと思われる 整形外科を受診し、変形性膝関節症の診断を受ける 所⾒ 熱感(-)、腫脹(+)、動作開始時痛(+)、屈曲・伸展制限あり 内反変形が著明 経過 ・週に4、5回のペースで来院 ・膝関節に対する⼿技と併せて、硬くなっている腰部、下肢の筋を 指圧、ストレッチングを継続して⾏う ・椅⼦に座っての大腿四頭筋のトレーニングも指導し自宅で継続中 ・可動域はやや改善するも、動作開始時痛は依然強いまま ・毎朝ウォーキングをされていたが、最近は朝の痛みが強く中止 膝関節の⼿術も検討するに至る 痛みと可動域の変化 Pain-scaleの変動 の変動 可動域の改善 ※患者約50名のデータに基づく 痛みと可動域の変化はグラフを⾒ても分かるように施術回数を重ねるごとに痛みは軽減し、可動域 は回復している。 しかし、このデータが全て⼿技による治療効果とは限らず、患者自⾝が施術所以外で⾏っている適 度な運動や食⽣活の⾒直し、減量、日常⽣活上の注意点を守ってくれた事なども大きく影響したと 考えられる。 その理由は、変形性膝関節症は⽣活習慣に起因している場合多いからである。 ・運動には⽔中歩⾏が効果的で、大腿四頭筋などの大腿部の筋肉や股関節周囲筋の筋⼒を強化して 膝への負担を減らすことが重要であり、それだけで罹患を減少させたり、進⾏を遅らせる効果があ る。 ・また日常⽣活上の注意点としては、 ⻑時間の歩⾏や階段昇降、正座など膝関節に負担のかかる動作をなるべく避け、歩⾏時の痛みや跛 ⾏がある場合には杖を使⽤する ハイヒールや靴底の薄くて硬い靴は避けて、なるべくクッション性のあるスニーカーなどを履く 関節を冷やさないように注意する 可能であれば、椅⼦・ベッド・洋式トイレなど⽴ち座り動作の少なくて済む洋式スタイルの⽣活に 切り替えるなどが大切である 考察 機能の回復はADL向上やリハビリのレベ ルアップにつながり、結果器質的変化に対 して進行を弱めたり遅らせたりというような 効果をもたらすのではないかと考えるに 至った。 しかし、全てのOAに適用もしくは効果を 期待できるとは限らず、炎症の強い急性期 や手術を勧められている重度のOAには時 期や手技に考慮が必要である。
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