臨床試験を知る資料 - DHC総合教育研究所

臨床試験を知る資料
実際の活動に入ります。この研修で用いられるテキストは、MR に求められる様々な知識
が効率的に学べるよう作られています。薬学部出身者以外の人にも学びやすいように基本
的な内容から書かれているので、メディカル翻訳者が基礎知識を得る資料としても役立ち
臨床試験とは、健康な人[健常人(healthy volunteers)と呼びます]や患者に薬を投与
ます。
してその効果や影響を調べる研究のことです。日本では、新薬の承認を得るために行われ
(財)医薬情報担当者教育センターが出している研修テキスト(MR 研修テキスト I「疾
る臨床試験を特に「治験」と呼びますが、英語では治験と臨床試験をはっきりと区別する
、 III「医薬概論・PMS・添付文書」
)は、同センターのサ
、 II「薬理学・薬剤学」
病と治療」
表現はなく、 clinical trial と clinical study は同義として扱われています。
イト( � サーチマニュアル 1-020)から購入することができます。
メディカル翻訳者が手がける論文の多くは、臨床試験の報告書が占めます。新薬の開発
専門資料
の流れや代表的な臨床試験の手順を理解しておけば、かなりの仕事がこなせます。
臨床試験の内容や専門用語を知るためには、次のインターネットサイトや書籍が役立ち
ICH ガイドライン
ます。
製薬会社が開発した化学物質を医薬品として市場に出すためには、その化学物質に関す
基礎知識の収集に役立つ資料
る研究結果などの様々な資料を規制当局に提出し、当局から製造・輸入・販売の許可を得
る必要があります。このような許可を求めるために当局に提出する資料の内容は規制当局
くすり Q&A シリーズ(日本製薬工業協会)
が定めているのですが、少し前までは日本、米国、欧州のそれぞれで内容(動物実験の条
( � サーチマニュアル 1日本製薬工業協会(製薬協)が一般向けに提供している「くすり Q&A」
件など)が多少違っていました。このため製薬企業は各国での販売承認をとるために似た
014)では、Q&A 形式で新薬の開発を説明する「研究開発 Q&A」
( � サーチマニュアル 1-015)な
ような試験を延々と繰り返さなければなりませんでした。これではいけない、申請資料の
どのわかりやすい読み物が提供されています。「『くすり』と『治験』
」
( � サーチマニュアル 1-016)
内容を統一して時間と費用の無駄を省こうという声が上がり、日米 EU 医薬品規制調和国
という治験への参加を考えている人に向けて書かれたパンフレットも読んでおきましょう。
際会議(International Conference on Harmonisation, ICH)が開催されるに至りました。会
議は定期的に行われ、合意内容は ICH ガイドラインとして発表されています。
臨床試験への参加者を募集するサイトを利用する
新薬の承認申請資料は全てICHガイドラインや規制当局が発表する他のガイドラインに
従って作成されます。申請資料やそれに類した資料を翻訳する際には、このようなガイド
臨床試験の情報を提供して参加者を募るインターネットサイトがあります。代表的なと
ころでは「治験実施情報」(製薬協のサイト内)( � サーチマニュアル 1-017 )や「治験ナビ」
ラインを参照することが求められます。
( � サーチマニュアル 1-018)、「治験情報ネット」
( � サーチマニュアル 1-019)などがあります。このよう
ICHガイドラインは英語版、日本語版ともに国立医薬品食品衛生研究所のサイトで公開
なサイトには臨床試験のしくみを説明したり、専門用語を解説したりするページがあるの
されています( � サーチマニュアル 1-021)。臨床試験の翻訳では、E6 の「医薬品の臨床試験の実
で、専門資料を読む前の準備として目を通しておきましょう。
施の基準に関する省令」、 E8 の「臨床試験の一般指針について」、 E2A の「治験中に得られ
る安全性情報の取り扱いについて」、 E9 の「臨床試験のための統計的原則について」が特
に重要です。必ず読んでおいてください。
※本講座は、新薬開発の基本的な流れは理解していただいているとの前提で進めます。
上記のサイトなどを利用して、自習しておいてください。
※本講座は、上記のICHガイドラインを入手して目を通しておられることを前提に進め
MR 研修資料
ます。各自で予習をお願いします。
製薬会社で MR(Medical Representative, 医薬情報担当者 = 病院を訪問して専門家に自
社製品の薬効や安全性などの情報を提供したり、専門家から製品の使用経験に関する情報
を収集したりする営業担当者)として活動する人は、入社後に集中的な研修を受けてから
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翻訳演習 2
用語の説明
本文の冒頭部分を訳します。ここは見出しがついていないことが多いのですが、英語
では Introduction、日本語では「緒言」と呼ばれます。試験を行うに至った経緯や試験の目
a public health initiatives:
「公衆衛生イニシアチブ」などと訳しても読者には何のこと
“An
かわかりません。意味のない直訳は避けましょう。initiative を英英辞典で引くと、
的を論じる部分です。この分野の基本用語も出てきますので、用語の意味を確認して、日
initiative is an important act or statement that is intended to solve a problem”(COBUILD)
本語ではどう表現されているのかを調べながら訳してください。
Despite public health initiatives(1) encouraging smoking cessation, at any given
と説明されています。保健機関が禁煙を呼びかけることととらえて訳しましょう。
s outcome:outcome は「成果」
「転帰」
「結果」などと訳します。ただし、ここで「結果」
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と訳すと results(結果 = 試験で得られた成績のこと)と区別がつかなくなるので、「転
time only 20% of smokers report that they are motivated to stop smoking and about
帰」と訳したほうがよいでしょう。転帰は治療の結果(今回の研究では「禁煙を達成し
40% of smokers make quit attempts each year (1,2). It is not known whether smok-
た」「節煙に至った」「不変」など)を示す用語です。
ers who are unwilling to quit, yet are motivated to reduce smoking, would be more
likely to quit if they participated in a smoking reduction program. Although quitting
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is the preferred outcome(2) from interventions for treatment of tobacco use and
dependence, smoking reduction may offer some health benefits by reducing to-
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bacco exposure or by increasing the motivation to quit, thereby increasing subse-
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quent abstinence rates (3,4).
The purpose of this study was to assess the efficacy of sustained-release bupropion
翻訳・調査のコツ
at any given time only 20% of smokers report that they are motivated to stop
smoking and about 40% of smokers make quit attempts each year (1, 2).
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文章の末尾にある「(1,2)」は参考文献の番号を示します。著者が論文のこの部分を
in achieving sustained smoking reduction and to determine whether this results in
書くにあたって参考文献欄の 1 と 2 の内容を参照したことを示しています。論文を翻
increased abstinence rates.
訳する際には、参考文献の番号は必ず訳文に含めてください。番号を転記するだけで
はなく、論文の本文の後にある参考文献のリストを参照して、言及されている参考文
献のタイトルや内容も確認しながら訳しましょう。参考文献には翻訳に役立つ情報が
訳文記入欄
満載されています。必ず参考文献欄も参照し、必要に応じて引用文献の抄録を読みな
がら訳してください。
実際に 1 と 2 の書誌事項を確認してみましょう。論文の最終ページ(p.75 参照)を
開いて、References の該当部分をみてください。
1. Etter JF, Perneger TV, Ronchi A. Distributions of smokers by stage: international comparison and association with smoking prevalence. Prev Med.
1997;26:580-585.
2. CDC. Cigarette smoking among adults-United States, 2001. MMWR Morb
Mortal Wkly Rep. 2003;52:953-956.
参考文献 1 の抄録は、 PubMed( ➜ サーチマニュアル 1-009)で検索するか Google で[“dis-
tributions of smokers by stage” etter] をキーワードに検索すれば、閲覧することがで
きます。抄録は次の通りです。
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