CMCコミュニケーション研究 CMCコミュニケーションの特性(1 - Ne

東京大学教養学部前期課程
2014年度冬学期
文化人類学II
ソーシャルメディアへの
文化人類学的アプローチ
従来の物理的時空間の拘束がない
多所性・多時性
非(
)性、「タイミング柔軟性」あるい
は「離散性のコントロール」
蓄積可能性
過去参照可能性
耐経年劣化性(アナログは時間の経過と共に劣
化するが、デジタル情報には時間による劣化は
ない)
CMCコミュニケーション研究
木村
CMCコミュニケーションの特性(1)
忠正
http://www.ne.jp/asahi/kiitos/tdms/hp.j.html
2
CMCコミュニケーションの特性(2)
検索・収集・選択・編集加工・発信容易性
オンライン独自の「社会的(
)」
高いコントロール可能性
「物理的存在」とは別に「論理的存在」が生成
「使い分け可能」
「識別不能性」=>「実名」「仮名」「匿名」
「リンク不能性」
CMCと社会的現実
多数の人々が関わり合いながら、集合的に知が蓄
積され、生成発展する「共有知」の可能性(反面「衆
愚知」の可能性も)
時間の可塑性(アナログメディアにおけるメディア自
体の時間経過刻印とは異なる機制)
サイバーカスケード(cyber cascade,Cass
Sunstein)、サイバーバルカン化
(Cyberbalkanization)
「真偽」から「(
)」へ
3
CMC研究のレベル
4
連関する各レベル
個人レベル
精神的健康(internet addiction、internet paradoxな
ど)、利用・効用、フリーライダー問題、cyberbody、人格
変容
対人関係レベル
自己開示、自己呈示、印象形成、対人関係増進・醸成・減
衰・失望、ネットいじめ
集合的レベル
秩序破壊行動、ジャンク・スパム・ネズミ講・詐欺(オフライン
世界での問題のオンライン版)、ネットワーク行動の構造的
特性(ベキ法則、優先的選択、突発性など)
社会文化レベル
5
研究レベルは、相互に連関している
CMC行動、CMCに伴う諸現象の多くは、個人-対人-集合-
社会文化各レベルに関与しており、どのレベルにフォーカスす
るかによってアプローチする問題が析出される
例:CMCによるフレーミング
個人レベル:フレーミングの動機、影響、抑鬱傾向、孤独感、
ストレス
対人レベル:フレーミングの機制、条件、フレーミングにおけ
る言語行為の特性
集合レベル:BBSなどでの発生頻度、条件、影響
社会文化レベル:社会毎のフレーミングのあり方
6
1
Definition
Internet Addiction
Goldberg, I. (1995). Internet addictive disorder
(IAD) diagnostic criteria.
<http://www.psycom.net/iadcriteria.html>.
Young, K.S. (1996). Internet addiction: The
emergence of a new clinical disorder. University of
Pittsburgh at Bradford. In: Paper presented at the 104th annual
meeting of the American Psychological Association, August 15,
Toronto, Canada.
「インターネット中毒尺度」 (http://netaddiction.com/,
http://www.pitt.edu/~ksy/apa.html)(Young (1998)
Caught in the net. Chichester: Wiley.)
‘‘the compulsive overuse of the Internet and the
irritable or moody behavior when deprived of it”
(Mitchell 2000).
‘‘an individual’s inability to control their Internet
use, which in turn leads to feelings of distress
and functional impairment of daily activities”
[Shapira, N., Lessig, M., Goldsmith, T., Szabo, S.,
Lazoritz, M., Gold, M. et al. (2003).
日常生活における問題は広範囲にわたる。Young
(1996) は、academic, social, financial,
occupational, physical in nature、という5領域を指摘
7
8
Young’s Internet Addiction Test
(IAT)(1)
Criteria for diagnosis
1) tolerance(耐性): one needs to increase the amount of time
spent online to achieve the same effect.
2) withdrawal(禁断): one experiences an unpleasant feeling
when he/she is not online.
3) craving(渇望): one needs to access the Internet more often
and for longer periods of time
4) negative life outcomes: one experiences conflicts between
Internet use and other activities. (1)-4) Goldberg 1996)
5) salience(主要特性): using the Internet becomes the most
important activity in one’s life
6) mood modification: one uses the Internet to alleviate their
mood
7) relapse(逆戻り): one keeps going back to his/her old
Internet use pattern with unsuccessful efforts to cut down.
(5)-7) Griffiths 1998)
各質問に対して、1=めったにない、2=たまにはある、3=ときどきある、4=頻繁
にある、5=いつもある、として点数化
1. 思っていたよりも長くオンラインにいた経験はありますか?
2. オンラインで長く過ごしたために、家事をおろそかにしたことがありますか?
3. パートナーと仲良くするよりも、インターネットで得られる刺激のほうを求める
事がありますか?
4. オンラインで新しく知り合いを作る事がありますか?
5. 周囲の誰かに、あなたがオンラインで過ごす時間について文句を言われた
事がありますか?
6. オンラインで費やす時間のせいで、学校(仕事)の成績や勉強に悪影響が
出ていますか?
7. ほかにしなければいけない事がある時でも、電子メールをチェックします
か?
8. インターネットが原因で、仕事の能率や成果に悪影響を与えているか?
9. オンラインで何をしているのかと聞かれた時、自己弁護をしたり、秘密主義
になったりしますか?
10. インターネットで楽しむ事を考えて、現実の生活の問題を頭から閉め出そう
とすることがありますか?
9
Young’s Internet Addiction Test
(IAT)(2)
11. 次回オンラインにアクセスするのを楽しみにしている自分を意識すること
がありますか?
12. インターネットの無い生活は退屈で、空しく、わびしいだろうと、不安に思う
事がありますか?
13. オンラインにアクセスしている最中に誰かに中断された場合、ぶっきらぼ
うに言い返したり、わめいたり、いらいらしたりしますか?
14. 深夜にログイン(接続)するために、睡眠不足になることがありますか?
15. オフラインにいるときインターネットのことを考えてぼんやりとしたり、オン
ラインにいることを空想したりしますか?
16. オンラインにいるときに「あと2、3分だけ」と言い訳しますか?
17. オンラインにいる時間を短くしようと試して失敗した事がありますか?
18. どれだけ長くオンラインにいたのかを人に隠そうとしますか?
19. ほかの人と出かける代わりに、もっと長い時間をオンラインで過ごすほう
を選んだ事がありますか?
20. オフラインにいると気分が落ちこみ、機嫌が悪くなって、イライラするが、
オンラインに戻るとすぐに払拭できるという経験がありますか?
11
10
インターネット中毒度判定
71点以上: インターネット中毒度-高。あなたのインターネッ
ト利用は、生活に重大な問題をもたらしている。すぐに対処す
ることが望ましい
70-41点:インターネット中毒度-中。インターネットが原因と
なる一般的問題を経験している。それが生活に与える悪影響
について、よく考える必要がある。たとえば、それぞれの項目
で4または5につけた項目をチェック
40-21点:インターネット中毒度-低。平均的なオンライン・
ユーザ。ウェブをサーフィンする時間は少し長過ぎるかもしれ
ないが、アクセス時間を自制することはできる
20点:インターネット中毒とは今の段階では無関係
12
2
Internet Addiction?
ネット中毒尺度を構成する次元
(生活への)侵入(
)
思っていたよりも長くオンラインしていた。オンラインで長
く過ごしたために、家事をおろそかにした。など
現実逃避(escaping reality)
インターネットで楽しむ事を考えて、現実の生活の問題を
頭から閉め出そうとする。オンラインにアクセスしている
最中に誰かに中断された場合、ぶっきらぼうに言い返し
たり、わめいたり、いらいらしたりする。
ネットへの強い嗜好(attachment)
インターネットの無い生活は退屈で、空しく、わびしいだろ
うと、不安に思う。
“Internet addiction” という術語以外にも、”Problematic
(Pathological, Excessive, Compulsive) Internet
use”、”Internet dependency” といった術語も
「中毒」といっても、専門的治療(専門家による介入)の必要な
精神的病気なのか、(
)的に「過度の利用とそれに
伴う日常生活での問題」、あるいは、「依存」なのか?
インターネット利用全般の中毒と、オンラインギャンブル、オン
ラインゲーム、暴力猥褻コンテンツなど、個別のコンテンツの
中毒を区別する必要
後者の場合には、「ギャンブル中毒(例:パチンコ中毒)」「ゲー
ム中毒」「性中毒」などオフライン世界での問題、中毒と同じ理
由である可能性も
前者の場合にも、他の中毒性と関連があるのか否か
13
14
問題の多相性・複合性
「中毒」としても、多様な素因が考えられる
(
)学的、遺伝学的、心理学的(内向性、刺激追求、孤独感、現
実逃避、内的コントロール、自信(欠如)など)、家族関係、社会環境要因
「インターネット中毒」の議論で何が問題とされているかは重層的、複合的
多層レベルの複合的要因を析出し、丁寧に分析、探索していく必要
先行条件
逸脱行動
(antecedents)
(Deviant
behavior)
悪影響
発動要因
(Negative
effects)
(Push
factors)
中毒者属性
(Addict Profile)
誘引要因
(Pull factors)
抑制方略
(Control
strategies)
Douglas, A.C. et.al. (2008) Internet addiction: Meta-synthesis of
qualitative research for the decade 1996–2006. Computers in Human
Behavior 24:3027–3044.
15
Internet Paradox
先行条件:ネット利用時間、期間、強度
中毒者属性:乏しい社会(
)、自信のなさ、孤独感
発動要因:オフラインとは独立したオンラインの自己、自信欠如・
コンプレックスからの逃避、孤独感回避、ストレス解放
誘引要因:ネットの社交容易性、中毒性の高いアプリ(チャット、
MUDなど)、アクセス遍在性、扇情的活動、衝動強迫行為 (オン
ラインゲーム、サイバーセックス、ネットギャンブル、取引など)
悪影響:学業上、仕事上、対人関係上、身体的問題、経済的問
題(自己確認、関係の緊密化といった好影響もみられる)
逸脱行動:違法行為、幇助行為、自己逃避、欺瞞行為(引っ込み
思案個人にとっては社交性を促進)
抑制方略:他の活動で代替する、自己管理、生産的利用の促進、
学生への注意喚起
16
「ネット利用」と一括することの問題
インターネット利用の対人関係、精神的健康への影響に関する議論とし
て、”Internet Paradox”論があった。
Kraut, R. et.al. (1998) Internet paradox. American
Psychologist, 53, 1017-1031.
1995-97実施Homenet Project(一般家庭にパソコンとネット接続環
境を提供)のデータをもとに、Krautらは、インターネット利用時間が多くな
ればなるほど、対人関係、精神的健康の面でマイナスの影響が見られた
と報告
しかし、Kraut, R. et.al. (2002) The Internet paradox revisited.
Journal of Social Issues, 58, 1, 49-74
1998年再調査データからは、インターネット利用時間と対人関係関連変
数は、いずれも無相関。精神的健康についても、ストレスは有意に増加だ
が、鬱状態は有意な改善との結果
解釈:対面基盤の対人関係を維持するために利用されるとプラスに働く可
能性あり。ただし、オンライン関係は対面よりももろく、オンラインが大半の
場合には精神的健康が悪化の可能性も
17
Krautらは、「ネット利用時間」で一元化しているが、個人がど
のようにインターネットを利用しているかを細分化する必要
利用法の細分化(ツール別分類)
利用目的(効用)の細分化(目的分類)
コミュニケーションツール・目的としての利用と精神的健康
変数との相関がいくつか確認されている
対人関係に関して、
「オンラインの対人関係」と「対面対人関係(FtF)(faceto-face)」とは異なるので明確に分ける必要性
FtFが苦手で、オンラインで対人関係が形成される場合も
あれば、ネットコミュニケーションに伴うストレス(誹謗中傷、
フレーミングなどのリスク)もまたある
18
3
利用法の細分化と同時に、利用者属性の区分も必要
インターネットパラドクスに関連した利用者属性では、
social resourceの有無が重要な変数
Social resourceは、次の2種類を明確に区別する必要
オフライン対人関係の現在時点での豊かさ
オフライン対人関係を豊かにする個人の(
)(外
向性、協調性など)
social resourceに関する二つの対立するモデル
Krautらは、”The rich get richer” (富者富裕)モデルを
提起
McKenna and Barghは、社会的(
)(social
compensation) モデルを提起。社会的資源が乏しい個
人がネットワークにより便益を得る可能性を指摘。
Cues Filtered Out (CFO)
アプローチ
FtFと比較したCMCコミュニケーションの対人関係への影響を
どのように捉えるかが一つの焦点
Cues Filtered Out (CFO)(手がかり濾過アプローチ)
(Culnan and Markus 1987)
基本的に、「CMCは、社会的手がかりの欠如が社会的統制感
を弱め、(
)されたコミュニケーションをもたら
す」という観点をとるアプローチ
具体的には、
社会的存在感理論(Social Presence Theory)
社会的文脈手がかり欠如モデル(Lack of Social
Context Cues hypothesis)
Media Richnessモデル
19
社会的存在感理論
(Social Presence Theory)
社会的文脈手がかり欠如モデル
テレコンフェレンス(電話会議システム)の影響に関する理論。
社会的存在感=相手が会話に入り込んでいると感じる程度
社会的存在感の程度は、コミュニケーションメディアによって異
なる。
ある一つのメディアに関して、利用可能なコミュニケーション
チャンネル、コードが少なければ少ないほど、社会的存在感に
注意しなくなる。
CMCは、顔の表情、姿勢、服装、声の様子など、(
)
視覚・聴覚コードはほとんど伝達されない。したがって、社会的
存在感は低い。社会的存在感が低くなると、メッセージは非個
人的(impersonal)となる。
Short, Williams and Christie(1976)The social psychology of
telecommunications. New York: John Wiley & Sons.
20
CMCでは、非言語的情報の伝達量が低下し、社会的手がか
りが減少する。
自己知覚が低下し、自らの社会的役割意識が薄れることで、
社会的抑制がきかなくなり(uninhibited)、脱人格化
(depersonalization)する
Kiesler, S., Siegel, J., & McGuire, T. (1984). Social psychological aspects of
computer-mediated communication. American Psychologist, 39(10), 11231134.
21
22
Media richness theory
Daft, R.L. & Lengel, R.H. (1984). Information richness: a new
approach to managerial behavior and organizational design.
Research in organizational behavior. 6, pp.191-233.
組織コミュニケーション研究の文脈から
Media richnessは、情報を伝達する能力であり、information richness
(情報の豊かさ)は、「ある時間間隔で理解を変える能力」(Daft and
Lengel)。
(
)的で曖昧な課題を明確にすることができる情報が「豊か」であり、
そうした情報伝達を可能にするコミュニケーションメディアが「豊か」である
Media richnessは次の4要素の関数
1)フィードバックの迅速さ、2)利用可能な手がかりの数・チャンネル数、3)
表現の多様性、4)情報の受け手への意識の強さ
FtF、ビデオ会議、電話会議、文字チャット、ボイスメール、電子メール、BBS
など、それぞれのメディアのrichnessは異なり、「豊か」であるほど、不確実
性、多義性を削減し、コミュニケーションを効果的にする
低いメディアは、不確実性、多義性が低い課題に適している
23
http://en.wikipedia.org/wiki/File:Media_Richness_The
ory_Diagram_PNG.png
24
4
“Cues Filtered In“(CFI)
アプローチ
親密性均衡理論
(Intimacy Equilibrium Theory)
“Cues Filtered In“(CFI)(手がかり抽出)アプローチ
親密性均衡理論(Intimacy Equilibrium Theory)
SIDE (social identification/de-individuation
model),
SIPT (social information processing theory)
hyperpersonal perspective
Argyle, M. & Dean, J. (1965) Eye-contact, distance and
affiliation. Sociometry, 28, 289-304.
行動的親密さと相互作用への関与のレベルは、それぞれの社会的関
係性によって異なる。
見知らぬ他人やちょっとした知り合いから、友人や恋人へと関係性の親
密さが増加するにつれ、関与する際の快適さのレベルも高くなる。
そうした社会的関係性に対応する親密さ、関与レベルは、相手との距離
や(
)のやりとり、笑顔、言語的親密さ(自己開示)など行動の
組み合わせにより決定され、相互作用において、人々は関与の度合い
の釣り合い、平衡性を維持しようとする。
例えば、個人間の会話内容が親密性を増すほど、アイコンタクトの量は
減少する。
この理論に従えば、CMCでは、非言語的手がかりが少ないため、親密
さの均衡を保つよう言語的親密さを増大させる可能性がある。
25
SIDE (social identification/deindividuation model)
26
Cognitive SIDE
deindividuation(脱個人化)に関する議論と、 SIT (Social Identity
Theory, 社会的アイデンティティ理論)がベース
deindividuation(脱個人化):(
)的状況において、自律的
自己への反省が失われ、確立された規範を破壊する活動が解放される。
つまり、「個人化(individuation)」されることで、人々は合理的で「責任
ある行為」を自律的に行う。(Zimbardo (1969) The human choice:
Individuation, reason and order versus deindividuation, impulse and
chaos.)
SIT (社会的アイデンティティ理論):「自己(self)」の概念には、個人的
アイデンティティ(personal identity)だけでなく、社会的アイデンティ
ティの側面があることを指摘。SIは、自己が所属する(と考える)社会集
団ないし社会的カテゴリの成員性に基づいた自己概念の側面で、成員
性には強い(
)や評価を伴う。(Tajfel and Turner (1979). An
integrative theory of intergroup conflict. In W. Austin & S. Worchel (Eds.),
Thesocial psychology of intergroup relations (pp. 33-48). Pacific Grove,
GA: Books/Cole.)
Reicher、Spears、Postmesらは、deindividuationが、自
己アイデンティティ認識喪失ではなく、個人的アイデンティティ
から社会的アイデンティティへの(
)をもたらすもので
あり、必ずしも逸脱傾向が高まるわけではないと議論。
Reicher, S., Spears, R., & Postmes, T. (1995). A social identity model of
deindividuation phenomena. European Review of Social Psychology, 6,
161-198.
SIDEモデルの認知的プロセス(Cognitive SIDE)
視覚的匿名性などの脱個人化作用によって、個人的アイ
デンティティと社会的アイデンティティの顕現性がどのよう
な影響受け、個人がいかなる規範、行動様式に従うことに
なるか。
27
Strategic SIDE
(例)集団間の差異強調により集団への帰属意識が高まってい
る場合→脱個人化がSIを高揚→集団の内的規範への
(
)行動を増加、自己ステレオタイプ化をもたらす
匿名掲示板では、個人的アイデンティティの顕現性は低く、SIの顕現性
が高い→集団のメンバーとしての規範、行動様式に従うよう個人に働き
かける
SIDEモデルの戦略的プロセス(Strategic SIDE)
内集団(ingroup)と外集団(out-group)の規範が相反し、外
集団の力が強い場合、内集団成員が外集団から識別可能
(identifiable)であれば、内集団としてのSIは抑制されるが、
外集団に対して匿名性を戦略的に用いることができれば、脱個
人化により内集団SIを顕現化し、内集団としての規範、行動様
式に個人は従う。
Spears, R., & Lea, M. (1994). Panacea or panopticon? The hidden power in
computer-mediated communication. Communication Research, 21, 427-459.
29
28
SIPT(social information
processing theory)
CMCでは、たしかに、一度のコミュニケーションで伝わる情報量はFtFより
も少ない
しかし、人は、(
)的にコミュニケーションを行う場合、相手との対人
関係の不確実性を低減し、印象形成を行い、親近感を醸成しようとする。
したがって、CMCの場合にも、長期的には、社会的情報(social
information=社会的アイデンティティと関係性に関する手がかり)を伝
達し、対人関係を形成するために、FtFの場合に伝達される手がかりが得
られなくても、それを補う手がかり(emoticon、やりとりの時間間隔、送信
時刻情報など)を用い、FtFと同等のコミュニケーションと対人関係形成が
行われる可能性がある。
時間効果を考慮する必要がある
Walther, J. B. (1992), "Interpersonal Effects in Computer-Mediated
Interaction: A Relational Perspective," Communication Research, 19,
52-90.
30
5
CFO・CFIの課題
Hyperpersonal model
Waltherは、SIPTをさらに発展させ、以下の4要素が相互作用し、対人
関係がより好意的になるモデル(hyperpersonal model)を提起
受け手:少ない手がかりから、自らの動機付けに従って相手の印象を形
成する
送り手:CMCは「選択的自己呈示(selective self-presentation)」が
可能となる
チャンネル(伝達経路):非言語的手がかりが伝わりにくいことから、メッ
セージの内容に集中できる(「手がかり濾過モデル」においても、CMCは
「誰が」言っているのかよりも、「何が」言われているか、が評価される可能
性があり、発話者のSES (socio-economic status:社会経済的地位)
にとらわれない「(
)化の道具」とも捉えられていた)
フィードバック:一度互いに好意的に認知すると、行動確証(behavioral
confirmation)が得られやすくなり、正のスパイラルが生じる
Walther, J. B. (1996). Computer-mediated communication: Impersonal,
interpersonal, and hyperpersonal interaction. Communication Research,
23, 3-43.
対人コミュニケーションに与える影響を与える要因は複合的
メディアの(
)的特性
メディアに対するコミュニケーション当事者の認知(メディア・コミュニケー
ション観)
話しやすさの感情的評価
親和感情(情緒性)(肯定的側面)
対人緊張 (対人圧力)(否定的側面)
道具としての使いやすさ(目的性)
コミュニケーションの目的(課題解決型、コンサマトリー型など)
対人関係の性質(友人、上司・部下、家族など)
当事者の属性
CFO、CFIアプローチとも、CMCに内在する特性を措定しているが、モデ
ルにとっては(
)的要因が深く関与
31
集合的レベルの特性と問題
32
電子会議室の分析事例
インターネット型ネットワークと実際の活動集積構造
ジャンク、チェーンメール、スパム、ネズミ講
Luker/ROM:ML、BBSなどで、自分は発言せず、他者の
提供する情報の恩恵に浴するだけの人々(「ただ乗り」
(Freeride))
ジャンク(junk)、チェーンメール(ex.「痛み」の単位「鼻毛」)
「インターネット秘宝館」www.archive.org
「山手線占い」「脳内メーカー」などの心理的診断ゲーム
スパム(spam)、ねずみ講(chain mail)
コミュニティネットワーク、情報ネットワークを介した社会関係
資本
ニフティフォーラム
「Panasonic PC Users’ Forum」95年10月開設
通称「FPANAPC」
会員数3万5000人(1997年6月)
1997年10月1ヶ月間のログを分析
発言者数:447名
メッセージ数:3895個
ROM:数千名(推定)
33
発言回数の分布
順位
回数
合
計
コミュニケーションの集合的特性
3047回
1
260回 一人当たり平均
2
177回 標準偏差
3
100回 最多発言数
4
77回 最少発言数
5
78回 1回だけ発言した人数
95人
6
66回 2回だけ発言した人数
71人
7
60回 3回だけ発言した人数
42人
8
49回 総発言者数
9
45回
44回
10
34
8.0回
19.2回
260回
1回
380人
発言数上位3人で全体の18%の発言数
上位7人で全体の27%程度の発言数
少数が会議室の文脈をコントロール
Geekgod
(
Motivator
Active
Passive
35
)
Randall Farmer (1993)
‘Social Dimensions of
Habitat’s Citizenry’
http://www.crockford.com/ec
/citizenry.html
36
6
MOO/MUD
1975年にWill Crowther が開発し
たオンラインゲームの初期画面
http://en.wikipedia.org/wiki/F
ile:ADVENT_-_Will_Crowther%27s_original
_version.png
MUD: Multi-User Dungeon, Multi-User
Dimensions
Moo: MUD Object Oriented
もともとはテキストベースの不特定多数が行き交う仮想空
間、ロールプレイングゲーム的要素があるオンライン空間
完全な仮名主義
発言や行動がネット名ごとに保存・検索されるので、時が
たつにつれて、そこに仮想人格、グループ(活動集積)が
形成されていく
現実では何の制裁も受けないが、仮想現実内でコミュニ
ティから非難を受け、結局は姿を消すか、それとも逆にそ
のグループそのものが崩壊する可能性もある
1978年、Roy
Trubshawが開発した
オンラインゲーム(MUD
と名付けた)
http://en.wikipedia
.org/wiki/File:MUDs
creen.jpg
37
38
対立する考えと結末
LamdaMOO事件
事件<http://www.juliandibbell.com/articles/a-rape-incyberspace/>
バングル(Mr. Bungle)は、他人になりすまして発言・行動
することのできるヴードゥー人形サブプログラムを使い、
ヴァーチュアルに性的暴力事件を起こした(被害者の女性
は現実でもトラウマを受けたといわれる)
コミュニティ・メンバーの対応
バングルを追放すべきとする人々
無視したほうがよいとする人々
この空間のウィザード(たとえば、Pavel Curtis:
LamdaMOOの設計者)に介入を求めるもの→ウィザード
は介入を拒否(自分たちの仕事は世界を作ることであり、メ
ンバーはその中でいかに生きるかは自ら学べ)
対立する考え
(
)方式:政府をつくり、規制をかけることには反対
する。コミュニティに必要なのは、少数の(
)。コミュ
ニティの意思を強制執行できる人が必要だが、規則は不要
民主主義:コミュニティ(LamdaMOO)での言動を律する規則
を民主主義的プロセスにより定め、それを実装していく
結末
JoeFeedback(ウィザードの一人)は正義漢として、自らバン
グルをtoad(「ガマ蛙に変える」=「抹殺」)した
他のウィザードたちは、民主主義をLambaMOOに導入する
ことを決定
⇒「自己規制する空間」から「自己により規制される空間」への移
行
39
40
Emoticon・Smiley・顔文字
Ascii Art
Ascii Art: キーボード入力できる文字を使って
(通常数十文字以上)、図像的表現を構成する
Emoticon: Emotional Icon(感情図像)の意
味。数文字を組み合わせることで感情や表情を表
す記号
Smiley: もともと
を指す。そこから笑顔を主と
した顔文字がsmileyと呼ばれるように。感情・表情
が多様化するとともにEmoticonという語が普及し、
Smileyも互換的に用いられる
Chat Lingo: BTW (=by the way)のような短
縮語形
41
(∵)
/││\
<│
(「命!」)
*
/ / /
// /
☆
* ★ *
*
/¥
*
*
* / ¥ *
*
* /☆ ~¥
*
/ ~ ☆¥ *
*
/☆ ~~ ¥
*
* / ~~ ☆ ¥ *
/ ~ ☆ ~~ ¥ * *
/☆ ~~ ☆ ~ ¥
* / ~~ ☆ ~~ ☆ ¥ *
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クリスマスツリー
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42
7
アメリカのemoticon(笑顔)
日本の「顔文字」(喜怒哀楽)
笑顔 §^_^§ (^。^) (^_^) (^^) (^.^)
(^_^) (^◆^)
(^◇^) (^o^;) (^o^) (^Q^)
怒り (`_‘) (`◇´) (`´メ) (`o´) (`_´)
泣き顔
(/_;) (;O;) (;_:) (;_; (;_;) (T.T)
(T^T) (T_T)
びっくり
(*_*) (>_<) (+_+) (゜〇゜;) (¨;)
(?_?) (゜o゜) (゜_゜) (゜.゜) (゜-゜) (◎_◎)
(☆_★)
千昌夫
[-゜-]
北島三郎 (^‥^)
:-)
;-)
:-D
|-)
|-D
:->
:-}
(-:
:'-)
(ha ha)
(ウィンク付ha ha)
(big grin)
(hee hee)
(ho ho)
皮肉っぽいことをいったときのgrin
ちょっと困った笑い、ゲップ(失礼)
(左利き)
うれし泣き
43
頭文字短縮形(Chat Lingo)
44
日米を比較してみると・・・
ASAP=As Soon As Possible
RSVP=répondez s'il vous plaît (=please reply)
FYI = For Your Information
/ga = Go Ahead
J/K、<jk> = just kidding
n/c、<nc> = no comment
w/b = Welcome Back
WU? = What's Up?
HAND = Have A Nice Day
手紙でもよく使う短縮形や、日常会話表現をチャットやメッ
センジャーのようなコミュニケーションで使うために短縮形
を利用(日本の絵文字のような「図像」(icon)性は薄い
45
アメリカのemoticonは、横向き
1バイトコード文字のみなので、日本語ほど表現力はない
笑顔は一つ一つに比較的明確で、汎用的(文脈非依存)意
味
(笑)(苦笑)(怒)、といった日本語での(
)文字による
表現を記号化しているような感じ
日本語は、
2バイトコード文字も含めより多くの文字が利用可能
(
)文字による図像性がある
顔文字はより非言語的、感覚的、情緒的領域を表現する力
46
「自己」「自己表現」
「コミュニケーション」
日本社会では、他者と自己とを対峙するものではなく、同
じ「場」を共有するものとして捉えているのでは?つまり
「自己」は「場」と不可分
情緒的な「場」を生み出す道具としての「顔文字」
アメリカ社会は、独立した自己を明確に表現し、伝達する
ことがコミュニケーション
多種多様な文化的背景のモザイクから、「マニュアル化」
(形式知)の共有が不可欠なので、微妙な差異、ニュアン
スは汎用的記号化しがたい
47
8