精 神 経 誌(2013) SS522 第 108 回日本精神神経学会学術総会 シ ン ポ ジ ウ ム 日本におけるひきこもり問題の現況――精神医学的診断と 精神保健福祉センターにおける相談支援の転帰について―― 近 藤 直 司 (東京都立小児総合医療センター児童・思春期精神科) 我が国における青年期のひきこもり問題について概説した.まず,これまでの実態調査の概略を紹 介した.次に,ひきこもりの背景要因と個人精神病理としての側面,精神医学的診断に関する調査結 果について述べ,深刻なひきこもり状態にある人の多くには何らかのメンタルヘルス問題ないしは精 神疾患や発達障害による生活機能障害が生じていることを示した.さらに,精神保健福祉センターで 相談・支援の対象となったケースの転帰,ひきこもり問題と広汎性発達障害との関連について述べ, 我が国における支援施策と今後の検討課題について論じた. <索引用語:背景要因,精神医学的診断,ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン,転帰, 広汎性発達障害> を示したい. は じ め に 日本において,青年期のひきこもりは 1990 年頃 から今日的な社会問題として取り上げられるよう Ⅰ.青年期のひきこもりに関する実態調査より になった.ひきこもり生活を送っていたとされる これまで,青年期のひきこもり問題に関するい 少年によって引き起こされたバスジャック殺人事 くつかの実態調査が実施されているので,それら 件を契機に,厚生労働省は 2003 年に『ひきこもり の概略をまとめておきたい4∼6). 対応ガイドライン』を公表した.この時期から, 性別としては,女性よりも男性が多いことがわ 地域精神保健福祉領域においてさまざまな支援が かっている.また多くの調査で,ひきこもりが生 展開されるようになったが,国レベルの施策は若 じる年齢は平均 20 歳前後であることが示されて 者を対象とした一般的な就労支援や自立支援対策 いる.しかし,個々のケースをみていくと,小学 にとどまってきた.本稿では,日本におけるひき 校低学年で生じた不登校からずっとひきこもり状 こもり問題の現況と精神医学的背景について述 態が続いているケースや,中学校や高等学校,大 べ,ひきこもり問題が医療―保健―福祉領域にお 学に入学した後の不適応,あるいは就職して数年 ける専門的な治療・支援を要する課題であること 後にひきこもり始めるケースもあり,あらゆる年 第 108 回日本精神神経学会学術総会=会期:2012 年 5 月 24∼26 日,会場:札幌コンベンションセンター・札幌市産業 振興センター 総会基本テーマ:新たなる連携と統合―多様な精神医学・医療の展開を求めて― シンポジウム ひきこもりの精神医学的意義―文化依存症候群か普遍的現象か 司会:齊藤 万比古(国立国際医療研 究センター国府台病院),館農 勝(札幌医科大学医学部神経精神医学講座) シ ンポ ジウ ム :ひきこもりの精神医学的意義―文化依存症候群か普遍的現象か SS523 代で生じ得る問題と捉え,それぞれの年代に特有 神疾患や発達障害などによる生活機能障害を有し の背景要因とメカニズムについて検討する必要が ていることが明らかにされており,これらの諸要 ある. 因を包括的に捉え,的確な支援・治療方針を検討 ひきこもっている若者の数についてもさまざま する必要がある.こうした立場から,新しいガイ な推計値が示されてきたが,2010 年 5 月に厚生労 ドラインにおいては,精神医学的診断を含めた包 働省が公表した『ひきこもりの評価・支援に関す 括的なアセスメントとして生物−心理−社会的な るガイドライン』 では約 26 万世帯にひきこもっ 多軸的評価システムが提案・推奨されている. 3) ている子どもがいるという推計値を採用してい る.その後,内閣府が公表した調査結果5)におい Ⅲ.国際的診断基準におけるひきこもり て約 70 万人という推計値も示されているが,こう Rubin KH7)は社会的ひきこもり social with- した推計値は, 「ひきこもり」という現象をどの範 drawal を, 「同年代の人たち peer と出会ったとき 囲で定義するかによって大きく異なってくる.ガ の孤立的な行動の(状況や時にかかわらない)一 イドラインで採用した推計値は,ひきこもりを 貫した表れであり自ら同年代の集団から距離をと 「仕事や学校に行かず,かつ家族以外に人との交 ること」と規定し,DSM Ⅳと ICD 10 において 流をほとんどせずに,6 ヵ月以上続けて自宅にひ 社会的ひきこもりが 1 つの症状・状態像として記 きこもっている」 「時々は買い物などで外出するこ 載されている診断カテゴリーを列挙している.こ ともある場合も含める」と規定した疫学研究 に れによれば,DSM Ⅳでは,自閉性障害,分離不 基づいている.内閣府による調査では, 「ふだんは 安障害,幼児期または小児期早期の反応性愛着障 家にいるが,自分の趣味に関する用事のときだけ 害,社交恐怖(社交不安障害) ,適応障害(特定不 外出する」と対象範囲が拡大されていることに留 能),大うつ病性障害,気分変調性障害,回避性 意する必要がある. パーソナリティ障害,スキゾイド・パーソナリ 4) ティ障害において,ICD 10 では,小児自閉症, Ⅱ.青年期ひきこもりケースの背景要因 選択性緘黙,小児期の分離不安,小児期の恐怖症 ひきこもり問題は,家族要因や学校・職場など 性障害,小児期の社会性〔社交〕不安障害,他の の環境要因,文化的背景や社会状況などが深く関 小児期の情緒障害(小児期の全般性不安障害) ,幼 与しているものと思われる.たとえば家族形態に 児期の反応性愛着障害,社交恐怖,急性ストレス 注目した場合,成人した子どもと親は別居するの 反応,心的外傷後ストレス障害,単純型統合失調 が当然とする国や地域と比較して,同居も不自然 症,気分変調症,気分循環症,不安性(回避性) ではないとする国や地域にひきこもり問題が生じ パーソナリティ障害,スキゾイド・パーソナリ やすいのではないかといった議論がある.また, ティ障害において社会的ひきこもりが生じ得るこ 家族状況や家族機能の問題が複雑化・長期化に関 とが記載されているという. 連していることも多くの臨床家に共有されてきた ことである.若者の雇用状況が低迷している中, Ⅳ.我が国の青年期ひきこもりケースについて 求職活動に希望がもてず,ひきこもり状態に陥る 『ひきこもりの評価・支援に関するガイドライ 若者が増加することも懸念される. ン』において,ひきこもりは「様々な要因の結果 当初,ひきこもり問題に関しては上記のような として社会的参加(義務教育を含む就学,非常勤 文化・社会的要因のみに論点が集中し,多くの誤 職を含む就労,家庭外での交遊など)を回避し, 解と混乱を生じさせてきた経緯があるように思わ 原則的には 6 ヵ月以上にわたって概ね家庭にとど れる.その後,深刻なひきこもり状態にある人の まり続けている状態(他者と交わらない形での外 多くは何らかのメンタルヘルス問題,ないしは精 出をしていてもよい)を指す現象概念である」と 精 神 経 誌(2013) SS524 定義されており,一般的に用いられてきた上記の ような「社会的ひきこもり」よりも深刻な状態像 (52.5%),なかったケースが 150 件(44.5%),不 明が 10 件(3.0%)であった. を示すケースを多く含むことが予測される. その精神医学的背景は,統合失調症,妄想性障 2.本人の精神医学的診断 害,社交恐怖,強迫性障害,適応障害(不安と抑 来談群 183 件については,DSM Ⅳ TR に基づ うつ気分の混合を伴うもの,慢性) ,パーソナリ き各機関で合議によって診断した.183 件のうち ティ障害,広汎性発達障害などの他,軽度知的障 診断が確定したのは 148 件,診断が保留されたの 害に適応障害や広場恐怖が合併したケース,ある は 35 件,診断保留の主な理由は情報不足と中断で いはアスペルガー障害や特定不能の広汎性発達障 あったが,これらの多くについても何らかの精神 害に社交恐怖や身体表現性障害,強迫性障害など 医学的問題が疑われていた.診断が確定した 148 が合併したケースなど,かなり多様であることが 件については,診断と治療・援助方針を加味して わかっている.このうち,一見したところ発達・ 以下の 3 群に分けて集計した. 行動所見がそれほど目立たない内向的・受身的な <第 1 群> タイプの広汎性発達障害や軽度知的障害は障害に 統合失調症,気分障害,不安障害などを主診断 気づかれにくいし,ひきこもったまま刺激に暴露 とし,薬物療法などの生物学的治療が不可欠ない されずに過ごしている社交恐怖や身体表現性障害 しはその有効性が期待されるもの.生物学的治療 のケースでは症状が潜在化しやすく,本人の自覚 だけでなく,病状や障害に応じた心理療法的アプ が乏しい場合にはさらに見逃されやすいこと,診 ローチや生活・就労支援が必要となる場合もある. 察場面だけでは捉えきれず,集団場面や社会参加 <第 2 群> を試みる段階に至って初めて症状が顕在化する場 広汎性発達障害や知的障害などの発達障害を主 合があることにも留意する必要がある. 診断とし,発達特性に応じた心理療法的アプロー 以下,ガイドライン作成にあたって筆者らが担 チや生活・就労支援が中心となるもの.二次的に 当した診断に関する研究結果2)の概要を紹介した 生じた情緒的・心理的問題,あるいは併存障害と い. しての精神障害への治療・支援が必要な場合もあ る. 1.対象 <第 3 群> 岩手県,石川県,さいたま市,和歌山県,山梨 パーソナリティ障害( “その特徴 feature”のレ 県の精神保健福祉センター(こころの健康セン ベルを含む) や身体表現性障害などを主診断とし, ター)において,平成 X 年 4 月の時点で,すでに パーソナリティ特性や神経症的傾向に応じた心理 相談・支援を始めていた 16∼35 歳のケース,およ 療法的アプローチや生活・就労支援が中心となる び,それ以後,X+2 年 9 月までの時点で相談を受 もの.気分障害や不安障害のうち,薬物療法より けた新規相談ケース 337 件を検討の対象とした. も心理−社会的支援が中心になると判断された 調査期間内に本人が来談したケース(来談群)が ケースも含む. 183 件,家族相談のみで本人が来談しなかった その結果,第 1 群 49 件(33.1%),第 2 群 47 件 ケース(非来談群)が 154 件であった. (31.8%),第 3 群 51 件(34.5%)であり,いずれ 337 件の概況は以下のとおりである.男女比は の診断基準も満たさないと判断されたケースは 1 男性が 252 件(74.8%) ,女性が 85 件(25.2%) 件(0.7%)であった. であった.ひきこもり始めた年齢の平均は 20.1± 4.7 歳,最年少は 8 歳,最高齢は 34 歳であった. 過 去 に 不 登 校 歴 の あ っ た ケ ー ス が 177 件 シ ンポ ジウ ム :ひきこもりの精神医学的意義―文化依存症候群か普遍的現象か 3.本人が治療・相談機関につながっていない ケースの特性 SS525 会参加や生活の変化を回避し続けているケースが 多いものと思われる. 非来談群 154 例のうち,本人がいずれの治療・ また,ひきこもりの背景は複雑・多様であり, 相談機関にもつながっていないケース 135 件と来 本人の精神病理に加えて家族状況や文化的要因, 談群 183 件を統計的に比較検討した結果,機能の 社会・経済状況などの環境要因の影響,さらには 全体的評定(Global Assessment of Functioning: 支援体制,支援技術の問題など,多角的・包括的 GAF)得点が前者において有意に低かったことか な検討が必要である. ら,本人がいずれの治療・相談機関にもつながっ ていない群には,より深刻なケースが多く含まれ ているものと考えられた. 6.相談・支援の内容と転帰について 山梨県立精神保健福祉センターにおける調査実 施時の支援構造は以下のとおりである. 4.本人が受診・来談につながりにくい要因 本人がいずれの治療・相談機関にもつながって いないケース 135 件と,来談群のうち本人の来談 までに 1 年以上の家族支援を要した 16 件,計 151 件を対象とした検討結果から,本人が受診・相談 につながりにくい要因は以下のように集約された. 1)本人側の要因 ・不安や恐怖感のために社会的な場面を回避す る ・相談・受診,生活の変化を頑なに拒絶する 2)家族側の要因 ・症状・状態の増悪を恐れて変化を促せない 1)本人への支援 ・個別面接:月に 1∼2 回,来所面接と電話の併 用など ・SST グループ(作業療法士 1 名・心理技術者 1 名,月 2 回) ・アクティビティグループ(作業療法士 1 名・ 心理技術者 1 名,月 1∼2 回) 2)家族への支援 ・個別面接:多くは月 1 回 ・家族教室(精神科医・心理技術者 1 名,3 セッ ションを 1 回として年 1∼2 回実施) ・親の会(心理技術者 1 名,月 1 回) ・適切な対処行動がとれない 3)支援側の問題 共同研究に参加した他のセンターもおおむね同 ・本人に対して具体的な支援方法や今後の展望 様の支援メニューをそろえていた.来談群 183 件 を提示できていない ・家族だけの相談ケースへの対応に苦慮してい る について調査終了時の転帰を把握したところ,社 会参加(一般就労,週 3 日以上のアルバイトや福 祉施設への通所,進学など)に至っていたケース は 28 件(15.3%)にとどまった.内訳は第 1 群 5.ひきこもりの背景要因に関する小括 10 件,第 2 群 6 件,第 3 群 11 件で各群間に有意 深刻なひきこもり状態にある人の多くは何らか 差はみられず,診断を保留した 35 件からも 1 件が のメンタルヘルス問題ないしは精神疾患・発達障 社会参加していた.個々のケースをみれば,調査 害などによる生活機能障害を有しており,十分な 期間の後半に対象となり,その時点ではまだ十分 情報があれば,多くのケースが現行の診断システ な支援を受けていなかったケースも含まれてはい ムに準拠して診断できる.こうしたさまざまな精 るが,それを考慮したとしても,ひきこもりケー 神医学的問題に関連して生じている不安感,恐怖 スに対する支援の難しさを示すデータである. 感,被害感,抑うつ感などの感情や過去の挫折 この調査結果とは別に,週 2 日以上のグループ 的・外傷的な体験に強くとらわれ,そこから抜け 支援によってひきこもりケースを支援した経験を 出せないような心理状態に陥っているケース,社 もつ精神保健福祉センターを対象に,良好な転帰 精 神 経 誌(2013) SS526 を示したケースの多い年度を選び,支援プログラ がある.また,他者の意図や会話を理解すること, ムの詳細と転帰を把握した .これによれば,山 あるいは状況や文脈,暗黙のルールを汲み取るこ 形県のセンターでは 10 歳代のケースを中心に個 とが苦手なために,漠然とした違和感や被害感, 別支援から丁寧にグループにステップアップする 不適応感を抱きやすく,社交恐怖に至ることも少 ような支援を実践しており,利用者の 89.5%が就 なくない.この他,現実回避のための防衛的なメ 労・就学した年度があった.また,静岡県のセン カニズムの 1 つとして自己愛的・万能的なファン ターでは短期集中的なプログラムによって タジーへの没入が生じる結果,他者への意識や現 83.3%が就労に至った年度があった.さらに名古 実検討がさらに減衰しているケース,主に感覚過 屋市のセンターでは,週 3 日,11 ヵ月間のプログ 敏のために不登校となり,その後も苦痛な刺激へ ラムによって,66.7%が就労,75.0%が何らかの の対応策を見出すことができないまま社会的な場 コミュニティ参加に至った年度があった. 面を回避し続けているケース,生来的な過敏さや これらのデータと先述の調査結果とを単純に比 こだわりの強さに,自意識の高まりや自立と分離 較することはできないが,対象を慎重に選択し, をめぐる葛藤などの思春期心性が加わることに 十分な時間とマンパワーを配置して支援に取り組 よって,自己臭恐怖や醜貌恐怖,巻き込み型の強 8) めば,より多くのケースが社会参加に至る可能性 迫症状が形成されているように思われるケース, が示唆された.また名古屋市のデータには,精神 発達性協調運動障害や不器用さ,緘黙ないしは極 障害者保健福祉手帳を取得し,障害者雇用の制度 端な言語表現の苦手さなど,運動・表出系の困難 を活用して就労に至ったケースも含まれており, によって周囲とのコミュニケーションが成立しに 個々のケースについて実現可能な目標を設定する くい,一定の作業能力を発揮できないなどの問題 ことも重要である. が生じ,学校や職場での不適応を繰り返した結 果,ひきこもりに至るケースなどがある.受身 Ⅴ.ひきこもりと広汎性発達障害との関連 的・内向的で問題行動を示さない人が生活上の困 上記の共同研究において,青年期のひきこもり 難に気づかれず,適切な支援を得られないままひ 問題と広汎性発達障害(自閉症スペクトラム障害) きこもりに至るケースにも注意を要する. との関連が示されているが,こうした指摘はとく 地域精神保健福祉領域では,本人のひきこもり に新しいものではない.たとえば Tantam D9)は, や家族への暴力などを理由に家族だけが来談する 風変わりで社会的に孤立しているケースとして精 ケースがあり,その中には広汎性発達障害を背景 神科医から紹介されてきた成人例 60 人の診断を とするケースが含まれている.こうしたケースの 検討した結果,46 人がアスペルガー型の自閉的障 一部には深刻な家庭内暴力が続いていたり,高齢 害の基準に合致したことを報告している.また 化した親を適切に介護することができず,高齢者 Gillberg C は,「アスペルガー症候群の人の 5 人 虐待として事例化するケースもあり,対応に苦慮 に 2 人は大人になってもひきこもりがちで孤立し することがある.典型的な介入困難ケースの特徴 ている. (中略)自分が周囲と違っているという気 は以下のようなものである. づきによって社交恐怖や無力感が高まりやすいた ①顕著なひきこもり めに,とくに積極奇異なタイプにおいてひきこも ②強いこだわりや巻き込み型の強迫症状 りが生じやすい」と述べ,広汎性発達障害とひき ③思い通りにならないことへの耐性の低さ こもり・孤立との関連を指摘している. ④易怒性・衝動性が高く,激しい暴力行為に及ぶ 1) 広汎性発達障害をもつ人は,興味の限局や自分 傾向 の興味・関心を他者と共有しようとする動機付け ⑤家族の苦痛に対する共感性の乏しさ が弱いことなどから,もともと孤立しやすい傾向 ⑥母子家庭または父親の心理的不在と母子の密着 シ ンポ ジウ ム :ひきこもりの精神医学的意義―文化依存症候群か普遍的現象か enmeshed relationship SS527 重に検討する必要がある.支援施策についても, ⑦家族の問題解決能力の低さ 労働分野や青少年育成分野で先行してきたが,医 その実状や背景要因は必ずしも明らかではない 療・保健・福祉分野における本格的な治療・支援 が,家族内の殺人にまで至った事件が報道される 体制の整備が必要である. こともある.その中には,公的相談機関による介 入の遅れや支援技術の問題が一因となっている ケースも含まれているかもしれない.今後さらに 検討されるべき重要な課題である. Ⅵ.ひきこもりと周辺の施策と課題 これまで,「社会的ひきこもりは精神障害では ない」 「現代日本の社会的病理」といった論説が先 行したこともあり,国や自治体の施策も,若者を 文 献 1)Gillberg, C.:A Guide to Asperger Syndrome. Cambridge University Press, 2002(田中康雄監修:アスペ ルガー症候群がわかる本.明石書店,東京,2003) 2)Kondo, N., Sakai, M., Kuroda, Y., et al.:General condition of hikikomori(prolonged social withdrawal)in Japan:Psychiatric diagnosis and outcome in mental health. Int J Soc Psychiatry, 59;79 86, 2013 3)厚生労働省:ひきこもりの評価・支援に関するガ 対象とした一般的な就労支援事業の他,関係機関 イ ド ラ イ ン(http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r への振り分けを目的とした専門性の低い相談窓口 98520000006i6f.html) や連絡協議会の設置といったレベルにとどまって いた.そのような状況において,2012 年現在,厚 生労働省が事業化し,地方自治体において設置が 進んでいる『ひきこもり地域支援センター』はひ きこもりを保健福祉問題として捉え,精神保健福 祉専門職の配置を求めた初めての相談支援事業で あり,本格的な支援体制整備の第一歩と言える. ただし,この事業はそれぞれの都道府県・政令指 定都市における一次的相談窓口の明確化を目的と 4)Koyama, A., Miyake, Y., Kawakami, N., et al.: Lifetime prevalence, psychiatric comorbidity and demographic correlates of“hikikomori”in a community population in Japan. Psychiatry Res, 176;69 74, 2010. 5)内閣府:若者の意識に関する調査(ひきこもりに 関する実態調査)報告書(概要版).2010.(http://www8. cao.go.jp/youth/kenkyu/hikikomori/pdf_gaiyo_index. html) 6)NPO 法人全国引きこもり KHJ 親の会: 「ひきこも り」の実態に関する調査報告書②,2005 したものであり,その後の治療・支援に多大なコ 7)Rubin, K. H., Stewart, S. L.:Social Withdrawal in ストを必要とすることを考えると,さらなる支援 Childfood. Child Psychopathology. ed. by Mash, E. J. & 体制整備が必要であることは言うまでもない. ま と め 我が国における青年期のひきこもり問題には, 家族状況や文化・社会状況など,多くの要因が関 連しているものと考えられるが,治療・支援にお いては,個々のケースについて個人精神病理を慎 Barkley, R. A.), Guilford, New York, p.372 408, 1996 8)榊原 聡,近藤直司:ひきこもりケースに対するグ ループ支援について―精神保健福祉センターにおけるグ ループ支援の成果より.精神科治療学,27(10),1371 1378,2012 9)Tantam, D.:Lifelong eccentricity and social isolation Ⅰ. Psychiatric, social, and forensic aspects. Br J Psychiatry, 153;777 782, 1988 精 神 経 誌(2013) SS528 The Present State of Hikikomori(Prolonged Social withdrawal)in Japan :Psychiatric Diagnosis and Outcome in Mental Health Welfare Centers Naoji KONDO This article presents an overview of issues involving adolescents with social withdrawal (hikikomori)in Japan. The introduction provides an outline of previous reports on investigations concerning this issue. Then, studies on the background of hikikomori, personal psychopathology, and psychiatric diagnosis are reviewed. These studies have indicated that most individuals with serious hikikomori have particular mental health problems or functioning disabilities in everyday life due to mental or developmental disorders, such as pervasive developmental disorders and mental retardation. Furthermore, outcomes of cases in which subjects received consultation and support in the mental health welfare center are reported. Finally, a discussion on support systems and subjects of future intervention in Japan based on the overview concludes the paper. <Author s abstract> <Key words:background of hikikomori, psychiatric diagnosis, Guideline for assessment and support of hikikomori, outcome, pervasive developmental disorders>
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