第Ⅱ編 平成 15 年度研究成果 1.【プロジェクト1】環境・防災都市の社会・経済・歴史に関する研究 1.1 テーマ【1-1】 環境・防災に配慮したまちづくりに関する研究 1.1.1 はじめに 過去4年間の調査分析から、都市農地が都市における環境負荷の低減、都市防災対策 に効果が認められることが明らかになった。本年度は都市農地の果たす環境的・防災的 機能をより一層の向上させるための方策に関して検討を行う。特に、都市的土地利用が 大半を占める都市空間の中での農地、都市農業のあり方として「コミュニティ農園」を 提案しその推進方策を探る。 本研究で示した『コミュニティ農園』の推進構想は、都市の地域住民が共同で管理運 営(活動組織体)することによって、地域の環境と防災の課題に対処し、並行して地域 コミュニティを形成(コミュニティの再構築)し、社会構造の変化に伴う新たな地域課 題にも対応しようとするというものである。その意味において都市農地への住民関与を 通じて地域社会の自治能力を総合的に高める構想ということができるが、未だわが国の みならず海外においてもほとんど事例を見ないものである。 1.1.2 市民団体による『コミュニティ農園の推進構想』(図 1-1-1)(平成 14 年度報告書整理) 都市農地を活用した環境・防災に配慮したまちづくりとして次の理念が位置付けられ、 また管理・運営に関しては地域社会において組織される非営利市民活動団体が想定され る。 ・地域環境の保全上の支障の防止と資源循環型地域の形成(都市農地の環境活用) ・地域社会の防災性の向上と地域自立力の向上(都市農地の防災的活用) ・地域社会における農的土地利用の市民共同による推進(都市農地の保全) ①管理運営主体:地域社会における市民団体(「コミュニティ農園」運営 NPO 法人又は自 治会等地縁団体の NPO 法人化) ②農地所有形態:NPO 法人による取得、自治体の公有化と NPO 法人への有償貸与、農業 者による NPO 法人への有償貸与 ③営農活動:農業者による農業指導、地域住民、学校、環境活動グループ等 1.1.3 都市農地の環境的・防災的機能に関する整理(平成 14 年度報告書整理) 都市農地(主として市街化区域内農地としての生産緑地地区及び「宅地化農地」等) が、都市にとって貴重な緑地・オープンスペースとして公共的機能を果していることに ついては、これまでの研究成果において検討している。都市における農地は現状におい てさまざまな態様で存在するが、それらの持つ機能は市街地と共存するがゆえに、固有 かつ特有の環境的、防災的機能であり、農地一般が有する普遍的機能ではない。すなわ ち、都市農地のもつ機能の内容や度合いは、個々の農地の規模、位置、利用形態によっ て異なり、また、何よりも隣接する市街地の性状によって大きく規定される。こうした 点を前提として都市農地の環境的あるいは防災的な機能を整理すると表 1-1-1 のように 示すことができる。 図 1-1-1 『コミュニティ農園』推進構想(環境・防災に配慮したまちづくり) まちづくりの理念 (1)地域環境の保全上の支障の防止と資源循環型地域の形成(都市農地の環境活用) (2)地域社会の防災性の向上と地域自立力の向上(都市農地の防災的活用) (3)地域社会における農的土地利用の市民共同による推進(都市農地の保全) <課 題> 都市農地の現状 地域の環境保全と防災性向上(都市安全保障) ・ 都市内農地の散在 ・都市地域における ・災害に強い地域づくり 地域コミュニティの構築 ・再構築と自治の推進 ・ 営農条件の困難性 環境負荷の低減化 (地域空間の安全化) ・地域福祉 ・ 都市化圧力の低下 ・資源の循環型地域 ・非常時の共助社会の形 ・地域教育 ・ 所有管理の不透明性 づくりの必要性 成(住民の連携活動) ・地域活動と管理 都市農地の 「コミュニティ農園」推進構想 ●自治体による都市農 ●市民団体(地縁団体、NPO 法人) ●地域住民の農園活 地の公有化と市民団 等による都市農地の所有又は借地 動への関与による 体への貸与と支援 と経営活動 コミュニティの形成 <具体的行為> ◇行政等 ・ 都市計画法上の位置づけ ( 「生産緑地地区」追加指定) (山林、屋敷林の緑地指定) ・ 先買権設定と公有地化 ・ 非営利団体による取得及び 貸与、営農許可等 (農地法改正) ・ コミュニティの農園活動へ の支援制度 ◇市民団体(NPO 法人) ・地縁組織の NPO 法人化又はコミュニティ農園 経営を目的とした NPO 法人の設立 ◇地域住民 ・環境及び防災ネットワーク活動 ・農業者による営農指導 ・都市農地の取得又は借地、営農活動 ・農園での農業活動 ・地域の環境保全及び資源循環を内容とし ・学校教育との連携 た農地利用計画の策定 ・地域の防災性向上を内容とした農地利用 計画の策定 ・農業用並びに非常用井戸の整備 ・住民参加による営農活動の推進 (総合学習等) ・宅地内雨水の地下浸透桝 設置(地下水涵養) ・農産物の地域内消費 表 1-1-1 都市農地の環境的・防災的機能に関する整理 農地等の態様 法制度 環境的機能 1)都市気象の緩和機能 農 地 ○都市計画法 ①大地、植物等による温・湿度 防災的機能 1)都市水害の防止機能 ①雨水の流出量抑制 の調節(夏季の熱吸収、蒸発散) ②豪雨時の遊水池効果(水田) 水 田 ・都市計画 区域 2)大気の浄化機能 ①CO2 吸収と O2 の排出 畑 地 ・市街化地域 野 菜 ②浮遊微粒子の付着除去効果 3)雨水の保水機能 ・生産緑地 植 木 ②微気流(対流風)の形成 地区 果 樹 ・「宅地化 ①雨水の土壌保水と地下水涵養 (過剰乾燥の防止) ハウス (土壌、水性、地上) 資源化(有機肥料農業) ②バイオマス・エネルギー活用 林 (動植物の廃物利用発電) ○農地法 6)都市景観の形成機能 雑木林 ①樹木スカイラインの形成 竹 林 ②都市への季節景観の創出 7)環境教育的機能 農家屋敷 ①樹林等による強風(台風等)抑制 ②強風時の飛散物防除 ①生ゴミ等コンポスト化による再 山 ③農業用水等の消防水利活用 3)防風機能 ③火災延焼力(延焼速度)の抑制 (住居系) 5)資源の循環活用形成機能 家 畜 ○生産緑地法 火災延焼抑制(焼け止まり効果) ②消火活動空間の提供 ②表流水の土壌ろ過効果 ①動植物等の生育環境形成 ・用途地域 ①オープンスペース、樹林による ③河川水量の安定化と生物生息 農地」 4)生物の生育機能 芝 生 2)防火・延焼防止機能 ①農業体験、自然観察環境の提供 4)避難空地機能 ①災害危険からの待避空間提供 ②避難ルートの提供 5)その他、災害時の防災活動空間 機能 ①緊急物資等の中継場所、 ②応急救護所等設置 6)応急仮設住宅の建設用地機能 ①公共空地不足時における農地の 一時利用 7)非常用食料等の供給機能 ①生鮮野菜等の供給 ②農業用井戸による飲料水の供給 ②循環生活型農文化の学習 屋敷林 *都市農地の環境的あるいは防災的な機能の度合いは一定ではなく、農地の 規模、位置、利用形態と市街地性状との関係によって個別に規定される。 1.1.4 宮前コミュニティガーデンの事例分析 本研究の提案である『コミュニティ農園』構想を一部実現した活動としてコミュニテ ィガーデンがあげられる。米国や英国では 1970 年代から活動が始まり、現在ニューヨー ク都市圏には 2000 箇所程度のコミュニティガーデンがあると報告されている。 コミュニティガーデンは地域の住民が主体となって管理する緑地空間であり、教育、 福祉、地域、家庭問題などに効果が認められるものとされている。東京近郊では川崎市 宮前区の「宮崎コミュニティガーデン」が知られるところである。この実態について整 理を行う。文献[1-1-1]によればコミュニティガーデンの効果は次のように示されている。 景観・美観の向上/個性的なコミュニティの形成/地域ごとの競争心の芽生え/地域 への愛着心とプライドの創出/コミュニケーションの広がり/自然環境、生態系への 意機の高まり/協働プロセスの面白さを実感/あらゆる人の杜会参加を拡大/地域の 人との時間、空問、情報の共有/まちづくりへの発展性を促進 このような意識を醸成することで住民参加が図られ、コミュニティ再生につながるも . のと期待されている。日本においてコミュニティガーデン的な活動を行っている団体は 全国に 5000 団体以上存在し、市民参加型のまちづくりやパートナーシップ型の緑化事業 の延長として、市民・企業・行政が協働する事例が増えている。コミュニティガーデン の普及や活動の支援のために「コミュニティガーデン研究会」((財)都市緑化基金)が 2000 年に発足し、全国の運動の手助けが行われている。 宮崎コミュニティガーデンは、コミュニティガーデン研究会のパイロット事業として 始められた。モデル対象地区に選定されたのは東急田園都市線宮崎台駅から徒歩 15 分に ある面積約 650 ㎡の「都市計画道路建設予定地」である。この土地は整地されてはいた が、長い間放置状態でフェンスがはられ草地化していた。モデル対象活動団体には花い っぱい運動グループの「宮前ガーデニング倶楽部」 (会長:石川和子・1999 年春結成・ 会員数約 70 名)が推薦され注 1) 、本団体を母体に「宮前コミュニティガーデン実行委員 会」(石川会長)が結成された。 「宮前ガーデニング倶楽部」は花壇を設置する適切な土 地を求めて模索していたが、このモデル事業に推薦されたのを機に直ちに実行に移し、 この成果が市民主体による「宮崎コミュニティガーデン」の開設となった。 土地は前述のように都市計画道路予定地で市から無償提供を受けている。そのほか活 動資金として、コミュニティガーデン研究会より 50 万円(平成 15 年度まで)、(財)都市 緑化基金より 18 万円、川崎市公園緑地協会より7万円、宮前区区づくりプラン推進委員 会費用より 15 万円、不動産会杜ノエルより純益の1%と約年間 100 万円の助成金と、宮 崎台駅前商店街の「さくら祭り」で菜園から収穫したものの販売、毎週土曜日のコミュ ニティ市による利益を事業費に充当している。活動への普段の参加者は大人 10∼15 人、 子供 20∼35 人程度である。隣接する小学校と密接に関係を持ち、「通信」の発行、総合 学習の講師派遣、協働作業の花植えイベントなどを行っている。宮崎コミュニティガー デンの開設により地域の人々が集い、近隣の住民同士が知り合うきっかけになったこと は地区のコミュニティ形成に大きな効果をもたらした。子供たちが植栽を通して自然と ふれあうことのできる場となり、街の美化においても以前の放置状態のときにはゴミの 投棄があったが、現在は全くなく街の景観向上にもつながっている。 市民がガーデンの作業を通じて自主的にコミュニティを形成・育てていることは評価 できるものの、用地を無償提供されていること、活動費用の多くを助成金に頼っている 点で、活動の持続性に疑問点が残る。 1.1.5 市民緑地制度の事例分析 さらに、 『コミュニティ農園』構想を緑地において一部実現した制度がある。都市緑地 保全法にもとづく市民緑地制度であり、ここではその実態について整理する。市民緑地 制度は地方自治体が、緑地を形成している一定規模以上の土地の所有者と土地の貸借契 約を結び、緑地を市民に公開する制度である。NPO 法人でも緑地管理機構として指定を 受けていれば、地方自治体同様に土地所有者と契約を結び、その管理・運営を行うこと ができる。市民団体にも一定の権限を与える可能性がある本制度によって、民地緑地の 保全に幅を持たせることが期待されているが、現時点では緑地管理機構の数が少なく、 指定されている市民緑地のほとんどは地方自治体が契約を締結し、管理を行っている。 市民緑地制度は、都市緑地保全法第 20 条の2に定められ、平成7年4月に制定された。 300 ㎡以上の土地所有者の申し出により、地方自治体もしくは緑地管理機構が貸借契約 (市民緑地契約)を締結し、その士地に住民の利用に供する緑地(市民緑地)を設置し、 これを管理する。土地所有者は固定資産税などの減免措置を受けることができるほか、 管理作業からも開放されることになる。しかし、相続税の滅免措置を受けるには「貸付 の期間が 20 年以上」、 「正当な事由がない限り貸付けを更新する」、 「貸付期間の中途にお いては、正当な事由がない限り土地の返還を求めることができない」などの規定を遵守 しなければならない。平成 14 年3月末時点で、全国で 105 地区、面積 766,814 ㎡が市民 緑地として契約が締結されている。また、同時点で緑地管理機構の指定を受けているの は東京都世田谷区の「財団法人せたがやトラスト協会(管理3地区) 」と東京都の「財団 法人東京都公園協会(管理1地区) 」の2組織のみである。そこで市民緑地の管理・運営 が地方自治体と緑地管理機構の組織の違いによりどのように異なるかを整理するために、 練馬区と財団法人せたがやトラスト協会の活動の比較を行う。 練馬区では市民緑地制度が制定される以前から、 「憩いの森制度」という市民緑地と同 様の制度を運用しており多くのノウハウを蓄積している。 「憩いの森制度」と市民緑地制 度の違いは相続税の滅免措置の有無のみであり、憩いの森として指定されていた緑地は 現在市民緑地へと指定変更がなされている。平成 16 年1月末時点で、練馬区で市民緑地 に指定されている緑地は 53 箇所にのぼり面積は 112,253 ㎡である。市民緑地の運営は全 て練馬区が一括して行い、土地所有者との交渉など事務に関することは区公園緑地課、 実際の管理作業は公園管理事務所が行っている。区が直接管理・運営を行うことは、土 地所有者に安心感を与えている。維持・管埋作業は公園管理事務所の責任で行われてい るが、公園管理事務所は一般の公園の維持・管理作業も担当しており、作業量は膨大で ある。さらに、市民緑地の多くはうっそうとした樹林地であるため、専門の業者に維持・ 管理作業を委託することが多い。また、緑化協力員と呼ばれる区民有志者の緑化活動へ の参加による維持・管理作業も行われている。緑化協力員は1期2年の任期制であり、 1期あたりの定員は 100 名と決められている。区から緑化作業員1名に対して年間1万 円弱の謝礼が支払われる。完全なボランティアとはいえないまでも、練馬区では市民緑 地の管理・運営システムに住民による自発的な緑化活動が組み込まれており評価できる。 せたがやトラストは「せたがやトラスト基金」にもとづく世田谷区 100%出資により 設立された団体である。現在は財団法人として区からは独立した組織となっており、平 成9年3月末に緑地管理機構に指定され、積極的に市民緑地契約を結んでおり、平成 16 年1月末時点で管理する市民緑地は3地区、面積は 5,857 ㎡である。せたがやトラスト は管理・運営を全て独自に行っている。民間組織のため土地所有者からの信用を得にく く、土地所有者との話し合いでは区職員が同席する場合もある。しかし、地方自治体の ように組織のしがらみが多くないため、意思決定を素早く行うことができ、外部からの 寄付も受け付けやすい。維持・管理作業はそれぞれの市民緑地ごとに専属のボランティ アグループが活動しており、大枠の整備方針はせたがやトラスト本部が決定するものの、 日常の管理などの細かい部分についてはこれらのグループに任されている。ただし、3 地区ともに樹林地でありボランティアグループだけで完全に管理を行っていくのは難し く、年に数回、外部の専門業者に維持・管理作業の委託を行っている。せたがやトラス トの財源は主に寄付金、区からの補助金、区からの受託事業によっており、区からの補 助金は全収入の7割以上、区からの受託事業による事業収入も合わせると、全収入の9 割以上を区との関係に頼っており、あわせて、支出の9割以上を専門の業者に対する委 託費が占めている。 せたがやトラストは民間団体であるがゆえに社会的な信用を得にくい。また、財政的 に世田谷区からの補助金がなければ立ち行かない状態にある。当初せたがやトラスト基 金積立金が 10 億円に達した時点で、その利子をせたがやトラストの運営資金にあてる計 画であったものが、景気の悪化による利率低下や積み立て速度の鈍化の影響を受け、現 状で7億円程度の積み立て、運用が困難な状況となっていることに現状の逼迫した財政 状態の原因がある。 樹林地を市民のボランティア活動のみで管理・運営していくことは無理があり、専門 業者への委託費用を捻出しなければ維持できない状況にあることが明らかとなった。し かし、専門的な作業を伴わない管理・運営ならば市民参加による可能性が見出せる。 1.1.6 国分寺市におけるコミュニティ農園成立の可能性の検討 営農継続が不能な生産緑地の有効な利用形態のひとつに「市民農園」がある。都市住 民の農業に対する意欲の高まりに対して、労働者不足などの理由による余剰農地の供給 が呼応し、1960 年代後半から発展し、市民農園整備促進法(1990 年6月 22 日)などの 整備によって、本格的な市民農園を設立する基盤が整い始め、あわせて利用者である市 民の需要も増加してきた。しかし、市民農園は地方自治体が農家から土地を一旦借上げ、 市民に貸し出すという形態を取ることが多く、地方自治体の負担や借り上げる土地の大 きさや場所の適切さなどから十分な土地を確保することが難しい。また、農家自らが経 営する「体験農園」形態のものは農園の経営が優先されることから公益性が担保されず、 その持続性という点からも疑問視される部分もある。このような状況において地方自治 体や民間による市民農園のみでは市街化区域内農地を市民が利用して維持することは困 難となっている。そこで、地域住民が団体を組織し、その組織が農地を自ら所有または 借用し、活動を展開する『コミュニティ農園』の構想に結びつた。使用者となる組織自 らが管理・運営を行うため、現状の市民農園が抱える課題の解消や、市街化区域内農地 の有効利用が担保できる。さらに、地域住民の主体的な活動を誘引することができ、住 民間の新たなコミュニティの形成にも寄与するものと期待される。 ここでは生産緑地を活用したコミュニティ農園構想の実現を目標に、その開設可能性 の高い生産緑地を探るために、東京都国分寺市注 2)の生産緑地の実態調査を通してその適 地を探す手法を明らかにする。国分寺市は「市民農業大学」などの事業を行い、自治体 のみでなく市民の農業に対する意識が高い。さらに地方自治体や農家主導でなく市民に よる法人が運営していく市民農園の開設に前向きである。市内の農地は市域面積の概ね 20%にあたる約 21,500 ㎡が分布し、うち生産緑地が約 15,000 ㎡、宅地化農地が約 6,500 ㎡となっている。生産緑地は国分寺駅周辺には見られないが、ほぼ市全域にわたって土 地的土地利用と混在し分布している。生産緑地指定の際に所有者の意向を尊重したため、 いずれの地区でも生産緑地と宅地化農地との混在が顕著である。図 1-1-2 は都市計画に おいてその保全が求められる生産緑地の分布である。なお、生産緑地制度は 1991 年に改 正が行われ生産緑地と宅地化農地が選択された。さらに、追加指定により新たに生産緑 地に指定された農地も存在するため、指定区分の異なるものが存在する。市民農園は現 在6箇所が開設されているが、その利用率は高く、市民の約1%が利用し、申し込み倍 率は開園当初から2倍程度で推移し定員割れの年度はない。 なお、分析にあたってはJA国分寺の支部組織にしたがって図 1-1-3 のように国分寺 市内をブロック区分して行う。 図 1-1-2 生産緑地分布(国分寺市) 地区 ブロック1 ブロック2 ブロック3 ブロック4 ブロック5 ブロック6 ブロック7 ブロック8 ブロック9 ブロック10 ブロック11 ブロック12 ブロック13 図 1-1-3 JA 国分寺によるブロックわけ 町丁目 南町 東元町 光町 富士本 東恋ヶ窪 泉町 西元町 日吉町 東戸倉 並木町 新町 本町 本多 高木町 西町3・4・5 西恋ヶ窪 戸倉 内藤 西町1・2 北町 国分寺市では今後の農地の活用に向けて農家・市民双方に対する意向調査(ブロック 別)を行っている。本意向調査も利用してブロック別の農園の開設可能性を探る。農家 に対する意向調査は平成6年3月、市内農地所有者 339 人を対象に、市民に対する意向 調査は住民基本台帳から無作為に抽出した満 20 歳以上の市民 1000 人を対象に行われた。 国分寺市では市内の生産緑地を表 1-1-2 の3条件(生産・都市的・基盤整備)から評 価を行い、さらに、2条件(生産・都市的)の結果から4段階の総合評価を与えている (表 1-1-3) 。この基準をもとに生産緑地の農業継続の適正さを判断する。 表 1-1-2 生産緑地の評価項目(国分寺市) 機 能 評 価 項 目 ① 規 模 ② 連 担 性 生 産 条 件 ③ 形 状 ④ 混 在 状 況 ⑤ 市 街 地 状 況 ① 防 災 機 能 都 市 的 条 件 基 盤 整 備 条 件 ② 環 境 維 持 機 能 A ・1 ha 以 上 の 生 産 緑 地 評 価 基 準 B ・ 2 ,0 0 0 ㎡ 以 上 ・概 ね 5h a 以 上 の 生 産 緑 地 が 連 担 ・ 概 ね 2 ha 以 上 の 生 産 緑 地 が 連 担 ・ほ ぼ 整 形 ・宅 地 化 農 地 、 住 宅 地 と の 混 在 が 少 な い ・不 整 形 ・宅 地 化 農 地 、住 宅 地 と の 混 在 が 見 ら れ る ・第 一 種 住 居 専 用 地 域 内 か つ C 以 外 の 農 地 ・A、 C 以 外 の 農 地 ・駅 か ら 5 00 m 以 内 ・幹 線 道 路 沿 道 ・住 居 系 地 域 以 外 ・浸 水 危 険 区 域 か ら 2 00 m 以 内 の 農 地 ・そ の 他 ・ 人 口 密 度 10 0人 / ha 以 上 の 地 区 内 の 農 地 ・そ の 他 ・ 概 ね 2 ha 以 上 の 農 地 が 連 担 ・斜 面 農 地 、雑 木 林 等 と 一 体 とな っ た 農 地 が 概 ね 1 ha 以 上 連 担 ・そ の 他 ・4 0/ 80 以 上 の 1 専 ま た は 準 防 以 外 、2 専 1高 内 の 農 地 ・避 難 場 所 ・ 避 難 場 所 に 隣 接 す る 農 地 ・浸 水 危 険 区 域 か ら 10 0m 以 内 の 農 地 ・人 口 密 度 12 0人 / ha以 上 の 地 区 内 の 農 地 (町 丁 目 ) C 未 満 ・そ の 他 ・著 し く 不 整 形 ・そ の 他 ③ 景 観 ・概 ね 5h a 連 担 ・斜 面 緑 地 一 体 とな っ 2h a以 上 連 ④ 教 育 ・文 化 機 能 ・学 校 及 び 公 共 公 益 施 設 に 隣 接 ー ・そ の 他 ① 都 市 計 画 道 路 ・過 半 が 含 ま れ る ・残 地 形 状 に 問 題 が あ る ・含 む が 買 収 後 も 営 農 可 能 ・含 ま な い ② 主 要 生 活 道 路 等 ・準 幹 線 道 路 ・ 主 要 生 活 道 路 を 含 む ・主 要 生 活 道 路 を 含 む ・含 ま な い ・計 画 よ り 概 ね 1 00 m 以 内 ・面 的 整 備 誘 導 地 区 内 ・計 画 よ り概 ね 内 ー ・そ の 他 ③ 公 園 ・緑 地 ④ 面 的 整 備 以 上 の 農 地 が ・ 2 ,0 0 0 ㎡ 、 雑 木 林 等 と た 農 地 が 概 ね 担 20 0m 以 ・そ の 他 表 1-1-3 総合評価による生産緑地の分類(国分寺市) 総合評価 都市的条件 生産条件 位置づけ・整備の方向 ① A A ・現状の良好な生産環境の保全・整備に努める ・営農が困難となった農地については積極的に対応し、 農業者への斡旋等により農地としての継続を 第一とし、 必要な場合には公園緑地化等により都市的オープンス ペースとして保全する ② A B・C ・営農を前提としつつ、これが不可能な場合には、 都市 的オープンスペースとしての保全策に努める ③ B・C A ・現状の良好な生産環境の保全・整備に努める ・営農が困難となった農地については、農業者への斡旋 や市民農園化等により農地としての継続に努める B・C ・小規模な農地は集約化等により生産環境の向上に努 めるとともに、市民農園化や公園緑地化等による身近な オープンスペースとして、また公共公益施設用地等の都 市的活用策を検討する。また、 営農が困難となった生産 条件の良い農地等への交換・斡旋等を進める ④ B・C 農園を開設する上で営農が困難となった生産緑地を主として考える場合、4段階のう ち③または④からの転用が考えられる。しかし、生産条件がAランクの③は、農業従事 者が変わっても現状の生産環境を維持していくことが望ましい。そこで、④の生産緑地 をコミュニティ農園候補地とする。さらに、生産緑地は都市計画上の計画道路が予定さ れている箇所が多く、これらの土地はいずれ農住(緑住)区画整理等により換地される 可能性が高い。一方、同時に都市計画道路沿線の地域では市街化の進展の可能性も高く、 さらなる市民農園の需要も考えられる。生産緑地をコミュニティ農園として利用する場 合、その土地で永続的に活動が行えることが望ましく、計画道路予定地や計画道路の両 側 30mで農住(緑住)区画整理により換地される可能性が高いところは除外する。次に 営農環境として生産者の年齢と後継者の有無の評価から継続性が希薄な生産緑地を抽出 する。市内に存在する 260 箇所を超える生産緑地の生産・都市的条件による評価から、 生産緑地評価④をコミュニティ農園開設適地として選択し、約 35%が選択された。これ らの生産緑地は市全域に分布しているが、ブロック5・8・9に比較的集中している。 これらの地域はもともと生産緑地が分散して分布し、生産緑地としての評価を下げてお り、さらに再開発事業等による市街化の影響も見られる。都市計画道路およびその両側 30mに存在する生産緑地を除くと全体の約 73%が抽出される。生産者の年齢と後継者の 有無のからは8箇所の生産緑地が選択された。これに、市民の意向調査による市民農園 開設の可能性を加味したものを図 1-1-4 に示す。これらの結果、ブロック8においてコ ミュニティ農園設置の可能性がもっとも高く表れた。現状で近隣に市民農園が存在しな いことが強く影響したと考えられる。また、市中心部のブロック3・5・9が次点とな り、これらは生産緑地維持の意欲が高く、市街化の進展している地域特有の傾向と見る ことができる。 図 1-1-4 コミュニティ農園設置の可能性分布 国分寺市内の市街化区域内農地の割合は、約 20%と東京都内他市と比較して高く、約 68%の生産緑地指定率も高い割合を示している。国分寺市(市町村)マスタープランに おいても「農地(生産緑地) 」は、国分寺独自の都市環境形成の上で重要視されており、 さらに、「市民農業大学」の開校、国分寺市内における市民農園の利用状況は開設当初か ら2倍程度の高い申請倍率を持続し、市民の農業への意欲の高さを指摘できる。しかし、 市民農園利用者の居住地には偏りが見られ、利用者数は人口分布や市民意向調査の結果 とは必ずしも一致せず、農園の配置も行政上、都市計画上の課題となっていた。本研究 で検討した生産緑地の評価、都市計画道路による評価、営農環境、市民の意向調査の4 段階の基準によりコミュニティ農園として利用可能性のある生産緑地が見出す手法が提 案できた。 注 1) スポット的な花植え活動を主として展開。官前区は市民と行政が「宮前区づくりプラ ン」を設け、自分たちの手で住みやすいまちをつくることを目標としている。市民が 主体となりゴミを「拾う」よりも「捨てさせない」まちづくりを目指し、花壇をつく ることを提案し、 多様な得意分野を持つ平均年齢 65 歳のキーパーソン 10 名を中心に、 「宮前ガーデニング倶楽部」が誕生した。しかし、実現のための適切な土地が得られ ないでいた。 2) 研究対象は生産緑地面積が多く、申請割合の高い北多摩地域を対象に、生産緑地や開 発の現況及び農業に対する理解の深い都市を取り上げ、①農地率、生産緑地指定率が ともに高い、②地方自治体、住民ともに農業に対する意識が高い、③交通の便が良く、 スプロールの影響を受けたことがある、④市民農園の開設に前向きである、⑤地方自 治体、住民両者から理解と協力を得られるものとして国分寺市を選定した。 参考文献 [1-1-1] 越川秀治(2002)「コミュニティガーデン−市民が進める緑のまちづくり」学芸出 版社 [1-1-2] 大場理恵(1999)「生産緑堀法が適用されている都市における市民農園整備の今後 の課題」第 34 回日本都市計画学会学術研究論文集 [1-1-3] 国分寺市市街化区域内農地の計画的宅地化ガイドライン等策定調査(平成7年3 月) [1-1-4] 国分寺市農業振興計画(平成7年3月) [1-1-5] 国分寺市長期総合計画後期基本計画(平成 14 年4月) [1-1-6] 国分寺市都市マスタープラン(平成 12 年3月) [1-1-7] 国分寺市緑の基本計画(平成 13 年3月) [1-1-8] 秋場裕太、井岡敬史、池田寛(2004)「都市部のコミュニティ活動の活性化手法に 関する研究−川崎市宮前区宮崎コミュニティガーデンの実態分析を通しての遊休 農地対策−」平成 15 年度卒業研究 [1-1-9] 加藤竜一、五味新治、矢後芳昭(2004)「コミュニティ農園構想の実現に関する基 礎的研究−国分寺市の生産緑地の評価をとおして−」平成 15 年度卒業研究 [1-1-10] 仁藤伸吾、平木陽一郎(2004)「市民緑地の管理・運営実態に関する研究 −せたがやトラストと東京都練馬区の比較を通して−」平成 15 年度卒業研究
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