早稲田大学 法学部 世界史 講評

早稲田大学 法学部 世界史 講評
出題形式
試験時間
特徴・その他
マーク・記述併用
60分
選択問題は34題(昨2016年は35題)で1題減。論述250-300字(一昨年は200-250字、昨
年は250-300字)1題で形式・分量ともほぼ同じ。論述は2011年の中国現代史、2012年
は近代の欧州の英・蘭関係、2013年は19世紀末から国際連盟にいたる戦争回避の動き、
2014年の中国現代史、2015年は「民族自決」の理念波及、2116年、今年は英の航海法だ
った。一昨年の正誤判定は中国関係に難題が目立ち、昨年はやや易化したが、今年は
さらに易化した。論述問題のレベルはほぼ昨年と同じ。
〔大問別講評〕
番号
出題内容
コメント
難易度
Ⅰ
中国史の各時代・各王朝の特徴
設問1-④の「占田・課田法」は三国魏ではなく西
晋の制度。設問2-②の成都は蜀の都で劉備即位
の地。④の荊州は諸葛亮(孔明)と出会う前の劉
備が滞在した地。
『三国志演義』では劉備ゆかり
の地として描かれているが即位の地ではない。
設問3-③の府兵制廃止(折衝府廃止)は安史の
乱(755-763)勃発前の749年である。問4-③の
「致良知」は朱熹ではなく王陽明の思想的キーワ
ードである。設問5-②は「その後も戦争がつづ
いた」が誤り。澶淵の盟(1004)のあと北宋と遼の
間には概ね平和がつづいた。設問6は④のカラ
コルムを建設したのはチンギス=ハンではなく
オゴタイ=ハンが正しい。設問7-②の大都は基
本中の基本的事項。設問8-④のアヘン戦争
(1840-42)当時の皇帝は道光帝(位1820-50)が正
しい。設問9の④の吐蕃の文字(チベット文字)
は漢字系ではなくインド系で、現在もチベット
文化圏では現役である。ちなみにチベット仏教
(ラマ教)も中国経由ではなくインドから直接導
入されている。
標準
(一部易)
Ⅱ
シチリア関係史
設問1-4の「線文字A」はクレタ文明で使用さ
れた文字。ミケーネ文明で用いられヴェントリ
スが解読したのは「線文字B」。設問2-1の「デ
ロス同盟」はスパルタではなくアテネが盟主。ス
パルタが中心となっていたのはペロポネソス同
盟である。設問3-1のアルキメデスは史落差出
身でアレクサンドリアのムセイオンで学んだ。
第2回ポエニ戦争(前218-前201)の際、シラクサ
はカルタゴ側についたためローマ軍の侵入を受
けた。設問4-4の「プロノイア制」導入はユステ
ィニアヌスではなくアレクシオス1世(位10811118)である。彼は十字軍派遣を要請した皇帝で
もある。設問5はそれぞれ先頭に位置する人物
についての重要事項を想起する必要がある。
易
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番号
Ⅱ
出題内容
シチリア関係史
コメント
難易度
ハインリヒ4世はカノッサ事件(1077)、フリー
ドリヒ1世(プロイセンではなく神聖ローマ皇
帝)は第3回十字軍(1189-92)(ロンバネディア
同盟に惨敗したレニャノの戦い(1176))でもい
いがかなりマイナーな史実ではある)。ジギスム
ントはハンガリー王としてはニコポリスの十字
軍(1396)、神聖ローマ皇帝としてはコンスタン
ツ公会議(1414-18) 。カ ール4世は金印勅書
(1356)であろう。これらを比べるとハインリヒ
4世が最古となることがわかる。設問6-3のシ
モン=ド=モンフォールはヘンリ3世に抗議した
貴族。のちに「下院の創設者」と称された。俗に
いう「シモン=ド=モンフォールの議会」は1265年
の出来事。設問7-4のイタリア統一(1861)の際
にはヴェネツィアと教皇領は回復されていな
い。設問8の「シラクサ」は問題をここまで解進
んでいれば自明のレベル。設問9。1282年の分
裂以後のシラクサ王国を支配したのはイベリア
半島のアラゴンである。
Ⅲ
イスラーム世界の成立と展開
設問1-い:聖遷(ヒジュラ)の年はイスラーム紀
易
元でもある。622年は基本中の基本。設問2-は:
(一部標準)
「クルアーン(コーラン)」編纂は正統カリフ第3
代ウスマーン(位644-56)が正しい。設問3-は:
「知恵の館(バイト=アル=ヒクマ)はアッバース
朝第7代マームーン時代。ハールーン=アッラシ
ードのときに設けられたのは「知恵の宝庫(ヒザ
ーナ=アル=ヒクマ)」である。設問4-に:ビザン
ツ帝国滅亡は1453年、一方のアンカラの戦いは
1402年。オスマン朝は1402年の敗戦で一旦瓦解
し、再建のあとメフメト2世がビザンツ帝国を
滅ぼした。設問5-い:「ガレオン船」ではなく「ダ
ウ船」。は:マジャパヒトはヒンドゥー教国、に:
「絹の道」はムスリム商人が進出する遥か以前
(漢とローマ)の東西交易路につけられた呼称。
設問6-い:アイバクが開いたインド最初のイス
ラーム王朝が奴隷王朝であり、それに続くハル
ジー朝・トゥグルク朝・サイイド朝・ロディー朝
を総称してデリー=スルタン朝と呼ぶ。設問7い:1905年の出来事はインド統治法ではなくベ
ンガル分割令が正しい。設問8-ろ:『集史』は
イル=ハン国第7代ガザン=ハンにつかえたラシ
ード=アッディーンが編纂した歴史書。インドの
イスラーム化には無関係である。
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番号
出題内容
コメント
難易度
Ⅳ
第二次世界大戦以降のドイツと
日本
設問1-ロ:先頭がオーストリア併合(1938年3
月)か独ソ不可侵条約(1939年8月)かで二択にな
り、すぐ正答できる。設問2-ロのプロイセンの
王国昇格(1701年)時の君主はフリードリヒ1世
が正しい。ハのズデーテン地方はハンガリーで
はなくチェコ。ニのエカチェリーナ2世関係は
コーカンド=ハン国ではなくクリム=ハン国であ
る。設問3-イのワルシャワ大公国を建国したの
はナポレオン1世、ロのコシューシコは19世紀
末に分割と消滅の危機に瀕したポーランドの独
立をめざして決起した人物。ニのダンツィヒは
ナチス=ドイツに併合されている。また、東ヨー
ロッパ相互援助条約(ワルシャワ条約機構)の司
令部はモスクワに置かれた。設問4はBがユー
ゴスラヴィアであることは「コミンフォルムか
ら除名」ですぐわかり、あとはマケドニアかルー
マニアかの二択。仮にルーマニアが直答できな
くても、1878年のベルリン条約で、ブルガリア
はサンステファノ条約時に比べて領土を大幅に
縮小されたうえでオスマン帝国宗主権下の自治
公国となったことを想起し、ルーマニアを選ぶ。
設問5-イ:アウシュヴィッツがポーランドにあ
るので大戦勃発以後の建設であることはすぐわ
からなければならない。ロの国会議事堂放火事
件(1933年2月)の犯人とされたのは共産党員で
ある。ニのレームは親衛隊ではなく突撃隊の指
導者。
標準
Ⅴ
航海法をめぐる歴史
一昨年は「民族自決」理念というやや抽象的テー
マ、昨年は「ドイツ統一」」という地域的にも時代
的にもかなり限定された設問だった。字数は昨
年、250字から300字に増加し、今年も踏襲され
た。昨年は指定語句を列記した順に使用せよと
いう指示があったが今年はなかった。今年の航
海法は一見すると手間のかからない書きやすい
テーマと感じさせられるが、そう甘くはない。
指定語句の一つ一つにそれなりの役割を与え、
語句がきちんとした論理の一貫性のもとに配置
されているかどうか。一つでもとりあえず出番
を提供した、つまりただ居るだけで大切な役割
をになっていないとすれば高得点は望めない。
17世紀はじめの中継貿易で支配的地位にあった
のがオランダで、それに対抗する政策が重商主
義であり、英の場合は航海法がその典型だった
こと、そしてその背景には台頭するジェントリ
層の利害があったことを書かねばならない。
標準
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番号
Ⅴ
出題内容
航海法をめぐる歴史
コメント
難易度
英蘭が軍事的に対立して英が勝利した英蘭戦争
を経て大西洋貿易の覇権を握った英は、貿易で
得た富によって産業革命をおこし、その結果と
して台頭した産業資本家が第1回選挙法改正で
参政権を獲得すると自由貿易を要求。しかし、
ジェントリの利害がからむ穀物法問題がからん
だ展開を経て1849年の穀物法廃止に至ったとま
とめる。
〔総合コメント〕
法学部の正誤判定問題は近年易化の傾向にあったが、一昨年は正誤判定のポイントに中国史関係で細
かいものが目立ち難化した。昨年は一転して易化し、今年は全体としてさらに易化した。昨年の最大
の特徴として、山川用語集の新版には出ているが旧版にはない部分からの出題が目立った。一転して
今年は新旧どちらを使っても対応できた。結果としては新版のみに依拠可能となるので受験生には朗
報である。また、易化はメリットばかりでではない。半端な実力の受験生でも一定の得点が可能にな
るため、実力者は得点しにくい問題で得点しないと差が開かなくなってしまう。結局は高得点をはず
せないことになるので細心の注意が必要である。教科書を本文・脚注・地図・図説を含めて徹底的に学
習し、用語集で語彙を増やし、過去問を大量にこなす必要がある。論述問題は、ただ文章の体裁だけ
をととのえるなら指定語句を時代順に配列し、坦々と説明をつなげればなんと書けることは書ける。
しかし、文にはなっていても「論」にはならないので高得点は望めない。指定語句を歴史的文脈の中で
生かせる文章を書けるかどうかで採点者の印象は大きく違ってくる。出題パターンは国立難関校(東
大・京大)と似ている。東大・京大の2次試験を教材にした論述演習がおすすめである(というより早大
法には東大・京大本命組が大量に受験している)。早大法学部をめざす受験生は、ライバルは東大・京
大本命組であると認識して受験対策を講じなくてはならない。
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