早稲田大学 文学部 世界史 講評

早稲田大学 文学部 世界史 講評
出題形式
試験時間
特徴・その他
マーク・記述併用
60分
大問は9問構成で今年も踏襲された。小問の総数は一昨年の41問から昨年は37問に減少
し今年も同じ37問だった。そのうち記述式は一作年の8問から昨年は12問に増加し、今
年も同じ12問だった。小論述は昨年まで続いた文章完成式方式ではなく、独立した説明
問題になった。字数は昨年の40字からさらに増加して50字となった。一昨年から正誤判
定問題の一部に難問の増加がみられはじめたが、今年はやや易化した。
〔大問別講評〕
番号
出題内容
コメント
〔Ⅰ〕 古代オリエント世界のエジプト・ 設問1の記述式、昨年はアッシリアが交易して
メソポタミア
いた「錫」を答えさせるものだったが、今年は前
7世紀にエジプトを征服した勢力としての「ア
ッシリア」、連年のアッシリアからの出題とな
った。設問2、昨年は「ヌビア」を問う難問だっ
た。ことしは古代エジプトとしては例外的とさ
れる異民族侵入で「ヒクソス」だった。設問3の
「ベヒストゥーン碑文」に使われていない言語
(アラム語)は細かい。山川用語集だと新版のみ
に記載がある内容である。
難易度
標準
(一部難)
〔Ⅱ〕 東南アジア関係史
設問1は2と4が誤文。2のベトナム北部の中
国からの自立は、短期王朝としては呉朝(939~
968)と丁朝(966~980)で、丁朝は北宋から「交
趾郡王」に封じられている。よって「南宋」が誤
りである。4のチャオプラヤ川はタイの河川で
別名をメナム川という。ビルマ(ミャンマー)の
国家形成の場となったのはイラワディ川であ
る。
標準
〔Ⅲ〕 中国の思想史
設問1-ウの蘇秦の策である六国の対秦同盟は
連衡策ではなく合従策が正しい。連衡策は張儀
の策である。設問2の斉の領域は「山東」なので
「黄河下流域」となる。斉の地は製塩でも知られ
た(なので塩密売人王仙芝・黄巣の出身地でも
ある)。設問3-エの韓非は筍子の弟子だが商鞅
は違う。商鞅は前4世紀の人物で筍子に先行す
る時代の人物である。設問4「焚書坑儒」は基本
レベル。万が一にも「抗」などと書かないよう注
意したい。設問5-イの孔穎達は唐代の文化で
頻出事項。設問6の空欄補充は阮籍・嵆康らで
知られる「清談」を入れる。設問7-ウ:法顕が訪
れたインドはグプタ朝時代、ヴァルダナ朝時代
は唐の現玄奘が該当する。
標準
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番号
出題内容
コメント
難易度
〔Ⅳ〕 中国王朝における党争
昨年の大問Ⅳは「多民族社会としての中国」。中
国史の特徴をテーマ設定。設問1-アが正解。
イの『資治通鑑綱目』は『資治通鑑』とは別の書
籍で朱熹の撰述になるとされる。ウの秦檜は遼
と北宋が滅亡したあとに金との講和を推進。エ
の「靖難の役」(明)と「靖康の変」(宋)の取り換
えは頻出事項である。設問2-エの銭大昕は18
世紀の清朝で活躍した考証学者。それ以外は明
と明末清初の人。設問3-ウは梁啓超の亡命先
が誤り。アメリカではなく日本が正しい。設問
4:50字論述。「その経緯」だから時間軸に沿っ
て義和団事件→光緒新政→革命派と並べる。昨
年の「辛亥革命から1920年代のモンゴル」にく
らべればはるかに書きやすい設定だった。
標準
〔Ⅴ〕 イエズス会宣教師の活動
設問1「バロック様式の建築を含む離宮」から
円明園を想起し、カスティリオーネを答える。
設問2:絵画史料から皇帝名を直答する問題な
ら厳しいが、リード文に「ジュンガルを滅ぼす
など十回に及ぶ遠征をおこない王朝の最大版
図を築いた」とあるから乾隆帝とすぐわからな
ければならない。
易
〔Ⅵ〕 西洋美術の時代様式
設問1の「バロック式」は絶対主義の美術様式
であるからウの17世紀以外(13世紀・15世紀)は
ありえない。図版は「ダヴィデ像」以外は教科書
的ではない作品だが、カの「フェルメール」を選
ぶ。作者はキの「レンブラント」とすぐわかる。
設問2は「印象派」から迷わず「モネ」を選ぶ。
標準
(一部易)
〔Ⅶ〕 中世の西欧
昨年は「中世のロシア」から出題されたが、今年
易
は西ヨーロッパに移った。設問1の「レオ3世」 (一部標準)
は教科書本文太字レベル。設問2-ロは急に細
かくなって、皇帝位の継承は兄のロタール1世
が中フランクとイタリアの王位とともに継承
している。設問3-ロ(オートー1世は東フラン
ク)とニの誤文であることは明白。ハはやや細
かく、「バルセロナ伯」と同君連合はカスティリ
ャではなくアラゴン王国が正しい。設問4の
「ロンバルディア同盟」、設問5-ニの「ジャック
リーの乱」も易しい。
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番号
出題内容
コメント
難易度
〔Ⅷ〕 イングランドの宗教改革
設問1-ニの「権利の宣言」(1689)は名誉革命
時。設問2-ロは「英訳聖書を蔑視」が誤り。ウ
ィクリフは自ら新約聖書を英訳している。ハの
ウィクリフの最後は教科書の挿絵でも紹介さ
れている焚刑。ニは「自らの神学云々」があやま
り。ウィクリフはコンスタンツ公会議に呼ばれ
ると有無を言わさず焚刑に処せられた。設問3
の「エドワード3世」はひらめきがないと思い
当たらない人名。ヒントは「ヘンリ」と「メアリ1
世」の間に並んで入る人物ということ。一般祈
祷書(1549)で知られるが、1547年の即位時に9
歳であり、かつ病弱であり、有力者が摂政とし
実権を握っていた。問4-ハのチョーサーは宗
教改革以前の時代の人物。設問5-ロのノック
ス(ジョン=ノックス)は長老派教会の創立者と
して知られる人物だが細かい。一本釣りはほぼ
不可能だが消去法で簡単に選べる。
標準
(一部難)
〔Ⅸ〕 近代フランスの政治体制
設問1-ロのナポレオン第一帝政開始前後の事
実関係は受験世界史では頻出分野である。「ナ
ポレオン法典」制定は1804年3月、戴冠は1804
年5月だが、即位直前とおさえておけば対処可
能である。設問2の記述式は「オスマン」と答え
る。事実上のパリ市長にあたるセーヌ県知事と
してナポレオン3世のパリ大改造にあたった。
シャンゼリゼ通りなど、現在よく知られている
パリ市街地の形状はこのとき出現した。設問3
-ハの「私有財産批判云々」はプルードンの主張
に該当する。空想的社会主義者とされるフーリ
エは協同組合的理想社会(ファランジェ)を構
想した。設問4は迷わず「メキシコ」と答える。
ナポレオン3世はクリミア戦争・イタリア統一
戦争・インドシナ出兵・アロー戦争・メキシコ出
兵・普仏戦争と対外関係が派手なので入試には
もってこいの人物である。設問5-ニは文化闘
争に注目すれば簡単に答えられる。設問6-ハ
の政教分離法(1905)は20世紀の出来事。
標準
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〔総合コメント〕
現在の早大文学部は文化構想学部とはいわば双子の関係で、かつての第一文学部と第二文学部を再編し
て生まれた。そのため入試傾向も非常に似ていて早大の他学部と比べると驚くほど簡単な問題が出され
ていた。しかし、近年文学部の問題は確実に難化していて文化構想との難易度の差はかなり開いてきた。
美術史は毎年出題され、以前は西洋が中心だったが間もなく中国文化になり、今年は西洋と中国の両方
から出題された。昨年の写真は山川出版社『詳説世界史B』そのままであったが、今年も教科書で定番
の「清明上河図」だった。教科書の写真は丁寧にチェックしておかないといけない。地図問題は今年も出
題されなかった。説明問題は50字に字数が増加し、さらに文章の中に埋め込まれた形式ではなく独立し、
書きやすくなった。テーマは2年連続して20世紀前半の東アジア(昨年はモンゴル)だった。また、文章
正誤判定問題のキーワードに非常に細かい事象が選ばれているケースが増えている。単純なようだが、
教科書はもちろん、用語集の類も徹底的に読み込まないと高得点は望めない。その一方で基本的事項を
問う問題もまだまだ多い。こちらでは初歩的ミスを犯さないよう細心の注意が求められる。正誤判定問
題の雰囲気は文化構想学部を除く早大文系学部と似てきている。文学部対策としては過去問より他学部
の問題を大量に解く方が効果ある。
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