1/2 Asia Trends マクロ経済分析レポート 中国の金融政策もいよいよ「引き締め」か ~春節明けのタイミングで引き締めも、綱渡りの展開は不変~ 発表日:2017年2月3日(金) 第一生命経済研究所 経済調査部 担当 主席エコノミスト 西濵 徹(03-5221-4522) (要旨) 3日、中国人民銀は短期金融市場でリバースレポ金利と常設貸出ファシリティーの適用金利を引き上げる 決定を行った。同行は春節直前、バブル懸念への対応から中期資金を吸収して金融機関のデレバレッジを 促す一方、春節期間中の市場安定へ短期資金を供給するオペを展開したが、春節明けを待って引き締めに 動いたとみられる。ただし、足下の景気は公共投資頼みの側面が強く一定のペースで引き締めが行える状 況にはないなか、先行きにおいても当局の政策対応は綱渡りの展開が続くことは避けられないであろう。 3日、中国人民銀行は短期金融市場においてリバースレポ金利を 10bp 引き上げ、7日物を 2.35%、14 日物を 2.50%、28 日物を 2.65%としたほか、常設貸出ファシリティー(SLF)についても併せて引き上げる決定 を行った。同行は金融政策の調整手段として、主要政策金利(1年物貸出金利及び1年物預金金利)や預金準 備率に加え、中期貸出ファシリティー(MLF)とSLFを用いることにより金融市場における短・中期の流 動性を管理している。同行は先月末、例年において資金需要が高まる傾向がある春節(旧正月)に伴う連休が 始まる直前のタイミングでMLFの適用金利を引き上げるとともに、中期の流動性を対象に実質的に資金吸収 を行うオペを行っていた。その直前には、金融機関に対する預金準備率を一時的に引き下げるなど資金供給を 行っていたことから、一見すると相反するオペが行われており、金融市場では当局の意図が分かりにくいとの 反応がみられた。しかしながら、春節という資金需要が旺盛になりやすい時期に対応して短期金融市場におい ては潤沢な資金供給を通じて市場安定を重視する一方、足下の中国では大都市部の不動産をはじめとする資産 市場で「バブル」的な価格上昇が懸念される状況が続いていることから、期間が長めの資金については供給を 抑制し、結果として金融機関に対してレバレッジの解消を促すことを企図したものと捉えられる(詳細は1月 27 日付レポート「今年の春節前は例年と異なる様相」をご参照下さい)。こうした動きは、昨年末に共産党 と政府が今年の経済政策の運営方針について協議する中央経済工作会議において、金融政策の方針が従来から の『穏健(中立的)』から『穏健中立』にやや引き締め姿勢に変化したことに加え、具体的課題として不動産 市場を巡る問題(不動産市場の安定的且つ健全な発展を推進)が掲げられたこととも整合的と捉えられる。そ の一方、春節に伴う連休は1週間ほどの期間にも拘らず、この時期の小売売上高(社会消費支出総額)は他の 通常の週と単純に比較しても2割ほど多いなど消費が旺盛になりやすいことから、消費の観点でも重要な時期 に当たる。したがって、仮にこの時期に資金需給のひっ迫感が高まることで個人消費に悪影響を与えることに なれば、当局が目指す消費を中心とする内需主導型の経済成長の道筋に反することになることから、全面的な 金融引き締めには「及び腰」にならざるを得なかったと考えられる。また、ここ数年は実店舗に加え、インタ ーネット上のEC(電子商取引)サイトでもセールが活発化しており、家電製品などの耐久消費財に対する需 要が高まる傾向が強まっている。こうしたことも当局が短期金融市場の「安定」を重視せざるを得なかった一 因になっていると考えられる。なお、今年の春節期間中の小売売上高は前年同月比+11.4%増の約 8400 億元 と前年(同+11.2%、約 7540 億元)に比べて伸びが加速しており、期間中の個人消費は比較的堅調な動きが 続いていることが確認されている。今年の春節商戦では、足下で伸びに頭打ちの兆しが出ていたスマートフォ 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判 断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一 生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 2/2 ンをはじめとするデジタル家電のほか、宝飾品、一方で当局が盛んに購入を進める省エネ家電といった高額消 費に勢いがあったとされ、習政権による反腐敗・反汚職運動の影響で伸び悩んできた外食需要にも底入れの動 きがみられるなど、今年秋に予定される共産党大会を前に当局による「締め付け強化」の動きが懸念されたも のの、比較的安定した動きがみられた模様である。こ 図 短期金利(SHIBOR1週間物金利)の推移 うしたことから、昨日(2日)に春節が終了したこと を受けて、当局は「バブル」抑制に向けて本格的な金 融引き締めに舵を切る姿勢を強めたものと捉えられる。 しかしながら、足下の中国経済は依然としてインフラ を中心とする公共投資の動きが景気を左右するなど 「オールドエコノミー」に支えられている展開が続く など、自立的に景気減速状態を抜け出したとは言いが たい状況にあるなか、今後も引き締め姿勢を一定のペ (出所)Thomson Reuters より第一生命経済研究所作成 ースで強められる段階にあるとは考えにくい。さらに、国民の間には当局の政策対応に対する「不信感」のよ うなものが根深く残っている様子もうかがえるなか、こうした心理が投機を通じた利殖行為や海外への資金逃 避に向けた意欲の源泉になっていることを勘案すれば、早々に事態が変化するとも考えにくい。その意味にお いては、先行きにおいても当局の政策対応は綱渡りの状況が続くものと予想される。 以 上 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判 断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一 生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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