ふるさと納税 - みずほ総合研究所

人気高まる「ふるさと納税」
ふるさと納税の受け入れ額が近年急増している。その背景には、少ない自己負担で返礼
品がもらえる仕組みが広く周知されたことや、制度の拡充がある。
「寄付を通じて地域
を応援する」という制度本来の趣旨を踏まえ、今後自治体には、体験型の返礼品の拡充
や、
モノの返礼品に頼らずとも寄付を集められる魅力的な政策の発信が望まれる。
る場合、全額控除される寄付額の目安は 61,000 円と
なっている。
ふるさと納税の受け入れ額は、2012 年頃までは
ふるさと納税の人気がにわかに高まっている。ふ
年間 100 億円前後の水準で推移していたが、近年急
るさと納税とは、自分の選んだ自治体(都道府県及
増している(2013 年度 146 億円、2014 年度 389 億円、
び市区町村)に寄付を行った場合に、寄付額のうち
2015 年度 1,653 億円)。その要因としては、ふるさと
2,000円を超える部分について、所得税と住民税から
納税という制度が広く周知されてきたことや、制度
原則として全額が控除される制度のことをいう。全
そのものの拡充が図られてきたことがあげられる。
多くの自治体は寄付者に対して返礼品を送付し
額が控除される寄付額には上限があり、具体的には、
寄付額から2,000円を除いた金額について、①所得税
ている。返礼品は 2,000 円を上回るものも多く、寄付
率を乗じた額、および②住民税の基本控除分として
者は実質負担 2,000 円でそれを上回る返礼品を寄付
10%を乗じた額を控除し、それで控除しきれない金
した自治体からもらえる仕組みとなっている。この
額について、③特例控除分として住民税所得割額の
仕組みがメディアで取り上げられ、ふるさと納税制
2 割を限度に住民税から全額控除する、という形に
度が人々に認知されるようになった。また、2015 年
なっている(図表 1)。年収や家族構成などにより全
度からは、寄付金のうち2,000円を超える部分が全額
額が控除される寄付額は変わるが、例えば年収 500
控除されるふるさと納税枠が約 2 倍に拡充されたほ
万円の給与所得者(独身又は共働き、社会保険料控
か、確定申告が不要な給与所得者などについて、ふる
除額が給与収入の 15%と仮定)がふるさと納税をす
さと納税先団体が 5 団体までであれば控除のための
●図表1 ふるさと納税制度に係る控除の概要
適用下限額
①所得税の控除額
②住民税の控除額(基本分)
2,000円 (ふるさと納税額−2,000円) (ふるさと納税額−2,000円)
×所得税率(注1)
×住民税率(10%)
控除外
③住民税の控除額(特例分)
(ふるさと納税額−2,000円)
×
(100%−10%
(基本分)
−所得税率)
(住民税所得割額の2割を限度)
控除額
(注)1. 所得税率は、課税される所得金額により異なる
(0 ∼ 45%)。
なお、2014年度から2038年度については、所得税率は復興特別所得税を加算した率となる。
2. 対象となる寄付金額は、所得税は総所得金額等の40%が限度であり、個人住民税(基本分)
は総所得金額等の30%が限度である。
(資料)総務省より、
みずほ総合研究所作成
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確定申告を要さない制度が始まるなど、個人が寄付
あろう。プラスの面としては、ふるさと納税が自治体
しやすいように制度改正が行われた。
の地域活性化や復興支援の方策として有益であると
いうことがいえる。現在、より多くの人から寄付をし
てもらおうと、自治体間でいい意味での返礼品競争
が起こっており、その中で地元の特産品を全国にPR
ふるさと納税が人々に知られ、かつ実際に行う人
できた自治体が現れている。また、東日本大震災や熊
が増えたことで、その受け入れ額は順調に増加して
本地震の際には、ふるさと納税を通じて全国から被
いる。ただ、ふるさと納税にはいくつかの問題点とそ
災地を応援しようと返礼品をもらわない形での寄付
れに応じた課題も指摘できる。
が被災地に集まったという事実がある。
まず、ふるさと納税が高所得者に有利な制度であ
上記のような事例があることを踏まえると、単に
るという点だ。ふるさと納税は、寄付を行う本人の給
ふるさと納税を廃止してしまうよりも、この制度が
与収入が高いほど、全額控除される額が多くなる仕
持つプラス面をさらに生かす方向性を考え、制度の
組みとなっている(図表 2)。今後、例えば全額控除さ
改善を続けていく方が生産的だと考えられる。
れる額に一定の上限を設けるなど、何らかの制度的
対応を図る必要があろう。
加えて、現在のふるさと納税が「寄付を通じて地域
を応援する」という本来の趣旨からやや逸脱してい
今後のふるさと納税については、地域活性化によ
る点も、しばしば問題視される。アンケート調査など
り有機的につながるという意味での工夫が必要だ。
をみると、ふるさと納税を利用した寄付者の多くが
具体的には、各自治体において「体験型」の返礼品を
返礼品を目当てにふるさと納税を行っている傾向
拡充することが考えられる。体験型の返礼品とは、自
が認められ、寄付の使われ方にも関心が薄い様子が
治体のテーマパークや温泉施設の入園券、ラフティ
うかがえる。こうした状況に鑑みて、
「ふるさと納税
ングや農業体験など、寄付者が寄付先に足を運び、参
制度を廃止すべき」といった意見もみられるように
加し楽しんでもらう形の返礼品である。実際に寄付
なった。
先の地を訪れてもらい、そこで消費活動を行っても
ただ、こうしたふるさと納税がもたらすマイナス
らった方が、自治体にとって寄付者に単に返礼品を
面だけでなくプラスの面も併せて議論されるべきで
送るという行為だけで終わるよりも地域の活性化に
つながるはずである。
また、より本質的には、個人が応援したくなるよ
●図表2 全額控除されるふるさと納税額(年間上限)の目安
うな事業を自治体が積極的にアピールすることも
(全額控除されるふるさと納税額、
円)
必要と考えられる。本来望まれるのは、仮に返礼割
600,000
合が低くても、魅力的な政策や事業を積極的に発信
し、それに対する「寄付」という形での支援を呼びか
500,000
ける自治体が多く現れることであろう。モノの返礼
400,000
品を通じた地域 PR に偏った感のあるふるさと納税
の現状は、制度が創設された当初の意義とはやや異
300,000
なった方向を向いているようにもみえる。
「モノ(=
200,000
返礼品)」の競争から、
「コト(=政策・事業)」の競争
へとシフトしていくことが、今後のふるさと納税に
100,000
0
は期待される。
300 400 500 600 700 800 900 1,000 1,200 1,400 1,600 1,800 2,000
万円)
(ふるさと納税を行った人の給与収入、
(注)1.独身または共働きのケース。年収や家族構成などにより全額控除されるふるさと
納税額は変わる。
2.
社会保険料控除額については、給与収入の15%と仮定。
(資料)総務省より、
みずほ総合研究所作成
みずほ総合研究所 政策調査部
川口 亮
[email protected]
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