リサーチ TODAY 2017 年 1 月 16 日 ふるさと納税も「モノ」から「コト」へ 常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創 ふるさと納税の受入額が近年急増している。この背景には、寄附者は実質負担2,000円でそれを上回る 返礼品をもらえるという仕組みへの認知が広がったことや、制度の拡充がある。みずほ総合研究所は、ふる さと納税の現状と課題に関するリポートを発表している1。ふるさと納税には、高所得者に有利な制度である など改善すべき点がある一方で、自治体の地域活性化や復興支援の方策として有益であるというプラスの 面も存在する。今後は、体験型の返礼品を拡充したり、魅力的な政策や事業に対する寄附を呼びかけたり する自治体が多く現れることが望まれる。 下記の図表はふるさと納税制度に係る控除の概要を示す概念図である。ふるさと納税とは、自分が選ん だ自治体に寄附を行った場合、寄附額のうち2,000円を超える部分について、所得税と住民税から原則と して全額が控除される制度である。ここで全額が控除される寄附額には上限があり、具体的には図表のよう に、寄附額から2,000円を除いた金額について、①所得税の控除額、②住民税の控除額(基本分)、③住 民税の控除額(特例分)、で構成される。ふるさと納税の受入額は近年急増しており、2014年度の389億円 から2015年度には1,653億円となっている。実質負担2,000円でそれを上回る返礼品をもらえるという仕組 みは寄附者にとって魅力的であり、今後もふるさと納税の受入額は増加していくと展望される。 ■図表:ふるさと納税制度に係る控除の概要 適用 下限額 2,000円 ①所得税の控除額 ②住民税の控除額 (基本分) ③住民税の控除額(特例分) (ふるさと納税額-2,000円) (ふるさと納税額-2,000円)×(100%-10%(基本分)- ×所得税率(注1) 所得税率) (ふるさと納税額-2,000円) (住民税所得割額の2割を限度) ×住民税率(10%) 控除外 控除額 (注)1.所得税率は、課税される所得金額により異なる(0%~45%)。なお、2014 年度から 2038 年度については、所 得税率は復興特別所得税を加算した率となる。 2.対象となる寄附金額は、所得税は総所得金額等の 40%が限度であり、個人住民税(基本分)は総所得金額等の 30%が限度である。 (資料)総務省より、みずほ総合研究所作成 ただし、ふるさと納税の問題点も指摘されている。第1はふるさと納税が高所得者ほど有利になることだ。 次ページの図表は全額控除されるふるさと納税額の目安を示す。高所得者ほど有利となる点を改善する ためには、全額控除される額に一定の上限を設けるなどの方法が考えられる。 1 リサーチTODAY 2017 年 1 月 16 日 ■図表:全額控除されるふるさと納税額(年間上限)の目安 (全額控除されるふるさと納税額/給与収入) (全額控除されるふるさと納税額、千円) 600 3.0% 500 2.5% 400 2.0% 300 1.5% 200 1.0% 100 0.5% 0 0.0% (ふるさと納税を行った人の給与収入、万円) (ふるさと納税を行った人の給与収入、万円) (注)1.独身または共働きのケース。年収や家族構成などにより全額控除されるふるさと納税額は変わる。 2.社会保険料控除額については、給与収入の 15%と仮定。 (資料)総務省よりみずほ総合研究所作成 第2の問題点は、ふるさと納税によって、税収が大都市圏から地方へ流出していることだ。下記の図表に 示されるように、ふるさと納税の受入額は大都市圏よりも地方の方が多い一方、個人住民税の控除額につ いては地方よりも大都市圏の方が多く、大都市圏の税収が減少していることになる。 以上の問題点に加え、自治体には個人が応援したくなるような事業を積極的にアピールすることが求め られる。モノの返礼品を通じた地域PRに偏ったふるさと納税の現状は、当初の意義とは異なった方向にあ る。それだけに、今後はふるさと納税の本来の趣旨に立ち返って、「モノ(=返礼品)」の競争から「コト(= 政策・事業)」への競争へとシフトしていくことが望まれる。 ■図表:都道府県別ふるさと納税受入額と控除額 300 250 (億円) 受入額 控除額 200 150 100 50 沖縄県 鹿児島県 宮崎県 大分県 熊本県 長崎県 佐賀県 福岡県 高知県 愛媛県 香川県 徳島県 山口県 広島県 岡山県 島根県 鳥取県 和歌山県 奈良県 兵庫県 大阪府 京都府 滋賀県 三重県 愛知県 静岡県 岐阜県 長野県 山梨県 福井県 石川県 富山県 新潟県 神奈川県 東京都 千葉県 埼玉県 群馬県 栃木県 茨城県 福島県 山形県 秋田県 宮城県 岩手県 青森県 北海道 0 (注)1.受入額は、2015 年度の数値。控除額は 2015 年の数値。 2.控除額は、個人住民税の寄附金税額控除額。 (資料)総務省よりみずほ総合研究所作成 1 川口亮 「ふるさと納税の現状と課題」 (みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2016 年 11 月 29 日) 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき 作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 2
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