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IN FOCUS
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生徒たちをグループ分けし、
それぞれの学校に選別すること
は、生徒たちの学習意欲と関係があるか。
• OECD加盟国全体の平均で、将来役に立つことを信じているという理由から数学に
対する学習意欲が高い生徒たちは、学習意欲が低い生徒たちよりも、学校教育の半
年分相当、数学の得点が高い。
• それぞれの学校やプログラムに分類し、グループ分けする教育システムでは、生徒
たちの数学に対する学習意欲が低い。
意欲と関心は学習を支える原動力とみなすことができる。生徒たちの将来のた
めに数学が重要であることを考慮すると、学校システムでは、生徒たちが正規
の学校教育の後も数学を学び続けるために必要な知識だけでなく、そうするこ
とを望む興味と意欲をもつことを確実としなければならない。
ほとんどの生徒たちは
数学を学ぶことが大切
だと認識している。
PISA2012 年調査に参加した生徒たちは、将来の学
業や職業のために数学を理解することには利点があ
ると考えるという理由から、どの程度、数学を学習
する意欲がわくか、回答を求められた(数学におけ
る道具的動機付けと呼ばれる)。OECD 加盟国全体の平均で、生徒の 75% が
「将来つきたい仕事に役立ちそうだから、数学はがんばる価値がある」に対し
て「まったくその通りだ」「その通りだ」と答え、78% が「将来の仕事の可能
性を広げてくれるから、数学は学びがいがある」に対して「まったくその通り
だ」「その通りだ」、66% が「自分にとって数学が重要な科目なのは、これから
勉強したいことに必要だからである」に対して「まったくその通りだ」「その通り
だ」、70% は「これから数学でたくさんのことを学んで、仕事につくときに役立
てたい」に対して「まったくその通りだ」「その通りだ」と答えている。これらの
質問に対する生徒たちの回答を用いて、将来自分にとって役立つという理由か
ら考え,数学を学習している生徒の動機付けを把握する合成指標が策定された。
PISA in Focus – 2014/05 (May) © OECD 2014
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数学における道具的動機付け
各項目に「まったくその通りだ」「その通りだ」と答えた生徒の割合 -OECD平均-
100 %
80
60
40
20
0
将来つきたい仕事に
役立ちそうだから、
数学はがんばる
価値がある
将来の仕事の可能性を
広げてくれるから、
数学は
学びがいがある
自分にとって数学が
重要な科目なのは、
これから勉強したいことに
必要だからである
これから数学で
たくさんのことを学んで、
仕事につくときに
役立てたい
出典:OECD, PISA 2012 Database, Table III.3.5a.
12 http://dx.doi.org/10.1787/888932963825
OECD加盟国全体の平均で、数学における動機付けが
高い生徒たちと低い生徒たちとの間の数学的リテラ
シーの得点差は18点で、
これは学校教育のほぼ半年
分に相当する。韓国、
ノルウェー、台湾では、
この差は
30点以上に開く。PISA調査からは、最も優秀な生徒た
ちの間で動機付けが特に強く成績と関連していること
生徒たちをプログラム又は学校へ割り当てる方
法は、学習意欲と関連する…
しかし、生徒一人一人の学習意欲は、国レベルで策
定される教育政策とどのように関連しているのだろう
か。PISA調査では、生徒たちの関心や能力、又はその
両方によって、学校間で生徒たちをグループ分けする
も明らかになっている。OECD加盟国全体の平均で、 上で役立つ、方針を幾つか検討した。例を挙げると、
道具的動機付けと関連するPISA調査の得点における 生徒ごとに異なるプログラム(職業プログラム又は学
差は成績上位者の間で21点であるのに対し、成績下
業プログラムなど)を提供しているか、生徒たちがこう
位者の間では11点にすぎない。ベルギー、フランス、 したプログラムに入るのを何歳としているか、それぞ
ハンガリー、スロバキアでは、動機付けに関連する成
れの学校の入学者選抜において学業成績をどの程度
績上位者と下位者との得点の差は、20点以上である。
用いると定めているか、などである。
PISA調査の結果から、生徒たちの動機付けのレベル
と学校システムがそれぞれの学校やプログラムにえり
分けたり、
グループ分けしたりする程度との間には強
い負の関連があることが分かる。生徒たちを異なる学
校又はプログラムに分ける傾向のあるシステムでは、
生徒たちは概して、そのような傾向のないシステムの
生徒たちよりも、数学を学ぶ道具的動機付けが少なか
った。
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© OECD 2014
PISA in Focus – 2014/05 (May)
IN FOCUS
学校間で生徒たちをグループ分けする様々な方法を
調べると、その調査結果で生徒たちの意欲が低いこと
が示唆されるのは、種類の異なる教育プログラムを多
数学における道具的動機付けと
数学的リテラシーの成績の関係
数提供する学校システム、つまり生徒の大半が、学業
全生徒
成績下位10%の生徒
成績上位10%の生徒
プログラムではなく職業又は前職業プログラムに入っ
ている学校システム、
こうしたプログラムに向けて生
徒たちがより若い年齢のときにグループ分け又は選
別される学校システム、生徒の大半が成績で序列化し
た学校に通学している学校システム、生徒の大半が、
成績の低い生徒、行動に問題のある生徒、又は特別な
学習ニーズのある生徒を別の学校へ転校させる学校
に通学している学校システムである。
例えば、チェコとオランダには、15歳の生徒たちに向
けた特徴的な教育プログラムがそれぞれ六つと七つ
ある。一方、両国の生徒たちは、15歳の生徒たちに向
けた教育プログラムが一つしかないカナダ、イギリ
ス、アメリカの生徒たちよりも、数学における道具的
動機付けのレベルがかなり低い。同様に、オーストリ
ア、チェコ、オランダでは、生徒たちが最初に様々な教
育プログラムへ選別されるのは、それぞれ10歳、11
歳及び12歳である。
これらの国々の生徒たちは、選別
年齢が16歳のアイスランド、ニュージーランド、イギリ
ス、アメリカの生徒たちよりも、数学における道具的
動機付けのレベルがかなり低い。
…そして長期的な影響を受ける可能性がある。
グループ分けによって同質の生徒集団を生み出すこ
とで、教師は授業を各グループの具体的なニーズに
合わせて行うことができるかもしれないが、生徒たち
を選別、分類することは一般に社会経済的格差を助
長する分離の間接的形態として作用し、学習する機会
における差をもたらし、結果として、成功するために平
等の機会を与えられていると感じられない多数の生
徒たちの意欲を失わせることになる。実際に、
こうした
やり方で生徒たちを選別することは、一部の生徒たち
しか高いレベルに到達できないことを意味し、
したが
って、保護者・教師・学校から高い期待を寄せられてい
る場合、その恩恵を最も受けたはずの生徒たちの意
欲を失わせるリスクを冒すことになる。
韓国
台湾
ノルウェー
フィンランド
ポーランド
日本
ポルトガル
アイスランド
デンマーク
香港
ベルギー
カナダ
スウェーデン
オーストラリア
ニュージーランド
スペイン
ギリシャ
カタール
マレーシア
ベトナム
OECD平均
オランダ
エストニア
リトアニア
アメリカ
フランス
ルクセンブルグ
ヨルダン
タイ
チュニジア
スロベニア
ハンガリー
上海
ドイツ
イタリア
ラトビア
アイルランド
チェコ
マカオ
クロアチア
イギリス
アラブ首長国連邦
ロシア
トルコ
チリ
スロバキア
イスラエル
メキシコ
スイス
オーストリア
ブルガリア
セルビア
モンテネグロ
インドネシア
カザフスタン
ペルー
アルゼンチン
コスタリカ
ブラジル
ウルグアイ
アルバニア
シンガポール
コロンビア
リヒテンシュタイン
ルーマニア
-20
-10
0
10
20
30
40
「数学における道具的動機付け」指標による
数学的リテラシーの得点差
注:5%水準で統計学的に有意な差は濃い色で示している。
全生徒における「数学における道具的動機付け」指標による数学の平均得点差
が大きい順に、国・地域名を上から並べている。
出典:OECD, PISA 2012 Database, Table III.3.5e.
12 http://dx.doi.org/10.1787/888932963825
PISA in Focus – 2014/05 (May) © OECD 2014
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IN FOCUS
生徒の意欲と、異なる学校へのグループ分け・選別
「数学における道具的動機付け」
が高い
0.6
ニュージーランド
イギリス
ペルー
コロンビア
アイスランド アメリカ
カザフスタン
カナダ
0.2 デンマーク オーストリア ポルトガル
0.4
「数学における道具的動機付け」
が低い
シンガポール
上海
メキシコ
ベトナム
アルバニア
アイルランド
イスラエル コスタリカ
ブラジル
スウェーデン
アラブ首長国連邦
チュニジア
チリ
ノルウェー
ウルグアイ マレーシア
エストニア
ラトビア
リトアニア
0.0
リヒテンシュタイン
タイ
フィンランド
ドイツ
香港
ロシア
オランダ
スペイン
スイス
マカオ
アルゼンチン
チェコ
ギリシャ
ハンガリー
クロアチア
インドネシア ルクセンブルグ トルコ
-0.2
ヨルダン
フランス カタール 日本 韓国
ブルガリア
イタリア
ポーランド
ベルギー
台湾
モンテネグロ
-0.4
スロベニア
スロバキア
セルビア
オーストリア
R2 = 0.24
-0.6
ルーマニア
-0.8
-1.2
-1.0
-0.8
-0.6
-0.4
-0.2
0.0
0.2
0.4
生徒のグループ分け・選別を
あまり用いない
0.6
0.8
1.0
1.2
1.4
1.6
1.8
2.0
2.2
2.4
生徒のグループ分け・選別を
よく用いる
出典:OECD, PISA 2012 Database, Table IV.2.16.
12 http://dx.doi.org/10.1787/888932957308
結論:生徒のモチベーションは、学校でも、学校以外でも、生徒たちが学ぶ準備
をするために極めて重要である。学校システムは、全員に対して高い期待を寄
せ、包括的な方針と実践を促進することによって、生徒の意欲を高めることが
できる。
本稿に関するお問合せ先
担当:Francesca Borgonovi ([email protected])
出典:OECD (2013), PISA 2012 Results: What Makes Schools Successful? Resources, Policies and Practices (Volume
IV), OECD Publishing, Paris;
OECD (2013), PISA 2012 Results, Ready to Learn: Students’ Engagement, Drive and Self-Beliefs (Volume III),
OECD Publishing, Paris.
参考サイト
www.pisa.oecd.org
www.oecd.org/pisa/infocus
Education Indicators in Focus
Teaching in Focus
次回テーマ:
「就学前教育は、それを最も必要とする者た
ちに届いているか」
本稿の翻訳は、
日本のPISAナショナルセンターが担当しました。
Photo credit: © khoa vu/Flickr/Getty Images © Shutterstock/Kzenon © Simon Jarratt/Corbis
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