安全対策措置における副作用報告の集積状況の検討

安全対策措置における副作用報告の集積状況の検討
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岩佐詠子 、簾貴士 、井澤唯史 、石黒智恵子
1独立行政法人医薬品医療機器総合機構、2厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課
【目的】
厚生労働省から医薬品の製造販売業者に対して添付文書の使用上の注意の改訂が指示された医薬品とその副作用について、改訂根拠となった副作用報告の集
積数を副作用の種類毎に集計し、その傾向を把握する。
【方法】
■対象とした改訂
2012年の1年間に改訂指示通知が発出された医薬品・副作用の組み合わせのうち、添付文書の「重要な基本的注意」の項や「重大な副作用」項に関連記載が
ない状況で改訂されたものを対象とした。
■情報の整理
調査結果概要にて公表されている改訂の概要、改訂の理由や、製造販売業者や医療機関から医薬品医療機器総合機構に報告された副作用報告のデータベース
に蓄積されている情報を参照し、背景情報(医薬品の薬効分類、改訂の根拠の種類)を整理した。また、副作用報告の集積件数として、国内重篤症例の集積
件数を調査した。
■集計方法
背景情報のうち、薬効分類はATC大分類別(WHO)に、改訂の根拠は副作用報告、臨床試験、観察研究等に分類して集計した。また、国内副作用報告の集積
数は、全ての報告及びそのうち医薬品と副作用の因果関係が否定できない報告の集積数について、それぞれ中央値、25%点、及び75%点を副作用の種類
(MedDRA SOC)別に集計した。
【結果及び考察】
■解析対象
2012年の1年間に発出された改訂指示通知は144件であり、そのうち「重要な基本的注意」の項等に関連記載がなかった改訂136件を解析対象とした。
■背景情報の集計
結果を表1に示す。医薬品の薬効分類別では、最も多かったのは全身性の抗感染症薬であり、ついで神経系が多かった。改訂の根拠については、複数の根拠
が組み合わさって改訂に至っている場合があり、重複を含めて全体で148件のうち、131件(84%)が国内副作用報告であった。
■副作用報告の集積数の集計
結果を表2に示す。全体では、中央値7例(25%点2例、75%点12例)であり、そのうち医薬品と副作用の因果関係が否定できない報告は、中央値4例
(25%点1.75例、75%点7例)であった。副作用の種類別では、アナフィラキシーが含まれる「免疫系疾患」や、皮膚粘膜眼症候群、中毒性表皮壊死症等が
含まれる「皮膚および皮下組織障害」においては、因果関係が否定できない報告の集積数の中央値がそれぞれ2件、3件であり、全体の中央値4件より小さい
値であった。これらの副作用のような、背景発現率が低い、発現までの期間が短いといった特徴を有する、因果関係が比較的容易に評価しやすいタイプBの
副作用(Mayboomらの定義)については、比較的少数の集積で改訂に至っていることが示唆された。また、副作用報告以外に改訂の根拠がある場合とない
場合とで、集積数に特に傾向は認められなかった。
※タイプA(医薬品の既知の性質に起因,予測可能,高頻度,用量依存性);タイプB(特異体質的,予測困難,低頻度);タイプC(薬の治療対象となる集団で元々ある程度の頻度で発現する事象であり,薬がそのリスクを高めるタイ
プの副作用。対照群との比較でしか因果関係が特定できない。薬の関与が大きくない場合も多く,個別症例の因果関係判定は困難)Mayboom, RHB., et al . Principles of Signal Detection in
Pharmacovigilance. Drug Safety . 1997, 16(6), p.355‒365.
■本研究の限界
• 改訂の根拠に海外副作用報告が含まれる場合があるが、今回の調査では海外副作用報告の集積数は考慮されていない。
• 今回解析対象とした136件では、国内副作用報告の集積数と、副作用報告以外に改訂の根拠がある場合とない場合との関連について考察できなかった。
【結論】
ほとんどの改訂が副作用報告が根拠であったことから、製造販売業者や医療機関からの副作用報告が、新規の重篤な副作用の特定に重要な役割を果たしてい
ることが示唆された。また、副作用の種類によって国内副作用報告の集積数に違いがあることがわかった。
表1. 背景情報の集計
表2. 副作用の種類別による国内副作用報告の集積数の集計
N
%
全副作用報告
医薬品の薬効分類(ATC大分類)
MedDRA SOC
因果関係が否定できない報告
副作用報告
N
以外の
中央値
25%点
75%点
中央値
25%点
75%点
改訂根拠あり
全身性の抗感染症薬
30
22.1%
神経系
28
20.6%
免疫系障害
18
2.5
0.75
8
2
0
3.5
1
抗悪性腫瘍薬、免疫調節剤
24
17.6%
肝胆道系障害
14
11
5
27.75
6.5
4
15
0
循環器系
14
10.3%
腎および尿路障害
14
7.5
2.75
16
5.5
2.75
11
1
消化管および代謝
13
9.6%
筋骨格系
11
8.1%
皮膚および皮下組織障害
13
4
1
8
3
0
5
0
血液、および血液を生成する器官
3
2.2%
呼吸器、胸郭および縦隔障害
10
7
3.75
14.25
4
1.5
6
1
泌尿生殖器系、性ホルモン
2
1.5%
血液およびリンパ系障害
9
10
3
25.5
6
1
14
0
心臓障害
8
1
0
4.5
0
0
2.75
1
2
1.5%
筋骨格系および結合組織障害
8
5.5
2.25
9.5
5
2.25
7.75
0
胃腸障害
7
13
4
20
3.5
0
11.5
1
感染症および寄生虫症
7
4
2
7
4
2
5
2
代謝および栄養障害
7
7
5
12
4
2.5
7
0
内分泌障害
5
9
3.5
23.5
3.5
2.25
4.75
0
神経系障害
5
15
3
28
4
1.5
14
1
一般・全身障害および投与部位の状態
3
4.5
0
9
4
0
8
1
先天性、家族性および遺伝性障害
2
2.5
0
5
2.5
0
5
2
眼障害
1
36
36
36
23
23
23
1
傷害、中毒および処置合併症
1
6
6
6
全身性のホルモン調節剤、性ホルモン
とインスリンを除く
呼吸器系
2
1.5%
その他
2
1.5%
皮膚
1
0.7%
駆虫性薬剤、殺虫剤、忌避剤
1
0.7%
感覚器系
1
0.7%
漢方
2
1.5%
136
100.0%
計
改訂の根拠(複数該当あり)
副作用報告
.
.
.
1
131
84.0%
臨床試験
6
3.8%
臨床検査
1
10
10
10
4
4
4
0
観察研究
5
3.2%
良性、悪性および詳細不明の新生物(嚢胞およびポリープを含む)
1
8
8
8
0
0
0
1
非臨床試験
3
1.9%
生殖系および乳房障害
1
12
12
12
7
7
7
0
学会提言やガイドライン等
3
1.9%
血管障害
1
1
1
1
1
1
1
0
148
100.0%
136
7
2
12
4
1.75
7
14
計
計