東京オフィスルネサンス:大量供給を迎えるオフィス市場と都市の活性化

東京オフィスルネサンス
リサーチ事業部 | 2016年12月
エグゼクティブサマリー
現状のオフィス賃貸市場と今後の大量
供給の影響に関する分析
低調な賃料上昇のもとで今後の記録的な
オフィスの新規供給は大きな懸念となっている
低調なオフィス賃料上昇の理由
ストック拡大による
テナントの選択肢の
広がり
オフィスストックの
築年経過及び
賃料水準の平準化
オフィス効率の向上
限定的な企業の
設備投資
響
将来供給の影
短期的な
空室率の上昇
長期的に東京の
都市競争力が向上
中期的には賃料に
下落圧力
大量供給は高齢化の進む人口最大
の都市
「東京」
にオフィスルネサンス
をもたらす
2
JLL
目次
序論
4
JLL予測
4
期待を下回る直近の賃料成長
5
低調な賃料成長の理由
6
東京都心部におけるオフィス大規模供給
9
記録的な供給は消化されるのか
11
大規模供給の市場への影響
15
まとめ
15
序論
東京オフィス市場は、第二次世界大戦の終結以来、
1964年の東
京オリンピック、
1970年代の列島改造論、1990年前後のバブル時
代そして2000年代からの東京駅周辺再開発等、数多くの都市再
構築を経験してきた。現在、東京では2020年に開催されるオリン
ピック前後にかけて多くの不動産開発、都市基盤整備が予定さ
れている。
これに伴い大規模なオフィスの新規供給が見込まれて
いるが、
これらの供給はオフィスルネサンスとも呼ぶべき新たな
時代を東京にもたらすであろう。
東京オフィス市場は2016年から2020年までの5年間にA&Bグレー
ド合計で300万㎡に上る新規供給を見る予定である。
さらに2020
年以降においてもいくつかの大規模オフィス計画がすでに予定さ
れている。
これらの新規供給は東京のオフィス市場としての魅力
を大幅に向上させ、
アジアや世界における競争力を高めることに
なるであろう。一方、
日本が直面する経済成長や人口動態の課題
を踏まえると、今後の供給予定オフィスに対してどの程度の需要
が見込めるかという点については懸念も残る。
日本全体の人口は減少を始めたものの、人口の都心集中傾向に
より東京の人口は増加を続けている。人口の集中は、
アベノミク
スの成長戦略においても大きな柱となっている女性就業率の向
上やさらには高齢労働者の増加と相まってオフィススペースに対
する需要を下支えすることが期待される。
また、新規供給を通じ
てテナントサイドの選択肢は広がり、
オフィス移転の動きが活発
化するであろう。
リーマンショックから8年が経過し、
その間にはオフィスワーカー
数が増加するとともに企業のオフィス総占有面積も拡大してき
た。
したがって、近年の賃料上昇期においても堅調なオフィスの
賃料上昇が期待されていた。
しかしながら、現実には都心5区の
いずれのサブマーケットにおいても2006-2007年頃と同程度の空
室率に低下しているにもかかわらず賃料上昇ペースはかなり緩
やかなものとなっている。
本レポートでは、今後における東京オフィス市場の動向と需要を
サポートする要因について分析を加える。
当該分析がオフィスス
トック拡大に伴う課題を解決することを通じてオフィステナント
や投資家の価値創造を後押しするとともに、
グローバルシティ
「東京」
にとって新たな道しるべとなることを期待する。
1. JLL予測
JLLは大規模供給の影響により、東京A&Bグレード※1オフィスビル
の賃料水準は2018年にピークアウトし、
2019年以降は賃料下落サ
イクルへとシフトすることを予測する。
しかし、
その下落幅はリー
マンショックが起きた2008年以降と比較するとかなり緩やかなも
のになると考える。
図表1: 東京A&Bグレードオフィス 賃料・空室率予測
賃料(円/坪/月)
40,000
38,000
9.0%
36,000
※1
JLL のオフィス定義
東京Aグレード
対象エリア
東京主要中心業務地区
(千代田区、
中央区、港区、新宿区、渋谷区)
延床面積
30,000 ㎡以上
5,000 ㎡以上
基準階面積
1,000 ㎡以上
300 ㎡以上
階数
竣工年
新耐震基準
4
東京Bグレード
JLL
20 階以上
8 階以上
1990年 以降
1982年 以降
適合
+1.2%
+2.3% -0.1%
+3.2%
-0.4%
34,000
32,000
8.0%
7.0%
6.0%
30,000
5.0%
28,000
4.0%
26,000
3.0%
24,000
2.0%
22,000
1.0%
20,000
0.0%
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015
2016
2017
2018
2019
2020
“JLLは大規模供給の影響により
東京A&Bグレードオフィスの賃料
水準が2019年以降下落サイクルに
シフトすることを予測”
空室率
10.0%
賃料
(グレードA&B)
出所:Real Estate Intelligence Service (REIS), JLL
空室率
(グレードA&B)
2. 期待を下回る直近の賃料成長
東京Aグレードオフィス市場は2012年以降「上昇サイクル」
にあ
る。特に直近においては市場空室率が極めて低い1%台で推移し
ており、
これはリーマンショック前にみられた市場回復期と同程
度の水準にある。
しかしながら、直近の賃料上昇は2005年から
2007年頃の回復期と比較すると鈍いものとなっている。具体的に
いえば、2006年には東京A&Bグレードオフィスの空室率は1.7%に
あり、賃料は年間19%の上昇を示した一方、2016年第3四半期に
おいては空室率が1.7%で、2006年と同水準まで低下しているもの
の、賃料上昇率に関しては年間4%と低位にとどまっている。
東京オフィスルネサンス 5
3. 低調な賃料上昇の理由
この賃料上昇率の弱さの理由は、多くの事項が関わってい
る。GDP成長率の違いはもとより、継続するリーマンショックの影
響のほか、特に金融セクターにおいて強化された規制などの需
要サイドに関する理由が挙げられる。加えて、供給サイドに関し
ては都心において大型オフィスビルの供給が続き、東京Aグレー
ドオフィスストックが10年前と比較して倍増していることが挙げ
られる。
a.
優良ビルの供給が続いたことによる
選択肢の広がり
供給面においては、東京A&Bグレードオフィスの総ストック量は
直近で1,600万㎡と10年前の同時期と比較して1.4倍の規模となっ
ている。市場空室率をみると、10年前と同水準まで低下している
が、実際の空室面積に目を向けると、
10年前は19万㎡であったの
に対し、現在は28万㎡と空室面積自体が大きく増加している。
テナントからの選好性が高い優良オフィスビルのストックが増加
したことにより、テナント側の選択肢が広がっていること、
また
オーナー側からすると他のビルとの差別化が図りにくくなってい
ることが、直近の期待を下回る賃料成長の一要因となっているも
のと考えられる。
“東京A&Bグレードオフィスの
総ストック量は直近で1,600万㎡と
10年前の同時期と比較して1.4倍の
規模となっている”
図表2: 東京A&Bグレードオフィス 空室面積と年間賃料上昇率
空室面積(千㎡)
1,200
年間賃料上昇率
25.0%
20.0%
1,000
15.0%
10.0%
800
5.0%
0.0%
600
-5.0%
400
-10.0%
-15.0%
200
-20.0%
-25.0%
1Q05
2Q05
3Q05
4Q05
1Q06
2Q06
3Q06
4Q06
1Q07
2Q07
3Q07
4Q07
1Q08
2Q08
3Q08
4Q08
1Q09
2Q09
3Q09
4Q09
1Q10
2Q10
3Q10
4Q10
1Q11
2Q11
3Q11
4Q11
1Q12
2Q12
3Q12
4Q12
1Q13
2Q13
3Q13
4Q13
1Q14
2Q14
3Q14
4Q14
1Q15
2Q15
3Q15
4Q15
1Q16
2Q16
3Q16
0
空室面積
年間賃料上昇率
出所:Real Estate Intelligence Service(REIS)、JLL
6
JLL
b.
ハイグレードオフィスストックの築年
経過及び賃料水準の平準化
図表3: 東京Aグレードオフィス 賃料帯ごとのストック面積推移
(百万㎡)
9
都心部においては築年数が経過したオフィスビルも多く、
これら
のビルについては積極的に賃料水準を上昇させることが難しく
なっている。
8
また、東京Aグレードオフィスを賃料帯別に分類したストックの
推移をみると、直近では1坪当り3万円台のミドルレンジのオフィ
スビルが全体ストックの半数を占める状況にある。
2007年時点で
は、
この賃料帯のビルは14%にとどまっており、一方で1坪当たり5
万円を超えるようなビルがストックの多くを占めるような状況に
あった。
このデータからも都心の優良オフィスビルについて差別
化を図ることが難しくなってきている状況がうかがえる。
5
2005年から2007年頃の賃料高騰現象を牽引したのは、
当時高額
賃料を負担することが可能であった外資系金融機関が中心と
なっていた。
しかし、
この最高レベルの賃料を支払う能力を有す
る需要層を埋め合わせるテナントは、今現在ほとんど見当たらな
いのが実状である。
7
6
40%
38%
4
43%
35%
42%
39%
52%
50%
3
2
37%
0
44%
38%
1
14%
2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016
-30,000
30,000-40,000
40,000-50,000
50,000-
※賃料水準は共益費込の坪当たりの月額賃料を基準とする。
出所:JLL
詳しくは後述するが、今後数年間にわたり大規模なオフィス供給
が予定されており、
この事実はテナント側も予見可能な状況にあ
る。
したがって、現状移転が不可避な場合を除き、
テナント側が
現在様子見の状態になっていることも賃料上昇の加速を阻害し
ている要因となっている。
C.
オフィス効率の向上
2005年から2007年頃における市場回復時には、
オフィス従業員に
与えられる座席は固定型が通常であった。しかし、近年では
オフィスにおけるIT関連技術の進歩に伴い、
フリーアドレス制や
在宅勤務の導入が可能となり、多数の企業がこれらのオフィス利
用効率向上策の導入に取り組んできた。
2008年に4.02坪(13.9㎡)
※2
であった一人当たりのオフィス面積は、
2016年に3.80坪(12.6㎡)
まで縮小している。
“2008年に4.02坪(13.9㎡)
であった
一人当たりのオフィス面積は、
2016
年に3.80坪(12.6㎡)
まで縮小して
いる”
オフィススペース効率とそれに伴うコスト削減は、企業にとって
重要な優先課題となっている。一方で、多くの企業は従業員の生
産性やエンゲージメントの向上、社員の長期雇用実現等も課題
としている。大きなトレンドとしてワークプレイスの強化は継続す
るものの、
ワークスタイルやライフスタイルの変化に伴い、更に柔
軟性が高いオフィス環境が求められることになるであろう。
ワーク
プレイスの大幅なリニューアルは、
より新しく、
効率の高いオフィス
への移転により容易に実現が可能である。
このトレンドが継続す
れば、
テナント移転の動きは活発になるものの、
オフィスに対する
新規需要の増加には直結しない。
2
ザイマックス不動産総合研究所「1人当たりのオフィス面積調査(2016年)」
東京オフィスルネサンス 7
d.
設備投資の減少
アベノミクスが導入された2013年以降、多くの業種にわたる企業
が過去最高益を達成した。
しかしながら、企業の利益ではなく、
売上高の水準に目を移すと、
2015年の売上高は2007年の9割程度
にとどまっている。金融危機以降、多くの企業が経費削減をして
きた影響はいまだにみられており、
2007年頃と比較するとコストセ
ンシティブになっていることがわかる。
さらに設備投資額に目を移すと、直近増加傾向がみられるもの
の、2007年との比較においては8割以下の水準にとどまっている。
企業が生み出した利益を投資家の配当や自社株の取得にあてて
いる反面、設備投資向けの支出がわずかなものでしかないことが
近年の国内企業の傾向として見て取れる。
図表4: 企業売上高、経常利益、設備投資額インデックス
2007 = 100
120
110
100
90
80
70
60
50
40
2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015
売上高
経常利益
設備投資額
出所:財務省「法人企業統計」
8
JLL
4. 東京都心部におけるオフィス大規模供給
2006年から2015年までの10年間における東京Aグレードオフィス
の供給量は年平均で29万㎡となっている。一方、
2016年から2020
年までの5年間では年平均45万㎡と大規模な供給が続く予定と
なっている。
ただし、2016年の新規供給では約90%でテナントが決
定した状態であり、
また2017年も供給が少ないことから、短期的
な賃料水準への影響は限定的であろう。
図表5: 東京Aグレードオフィス供給面積
しかし、2018年から2020年までの供給をみると、
2018年に66万㎡、
2019年および2020年にそれぞれ40万㎡超の供給が予定されてい
る。過去の供給データを見てもこれだけ大きな規模の供給が数
年間にわたった例はなく、
マーケットへの影響はビルオーナーに
とって大きな懸念となっている。
600,000
(㎡)
900,000
800,000
700,000
500,000
400,000
300,000
200,000
0
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015
2016
2017
2018
2019
2020
100,000
出所:JLL
2020年以降の供給を含めた主な大規模プロジェクトは下記のとおりである。
(表1)
渋谷駅周辺開発プロジェクト
(仮称)OH-1計画
所在地
竣工予定
延床面積(㎡)
階層
デベロッパー
渋谷区渋谷/
桜丘町
2018-2027
700,000
B7/47 等
東急電鉄、
JR東日本、
東京メトロ
千代田区
大手町1丁目
2020
357,700
B5/31, B5/39
三井物産、
三井不動産
森ビル
虎ノ門ビジネスタワー、
虎ノ門ヒルズステーションタワー
港区
虎ノ門1丁目
2019
173,000
2022
NA
B3/36
NA
常盤橋街区再開発
プロジェクト タワーA、B
千代田区
大手町2丁目
2021
140,000
B5/37
2027
490,000
B5/61
東京駅前八重洲一丁目
東地区市街地再開発事業
千代田区
八重洲1丁目
2024
228,000
B4/54
三菱地所
東京建物
出所:JLL、各社公表資料
東京オフィスルネサンス 9
“新規供給されるオフィスは
東京のオフィスエリアとしての魅力
を高め、
グローバル企業による
アジア太平洋地域への本社設置
の誘引にもなるであろう”
いずれの計画も地域の需給関係に大きな影響を与えると考えら
れている。
しかしながら、各エリアの競争力を大きく高める要因に
もなることが予想され、
オフィスエリアとしての東京の魅力向上、
また東京の国際的な競争力をも高めるプロジェクトである。
グローバル企業によるアジア太平洋地域への本社設置の誘引に
もなるであろう。
地図1:都心5区新規供給オフィス
新宿区
千代田区
渋谷区
中央区
港区
2016年
2017年
2018年
2019年
2020年
2021 -2025年
2026年以降
出所: MAPIT
10
JLL
5. 記録的な供給は消化されるのか
前述のとおり、
2018年以降の都心部における大規模供給は市場
における大きな懸念となっている。
このセクションにおいては、過
去に大きな供給のあった2001から2005年頃との市場環境の比較
を踏まえ、記録的なオフィス供給に対する需要をサポートする要
因について考察する。
図表6は2001年から5年ごとにAグレード及びBグレード合計のオ
フィス供給量を示したものであるが、
2016年から2020年までの5年
間の供給量は、2001年から2005年の供給量と同程度となってい
る。2003年には大量供給の影響により、東京A&Bグレードオフィス
の空室率は9.5%まで上昇した。
この水準は2000年以降で最も高
い水準となっている。
しかしながら、
その後の景気回復の影響も
あり、2006年には1%台にまで低下している。現在と2000年代初頭
との間で需要ドライバーにはどのような違いがあるのだろうか。
a.
“2016年から2020年においては2.7%
の経済成長が予測されており、経
済成長により順調に需要が喚起さ
れれば230万㎡程度の需要が見込
めるであろう”
経済成長が需要を喚起
図表7の棒グラフは、2001年から2020年までにおける5年ごとの新
規供給量とそれに対するネットアブソープション
(新規需要量)
を
示す。線グラフは各期間末における空室率と5年間のGDP成長率
を示したものとである。
このグラフに基づくと、GDP成長率と新規需要量との間には相関
関係があることがわかる。2001年から2005年においてはGDP成長
率6.1%に対して新規需要は292万㎡、2006年から2010年は1.7%に
対して179万㎡、2011年から2015年は3.2%に対して283万㎡を記録
している。
2016年から2020年においては2.7%の経済成長が予測されており、
経済成長により順調に需要が喚起されれば230万㎡程度の需要
が見込めるであろう。一方、
この新規需要量では新規供給がすべ
て消化されないことから、2020年末における市場空室率は5.5%程
度まで上昇するものと予測される。
ただし、
この空室率の上昇はあくまで大規模な新規供給によりも
たらされるものであり、
2008年のリーマンショック後に起きた景
気後退による需要減退期とは状況が大きく異なることに留意す
るべきである。
したがって、新規供給によって上昇した空室率が
再び低下すれば、市況は再び安定を取り戻すものと考えられる。
図表6: 東京A&Bグレードオフィス供給面積
図表7: 東京A&Bグレード需給と実質GDP成長率
(㎡)
3,500,000
(㎡)
3,500,000
7.0%
3,000,000
3,000,000
6.0%
2,500,000
2,500,000
5.0%
2,000,000
4.0%
1,500,000
3.0%
1,000,000
2.0%
500,000
1.0%
2,000,000
1,500,000
1,000,000
500,000
0
0
2001-2005
2006-2010
2011-2015
2016-2020
*Bグレードオフィスの2019年および2020年における供給量は過去10年平均により
想定
出所:JLL
2001-2005
2006-2010
新規供給
ネットアブソープション
(新規需要量)
2011-2015
2016-2020
0.0%
実質GDP成長率
空室率
出所:JLL、Oxford Economics
東京オフィスルネサンス 11
b.
滅失面積の推移、
自社ビルと
賃貸ビルの割合
オフィスビルは作り続けられているだけではなく、老朽化したビル
の取り壊しが進んでいるのも事実である。下記の図は供給を分析
した際と同様に、5年ごとの都心5区※3における事務所の滅失面積
の推移を示したものである。
当該データに基づくと、近年において
は貸床面積ベースで約100万㎡のオフィススペースが5年間で滅
失していることがわかる。
“入居企業は保有から賃貸へ
シフトしている”
また、
東京都心5区におけるすべてのオフィスの竣工時点別のストック
量を示したのが図表9である。
都心5区のすべてのオフィスストックをみると、貸床面積で約500
万㎡
(全体の12%)
が1960年代以前に竣工したものとなっている。
さらに、1970年代以前のオフィスに視野を広げると約1,140万㎡
(全体の27%)
に及ぶ。
これらは築年数にして40年から50年以上
経過したものとなっている。今後このような築年数が経過したビ
ル取り壊しの動きは加速すると予測され、
100万㎡程度となって
いた5年単位でのオフィスの滅失面積は増加していくと予想され
る。
こういったオフィス取り壊しの動きは、間接的に新規供給に対
する需要をサポートすることになるだろう。
また、2005年に30%超であったAグレードオフィスマーケットにおけ
る自社ビルの割合は、2016年9月末時点で25%程度まで低下して
きており、入居企業は保有から賃貸へシフトしている。
図表8: 東京都心5区 オフィス滅失面積
図表9: 東京都心5区 竣工年代別のオフィスストック
(千㎡)
(㎡)
0
5,004
-500,000
12,103
29%
-1,000,000
12%
6,384
15%
~1969
1970~1979
1980~1989
1990~1999
-1,500,000
9,402
22%
-2,000,000
2006-2010
2011-2015
9,128
22%
2016-2020
出所:三井住友信託銀行推計
出所:東京都のデータに基づきJLL推計 2016年10月
12
JLL
2000~
c.
IT系企業による占有面積の増加
2005年と2015年の業種別のオフィス床面積割合を比較する
と、2005年においてAグレードオフィス全体の16%と3番目に位置し
ていたIT・情報通信業は、2015年末には全体の18%とそのシェアを
伸ばし、最大シェアを誇る金融・保険業に並ぶほどに迫っている。
占有する面積の増加に加え、新宿や渋谷といったエリアに多く立
地していたIT系企業は、今や大手町・丸の内、六本木エリアといっ
たプライムエリアにオフィスを構えるケースも多くみられるように
なった。東京都内における就業者数の数値を見ても、
IT・情報通
信業の就業者はここ5年間で8万人ほど増加しており、業種として
大きく成長してきていることがわかる。
また、
ここ10年間で老朽化
した自社ビル等からの移転が多くみられた商社等もそのシェア
を大きく伸ばしている。
一方で、
10年前に全体の21%を占めた金融・保険業や専門サービ
ス業などの市場における存在感は、直近では影を潜めている。金
融業のシェア減少は主に外資系金融機関からの需要の減退に
起因するものと考えられる。実際に、2005年に金融機関が占有す
る床面積のうち外資系金融機関は50%を占めていたが、2015年に
おいては30%にまで減少している。
図表10: 東京Aグレードオフィス 業種ごとの占有面積シェア
0%
2005
2015
20%
21%
18%
40%
16%
18%
60%
20%
17%
80%
100%
12% 5% 11%
16%
12% 9% 8%
17%
金融業,保険業
卸売業,小売業,商社
IT,情報通信業
不動産業,建設業
専門サービス業
製造業
その他
出所:JLL
東京オフィスルネサンス 13
d.
人口の都心集中
国勢調査の結果によると、金融危機の影響もあって2005年から
2010年にかけて都心5区におけるオフィスワーカー数は2%減少し
ている。2015年の確定値はいまだ公表されていないものの、東京
都による予測に基づくと、
2010年から2015年にかけては3%増加す
る見込みとなっている。特筆すべきは女性のオフィスワーカーの
増加であり、
2015年までの5年間で5%の増加となっている。
2015年から2020年にかけてはおおむね横ばいで推移する予測と
なっており、
その後はオフィスワーカー数が減少することが予測
されている。
一方、
ここ数年人口は東京圏への一極集中が顕著に進んでい
る。2015年実施の国勢調査の結果によると、
日本全体の人口が減
少したのに対し、東京都の人口は1,351万人と5年間で2.7%増加し
ている。国立社会保障・人口問題研究所が2013年に実施した人
口予測においては、2015年時点の東京都の人口は1,335万人と
なっており、
約16万人も上振れしていることがわかる。
同様にオフィス
ワーカー数も予測数値から上振れする可能性は十分にある。
“金融危機の影響もあって2005年
から2010年にかけて都心5区にお
けるオフィスワーカー数は2%減少”
日本国内における女性の就業率は世界的に見ていまだ非常に低
い水準にあり、女性の社会進出を推進することはアベノミクスの
成長戦略においても大きな柱となっている。実現に向けては、保
育施設の受入拡大、保育士や介護士の労働環境の改善や、所得
税の扶養控除見直し等、共働き世帯をサポートする様々な改革
が必要であるものの、女性就業率の向上が政策通りに進めばオ
フィスワーカー数の増加にも寄与することとなる。
2016年7月の東
京都知事選によって選出された初の女性都知事、小池百合子氏
による女性の立場から打ち出される改革にも期待が集まるとこ
ろである。
また、経験豊富な高齢者の雇用増加もオフィス需要に
対してポジティブな影響をもたらすであろう。
図表11: 都心5区 オフィスワーカー数
図表12: 東京都の人口(推計人口 vs 実際の人口)
オフィスワーカー数(千人)
(百万人)
1,850
男女別オフィスワーカー数(千人)
1,200
3% 増加
1,800
1,100
1,750
5% 増加
800
700
2000
2005
2010
オフィスワーカー数(全体)
出所:総務省統計局、東京都
14
JLL
13.5
1,000
900
1,700
14.0
600
2015
2020
オフィスワーカー数(女性)
オフィスワーカー数(男性)
13.0
12.5
12.0
2000
2005
2010
2015
将来推計人口
(2013年時点)
2020
2025
実際の人口
出所:総務省統計局、国立社会保障・人口問題研究所
2030
6. 大規模供給の市場への影響
JLLは、2016年から2020年までに新たに供給されるオフィスによっ
て東京A&Bグレードオフィスの空室率が押し上げられ、賃料水準
は2019年頃から下落傾向にシフトすることを予測する。
ただし、
こ
れらはあくまで大規模供給による一時的な市場調整とみるべき
であり、2008年の金融危機のようなマーケットクラッシュによる賃
料の下落と同じ目線で比較するべきではない。
“長期的にみると、東京オフィス市
場はこれらの供給により、
良好な
資金調達環境下で投資機会を
求めるより多くの投資家の注目を
集めることになるであろう”
一方、
これらの新規供給はストックの増加を通じて投資家の選
択肢を広げることになるであろう。現在オフィス投資市場におい
ては供給が限定的な状況が続いており、特に東京都内における
市場供給は少ない。多くの投資家は投資機会を確保するために
物流施設や住宅といった他のセクター、
また地方圏の物件に視
野を広げている。長期的にみると、東京オフィス市場はこれらの
供給により、
良好な資金調達環境下で投資機会を求めるより多
くの投資家の注目を集めることになるであろう。
柔軟性の高いオフィススペースの実現には、
デベロッパーによる
開発段階での設備に関する工夫等の対策が必要となる。具体的
には、共用カフェ
(ミーティングスペース)、一時利用等にこたえる
ためのシェアオフィス、共用執務スペース、保育施設、医療施設、
ジムやシャワールーム等の付帯設備に関する需要は高まるであ
ろう。
また、
テナントによっては、
オフィスの引き渡しに際して標準
装備設備(天井、床材、照明等)
を必要としない場合もあるため、
デベロッパーはオフィスの引き渡し条件も考慮するべきである。
まとめ
前述のとおり、
2019年以降における新規賃料の下落を予測する
ものの、新規供給はテナントサイドに移転に際しての選択肢の広
がりをもたらすこととなる。新たな供給は潜在的な需要を喚起す
るとともに、
既存のAグレードオフィスから新規供給されるAグレード
オフィスへの移転、
さらには賃料水準の下落を通じて、
Bグレード
や都心5区外から都心への移転需要を喚起することにより、
オフィス
需要のアップグレードに寄与するであろう。
また、
2030年頃までに計画されている大型オフィスの供給計画
は、東京のオフィス市場としての魅力を高めると考えられる。
さら
に法人減税などの政策を推し進めることにより、他のアジア主要
都市に対する競争力が高まり、
グローバル企業のアジアヘッドク
オーター誘致も推進されるであろう。
日本政府としても国家戦略
特区として指定されている計画を推し進めることにより、世界に
おける東京の存在感を高めることを目指している。
またオフィス
著者
赤城 威志
リサーチ事業部長
03 5501 9235
[email protected]
が新規供給されることによる環境性能の向上や、
オリンピック・パ
ラリンピックに向けた新交通機関をはじめとするインフラ整備も
東京の都市力を向上させることになる。
大方の予想を覆す米国大統領選挙の結果は、
日本市場にも短
期的な不確実性をもたらした。
しかしながら、
ドナルド・トランプ
氏の政策については、
いまだ不確定な部分が多い。減税、規制緩
和、
インフラ支出等に重点を置き、米国経済を押し上げることで、
日本経済にも好影響をもたらすであろう。
長期的な視点に立つと、
オフィスの新規供給は世界的なオフィス
市場東京としての魅力を大幅に向上させ、長期に渡り、
グローバ
ル投資家からの選好性の高さは維持されることが予測される。
そ
の結果、
オフィスの供給は高齢化が進む人口最大の都市「東京」
にオフィスルネサンスをもたらすであろう。
伊藤 翔
リサーチ事業部 マネージャー
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東京オフィスルネサンス 15
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