セラビジョン DM96 の使用経験と ATL 判定基準の検討

セラビジョン DM96 の使用経験と ATL 判定基準の検討
◎牟田 正一 1)
独立行政法人 国立病院機構 別府医療センター 1)
【はじめに】セラビジョン DM96 は血液塗抹標本の白血球分類,6 種類の赤血球形態の解析を行う自動分析
装置で臨床検査技師の確認を要するが,業務の効率化に有効である.また,研究や教育用にデジタルスライ
ドを作成し応用することも可能である.
【当院での使用経験】当院の CBC 検体数は 600~700/日で目視率は約 30%で 1 日平均 200 枚程度の目視を行
っていた.DM96 導入後は目視基準を検討し目視率を 20~25%に抑えた.血液内科,小児科,血液分析装置
の blast,lypho 系フラグは目視分類を行い,その他の標本は DM96 で分類するようにしたことで,作業効率が
改善し骨髄検査などへ業務比率を増やすことが可能となった.また,鑑別を要する細胞の判定を複数で行え
るなど技師間差是正や新人教育に有用である.特に破砕赤血球なの判定には出現率が正確に算出され臨床的
意義が高い報告が可能となった.
【ATL細胞の判定基準の検討】末梢血の ATL 細胞量は,ATL の病型分類及び治療効果の評価に重要な指
標であるが,ATL 細胞の判定に関しては十分なエビデンスに基づいた判定基準が存在しないため,境界域の
腫瘍細胞にみられる異型性の判定は困難なことがあり正確性に限界がある.従って ATL 細胞における異型性
の判定基準を設定することは細胞診断による病型分類及び治療効果判定に極めて有効と考えられる.
【対象・方法】2013 年 10 月から 2014 年 4 月までの血液内科の ATL 患者でキャリア 8 例,くすぶり型 8 例,
慢性型 5 例,リンパ腫 9 型,急性型 6 例と診断された 36 例の末梢血を対象に FCM 法と目視法で ATL 細胞の
検出を実施した.FCM 法では PC5 標識 CD3, FITC 標識 CCR4 抗体,PE 標識 CD25 抗体を用いて染色を施
行後,リンパ球領域をゲーティングし CD3+CCR4+CD25+を ATL 細胞領域として検出した.陰性コントロー
ルにはそれぞれの抗体と同じアイソタイプのマウス免疫グロブリンを用いて,CCR4 陽性 CD25 陰性領域,
CCR4 陰性 CD25 陽性領域へのドットの取り込みが,できるだけ 1%未満となるように設定した.FCM 法は
EPICS XL,解析ソフトは system II software を用いた.目視法では末梢血塗抹標本を日臨技勧告法(1996)に準
じて作製後メイグリュンワルドギムザ染色を施行した.ATL 細胞の判定は下山らや魚住の報告を元に核異型
を伴ったリンパ球を ATL 細胞(キャリアの HTLV-1 感染細胞を含む)とし骨髄認定技師が白血球分類 200 カ
ウントを行い全リンパ球中の ATL 細胞の比率を算出した.細胞写真撮影にはセラビジョン DM96 を使用し,
細胞判定基準は目視法に準じた.本装置は各症例が同じ条件で撮影され,核クロマチン濃度測定においても
同一条件の細胞写真から比較検討が行えるなど客観性が保てた.FCM 法と目視法による ATL 細胞の検出率
を評価して ATL 細胞の判定基準の設定を行った.統計学的解析には Wilcoxon 符号順位検定を用いた.
【結果】FCM 法と目視法による ATL 細胞の検出率を評価後,ATL 細胞の境界域の判定基準を設定した.そ
の判定基準に基づいた目視法と FCM 法の ATL 細胞検出率の相関は相関係数 r=0.9426 と有意な相関(p<
0.01)が認められた.病型別細胞判定基準の顕微鏡写真を提示する.
【結論】一部の非定型な症例を除き急性型は花弁細胞など異型性が強く判定はさほど困難ではないが,キャ
リア,くすぶり型,慢性型,リンパ腫型に出現する小型の ATL 細胞(10μm 前後)では境界域が不明瞭な細胞
が出現するため以下の 1~3 に注視する.1.核形不整:切れ込み,捻じれ,核膜不整.2.クロマチン濃度:
正常と比べると増量(濃染)している(画像解析ソフトを利用した有意差検定(p<0.001).3.N/C 比,merge(核
と細胞質の接する部分)が大きい.日常業務である目視法による正確な ATL 細胞の検出は病型分類及び治療
効果判定に重要であり臨床的意義が高いと考えられる.