課題も残る (PDF/288KB)

マーケット・フォーカス
2016/
経済:日本
11/14
投資情報部
シニアエコノミスト
宮川 憲央
7-9月期GDPは外需主導の高成長だが、課題も残る
 7-9月の実質GDP(1次速報値)は前期比年率+2.2%となり、事前の市場予想を大幅に上回る
結果となった。内容をみると、輸出の増加が高成長をけん引している。
 一方、個人消費や設備投資といった国内需要の低迷、物価上昇の伸び悩みといった課題は
依然として残っている。
 今後の日本経済は企業収益の持ち直し、雇用環境の改善、経済対策による下支え等から回
復に向けた動きが続くとみられる。もっとも、需要面での明確なけん引役が不在という状況に
変わりはなく、そのペースは緩やかなものにとどまる可能性が高い。
外需主導で7-9月期
のGDPは高成長
7-9月の実質GDP(1次速報値)は前期比年率+2.2%(前期比+0.5%)となり、事前の
市場予想(ブルームバーグの集計では前期比年率+0.8%)を大幅に上回る結果と
なった。また、前年同期比では+0.9%となった。
需要項目別の動きは次ページ表の通りであるが、主な動きをみると、輸出が前期
比+2.0%となり、純輸出(輸出-輸入)のGDPに対する寄与度は同+0.5%と7-9月期の
GDPを大きく押し上げた。一方で、国内需要は同+0.1%とほぼ横ばいにとどまった。
内需の内訳をみると、金利の低下等を支えに住宅投資が同+2.3%と堅調に推移した
ものの、個人消費(同+0.1%)や設備投資(同0.0%)は伸び悩んだ。個人消費につい
ては、家計の購買力の尺度となる雇用者報酬が同+0.7%となったことに比べると伸び
は鈍い。天候不順等が影響したとみられるものの、消費者の節約志向が根強く残っ
ている可能性には留意が必要であろう。
名目GDPは前期比年率+0.8%(前期比+0.2%)となり実質GDPの伸びを下回った。
GDPデフレーターは前期比▲0.3%となり、前年同期比では▲0.1%と11四半期ぶりの
マイナスとなった。大幅な円高や原油安による一時的な影響があるため、デフレの
再燃とまではいかないにせよ、消費低迷や賃金の伸び悩みが続くなか、物価上昇
の勢いは依然として限定的なものにとどまっている。
なお、円高基調が続く一方で、原油安に歯止めが掛かっているため、交易条件
(輸出デフレーター/輸入デフレーター)の改善によって国内の所得が押し上げられ
る動きは一服した。実質国内総所得(GDI)は前期比+0.4%、実質国民総所得(GNI)
は同+0.3%と、ともに実質GDPの伸びを下回っている。
この資料は投資判断の参考となる情報提供を目的としたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。銘柄の選択、投資に関する
最終決定はご自身の判断でお願いいたします。また、本資料は信頼できると思われる情報に基づいて作成したものですが、その正確性、完全
性を保証したものではありません。本資料に示された意見や予測は、資料作成時点での当社の見通しであり今後予告なしに当社の判断で随
時変更することがあります。最終ページに金融商品取引法に係る重要事項を掲載していますのでご覧ください。
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マーケット・フォーカス
実質GDPの推移(前期比年率、寄与度)
(四半期:2012/3~2016/9)
(%)
10
5
0
▲5
▲ 10
純輸出
民間在庫
民間企業設備
実質GDP
▲ 15
公的需要
民間住宅
民間最終消費
▲ 20
12
13
14
15
16
(年)
出所:内閣府「四半期別GDP速報」のデータよりみずほ証券作成
実質GDPの推移
2015年度
7-9月
10-12月
名目GDP
0.8
▲ 0.3
実質GDP
0.4
▲ 0.4
(前期比年率)
1.6
▲ 1.6
*国内需要
0.4
▲ 0.5
*民間需要
0.4
▲ 0.5
民間最終消費支出
0.5
▲ 0.8
民間住宅
1.2
▲ 0.4
民間企業設備
0.8
1.2
*民間在庫品増加
▲ 0.0
▲ 0.1
*公的需要
▲ 0.0
▲ 0.0
政府最終消費支出
0.3
0.6
公的固定資本形成
▲ 1.2
▲ 3.4
*公的在庫品増加
▲ 0.0
0.0
*財貨・サービスの純輸出
▲ 0.0
0.1
財貨・サービスの輸出
2.6
▲ 1.0
財貨・サービスの輸入
2.4
▲ 1.2
GDPデフレーター
1.7
1.5
(注) *の項目は前期比寄与度。GDPデフレーターは前年同期比
出所:内閣府「四半期別GDP速報」のデータよりみずほ証券作成
内需低迷や 物価の
伸び悩みといった課
題は残る
1-3月
▲
▲
▲
▲
0.8
0.5
2.1
0.4
0.2
0.7
0.3
0.7
0.1
0.2
0.9
0.0
0.0
0.1
0.1
0.6
0.9
(前期比:%)
2016年度
4-6月
7-9月
0.1
0.2
0.2
0.5
0.7
2.2
0.3
0.1
0.3
0.0
0.1
0.1
5.0
2.3
▲ 0.1
0.0
0.1
▲ 0.1
0.0
0.0
▲ 0.3
0.4
2.3
▲ 0.7
▲ 0.0
▲ 0.0
▲ 0.2
0.5
▲ 1.5
2.0
▲ 0.6
▲ 0.6
0.7
▲ 0.1
以上のように、7-9月期の実質GDPは市場予想を大幅に上回る結果となった。ま
た、成長の巡航速度ともいうべき潜在成長率が0%台前半にとどまっているとみられる
ことからすれば、高成長といってよいだろう。もっとも、内容としては輸出に依存する
ところが大きく、国内需要の伸び悩みや物価上昇の勢いを欠いているという課題は
依然として残されている。海外需要に関しても、トランプ次期大統領の政策による成
長期待がある一方で、実現性には不透明な点が残る。また、中国経済の減速のほ
か、企業の現地生産・調達の進展といった構造的な要因をふまえると、輸出の勢い
が今後も続くかどうかついては慎重にみておきたい。
この資料は投資判断の参考となる情報提供を目的としたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。銘柄の選択、投資に関する
最終決定はご自身の判断でお願いいたします。また、本資料は信頼できると思われる情報に基づいて作成したものですが、その正確性、完全
性を保証したものではありません。本資料に示された意見や予測は、資料作成時点での当社の見通しであり今後予告なしに当社の判断で随
時変更することがあります。最終ページに金融商品取引法に係る重要事項を掲載していますのでご覧ください。
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マーケット・フォーカス
今後について考えると、円高に歯止めが掛かったことで企業収益が持ち直してい
くとみられるほか、人手不足を背景に雇用環境の改善が続いていること等から、日
本経済は方向性としては回復が続くと考えている。とくに、2016年度後半以降は経
済対策の効果が日本経済を短期的に押し上げていくとみられる。
ただし、需要面で明確なけん引役が不在という状況には変わりがなく、持ち直しの
ペースは引き続き緩やかなものにとどまる可能性が高い。日本経済の問題点は人
口減少や少子高齢化、生産性上昇率の低迷、新興国の台頭にともなう競争の激
化、財政や社会保障制度の持続性への不安、そしてこうしたもとでの企業や家計の
成長期待の低下にあるとみている。こうした先行きへの慎重姿勢が存在するため、
企業収益は高水準でも設備投資や賃金(とくに基本給)の伸びにつながらず、消費
者も支出に対して慎重な姿勢を崩していないと考えている。
このため、日本経済の成長力を高め、民需主導の持続的な経済成長を実現する
ためには、人口減少対策のほか、財政・社会保障制度改革、そして企業の事業構
造の転換、潜在的に需要が期待される分野への新規参入や経営資源のシフト、イ
ノベーション等を促すための成長戦略(規制改革や労働市場改革等)の着実な実
行が不可欠と考えている。財政・金融政策で下支えをしている間に、成長戦略の実
現に結びつけていけるかどうかが、中長期的な日本経済の動向を占ううえで重要で
あろう。
日本の名目GDPの推移
(四半期:1980/3~2016/9)
(兆円)
550
500
450
400
350
300
250
200
80
82
84
86
88
90
92
94
96
98
00
02
04
06
08
10
12
14
16(年)
(注) 93年10-12月期までは平成17年基準による簡易遡及系列
出所:内閣府のデータよりみずほ証券作成
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2016/11/14
金融商品取引法に係る重要事項
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