第8章 国等に対する特例 第8章 国等に対する特例 第1節 概説 消費税は消費行為に着目し、消費に税負担を求めるという理念に基づき、具体的には、事業者が行った物又はサービス という取引に対して課税されるものであることから、その取引が課税取引に該当する限り原則として、誰がその行為(取 引)を行ったかに関わりなく、課税の対象となる。 このため、国等であっても普通の営利企業と同様に、その行う資産の譲渡等は課税の対象となり、仕入税額控除等に関 する消費税の仕組みも基本的にはそのまま適用される。 しかし、国等についてはその特殊性に鑑み、いくつかの特例規定が設けられている。具体的には、国若しくは地方公共 団体、法別表第三に掲げる法人又は人格のない社団等については、主なものとして以下の1から5に掲げる特例規定が設 けられている(法60、令72~78)。 1 事業単位の特例 国若しくは地方公共団体の一般会計に係る業務として行う事業又は特別会計を設けて行う事業については、個々の 会計ごとに一の法人が行う事業とみなされる(法60①)。 例えば、地方公共団体が行う水道事業、交通事業、病院事業、公共下水道事業などの事業がこれに当たる(令72②)。 【参考通達】 基通16-1-2 2 資産の譲渡等の時期の特例 国若しくは地方公共団体又はこれに準ずる法人の資産の譲渡等及び課税仕入れ等の時期については、その会計年度 の末日に行われたものとすることができる(法60②③)。 3 仕入税額控除の特例 国若しくは地方公共団体の特別会計を設けて行う事業、法別表第三に掲げる法人又は人格のない社団等にあっては、 課税標準額に対する消費税額から控除することができる課税仕入れ等の税額については、通常の方法で計算した課税 仕入れ等の税額から、特定収入に係る課税仕入れ等の税額を控除する(法60④⑤)。 4 一般会計の特例 国又は地方公共団体の一般会計に係る業務として行う事業にあっては、課税標準額に対する消費税額から控除する ことができる消費税額はその課税標準額に対する消費税額と同額とみなす旨を規定し(法60⑥)、納付すべき税額を 生じさせないよう規定上手当てをした上で、国又は地方公共団体の一般会計に係る業務として行う事業については、 確定申告書の提出等の義務を課さない旨規定している(法60⑦)。 -64- 第8章 国等に対する特例 5 申告期限の特例 国等は決算期限等が法令等によって定められているため、原則的な申告期限までに申告書を提出することが困難で あることから、申告期限の特例が設けられている(法60⑧、令76①②)。 第2節 仕入税額控除の特例 消費税の納税額は、その課税期間中の課税売上げに係る消費税額からその課税期間中の課税仕入れ等に係る消費税額 (仕入控除税額)を控除して計算する。 しかしながら、国等の仕入控除税額の計算においては、一般の事業者とは異なり、補助金、会費、寄附金等の対価性の ない収入を「特定収入」として、これにより賄われる課税仕入れ等の消費税額を仕入控除税額から控除する調整が必要と されている(法60④)。 これは、仕入税額控除が税の累積排除のためのものであることから、特定収入を原資とする課税仕入れ等の税額を課税 売上げに係る消費税の額から控除することには合理性がないことによる。 学習のポイント 1 特定収入の意義 2 特定収入がある場合の仕入控除税額の調整 1 特定収入の意義 特定収入とは、資産の譲渡等の対価以外の収入で、次のようなもの以外の収入であり、例えば、租税、補助金、交 付金、寄付金、出資に係る配当金、保険金及び損害賠償金等が特定収入に当たる(法60④、令75①)。 【参考通達】 基通16-2-1 ⑴ 借入金及び債券の発行に係る収入で、法令によりその返済又は償還のため補助金、負担金等の交付を受けるこ とが規定されているもの以外のもの ⑵ 出資金 ⑶ 預金、貯金及び預り金 ⑷ 貸付回収金 ⑸ 返還金及び還付金 ⑹ 次に掲げる収入 イ 法令又は交付要綱等において、特定支出のためにのみ使用することとされている収入 例えば、人件費補助金、利子補給金、土地の購入のための補助金等がこれに当たる。 ロ 国等が合理的な方法により資産の譲渡等の対価以外の収入の使途を明らかにした文書において、特定支出の ためにのみ使用することとされている収入 -65- 第8章 国等に対する特例 【特定収入の意義】 課税売上げ 資産の譲渡等の対価の額 非課税売上げ 不 課 税 収 収 入 入 ( 対 価 性 の な い 収 入 ) 特定収入に該当しない収入(令75①一~五) 一 通常の借入金等 二 出資金 三 預金、貯金、預り金 四 貸付回収金 五 返還金、還付金 例示(基通16-2-1) 特定支出のみに使用することと ⑴ 租税 されている収入(令75①六イ、ロ) ⑵ 補助金 ⑶ 交付金 ⑷ 寄附金 ⑸ 出資に対する配当金 ⑹ 保険金 ⑺ 損害賠償金 特定収入 ⑻ 資産の譲渡等の対価に 該当しない負担金、他会計 繰入金、会費、喜捨金等 非特定収入 非特定収入 課税仕入れ等に係る特定収入 使途不特定の特定収入 特定支出: ①課税仕入れ、②課税貨物、③通常の借入金等の返還・償還金(令75①六イ⑴~⑶)以外の支出で、 例えば、人件費、利子、土地購入などの支出がこれに当たる。 2 特定収入がある場合の仕入控除税額の調整 国等が簡易課税制度を適用せず、本則課税により仕入控除税額を計算する場合で、特定収入割合 (注)が5%を超え るときは、一定の方法によって計算した特定収入に係る課税仕入れ等の消費税額を通常の計算方法によって算出した 仕入控除税額から控除した残額をその課税期間の仕入控除税額とする調整が必要である。 ただし、国等が簡易課税制度を適用している場合又は特定収入割合(注)が5%以下である場合には、この仕入控除 税額の調整をする必要はなく、通常の計算方法によって算出した仕入控除税額の全額をその課税期間の仕入控除税額 とする。 (注)特定収入割合は、その課税期間中の特定収入の合計額をその課税期間中の税抜課税売上額、免税売上額、非課税 売上額及び特定収入の合計額の総合計額で除して計算する(法60④、令75③)。 〔算式〕 特定収入の額 特定収入割合= 資産の譲渡等の対価の額+特定収入の額 -66-
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