顧問先の不正資金流出めぐり 税理士法人に損害賠償命じる

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不正な財務会計書類を作成した点に義務違反
顧問先の不正資金流出めぐり
税理士法人に損害賠償命じる
顧問先法人で発生した不正な資金流出をめぐり、顧問先法人が税理士法人に対し損害賠償
を請求していた事件で、税理士法人が一部逆転敗訴する控訴審判決が下されていたことが明
らかとなった(平成 28 年 9 月 14 日判決)
。東京高裁は、不正な財務会計書類を作成した税理
士法人に顧問契約上の義務違反があったと認めたうえで、顧問先法人から A 社への資金流出
に一部因果関係があったという判断を示す一方で、不正な資金流出に関する損害が発生した
最大の要因は顧問先法人側にあったなどと指摘。損害額(約 1,528 万円)の 8 割を過失相殺
した後の金額(約 305 万円)から未払報酬の残額(約 240 万円)を差し引いた約 65 万円につ
いて、税理士法人に対し損害賠償を命じた。
地裁判決、仮払金の相殺処理に関し義務違反を認定も損害賠償請求は認めず
本件は、税理士法人から記帳代行及び決算
この会計処理などに対し顧問先法人は、税
業務に関する未払報酬の請求を受けた顧問先
理士法人は顧問先法人に対し適正な財務書類
法人が税理士法人に対して、税理士法人は顧
等を作成する義務があったにもかかわらず、
問先法人から A 社への不正資金流出を見逃
仮払金と未払金を相殺処理するなどした不正
し、財務書類の作成について適正な処理をせ
な財務書類等を作成したなどと主張し、税理
ずにその隠ぺいに加担したなどと主張して、
士法人に対し損害賠償を請求する訴訟を提起
資金流出により回収不能となった金額などの
していた。
損害賠償を請求していた事件である。
義務違反と不正資金流出に因果関係なし
本件で顧問先法人が問題視した税理士法人
これに対し東京地裁は、税理士法人が税務
の会計処理の 1 つは、A 社に対する未払金が
及び会計に関する顧問契約を遂行するに当た
存在しないにもかかわらず、この未払金が
り、税務の専門家として記帳代行や決算申告
あったものとして A 社に対する仮払金と同額
書の記載内容は法律上適法なものであること
分の未払金を年度末に相殺処理した後に、次
が要請されていると指摘。税理士法人が業務
年度の期首にその仮払金及び未払金を復活さ
を行う際に得た情報と異なる財務書類等を作
せるというもの。これは、一般社団法人であ
成することは許されないため、税理士法人は
る顧問先法人の担当者(財務局長)による
適正な財務書類等を作成する義務があるとい
「仮払金(A 社に対するもの)の金額を縮小
う判断を示した。そして義務違反に関し東京
したい」という提案に対して、税理士法人の
地裁は、A 社に対する未払金がないにもかか
担当職員が考え実行したものだ。
わらずこれがあるものとして A 社に対する仮
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No.664 2016.10.24
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払金と相殺処理した点について、税理士法人
の間に因果関係があるとはいえないと判断。
に義務違反があったと認めたものの、その義
顧問先法人の請求を斥ける判決を下していた
務違反と顧問先法人から A 社への資金流出と
(本誌 643 号 14 頁参照)。
高裁判決、税理士法人の賠償責任を認めるも損害額から 8 割の過失相殺
一審判決で敗訴した顧問先法人は、控訴を
握する機会を逸し、その後の資金流出を防止
提起。顧問先法人は、数千万円に上る多額の
することができなくなったなどと指摘。
使途不明金が仮払金として計上されていれ
この点などを踏まえ高裁は、税理士法人の
ば、顧問先法人の総会及び理事会で適正な財
担当職員は決算書類検査報告書が顧問先法人
務のチェックがされ、資金流出が食い止めら
の総会に配布され、しかも税理士法人による
れた可能性が極めて高いなどと指摘。税理士
その内容の適正さを表明する書類がそのなか
法人の義務違反と顧問先法人から A 社への資
に含まれていることを認識していたため、少
金流出との間には因果関係があると主張した。
なくとも総会開催日現在の流出額とその約 1
これに対し東京高裁は、税理士法人の担当
か月後の流出額の差額である約 1,528 万円
職員は顧問先法人の担当者が使途不明の仮払
は税理士法人の義務違反と相当因果関係を有
金の金額を偽るという明確な粉飾の意図を有
するという判断を示した。
していることを知りながらこれに応えて会計
一方で高裁は、相殺処理を考え出したのは
年度末に仮払金をいったん消滅させ、翌年度
税理士法人であるとしても、仮払金の金額を
にこれを復活させるという事実に反する相殺
縮小するという提案は顧問先法人の担当者に
処理を実行した点などを踏まえ、税理士法人
よりされたものである点や顧問先法人の担当
には義務違反があったと判断した。
者(財務局長)に対する監督が不十分であっ
そして税理士法人の義務違反と資金流出と
たことが損害発生の最大の要因と評価すべき
の因果関係について高裁は、不正な財務会計
と指摘し、8 割の過失相殺をするのが相当と
書類が反映された決算書類検査報告書(税理
判断。過失相殺後の金額(約 305 万円)か
士法人が作成したもの)が顧問先法人の総会
ら未払報酬の残額(約 240 万円)を差し引
に提出されたことにより、顧問先法人が A 社
いた約 65 万円について、税理士法人に対し
に資金が不正に流出していることの兆候を把
損害賠償を命じた。
税務上問題がなくても、不正な会計処理は許されず
裁判のなかで税理士法人は、仮払金と未払金の相殺処理は税務処理上問題がないことを理由に、
義務違反はないという主張を展開していた。これに対し高裁は、税理士法人が職務を遂行するに
当たって得た財務会計上の各種情報を正確に反映しない書類作成等の事務処理を、それと知りな
がらすることまで容認される理由はなく、そのような不正な粉飾処理をしないことも本件顧問契
約上の委任業務に含まれると指摘。税務処理上問題がないからといって、事実と異なる処理をそれ
と知りながらすることまで容認される理由はないとしたうえで、税理士法人の主張を斥けている。
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No.664 2016.10.24
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