微分積分学および演習Ⅱ 参考資料

微分積分学および演習Ⅱ 参考資料 1
2016 年度後期
工学部・未来科学部 1 年
担当: 原 隆 (未来科学部数学系列・助教)
■全微分可能性と偏微分可能性 定義 (全微分可能性)
2 変 数 関 数 f (x, y) が 点 (x0 , y0 ) で 全微分可能 totally differentiable で あ る と は 、あ る
実 数 定 数 A 及 び B が 存 在 し て 、誤 差 関 数 ε(∆x, ∆y) = ∆f − (A∆x + B∆y) が
ε(∆x, ∆y)
√
=0
(∆x,∆y)→(0,0)
(∆x)2 + (∆y)2
を 満 た す こ と と す る (つ ま り 、誤 差 ε(∆x, ∆y) は
lim
“(x0 + ∆x, y0 + ∆y) が (x0 , y0 ) に近づくスピードよりも 速く 小さくなってゆく”)。
このとき
df |(x0 ,y0 ) = A dx + B dy
と表し、f の (点 (x0 , y0 ) での) 全微分 total derivation
と呼ぶ。
※ ∆f は点 (x0 , y0 ) での関数 f の増分、即ち ∆f = f (x0 + ∆x, y0 + ∆y) − f (x0 , y0 ) を表す
言い換えると、
babababababababababababababababababab
点 (x0 , y0 ) の非常に近くでは (つまり ∆x, ∆y が 非常に小さければ)、関数の増分 ∆f が
∆x と ∆y に関する 1 次式
∆f ≈ A∆x + B∆y
で 非常に良い精度で 近似出来る (!!!)
(この近似を 1 次近似 と呼ぶ)
関数 f が点 (x0 , y0 ) で全微分可能であるならば、上記の定義で登場した ∆x, ∆y の係数 A, B は
偏微分係数 を用いて表される。
命題
2 変数関数 f (x, y) が点 (x0 , y0 ) に於いて 全微分可能 ならば、f は (x0 , y0 ) で (x でも
y でも) 偏微分可能で、その (x0 , y0 ) での全微分は df |(x0 ,y0 ) = fx (x0 , y0 )dx + fy (x0 , y0 )dy で
与えられる*1 。
【証明】ここでは f が x で偏微分可能であることと、A = fx (x0 , y0 ) となることのみを示す。 y で
の偏微分可能性及び B = fy (x0 , y0 ) であることも全く同様に証明出来るので、興味のある人は各自
証明を試みてみよう。
*1
つまり、全微分可能性の定義中の定数 A, B が A = fx (x0 , y0 ), B = fy (x0 , y0 ) となるということ。
f が点 (x0 , y0 ) に於いて x で偏微分可能とは、x に関する偏微分係数
fx (x0 , y0 ) = lim
∆x→0
f (x0 + ∆x, y0 ) − f (x0 , y0 )
∆x
· · · (♣)
が収束して値を定めることであった。一方で f は全微分可能であるから、ある実数定数 A, B が存
在して
f (x0 + ∆x, y0 + ∆y) − f (x0 , y0 ) = A∆x + B∆y + ε(∆x, ∆y)
ε(∆x, ∆y)
√
=0
(∆x,∆y)→(0,0)
(∆x)2 + (∆y)2
が成り立つ。この式 (∗) に於いて ∆y = 0 の状況を考えると、
lim
· · · (∗)
· · · (∗∗)
f (x0 + ∆x, y0 ) − f (x0 , y0 ) = A∆x + ε(∆x, 0),
つまり
f (x0 + ∆x, y0 ) − f (x0 , y0 )
ε(∆x, 0)
=A+
∆x
∆x
· · · (♯)
が導かれる。式 (♯) の左辺は ∆x → 0 とすれば x に関する偏微分係数の定義式 (♣) そのものである
ε(∆x, 0)
= 0 であることさえ確認すれば、∆x → 0 としたときの (♯) の左辺の極限も
∆x→0
∆x
存在して A と一致することが式 (♯) から簡単に従い、証明が完了する。
√
ε(∆x, 0)
したがって後は lim
= 0 を示せば良いが、∆x = ±|∆x| = ± (∆x)2 であることに注
∆x→0
∆x
から、
lim
意すると
ε(∆x, 0)
ε(∆x, 0)
lim
= ± lim √
= ± lim
∆x→0
∆x→0
∆x→0
∆x
(∆x)2 + (0)2
(
ε(∆x, ∆y)
)
lim √
(∆x)2 + (∆y)2
∆y→0
となるので、全微分可能性の定義 (∗∗) から右辺の極限は 0 に収束する。したがって左辺の極限値
ε(∆x, 0)
も存在して 0 となることが分かる。
∆x→0
∆x
□
lim
命題
※
※
2 変数関数 f (x, y) が点 (x0 , y0 ) で 全微分可能 ならば、点 (x0 , y0 ) で 連続 である。
1 変数関数の場合の「微分可能ならば連続」という性質の 2 変数関数版。
偏 微分可能 であっても 連続とは限らない (!) ので要注意!!!
【証明】 連続性の定義より
lim
(∆x,∆y)→(0,0)
f (x0 +∆x, y0 +∆y) = f (x0 , y0 ) を示せば良い。f (x, y) は
(x0 , y0 ) で全微分可能なので、全微分可能性の定義より
f (x0 + ∆x, y0 + ∆y0 ) − f (x0 , y0 ) = fx (x0 , y0 )∆x + fy (x0 , y0 )∆y + ε(∆x, ∆y)
但し
と表せるが、ε(∆x, ∆y) =
√
ε(∆x, ∆y)
√
=0
(∆x,∆y)→(0,0)
(∆x)2 + (∆y)2
lim
(∆x)2 + (∆y)2 √
(♭) で (∆x, ∆y) → (0, 0) とすると
· · · (♭)
ε(∆x, ∆y)
(∆x)2
lim
(∆x,∆y)→(0,0)
(∆y)2
(∆x,∆y)→(0,0)
−−−−−−−−−−→ 0 · 0 = 0 より、式
+
f (x0 + ∆x, y0 + ∆y) = f (x0 , y0 ) が得られる。 □
■全微分可能性の判定条件
定義 (連続偏微分可能性)
2 変数関数 f (x, y) が定義域内で (x でも y でも) 偏微分可能で、その 偏導関数 fx (x, y), fy (x, y)
が (定義域内で) 連続 であるとき、f (x, y) を 連続偏微分可能関数 continuously differentiable
function (或いは C 1 級関数 function of C 1 -class) と呼ぶ。
定理
※
連続偏微分可能関数 は 全微分可能 である。
「連続偏微分可能性」は、偏導関数を (2 つ) 求めてそれが連続であることを調べれば良いので、
全微分可能性を (誤差関数を持ち出して) 直接確認するよりも遙かに調べやすいことに注意し
よう。
証明の際には、1 変数関数の 平均値の定理 を用いる (夏学期の『微分積分学および演習Ⅰ』の講
義ノート等を参照すること)。
定理 (平均値の定理 theorem of mean values)
1 変数関数が閉区間 [a, b] で連続で、(両端を除いた) 開区間 (a, b) で微分可能であるとき、
f (b) − f (a) = (b − a)f ′ (a + θ(b − a))
を満たす実数 0 < θ < 1 が少なくともひとつ存在する。
【定理の証明】
f の定義域内の点 (x0 , y0 ) に於ける f の増分 ∆f = f (x0 + ∆x, y0 + ∆y) を
∆f = {f (x0 + ∆x, y0 + ∆y) − f (x0 , y0 + ∆y)} + {f (x0 , y0 + ∆y) − f (x0 , y0 )}
と表す。先ず、1 変数関数 g(x) = f (x, y0 + ∆y) に対して a = x0 , b = x0 + ∆x として平均値の定
理を用いて
f (x0 + ∆x, y0 + ∆y) − f (x0 , y0 + ∆y) = g(b) − g(a) = ∆xg ′ (x0 + θ∆x)
= ∆xfx (x0 + θ∆x, y0 + ∆y)
が成り立つような実数 0 < θ < 1 を取る (偏導関数の定義より g ′ (x) = fx (x, y0 + ∆y) となること
に注意しよう)。仮定より fx (x, y) は連続 であるから、関数の連続性の定義から
lim
(∆x,∆y)→(0,0)
fx (x0 + θ∆x, y0 + ∆y) = fx (x0 , y0 )
となることが従う。ゆえに ε1 (∆x, ∆y) = fx (x0 + θ∆x, y0 + ∆y) − fx (x0 , y0 ) は (∆x, ∆y) を (0, 0)
に近づけると 0 に収束することが分かる。
同様に、1 変数関数 h(y) = f (x0 , y) に対して a = y0 , b = y0 + ∆y として平均値の定理を用いて
f (x0 , y0 + ∆y) − f (x0 , y0 ) = h(b) − h(a) = ∆y · h′ (y0 + θ′ ∆y) = ∆y · fy (x0 , y0 + θ′ ∆y)
が成り立つような実数 0 < θ′ < 1 を取る (偏導関数の定義より h′ (y) = fy (x0 , y) となることに注意
しよう)。仮定より fy (x, y) は連続 であるから、関数の連続性の定義から
lim
(∆x,∆y)→(0,0)
fy (x0 , y0 + θ′ ∆y) = fy (x0 , y0 )
となることが従う。ゆえに ε2 (∆x, ∆y) = fy (x0 , y0 + θ′ ∆y) − fy (x0 , y0 ) は (∆x, ∆y) を (0, 0) に
近づけると 0 に収束することが分かる。
以上をまとめると
∆f = {f (x0 + ∆x, y0 + ∆y) − f (x0 , y0 + ∆y)} + {f (x0 , y0 + ∆y) − f (x0 , y0 )}
= fx (x0 + θ∆x, y0 + ∆y)∆x + fy (x0 , y0 + θ′ ∆y)∆y
(平均値の定理)
= {fx (x0 , y0 ) + ε1 (∆x, ∆y)}∆x + {fy (x0 , y0 ) + ε2 (∆x, ∆y)}∆y
= fx (x0 , y0 )∆x + fy (x0 , y0 )∆y + {ε1 (∆x, ∆y)∆x + ε2 (∆x, ∆y)∆y}
が成り立つ。したがって誤差関数 ε(∆x, ∆y) = ε1 (∆x, ∆y)∆x + ε2 (∆x, ∆y)∆y が
lim
(∆x,∆y)→(0,0)
ε(∆x, ∆y)
√
=0
(∆x)2 + (∆y)2
を満たすことを示せば、f が (x0 , y0 ) で全微分可能であることになるので証明が完了する。ここで
√
(∆x)2 + (∆y)2 ≤ −|∆x| ≤ ∆x ≤ |∆x| ≤ (∆x)2 + (∆y)2
√
√
− (∆x)2 + (∆y)2 ≤ −|∆y| ≤ ∆y ≤ |∆y| ≤ (∆x)2 + (∆y)2
−
√
より不等式
√
(∆x)2 + (∆y)2 (ε1 (∆x, ∆y) + ε2 (∆x, ∆y)) ≤ ε(∆x, ∆y)
√
≤ (∆x)2 + (∆y)2 (ε1 (∆x, ∆y) + ε2 (∆x, ∆y))
√
が成り立つので、辺々を (∆x)2 + (∆y)2 で割って
−
ε(∆x, ∆y)
−(ε1 (∆x, ∆y) + ε2 (∆x, ∆y)) ≤ √
≤ ε1 (∆x, ∆y) + ε2 (∆x, ∆y)
(∆x)2 + (∆y)2
· · · (♡)
を得る。既に見たように、(∆x, ∆y) → (0, 0) としたときに ε1 (∆x, ∆y), ε2 (∆x, ∆y) は 0 に収束する
ので、(♡) の左辺と右辺は 0 に収束する。したがって 挟み撃ちの原理 によって √
ε(∆x, ∆y)
(∆x)2 + (∆y)2
□
も 0 に収束することが従う。
■多変数関数の微分法に関する諸概念のまとめ
連続微分可能
+3 全微分可能
+3 偏微分可能
SS S
S SS S
SSS SS
SSS S
%連続
※
1 変数関数の「微分可能」に近い概念は「 全 微分可能」
※
一般に 偏微分可能性 と 連続性 には 因果関係はない (!) (問題 2-3. の関数を考えてみよう)*2
*2
連続性は 方向微分可能性 とも因果関係はない; 問題 3-3. 参照。