宿題の解説 10 月 4 日 三井隆久 Department of Physics, Keio University School of Medicine, c 4-1-1 Hiyoshi, Yokohama, Kanagawa 223-8521, Japan ⃝ (Dated: October 4, 2016) I. 問I 半径 R の輪の上に電荷が一様に分布(単位長さあたり λ)しているとき、輪の中心を通り輪の面に垂直な直線 上の電場をもとめよ。 A. 答え 電荷により作られる電場をあらわす、 ∫ ⃗ r) = E(⃗ V ⃗ ⃗ ⃗r − R ρ(R)dV ⃗ 3 4πϵ |⃗r − R| (1) を用いる。ただし、この式は、単位体積あたりの電荷密 度を用いて書かれているが、この問題では単位長さ当た りの電荷が与えられている。 半径 R の輪が x-y 平面になるように座標系を選ぶと、 ⃗ は、θ を媒介変数として、 輪の上の場所 R ⃗ = (R cos(θ), R sin(θ), 0), R 0 ≤ θ < 2π, (2) (3) となる。 θ から θ + dθ によって表される場所の電荷が z 軸上の ⃗ は、該当箇所の電荷が λRdθ 場所 (0,0,z) に作る電場 dE であることから、 ⃗ = λRdθ (0, 0, z) − (R cos(θ), R sin(θ), 0) , (4) dE 4πϵ |(0, 0, z) − (R cos(θ), R sin(θ), 0)|3 λRdθ (−R cos(θ), −R sin(θ), z) = , (5) 4πϵ (R2 + z 2 )3/2 となることがわかる。 θ = 0 から θ = 2π までの電荷により作られる電場は、 式 (5) を積分して、 ∫ 2π ⃗ = E 0 λRdθ (−R cos(θ), −R sin(θ), z) , 4πϵ (R2 + z 2 )3/2 (6) II. を証明せよ。 ≈ ϕ(x(s) + dx ds ds, y(s)) − ϕ(x(s), y(s)) ds − ϕ(x(s), y(s)) , ds ϕ(x(s) + dx ds ds, y(s)) − ϕ(x(s), y(s)) dx = dx ds ds ds + + ϕ(x(s), y(s) + dy ds ds) ϕ(x(s), y(s) + dy ds ds) dy ds ds − ϕ(x(s), y(s)) dy , ds ϕ(x(s) + h, y(s)) − ϕ(x(s), y(s)) dx h ds ϕ(x(s), y(s) + k) − ϕ(x(s), y(s)) dy + , k ds dx dy (ここで h = ds, k = ds とおいた。) ds ds ∂ϕ dx ∂ϕ dy ≈ + , ∂x ds ∂y ds (12) (13) = III. (14) (15) 問 III ⃗ = E0 (y 2 , 2xy), E (7) (16) があり、この電場の中を電子が経路、 出発点 A(R, 0), √ √ 終点 B(R/ 2, R/ 2), 問 II dϕ(x(s), y(s)) ∂ϕ dx ∂ϕ dy = + , ds ∂x ds ∂y ds dϕ(x(s), y(s)) ds ϕ(x(s + ds), y(s + ds)) − ϕ(x(s), y(s)) ≈ 定義, (9) ds dy ϕ(x(s) + dx ds ds, y(s) + ds ds) − ϕ(x(s), y(s)) , (10) ≈ ds dx (x(s + ds) ≈ x(s) + ds という近似。) ds dy dy ϕ(x(s) + dx ds ds, y(s) + ds ds) − ϕ(x(s), y(s) + ds ds) = ds dy ϕ(x(s), y(s) + ds ds) − ϕ(x(s), y(s)) + , (11) ds (同じ数を足して引く) ⃗、 x-y 平面上に電場 E により得られる。これを積分して、 λRz ⃗ = (0, 0, ). E 2ϵ(R2 + z 2 )3/2 答え A. (17) (18) 途中⃗r(θ) = (R cos(θ), R sin(θ)), for θ = 0..π/4,(19) (8) を通って移動する場合の仕事を求めよう。 まずはじめは、仕事の定義にしたがって求める。仕事 を求めるためには、経路を細かく分割して、個々の微小 経路における仕事を求めて、足し合わせる。 (a) 微小経路 d⃗l を dθ を用いてもとめよ。 2 ∫ ⃗ ⃗l に従い、 (b) 電場中での電荷の仕事の定義 W = q Ed 場所 A から B まで移動するための仕事量をもとめよ。 (c) 仕事は、静電ポテンシャルを用いて計算すること もできる。式 (16) に従う電場の静電ポテンシャル ϕ(x, y) をもとめよ。 (d) qϕ(場所 A) − qϕ(場所 B) をもとめよ。 A. 答え A. z > a のとき。 aQz 1 , 2 πϵ0 (z − a2 )2 1 aQ , ϕ = 2πϵ0 z 2 − a2 Ez = 1 a2 + z 2 Q, 2πϵ0 (a2 − z 2 )2 1 z Q, ϕ = 2πϵ0 a2 − z 2 Ez = − (20) によって表現されるとき、微小経路 d⃗l は、 d⃗l = ⃗r(θ + dθ) − ⃗r(θ), = (−R sin(θ), R cos(θ))dθ, (21) (22) である。 電場中での電荷の仕事の定義から、 ∫ ⃗ ⃗l, W = q Ed 1 aQz , 2 πϵ0 (z − a2 )2 1 aQ ϕ = − , 2πϵ0 z 2 − a2 Ez = − (23) (24) 与えられた経路 ∫ = π 4 qE0 (R2 (sin θ)2 , 2R cos(θ)R sin(θ)) 0 ·(−R sin(θ), R cos(θ))dθ, (25) ∫ π4 qE0 (−R3 (sin θ)3 + 2R3 (cos θ)2 sin(θ))dθ,(26) = 0 √ 2 = qE0 R3 , (27) 4 となる。 (c) 与えられた電場、 ⃗ = E0 (y 2 , 2xy), E V. (37) (38) 問V 図1 L 的の面積σ (29) (30) L L 図2 弾丸 面積σの的がN個 (31) L (32) となる。したがって、先に仕事の定義に従い求めた結果 と同じになる。 IV. (36) (a) 図 1 に示すように、辺の長さが L の正方形の領域 に面積 σ の的がある。正方形領域中をランダムに通過す る弾丸(大きさは無視)が的にぶつからずに通過できる 確率を求めよ。 (b) 図 2 に示すように、辺の長さが L の立方体の領域 に面積 σ の的が N 個ある。立方体領域中をランダムに 直進(ただし辺に平行)する物体(大きさは無視)が的 にぶつからずに直進できる確率を求めよ。的は、立方体 中にランダムに分散している。ヒント:この問題を解く には、図 3 のように、分解して考える。そうすれば、 (a) で求めた結果を使うことができる。 (c) (b) で求めた確率を、単位体積中の的の数 n = N/L3 を用いて書き直す。 (d) (c) で求めた確率は、nσL = 有限で、nL3 ≫ 1, σ/L2 ≪ 1 の極限で近似すると、exp(−nσL) となること を示せ。ヒント:(1 − x/n)n ≈ exp(−x) を使う。 である。 (d) 静電場中で、電荷 q を場所 A から B へ移動すると きの仕事を静電ポテンシャル ϕ を用いて計算すると、 qϕ(場所 A) − qϕ(場所 B), √ √ = qϕ(R, 0) − qϕ(R/ 2, R/ 2), √ 2 = qE0 R3 , 4 (35) (28) ⃗ = −∇ϕ を満たす静電ポテンシャル ϕ は、 に対して、E ϕ(x, y) = −E0 xy 2 , (34) −a > z のとき。 となる。 (b) 経路は、⃗r(θ) = (R cos(θ), R sin(θ)) であり、電場 ⃗ = E0 (y 2 , 2xy) なので、経路上の電場は、 は、E ⃗ = E0 (R2 (sin θ)2 , 2R cos(θ)R sin(θ)), E (33) a > z > −a のとき。 (a) 経路の座標が、θ の関数として ⃗r(θ) = (R cos(θ), R sin(θ)), 答え L 図3 問 IV 弾丸 z 軸上の z = a の点 A に +Q の電荷、z = −a の点 B に −Q の電荷がある。このとき、z 軸上の各点における 電位と電場を求めよ。 N枚の面に1個ずつ的があり、 各面が重なっていると考える。 3 A. 答え σ (a) 1 − 2 , L ( σ )N (b) 1 − 2 , L 3 ( σ )nL (c) 1 − 2 , L 3 ( σ )nL (d) 1 − 2 , L [( )n ]L3 σn/L2 = 1− , n [ ]L3 = exp(−σn/L2 ) , = exp(−nσL), VI. (39) (40) (41) である。散乱された光はさらに別な脂肪球で散乱され、 結果として、牛乳は光を強く乱反射する。これが牛乳が 白い理由である。牛乳に光を照射したとき、散乱されず に光 (光を光子、弾丸のようなものと見なす) が通過する 確率が 0.5 になる牛乳の厚みを求めよ。 (b) 血液には、赤血球が含まれ、光を強く散乱する。ヘ マトクリットと呼ばれる値は、血液中に含まれる赤血球 の体積分率を表し、成人では 40% 程度である。赤血球を 直径 7 µm の球として、血液中を散乱されずに光が通過 する確率が 0.5 になる血液の厚みを求めよ。 (42) A. 答え (43) (44) (45) 問 VI 問 V の結果から、面積 σ の散乱体が単位体積中に n 個存在するような物体中を何かが伝搬するとき、散乱 (衝突)することなく距離 L 進むことができる確率は、 exp(−nσL) であることがわかる。σ のことを散乱断面積 という。このことを用いて答えよ。 (a) 牛乳には 4% の脂肪が含まれている。その脂肪の 大部分は直径 10µm 以上であり、このままでは浮上して クリーム層となり品質の低下をまねく。そこで、均質機 (ホモゲナイザー)で、脂肪球を機械的に均質化(ホモ ゲナイズ)して小さくする。ホモゲナイザーは、牛乳を 100 気圧の圧力下で 1/100mm の隙間に急速に通過させ、 脂肪球を直径 2µm まで細かくする。 牛乳中の脂肪球は、透明な液体球であり、光に対して 焦点距離の短いレンズのような働きをして、脂肪球を通 過した光を全て四方八方へ散乱してしまう。このため、 脂肪球の光に対する散乱断面積は、幾何学的面積と同じ (a) r = 10−6 m の球なので、散乱断面積 σ = πr2 = 3.14×10−12 m2 である。単位体積中の脂肪球の数は、n = 0.04m3 /4πr3 /3 = 9.5×1015 個である。 exp(−nσL) = 0.5 を解いて、L = 23µm となる。牛乳 はかなり薄い膜状に広げても、白いことがわかる。実際、 二枚のガラス板の間に牛乳を入れて押さえると 0.1 mm 以下の隙間になるが、不透明なままである。 (b) r = 3.5×10−6 m の球なので、散乱断面積 σ = πr2 = 3.8×10−11 m2 である。単位体積中の赤血球の数は、n = 0.4m3 /4πr3 /3 = 2.2×1015 個である。 exp(−nσL) = 0.5 を解いて、L = 8µm となる。血液の ほうが牛乳より不透明であることがわかる。さらに赤血 球などで光が多重散乱されるので、手のひらを太陽に透 かすと、一部の光が透過して来るにもかかわらず骨は見 えない。しかしながら、光を用いた人体の計測は非侵襲 なので新生児から老人まで害を気にせず行うことができ るため、広く研究され、成果も上がっている。たとえば、 指先に光を当ててヘモグロビンの酸素吸着率を測定する 装置 (pulse oximeter) は広く普及している。また、頭部 に光 (波長 600nm-900nm 程度) をあて、多重散乱されて 頭部から出てくる光の強度には、精神活動と相関がある ことが知られており、非侵襲な脳活動計測装置として普 及しつつある(NIRS, near‐ infrared spectroscopy)。
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