《 製品解説 》 高精度回転位相検出システム Detection system of highly accurate rotation phase In this report, detection system of highly accurate rotation phase which is produced with our industrial control device is introduced. It is not to mention that detection of rotation phase and position is applied to many areas such as machine tools, industrially use robot, mounter for printed wiring board and transportation devices. moreover, each of detection method of rotation phase and position have differences corresponding to the device, and needs construction of most suitable firmware by using sensors and hardware according to the functions and purpose. Our company has worked on developing highly accurate synchronous control and draw control among plural motors. From the late 1990s we have been producing sectional drive of offset rotary press and shipping many electrical equipment for rotary press machine. This synchronous control among plural motors is to maintain the rotation phase of each high speed drove motors steadily in high accuracy, and can be said as a kind of position control device. This synchronous control is usually run continuously at top speed, without deceleration movement or stop movement. To do so, followings are necessary. (1) High performance inverter and motor (2) Appliance of modern control (3) Real-time and highly accurate phase and speed command system (4) Real-time and highly accurate phase and speed feedback system Since above mentioned items 1 to 3 are already introduced, we would like to explain about detection system for highly accurate rotation phase produced for our synchronous control and draw control, which is related to item 4. 小谷 郁雄 Ikuo Kotani 1.まえがき が必要不可欠である。そして,上記(1)項から(3)項について 本解説では当社の産業用制御装置にて製品化している高精 はこれまでに紹介されており,本解説では上記(4)項に関連し 度の回転位相の検出システムについて紹介を行う。ここで, て当社の同期制御やドロー制御において製品化している高精 回転位相や位置の検出は工作機械,産業用ロボット,プリン 度回転位相検出システムについて解説を行う。 ト基板の自動搭載機や各種搬送装置などさまざまな分野にお いて実施され,高精度の位置制御が行われている。そして, 2.概 要 これらの装置に対応して回転位相や位置の検出方法にそれぞ 同期制御やドロー制御に適合するロータリエンコーダの種 れ相違があり,機能や目的に応じてセンサやハードウェアを 類を表1に示す。この中で,インクリメンタルエンコーダと 構成し最良のファームウェアを構築する必要がある。 アブソリュートエンコーダは通常使用されているものであり, 当社は複数のモータ間の高精度な同期制御やドロー制御の 実用化に取り組み,1990年代後半からオフセット輪転印刷機 ハイブリッドエンコーダはアブソリュートとインクリメンタ ルの機能を合わせ持つものである。 のセクショナル駆動を製品化し多くの輪転印刷機用電気品を 当社では,矩形波インクリメンタルエンコーダとハイブリッ 出荷している。この複数のモータ間の同期制御は,モータを ドエンコーダを用いて,それぞれ高精度の回転位相を検出し 高速に駆動しながらそれぞれのモータ相互間の回転位相を高 精度に一定の範囲に保持させるもので,一種の位置制御と言 表1 える。 Table 1 Kind of rotary encoder この同期制御は減速動作や停止動作を繰り返すこと無く, 通常トップスピードにて連続して運転されこれを実現するた ロータリエンコーダの種類 インクリメンタルエンコーダ めには, (1) 高性能のインバータ装置とモータ 矩形波インクリメンタルエンコーダ (2) 現代制御理論の適用 SIN/COS インクリメンタルエンコーダ が必要のほか, アブソリュートエンコーダ (3) リアルタイムで高精度の位相及び速度指令システム (4) リアルタイムで高精度の位相及び速度フィードバック ハイブリッドエンコーダ システム 東洋電機技報 第115号 25 2007-3 ている。始めに矩形波インクリメンタルエンコーダを,次に ここで,同期制御のためには回転位相の検出のみならず高 ハイブリッドエンコーダを用いた高精度回転位相検出システ 精度の回転速度の検出が必要である。そして通常,回転速度 ムについて順次解説を行う。 はモータ軸位相検出器が出力する回転位相から得られるが, 更に安定した回転速度を得るために専用のモータ速度検出器 3.矩形波インクリメンタルエンコーダによる回転位相検出 システム を設置している。 3.2 機械軸位相検出器とモータ軸位相検出器 3.1 構成 原点 矩形波インクリメンタルエンコーダは回転に応じて90度位 相差の A 相矩形波と B 相矩形波,及び1回転に1つの Z 相の矩 形波を出力する。この A 相または B 相は19,200ppr であり, バーチャル マスタ 回転位相の検出はこれを4逓倍して76,800ppr の分解能を得て 原点 いる。矩形波インクリメンタルエンコーダは,構造がシンプ ルであり制御装置側もリアルタイムに回転位相を検出するこ 機械軸 とが容易に可能である。図1にこのエンコーダを用いた位相 検出システムの主要部を示す。 4 1 1 2 2 3 3 4 3 2 4 3 1 4 2 1 a.良 b. 90 度進み c. 180 度進み d. 270 度進み 本図はギヤ比が1/4の例で 機械軸の円内の1~4はモータの回転数を示す 矩形波インクリメンタル位相検出器 機械軸 原点 図2 原点合わせ 機械軸位相検出器 原点合わせ制御へ Fig.2 Zeroing 原点 センサ ギヤ M ギヤ比設定 ED モータ 図1に示すギヤを用いるときギヤ比に応じて位相ずれが発 生する可能性がある。図2は,原点合わせについて示しギヤ モータ軸速度検出器 速度制御へ 比が(1/4)のとき,図示の b から d に示すとおり90度から270 度の位相ずれが発生する様子を模擬的に示す。 このため,矩形波インクリメンタル位相検出器では機械軸 位相検出器を設置して上記の位相ずれがないように確実に原 モータ軸位相検出器 A相信号 EN 同期制御へ B相信号 点合わせを行い,続いてモータ軸位相検出器により高精度に 回転位相の検出を行い同期制御に移行する。下記の図3では Z相信号 矩形波 インクリメンタル エンコーダ 同じくギヤ比が(1/4)のとき,時刻 T1まで機械軸位相検出 分解能設定 器により原点合わせを行い時刻 T1以降はモータ軸位相検出器 Z相許可期間 Z相ガード 発生器 により同期制御に移行する動作を例示している。 回転位相 Z相禁止期間 バーチャルマスタの 回転位相指令 Z相ガードコントロール 0:ディセーブル 1:イネーブル 機械軸の回転位相 T1 図1 インクリメンタルエンコーダによる位相検出 4 Fig.1 Phase detection by incremental encoder 図1にて説明を加えると矩形波インクリメンタルエンコー ダは当社の ED モータに取り付けられ,A 相,B 相及び Z 相 1 2 3 1 モータ軸の回転位相 2 3 4 1 0 時間 信号は ED64SDS インバータに内蔵する矩形波インクリメン 原点合わせ制御 同期制御 タル位相検出器にノイズ除去を行って入力される。この矩形 波インクリメンタル位相検出器は,機械軸位相検出器,モー 図3 機械軸とモータ軸の位相検出 タ軸位相検出器,モータ軸速度検出器,及び Z 相ガード発生 Fig.3 Phase detection of machine and motor axis 器などを内蔵している。 東洋電機技報 第115号 26 2007-3 3.3 Z相ガード 機械軸に付属するエンコーダは位相検出用の高分解能の矩形 モータ軸位相検出器は A 相と B 相信号により正転/逆転に 波インクリメンタルエンコーダであって位相制御ループの 応じて計数値をカウントアップ/ダウンを行い,Z 相信号によ フィードバックとなる。また,図4はベルトカップリングに りこの計数値をクリアして回転位相を検出する。例えば,モー よる例を示しているがギヤカップリングであっても良い。 -1 タを1500min にて運転するとき次の(1)式のとおり0.52μs 毎に高速に回転位相を更新する。 1/ 19,200×4×1,500 60 = 0.52μs この言わばダブルエンコーダ方式のメリットは次のとおり である。 ・・・・・(1)式 (1) ギヤやベルトカップリングによる減速比が正の整数で なくとも正の実数の減速比が可能である。 (2) ベルトカップリングであってもベルトの滑りを定量的 図1で示した矩形波インクリメンタル位相検出器では A 相, B 相 及び Z 相信号の入力段にて早い周波数のノイズ除去を に検出すると共に,この滑りの補償を行って同期制御 を可能としている。 行っている。しかしながら,Z 相信号からノイズを完全に除 去ができないとき正確な回転位相の検出が不可能となる。そ なお,このダブルエンコーダ方式や前記の Z 相ガードの機 のため,矩形波インクリメンタル位相検出器は Z 相ガード発 能は当初より想定した機能ではなかった。ここで,図1の矩 生器を内蔵してZ相許可期間とZ相禁止期間の信号を生成し, 形波インクリメンタル位相検出器は FPGA(フィールドプロ Z 相に侵入するノイズを確実にシャットアウトしている。 グラマブルゲートアレイ)にて構成しており,ニーズの発生 によりハードウェアを変更すること無く FPGA のプログラム 3.4 応用例 をバージョンアップしフレキシブルに機能の拡張を可能とし 図1では1台の矩形波インクリメンタルエンコーダを用いて ている。 モータの回転位相と回転速度を検出している。ここで,応用 例として図4に示すとおり2台のロータリエンコーダを用いた 同期制御を製品化している。この図4においてモータに付属 するエンコーダは速度検出用であって当社標準の600ppr の分 4.ハイブリッドエンコーダによる回転位相検出システム 解能を有し速度制御ループのフィードバックとなる。一方, 4.1 アブソリュートエンコーダについて アブソリュートエンコーダは電源をオンした直後から回転 位相の検出が可能であり,精度も2進数で24ビットなど高分解 能のものが入手可能となっている。このアブソリュートエン コーダは通常,シリアル通信にて制御装置と接続される。 機械軸 ここで,冒頭に示したとおり輪転印刷機の同期制御やドロー 制御においては通常,トップスピードにて連続して運転する のでリアルタイムな回転位相の検出が重要となる。しかし, アブソリュートエンコーダはシリアル通信にて1回の回転位相 を得るために40μs から80μs を要するので,同期制御に適用 するには不利である。ここで,当社ではアブソリュートエン ベルト コーダに換えて後述するハイブリッドエンコーダを用いてリ 位相検出用 矩形波インクリメンタル エンコーダ 19200ppr アルタイムに高精度の回転位相を検出している。 4.2 ハイブリッドエンコーダについて ハイブリッドエンコーダは分解能を抑えたアブソリュート エンコーダと SIN/COS インクリメンタルエンコーダを一体 速度検出用エンコーダ 600ppr 化したものである。そして,SIN/COS インクリメンタルエン 図4 ダブルエンコーダによる制御 コーダ部は,1回転に512サイクルの SIN と COS 信号を発生 Fig.4 Control by two encoders し,アブソリュートエンコーダ部はシリアル通信にて位相検 出器と接続し1回転にて分解能が2,048のアブソリュート位相 を出力する。 東洋電機技報 第115号 2007-3 27 4.3 構成 このように計23ビットの回転位相を得るが,アブソリュー 図5にハイブリッドエンコーダを用いた位相検出システム ト位相は初期化に用いるのみで,以降の回転位相の更新は上 の主要部を示し,これの動作を列挙すると次のとおりである。 述のとおり SIN と COS 信号にてリアルタイムに行う。これ により,リアルタイムに回転位相を検出する。なお,SIN と (1) シリアル通信にて11ビットのアブソリュート位相を検 COS 信号は差動信号であり受信側にてシングルエンド信号に 出する。 変換している。 次のページの図6は,アブソリュート位相を得るシリアル (2) 電源オン時にこのアブソリュート位相にて回転位相の 通信の動作を示し,図6上段はハイブリッド位相検出器が出 上位11ビットの初期化を行う。 (3) 512サイクル/ 1回転の SIN と COS 信号をコンパレー 力する送信要求であり,図6下段はハイブリッドエンコーダ タにてパルス化し A 相と B 相信号を生成する。 が返信するアブソリュート位相である。そして,図示すると (4) 常時,A 相と B 相信号をアップ/ダウンの計数を行っ おり11ビットのアブソリュート位相を得る所要時間は42μs である。 て回転位相の上位11ビットを更新する。 (5) 一方,SIN と COS 信号を A/D コンバータにてデジタ ル化し12ビットの電気角を検出する。 (6) この電気角を回転位相の下位12ビットとする。 1回転の位相検出 2048×4096-1 = 800h×1000h-1 = 211×212-1 = 223-1= 8,388,607 ED64ADSインバータに 内蔵する ハイブリッド位相検出器 シリアル通信によりアブソリュート位相を得る 上位11ビットのアブソリュート位相を得る 通信 インタフェース アブソリュート位相出力 22 21 13 12 11 10 1 0 0 0 0 0 マルチターン数 インクリメンタル信号出力 COSθ 計測アンプ +5V 回転位相をプリセット コンパレータにて 上位11ビットを更新 積算カウンタ 0 ~ A相 22 21 1 0 B相 /COSθ マルチターン数 0 インクリメンタル信号に より回転位相を更新 SINθ 計測アンプ -5V コンパレータ A/D コンバータ COUNT IN D 0 COSθ SINθ CH1 0 ~ 13 12 11 10 CH2 D11 *CONVST θ= SINθ tan-1( ) COSθ /SINθ Kθ A/D コンバータから 下位12ビットを得る 0 ハイブリッドエンコーダ 図5 ハイブリッドエンコーダによる位相検出 Fig.5 Phase detection by hybrid encoder 東洋電機技報 第115号 2007-3 28 次に図8は図5中の回転位相を抽出して示す。図示すると おり1回転の回転位相の分解能は8,388,608であり,最上位には 送信要求 +4V マルチターン数を格納している。かように,ハイブリッドエ +2V ンコーダから得る回転位相は下位12ビット,上位11ビット, 及びマルチターン数に分割して検出している。このため,例 回転位相 返信 +4V えば下位12ビットと上位11ビット間の桁上がり,桁下がり処 理が重要でありソフトウェアにて確実に実施している。 +2V 200μs/Div 42μs 通信速度 2Mbps のとき 4.4 取り付け これまで説明したとおりハイブリッドエンコーダは大きい 分解能を有しているため,モータへの取り付けも格別に考慮 図6 通信によるアブソリュート回転位相 Fig.6 Absolute rotation phase by communication している。図9と図10にハイブリッドエンコーダのモータ への取り付け状態を示す。図示するとおりモータ側にホルダ を設けてエンコーダを精度良く装着しており,メンテナンス も特別の工具を用いず取り外し,取り付けの実施を可能とし 図7は,A/D コンバータに入力される SIN と COS 信号を ている。 示す。SIN と COS 信号の処理においては信号の絶縁処理に特 に注意を要す。すなわち通常の絶縁処理を行うと著しくアナ ログ信号の精度を損なうので,図5のハイブリッド位相検出 器では種々の工夫により精度を損なうこと無く絶縁処理を実 施している。 +4V 送信要求 +2V 0V -2V -4V +4V +2V 回転位相 返信 ハイブリッドエンコーダ ホルダ 0V -2V -4V 200μs/Div 図9 ハイブリッドエンコーダの取り付け-その1 810μs Fig.9 Installation of hybrid encoder 図7 SIN/COS信号 Fig.7 SIN and COS signal 上位11ビット 下位12 ビット 26 23 22 21 13 12 11 10 1 0 X X X X X X X X X X マルチターン数 回転位相/1回転 223-1=8,388,607 0 0 0 1 → ギヤ比=1/2 0 0 1 1 → ギヤ比=1/4 カバー 図8 ハイブリッドエンコーダの回転位相の構成 Fig.8 Rotation phase composition of hybrid encoder 図10 ハイブリッドエンコーダの取り付け-その2 Fig.10 Installation of hybrid encoder 東洋電機技報 第115号 2007-3 29 5. む す び 参考文献 高精度の回転位相の検出システムについて,矩形波インク リメンタルエンコーダとハイブリッドエンコーダを用いたシ (1) 本池: 「永久磁石形同期電動機“EDM シリーズ”」東洋電 ステムについて解説を行った。文中でも述べたとおり高精度 の回転位相の検出のためにはロータリエンコーダの分解能と 機技報106号,2000-9,pp.29-33 (2) Gong,永井,秋山:「シャフトレス新聞輪転機における 共に,遅れなくリアルタイムに回転位相を検出することが重 要である。言い換えれば,ロータリエンコーダの分解能が大 同期制御」東洋電機技報107号,2001-3,pp.26-29 (3) 小谷,榎本,藤田,山崎,中西:「商用オフセット輪転 きくとも回転位相の検出にμs 単位の遅延があるシステムは, 機のシャフトレスシステム」東洋電機技報109号,2003-11, 複数のモータ間の同期制御に極めて不利である。 pp.37-40 今回,紹介を行った2つのエンコーダの回転位相検出システ (4) 小谷: 「商用オフセット輪転機のマルチチェンジ」東洋電 ムはこの分解能とリアルタイム性の整合を命題として開発を 機技報113号,2006-3,pp.19-24 行ったものであり,共に多数の製品に適用しその効果を確認 した。 当社の高精度回転位相検出システムは当初,輪転印刷機の シャフトレス化に組み込まれて開発を行ったものであるが, 今後はこれを発展させ,印刷機のインライン装置や生産設備 のセクショナルドライブにユースを拡大する所存である。 最後に本システムの開発に当たり,ご協力をいただいたハ イデンハイン㈱,サムタク㈱の関係各位に厚くお礼申し上げ ます。 執筆者略歴 小谷 郁雄 1976年入社。相模工場 設計部にて産業用制御 装置の設計・開発に従 事。現在,産業事業部 産業工場第1設計グル ープに所属。 カバー 東洋電機技報 第115号 2007-3 30
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