法学部 140 回講演会 2016 年 10 月 11 日 EU における国家財政危機と EU 法 小場瀬琢磨(法学部) 2009 年にギリシャの財政赤字隠しの発覚に端を発する EU 構成国の国家財政危機は、EU とユーロ圏各国の危機対応によって現在は小康状態に至っている。 すなわち、ユーロ圏 EU 構成国の金融支援の枠組として EFSF(European Financial Stability Facility)および ESM(European Stability Mechanism)が設立され、緊急金融支援の枠組は整 った。また欧州の 25 カ国は安定協調ガバナンス条約を締結して財政規律の強化を約束する など、各国財政に対する規律を強めた。銀行支援に起因する財政危機に対しては単一の銀行 監督制度の構築によって対応しようとしている。 講演では、国家財政危機への対応過程を漫然と追うことは避け、危機対応において欧州中 央銀行(ECB)の役割が増大してきたことに注目する。ECB は金融支援対象国に対する支援 条件の確定のための技術的支援を行ってきた。また銀行監督と金融システムの健全性確保 の規制主体としての役割をも担うようになった。さらに危機時において非標準的金融政策 手段を講ずることによって、金融システムの守り手としての積極的役割をも果たすように なった。 だが、こうした ECB の活動範囲の拡大は、EU の基本条約が ECB に与えた権限を越えて いないか。とりわけ、この憲法的問題が強く表れた欧州中央銀行による構成国国債の買入問 題を手がかりとして、国家財政危機の提起した憲法問題を批判的に考える。
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