〈補足 E:光線の湾曲〉

〈補足 E:光線の湾曲〉
E.1 一般相対論による導出
Schwarzchild 時空を仮定して、資料 6.3.1 節と同様に作用
]
∫
∫ [(
)
′2
rS ′2
r
2
2 ′2
′2
S = L dλ =
1−
t −
− r (θ + sin θφ ) dλ
r
1 − rS /r
(
′
≡ d
dλ
)
(E.1)
から出発する。ただし積分変数を τ でなく λ としているのは、光の場合そもそも dτ = 0 だからである(6.3.1 節では光
でない粒子を考えていたので問題はなかった)。式 (E.1) に対して変分法を適用すると、式 (6.18), (6.19) と同様に
(
1−
)
rS ′
t ≡ ε = const.,
r
r2 φ′ ≡ j = const.
(E.2)
(E.3)
という保存量が得られる。またこれらを Schwarzchild 時空で θ = π/2 に選んだ
)
(
r
dr2
0 = dτ 2 = 1 − S dt2 −
− r2 dφ2 ,
r
1 − rS /r
に代入すると、
r′2 = ε2 −
j2
r2
∴
(
1−
(
1−
rS
r
rS
r
)
t′2 −
r′2
− r2 φ′2 = 0
1 − rS /r
)
(E.4)
が得られる。ここで式 (E.3), (E.4) から dλ を消去して整理すると
(
du
dφ
)2
(
2
= ε2 − u2 (1 − rS u)
j
u≡ 1
r
)
(E.5)
となるので、これが光の軌跡を与える。
では式 (E.5) を解こう。まず重力場の十分弱い r ≫ rs ( ⇐⇒ rS u ≪ 1) を考えると、式 (E.5) の第 3 項は無視できて
u≃
cos φ
,
b
(
∴ r cos ϕ ≃ b
b≡
j
ε
)
と解ける。これは u を cos φ の最低次で求めたことに相当し、その軌跡は x = b という直線である(次頁図 E.1)。次に
もう少し精確な解を
u≡
cos φ + χ
b
(χは定数)
と仮定して、式 (E.5) に代入する。すると χ = rS /b を得るので、結局
u= 1
b
(
)
rS
+ cos φ
b
(E.6)
が求める解である(精度はこれで十分)。
最後に図 E.1 の α を
α ≡ φ(r → +∞) − π (≪ 1)
2
とおくと、式 (E.6) より
0≃ 1
b
(
(
)
)
rS
rS
+ sin α ≃ 1
+α ,
b
b
b
∴ α≃
rS
b
かく
を得る。したがって、光の曲がり角は
∆θ ≡ 2α ≃
2rS
b
(in general relativity)
と求められる。■
1
(E.7)
図 E.2
E.2 節における座標設定。この x 軸は図 E.1 にお
ける “観測者 → 天体の見かけの位置” に相当する。
図 E.1 E.1 節における座標設定と光線の歪み。
E.2 古典力学による導出
E.2.1 衝突問題として解く
簡単のため、上図 E.2 のように座標を取り直す。このとき r → +∞ での比角運動量 j ≡ r2 θ̇ = const. を考えることで
r2 θ̇ ≡ j(r, θ) = j(r → +∞, θ) = bc,
2
∴ dt = r dθ
bc
が分かるので、歪められた光の速度と加速度の y 成分をそれぞれ vy , ay として
r2
GM cos θdθ
dvy = ay (t)dt = GM
2 cos θ × bc dθ =
bc
r
が成立する。あとはこれを −π/2 ≤ θ ≤ π/2 で積分すれば
∫
vy =
π/2
−π/2
vy dθ = 2GM
bc
となるので、曲がり角は
∆θ ≃
vy
r
= 2GM
= S
c
b
bc2
(in classical dynamics)
(E.8)
と得られる。これは 一般相対論による結果 (E.7) のちょうど半分 である。■
E.2.2 粒子の軌道から解く
古典力学では、中心力の下で運動する粒子(光子も含む)の軌跡が
j/r2
dφ
=±√
dr
2(E − U ) − j 2 /r2
と与えられるのであった(証明は省略)。そこでこれを積分・整理すると、
(
p
r=
1 + e cos φ
j 2 c2
p=
, e=
GM
2
√
j 2 c2
1+ 2 2
G M
)
(E.9)
を得る。ここで α を E.1 節と同様に
α ≡ φ(r → +∞) − π (≃ 0)
2
とおくと、式 (E.9) で r → +∞ として
0 = 1 + e cos φ(r → +∞) = 1 − e sin α ≃ 1 − eα,
∴ α ≃ 1 ≃ GM
e
jc
を得る。したがって j = bc と合わせて、曲がり角は
r
∆θ ≃ 2GM
= S
b
bc2
(in classical dynamics)
(E.8)
となる。■
E.3 実際の観測値
∆θ の観測値を求めるには、
• 天球面上 太陽のごく近くにある星の位置を観測し (← このとき光線は歪んでいる)、
• 半年後に再びその星の位置を観測すればよい (← このとき光線は歪んでいない)。
そこで Eddington 率いるチームは一般相対論を検証するべく、1919 年 5 月 29 日*1 の日食を利用して ∆θ⊙ の観測を行っ
た。次の表 E.1 はその観測結果である。
表 E.1
Eddington らが得た観測結果。
観測地
サンプル数
∆θ⊙
ソブラル島(ブラジル)
7
1′′ .98 ± 0′′ .16
プリンシペ島(ギニア)
5
1′′ .61 ± 0′′ .40
一方 ∆θ⊙ の理論値は、一般相対論の場合は式 (E.7) より
∆θ⊙ =
2rS,⊙
2 × (3.0 km)
2rS
≃
≃
≃ 1′′ .8,
b
R⊙
7.0 × 105 km
古典力学の場合その半分:∆θ⊙ ≃ 0′′ .88 である。これらを比べると、明らかに一般相対論による理論値の方が観測結果に
近い。Eddington らはこの結果をもって、一般相対論が確かに成立していることを実証した。
一般相対論に対する初期の検証としては、今回の光線の湾曲(重力レンズ効果)に加え水星の近日点移動・重力赤方偏
移がよく挙げられる。また本書でも触れられたブラックホールや宇宙の加速膨張、さらに重力波の観測*2 も、一般相対論
を検証する役割を果たす。
E.4 参考文献
[1] Serjeant S. 2010, Observational Cosmology, Cambridge University Press
[2] 須藤靖 2005, 『一般相対論入門』, 日本評論社
[3] FastSound ホームページ:http://www.kusastro.kyoto-u.ac.jp/Fastsound/
*1
*2
一般相対論が発表されたのは 1915–1916 年、第 1 次世界大戦が終結したのは 1918 年 11 月 11 日。
最近では 2016 年 2 月に重力波が初検出された。また同 4 月には z > 1 の宇宙の加速膨張が確認された(FastSound プロジェクト)。
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