Economic Indicators 定例経済指標レポート

Market Flash
賃金上がらず、利上げ打ち止めも
2016年9月8日(木)
第一生命経済研究所 経済調査部
主任エコノミスト 藤代 宏一
TEL 03-5221-4523
【海外経済指標他】
・7月JOLT求人件数は587.1万人となり、統計開始以来の最高を記録。一部に雇用のミスマッチを反映してい
るとはいえ、企業の旺盛な採用意欲が窺える。失業者数に対する求人件数の比率も1.32と既往最低レベル
に達するなど労働需給の引き締まりが見て取れる。また、イエレン議長が重視する入職率も3.61%と過去
3ヶ月に急落した一部を取り戻した。一方、イエレン議長が重視するもう一つの指標である自発的離職率
は2.02%でほぼ変わらず。この点は平均時給の持続的上昇に疑問を投げかける。
(百万件)
JOLTS求人件数
(%)
失業者/求人件数
7
6
5.5
6
5
5
4.5
4
4
3
3.5
2
3
1
2.5
0
2
01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16
(備考)Thomson Reutersにより作成
01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16
(備考)Thomson Reutersにより作成
【海外株式市場・外国為替相場・債券市場】
・前日の米国株は小幅安。経済指標の公表に乏しいなか、売り買い交錯。米通信大手の新型スマホが発表さ
れたものの大きな動きはみられず。他方、欧州株は総じて上昇。WTI原油は45.50㌦(+0.67㌦)で引け。
・前日のG10通貨はGBPの弱さが目立ったほかに大きな動きはみられず、USDの強さは中位程度。GBPの下落は
BOEカーニー総裁が追加利下げを示唆したことが背景。USD/JPYは101後半を一進一退。
・前日の米10年金利は1.539%(+0.5bp)で引け。取引材料に乏しいなか小幅なレンジで推移。欧州債市場
も総じて小動き。ドイツ(▲0.117%、▲0.6bp)、イタリア(1.080%、▲0.8bp)、スペイン(0.930%、
+0.1bp)、ポルトガル(2.978%、▲1.5bp)が何れも方向感に欠ける展開となった。3ヶ国加重平均の対
独スプレッドはタイトニング。
【国内株式市場・アジアオセアニア経済指標・注目点】
・日本株は新規の材料に乏しいなか、日経平均17000レベルで高値警戒感が意識されてか売り優勢(10:00)。
・7月国際収支統計によると経常収支は+1.93兆円と25ヶ月連続の黒字を達成し、7月としては過去最高を
記録。資源価格の下落を背景とした輸入金額の減少が寄与した。もっとも、季節調整値では+1.45兆円と
なり1-3月期をピークに増勢が一服。貿易収支、一次所得収支の黒字が縮小傾向にある。他方、旅行収支
の受取額は2864億円(季節調整値)とやや頭打ち感こそあるものの、訪日外国人数の増加により前年比で
は2桁の増加基調を維持。順調に拡大している。
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
1
経常収支
(兆円)
3
3500
2.5
旅行収支受取額
(億円)
3000
2
2500
1.5
2000
1
1500
0.5
0
1000
-0.5
500
0
-1
05
06
07
08
09
10
11
12
13
14
15
00
16
02
04
06
08
10
12
14
16
(備考)Thomson Reutersにより作成 季節調整値
・上述のとおり7月JOLT統計ではイエレン議長の重視する自発的離職率が停滞を続け、賃金上昇シナリオに
疑問を投げかけた。平均時給と離職率の関係に目を向けると、離職率の変動に1年から1年半程度のラグ
を伴い平均時給が上下していることがわかるが、離職率は15年4Q以降に頭打ち状態となっており、賃金
上昇の一因である転職活動が鈍化していることを示唆している。仮にこのまま離職率が上昇しなければ、
平均時給は3%程度の上昇率に留まるとみられ、ここでPCEコアデフレータが2%で安定するとの仮定
を置くと、実質ベースの賃金が僅か1%の上昇に留まることを意味する。FEDが賃金上昇率を重視する
路線に舵を切った場合、利上げシナリオが一段と下方修正される可能性があるだろう。
・一方、目先の追加利上げについては引き続き、年内1回ないしは2回が基本路線。イエレン議長の意向を
代弁する役割を果たしつつあるウィリアムズ・サンフランシスコ連銀総裁は昨日の講演で従来からの認識
を繰り返した。「米経済は良好であり、緩やかな利上げが望ましい」、「遅い時期よりも早い時の利上げ
を望む」と目先の利上げ再開に前向きな認識を示した。
(平均時給、%)
(%)
2.8
自発的離職率
4.5
2.6
4
4
2.4
3.5
2.2
離職率
2
3
y = 1.9463x - 0.854
R² = 0.5331
3
1.8
2.5
1.6
2
1.4
2
1.2
平均時給(右)
1
1
1.5
01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16
(離職率、%)
1
(備考)Thomson Reutersにより作成
1
1.5
2
2.5
3
(備考)Thomson Reutersより作成
データは:2001年以降、平均時給(生産従事者)18ヶ月先行
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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