Market Flash なぜ賃金上昇を強調しない(日銀) 平均時給よりも離職率(FED利上げ) 2016年10月7日(金) 第一生命経済研究所 経済調査部 主任エコノミスト 藤代 宏一 TEL 03-5221-4523 【海外経済指標他】 ・8月ドイツ製造業受注は前月比+1.0%と市場予想(+0.3%)を上回り、2ヶ月連続の増加。海外向けが ▲0.2%と僅かに減少したものの、国内向けが+2.6%と反発。財別では消費財+2.9%、中間財+1.7%、 資本財+0.3%が揃って増加。受注全体のモメンタムを3ヶ月前比年率でみると▲1.3%と、マイナス圏に あるが、速報性に優れたPMI新規受注は7-9月期に大幅改善しており、先行きのアップサイドリスク を示唆している。なお、グローバルな設備投資需要を見極めるうえで有効な海外向け資本財受注は▲1.7% と減少したものの、均してみれば増加基調にあり、年初からの下落を取り戻しつつある。 (%) 60 独 製造業受注・PMI新規受注 70 PMI新規受注 (右) 40 独製造業受注(海外・資本財) 140 130 60 20 120 110 0 50 100 90 -20 製造業受注 (3ヶ月前比年率) -40 -60 80 40 70 60 30 07 08 09 10 11 12 13 (備考)Thomson Reutersにより作成 14 15 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 (備考)Thomson Reutersにより作成 太線:3ヶ月平均 16 ・米新規失業保険申請件数は24.9万件とポジティブ・サプライズ。4週移動平均は25.4万件と43年ぶり低水 準を更新。前年比でみた減少ペースは鈍化しているものの、水準は傾向線上に回帰しており、労働市場の 量的改善を示している。 新規失業保険申請件数 (千件) 420 (前年比、%) 雇用者数・新規失業保険申請件数 6 390 4 360 2 330 0 300 -2 270 -4 (前年比、%) -50 -30 失業保険(右) -10 10 改善 30 雇用者数 50 70 悪化 240 12 13 14 15 -6 16 80 85 90 95 00 05 10 (備考)Thomson Reutersにより作成 3ヶ月平均の前年比 (備考)Thomson Reutersにより作成。太線:4週移動平均 90 15 【海外株式市場・外国為替相場・債券市場】 ・前日の米国株は小幅反落。雇用統計を控えて様子見姿勢が強まるなか、持高調整に終始。WTI原油は 50.44㌦(+0.61㌦)で引け。9月にOPECが合意した減産の枠組みについて話合いの機会が設けられるとの 報道や大型ハリケーン「マシュー」が原油生産を滞らせるとの懸念がある。 ・前日のG10 通貨はUSDが全面高。ここもとの米指標の強さが意識される下、USDはアジア時間から堅調に推 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内 容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 1 移。その後、米新規失業保険申請件数が強い結果になると一段と上値を伸ばした。USD/JPYは104に上伸。 EUR/USDは1.11半ばへと下落。GBP/USDは米国時間に1.26まで水準を切り下げた後、日本時間8時頃に特段 の材料がない中で急落。一時1.18台まで下値を伸ばした。 ・前日の米10年金利は1.737%(+3.5bp)で引け。原油価格の上昇に歩調を合わせる形で金利上昇。欧州債 市場(10年)はコア国中心に堅調。ECBが緩和縮小を模索との観測報道を材料に、過去2営業日に売られた 反動から買い戻し優勢。ドイツ(▲0.018%、▲1.3bp)、イタリア(1.342%、▲1.9bp)、スペイン (1.009%、▲2.7bp)が揃って金利低下。他方、リスクセンチメントに弱さが残る下、ポルトガル (3.513%、+5.6bp)は金利上昇。周縁3ヶ国加重平均の対独スプレッドは小幅にタイトニング。 【国内株式市場・アジアオセアニア経済指標・注目点】 ・日本株はUSD/JPY上昇が好感されるものの、4日続伸した後とあって前日終値付近でもみ合い(10:00)。 ・8月毎月勤労統計によると現金給与総額は前年比▲0.1%と市場予想(+0.4%)を下回り、再びマイナス 圏に沈んだ。もっとも7月に+1.4%と高い伸びを示していたので、その反動と解釈すれば悲観する必要は ない。内訳は所定内給与が前年比+0.5%、所定外給与が▲1.9%、特別給与が▲7.7%であった。残業代の 抑制などから所定外給与が減少を続け、特別給与も減少したが、最重要項目の所定内給与が伸びており内 容は良い。マクロ賃金(一人当たり賃金×常用雇用者数)は前年比+2.0%、3ヶ月平均は+3.0%と安定 的に高い伸びを維持。時間当たり名目賃金もトレンドは明らかに加速しており、労働市場のタイト化を映 し出している。 (%) 名目賃金(所定内給与) (前年比、%) 名目賃金(常用雇用者数×一人当たり賃金) 1 4 0.5 2 0 -0.5 0 -1 -2 -1.5 -4 -2 05 06 07 08 09 10 11 (備考)Thomson Reutersにより作成 12 13 14 15 -6 16 95 97 99 01 03 05 (備考)Thomson Reutersにより作成 07 09 11 13 15 <物価と賃金はパラレル#サービス物価#米雇用統計#平均時給> ・上述のとおり毎月勤労統計では賃金の上昇基調が確認された。この点は「物価と賃金が持続的に下落する という意味でのデフレではなくなっている」、「物価と賃金は実証的にも理論的にも概ねパラレルに動く」 という黒田総裁の主張を裏付ける。実際、物価の基調に忠実な、帰属家賃を除いたサービス物価と時間当 たり賃金を比較すると、長期的に強い連動性が確認でき、最近の5年間でもこの関係が保たれていること がわかる(賃金版フィリップスカーブ)。政府・日銀は「物価が上がっても、給料は上がらない」との批 判に、こうしたデータを示して答えるべきだろう。日銀はかつて、物価目標が達成できなかった理由とし て「消費者の値上げに対する抵抗感」を指摘していた。そうした問題意識を持っていながら「総括的検証」 にこうした視点の分析が盛り込まれなかったことは残念である(図は次項)。 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内 容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 2 フィリップスカーブ(物価・賃金) フィリップスカーブ(物価・賃金) (サービス物価、%) 4 (サービス物価、%) 1.5 1.3 3 1.1 0.9 2 0.7 1 0.5 0.3 0 0.1 -0.1 -1 y = 0.4888x + 0.3124 R² = 0.7005 -2 -5 0 y = 0.4748x + 0.4702 R² = 0.5112 -0.3 5 -0.5 -1.5 10 -1 -0.5 0 (時間当たり賃金、%) 0.5 1 1.5 (時間当たり賃金、%) (備考)Thomson Reutersにより作成 2011年以降 サービス物価は帰属家賃を除いたベース 賃金は12ヶ月平均の前年比 (備考)Thomson Reutersにより作成 1992年以降 サービス物価は帰属家賃を除いたベース 賃金は12ヶ月平均の前年比 ・本日発表の米雇用統計。注目はNFP、失業率といったヘッドラインも去ることながら、完全雇用に達し たかを判断する際に重要となる平均時給だろう。平均時給は緩やかな上昇基調にあるものの、最近は2.5% 程度で頭打ち感が出ており、ハト派が追加利上げの見送りを主張する際の根拠となっている。今後、平均 時給が上昇すれば追加利上げをしない理由が無くなり、追加利上げの可能性がますます高まるのだが、平 均時給に先行性を持つ自発的離職率に目を向けると、2016年入り後に上昇がストップしている。自発的離 職率は転職活動の活発度合いを示すことから、その上昇鈍化は賃金上昇シナリオに疑問を投げかける。年 内追加利上げおよび目先の雇用統計の平均時給、2017年以降の軌道を予想するには自発的離職率に目を向 ける必要があろう。 5 (前年比、%) 自発的離職率 (%) 平均時給 2.4 2.2 4 2 全雇用者 1.8 3 1.6 1.4 2 1.2 非管理職 1 05 06 07 08 09 10 11 12 13 (備考)Thomson Reutersにより作成 14 15 1 16 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 (備考)Thomson Reutersにより作成 3ヶ月平均 (平均時給、%) 4.5 4 3.5 y = 1.9468x - 0.8546 R² = 0.5335 3 2.5 2 1.5 (離職率、%) 1 1 1.5 2 2.5 3 (備考)Thomson Reutersより作成 データは:2001年以降、平均時給(生産従事者)18ヶ月先行 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内 容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 3
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