【2016年9月7日公開】 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□ ~丸わかり! ロンドン発★欧州経済事情~ 「松崎美子」が注目テーマを一刀両断! 『これ以上の追加緩和は必要か? 9/8「ECB 理事会」に注目!』 執 筆 者 : ( ロ ン ド ン 在 住 /元 為 替 デ ィ ー ラ ー ) ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□ 夏休み明けのマーケットでは、9 月 21 日(水)にダブルで開催される「日銀金融政策理事会」と 「米連邦公開市場委員会(FOMC)」の金融政策の変更の有無に、強い関心が集まっている。 しかし、私が住むヨーロッパでも、今週は重要なイベントが続く。まず 9 月 7 日(水)は、英中銀総裁 をはじめとする 4 名のメンバーが、8 月に実施した大規模な緩和策と、四半期インフレーション・レ ポート内容について議会証言を行う。そして、翌 9 月 8 日(木)には、久しぶりに「欧州中銀(ECB) 金融政策会合」が開催され、ドラギ総裁の定例記者会見という運びとなる。 今回のコラムでは、「ECB 理事会」について考えてみたい。 ●「ECB 理事会」に向けた予想 今月の ECB 理事会に向けた予想は以下の通りである。 ■政策金利、量的緩和策(QE)のサイズは、ともに据え置き ■唯一の可能性として、QE 期間の延長がなされるかもしれない ■ドラギ総裁の記者会見は、ハト派的内容になりやすい ブルーンバーグ社がエコノミストを対象として実施したアンケート調査によると、80%以上の人たち が、近い将来 ECB が追加緩和策の実施を余儀なくされると予想している。その手段としては、「QE 期間の延長」が圧倒的に多く、それに続き、「デポジット金利の再カット」や「TLTRO2(条件付き長 期リファイナンス・オペ)の増額」などが挙げられている。 ●ECB が直面している2つの相反する問題 これから書くことは、あくまでも私が個人的にずっと疑問に思っていることで、特にマーケットでは 材料視されていない。しかし、この相反する 2 つの問題の解決策が見つからなければ、今後いくら ECB が追加緩和をしても、「物価安定の維持、インフレ率 2%近くまでのターゲット達成」への道は かなり厳しいものとなる予感がする。 ■過剰流動性 1 兆ユーロ超え まず最初は、ECB が抱えている過剰流動性(Excess Liquidity)である。一般論として、流動性は低 すぎても高すぎてもいけない。 低すぎるということは、マーケットに流動性が欠如していることを意味し、銀行が資金を調達するコ ストが上昇する。そうなると、企業や個人の借り入れ金利も当然上がってくる。市場金利の上昇は 景気回復の腰を折る恐れがあるため、中央銀行は神経質にならざるを得ない。ドラギ総裁による と、『ECB は過剰流動性の下限を 1,000~2,000 億ユーロのレンジに設定しており、出来る限り 2,000 億ユーロを割らないよう気をつけている』そうだ。 その反対に、流動性が高くなれば、マーケットには溢れるほどの資金が渦巻き、時として株高など の資産バブルを招く危険性が指摘されている。最近のマ ーケットでは、この過剰流動性の額が 1 兆ユーロを越え、異常水域に入った。 データ: ECB ホームページ https://www.ecb.europa.eu/stats/monetary/res/html/index.en.html ●企業や個人向けの貸付が伸びない これだけ資金がジャブジャブに余っているのに、企業や個人向けの貸付は、あまり伸びていな い。特にイタリアでは、銀行の不良債権問題が深刻化しており、国全体のクレジットフローが先細 っていることも大きな理由であろう。 そこで、今回は金融機関以外の(非金融関連)企業への貸付と、個人(世帯)向けの貸付を調べて みた。まず最初は、2007 年から現在までの非金融関連企業への貸付動向である。たぶんイタリア が一番悪いだろうと思っていたが、スペイ ンの浮き沈みの激しさには、正直驚いた。ただし、この 国の特長は落ちるのも早いが、回復するペースも力強い。それと比較して、イタリアは恒常的にパ ッとしない状態が続いている。 データ: ECB ホームページ https://www.ecb.europa.eu/stats/money/aggregates/bsheets/html/growth_rates_A20.A.U2.2240.en.html 次は、一般世帯向けの貸付状況だ。ここでも、スペインの派手さがやけに目立つ。それと比較して、 ドイツは常に低空飛行だ。たぶんこれは経済の良し悪しではなく、国民性の問題で、ドイツ人は銀 行から借りるという行為を、あまりしないのだろう。フランスに関しては、非金融関連企業の動向は 他のユーロ加盟国と同じ動きをしているが、一般世帯については、他のどの国とも違う独特の動 きとなっているのが面白い。 データ: ECB ホームページ https://www.ecb.europa.eu/stats/money/aggregates/bsheets/html/growth_rates_A20.A.U2.2240.en.html これらのチャートから読めることは、マーケットにはお金がジャブジャブ余っているが、景気回復の 手助けとなる企業や個人への貸付には廻らず、株な どの投機へ流れ込んでいる可能性がありそ うだ。この傾向が続けば、今後どれだけ ECB が緩和策を導入しても、景気浮揚は掛け声だけの政 策導入になりかねない。この点について、是非ドラギ総裁の意見を伺いたいところである。 ●ここからのマーケット動向 ユーロ実効レートを見ると、今年 3 月からチャート上の黄色い枠の中での動きに終始している。 最近になり、上昇チャネルに入ったのか?と思わせる動きが出てきたが、まだ何とも言えない。 チャート:ECB ホームページ http://www.ecb.europa.eu/stats/exchange/effective/html/index.en.html もし 9 月 8 日(木)の ECB 理事会が予想以上にハト派になり、上昇チャネルの下限を下抜けた場 合は、黄色い枠の下限が次のサポートとなろう。 絶対にないとは思うので「ECB 理事会に向けた予想」のところでは省略したが、「万が一」サプライ ズ が起きるのであれば、 ①個別債券の購入上限の引き上げ ②国債購入に関するキャピタル・キー(ユーロ加盟各国の ECB への出資比率)導入の撤廃 ③国債購入の最低利回りはデポジット金利と定められているが、これの撤廃 などが考えられる。 最後になるが、ECB 理事会に向け、私が注目しているのが「ユーロ/英ポンド」の動向である。 現在は、水色のハイライトの中(0.83 ポンドミドル~0.88 ポンド Low)での値動きとなっている。この ハイライトの部分は黄緑のハイライト同様、プライスが上昇/下落を繰り返しやすいレベルだ。それ に対して、黄色いハイライト部分は、一度突入すると、一気に動く傾向が強い。 9 月 8 日(木)の ECB からの発表内容により、以下の値動きを予想する。 -------------------------------------------------------------------------------【執筆者:松崎美子氏( ロンドン在住/元為替ディーラー)プロフィール】 東京でスイス系銀行 Dealing Room で見習いトレイダーとしてスタート。18 カ月後に渡英決 定。1989 年よりロンドン・シティーにあるバークレイズ銀行本店 Dealing Room に就職。1991 年に出産。1997 年シティーにある米系投資銀行に転職。 その後、憧れの専業主婦をしたが時間をもてあまし気味。英系銀行の元同僚と飲みに行き、 証拠金取引の話しを聞き、早速証拠金取引開始。 -------------------------------------------------------------------------------【本レポートの趣旨】 本レポートは松崎美子氏より発行されているレポートであり、情報提供のみを目的として おります。 本レポート中のコメントは独自の見解に基づいたものであり、松崎美子氏、およびワイジ ェイFX株式会社共にレポート中の情報・意見等の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明 示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。 また、本レポート内のコンテンツ、データに関する著作権はワイジェイFX株式会社に帰属 しております。 コンテンツ、データ等は私的利用の範囲内で使用し、無断転載、無断コピー等はおやめく ださい。 さらに、かかる情報・意見等に依拠したことにより生じる一切の損害について、松崎美子 氏、およびワイジェイFX株式会社は一切責任を負いません。 最終的な投資判断は、他の資料等も参考にしてご自身の判断でなさるようお願いいたしま す。
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