洞 察 - アリアンツ・グローバル・インベスターズ

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アリアンツ・グローバル・インベスターズ
洞 察
2016年8月
グローバル・ビュー
現段階での投資に対してBrexit騒動が示唆すること
重要なポイント
■
世界を覆う不確実性は、依然続いている金融抑圧
によりすでに高まっていますが、フランス、トルコな
どでの地政学的リスクの高まりを受けてさらに深刻
化しています。
■
英国経済は厳しい逆風にさらされているものの、イ
ングランド銀行の追加緩和、財政支出の拡大、そし
てポンド安の進行による恩恵を受けるでしょう。
■
欧州各地で政治情勢の不透明感が高まっており、
低迷する世界の成長の影響を大きく受け易い状況
にあります。
■
世界的に質への逃避傾向が強まり、株価が一時
大幅下落した一方、債券価格が急騰する中、英国
と欧州の株式は、「訳ありで安い」状況にあるようで
す。
■
ニール・ドゥエイン
グローバル・ストラテジスト
今後欧州では国民投票が、米国では11月に大統領選
挙が控えていることを考えれば、政治的不透明感はこ
の先ますます高まることが予想されます。経済成長が
世界的に停滞する中で政治的不透明感が高まると考え
れば、インカム収入がもたらす安定性に投資家の関心
が集まるのも当然でしょう。こうした「高利回り選好」の
動きは長期的なトレンドであり、この下半期に米国とア
ジアの資産に恩恵をもたらすでしょう。
欧州と英国
我々の予想どおり、Brexitの影響を大きく受けたのは、
英国ではなく欧州でした。新政権の発足を受け、英国は
バランスを取り戻しつつあります。この新政権に与えら
れた使命は、欧州以外の地域と建設的な関係を築きな
がら、可能な限り滞りなく欧州から「過去40年で初めて」
離脱することに他なりません。Brexit決定以降のポンド
安を考えれば、英国経済は今後逆風に直面するでしょ
うが、それでも追加的に実施された積極的な金融刺激
策と中央政府による財政政策の恩恵を受けられるはず
です。ポンドの下落基調は英国に拠点を置く多国籍企
業への影響を緩和する形となり、英国株式は目下のと
ころ欧州株式をアウトパフォームしています。
これまでのところBrexitのアジアへの影響は軽微で
す。中国、インド、日本ではポジティブなトレンドが
形成されています。また、米国はデフォルトの心配
のない安全な投資先となっています。
Brexitという予想外の投票結果で生じたボラティリティが
沈静化し始め、世界の市場はここ数週間で何にも増して
必要な冷静さを取り戻しつつあります。市場はグローバル
で総じて同様の動きを見せる中、各国がそれぞれのペー
スで冷静さを取り戻しつつあります。
同時に、世界経済の先行き不透明感は(我々が注目して
いる金融抑圧というテーマに従って)既に高まっています
が、欧州で続くテロ事件やトルコのクーデター未遂などの
Brexit以外の様々な変動要因によってさらに悪化していま
す。
一方欧州は、Brexitの影響で政治的には不安定な局面
に置かれているものの、経済的には、停滞が続く世界
1
経済の影響を受けやすい状況にはありますが、今後深刻
な結果が生じたとしてもその影響は軽微になものに留ま
るでしょう。
欧州が不確実性に覆われていることを考慮すれば、アジ
アと新興国が魅力的なファクターを提供してくれそうです。
英国と欧州のいずれの市場においても、ソブリン債に資
産を再配分する質への逃避が見られましたが、欧州中央
銀行(ECB)の緩和政策によってソブリン債はすでに高値
圏にあります。ソブリン債の高騰は株価の犠牲の上に成
り立っており、特に金融機関はBrexit後の規制、「パス
ポート権」、経済成長に対する不確実性に悩まされていま
す。英国と欧州の株式はグローバル株式に比べて過少
評価されているようですが、現在は「訳ありで安い」状況
にあります。マイナス金利が欧州の現金と債券を保有し
ている投資家を利回りの高い株式への投資に駆り立てな
い限り、現在の状況は今後数年間続くでしょう。
米国
Brexit決定後の世界で、米国はデフォルト「リスク回避先」
となったため米ドル高が進み、世界中の米国債投資家が
利回りを押し下げています。ハードカレンシー建てのハイ
イールド債は依然として魅力的な水準にあります。また成
長のペースは緩やかになりつつも引き続き堅調さを見せ
る米国経済を踏まえ、連邦準備制度理事会(FRB)は利
上げを検討しています。その結果、米国株のバリュエー
ションは拡大し、収益予想の後退が続いていますが、米
国は、控えめなリターンと引き換えに適度なリスクを取る
ことができる最も安全な場所となっています。
英国と欧州の株式はグローバル株式に比べて過少評価
されているようですが、現在は「訳ありで安い」状況にあり
ます。
その一方で、当然ながら米国の政治的リスクは明らかに
増大しており、市場全般のボラティリティを押し上げる中、
それは11月にピークを迎えることが予想されます。それで
も欧州が直面している困難に比べれば、米国が直面して
いる問題は制御可能だと考える投資家が増えてきている
といえるでしょう。
アジア太平洋地域
Brexit直後の衝撃も今や和らぎ、アジアにBrexitの影響は
ほとんど見られません。むしろ、各国が抱える事情が顕在
化してきています。
■
中国は、新5ヵ年計画制定後、安定しています。
■
インドのモディ首相は、議会で前進を続けています。
また、残念な結果に終わったモンスーン国会と、イン
ド準備銀行のラジャン総裁の退任による影響から回
復しつつあります。
■
日本では、再選された安倍首相が「アベノミクス2.0」
の始動に向けて万全を期しているようですが、日銀
によるもう一段の質的量的緩和と政府による財政支
出拡大に留まらず、実際の構造改革に踏み込むの
かは定かではありません。
また同時に、アジア各国は、引き続き米ドル高と世界の貿
易取引の影響を大きく受けており、そのため低迷が続い
ています。ただ、欧州が不確実性に覆われていることを考
慮すれば、アジアと新興国が以下の魅力的なファクターを
提供してくれそうです 。
■
株式投資家にとって、アジアには利益成長が見込ま
れるにもかかわらず、過小評価された市場が存在し
ていると思われます 。
■
株式リスクを取りたくない、あるいは取れない投資家
にしてみれば、アジアには、現地通貨建てまたは
ハードカレンシー建て(国際決済通貨)の高利回りソ
ブリン債の投資機会が存在します 。
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欧州の見通し
ECBが買い入れる債券がなくなったらどうなるのか?
欧州中央銀行(ECB)がソブリン債の買い入れを開始して
から17ヵ月が経過し、マイナス金利導入やBrexitにからむ
政治的な不確実性の高まりについて言及するまでもなく、
ユーロ圏国債の半分以上の表面利率がマイナスとなって
います。
アン・カトリン・ピーターソン
インベストメント・ストラテジスト
ここにきて「流動性不足への恐怖」という考えが話題にの
ぼりはじめ、投資家はユーロ圏の中央銀行が買い入れる
れています。しかしながら、キャピタル・キーに従って資
債券が不足したらどうなるのだろうかと自問しています。
産を購入するという法的要件は一切なく、国際機関が発
ECBが自らに課している買い入れの制約や、特に預金金
行した債券などの代替的な購入はすでに認められてい
利への制約のため、買い入れ債券が不足するというシナ
ます。
リオが現実のものになるのではないかと市場は懸念して
ECBがとる選択肢の一つとして、キャピタル・キーの撤
います*。
廃が挙げられます。それによりECBは重債務国の債券
有り難いことに、買い入れる債券が不足するという問題は
を買い入れる割合が高まり、結果としてECBが財政ファ
ユーロ圏全体で見ても、当面は発生しそうもありません。
イナンスに向かっているとの批判が生じるでしょう。
ユーロ圏全体で見ると、公的部門資産購入プログラム
(PSPP)で現在購入可能な資産の供給は、2017年3月末
このシナリオを回避するため、ECBはキャピタル・キーを
まではECBの予想需要を上回っています。しかし、最初に
全面的に撤廃しないことも考えられます。むしろ、政策
投資適格債券が不足するのはドイツ連邦銀行になる可能
理事会は量的緩和のパラメーターを調整するにあたり、
性が高そうです。買い入れ債券の供給不足は、量的緩和
集団行動条項(CAC)を含めずに発行できる上限金額を
が来年の3月以降に延長される場合には、さらに切迫した
引き上げるなど、いくつかのアプローチを試すと見られ
問題となるでしょう。
ます。他にも、預金金利の引き下げ、金利フロアの引き
下げ、適格満期レンジの変更、または買い入れ対象資
こうした買い入れ債券の不足問題に対処すべく、ECBの
産の拡大などが考えられます。
政策理事会は、政治的な解決策(各国のECBへの出資割
合(キャピタル・キー) に関するルールの変更など)よりも
ECBがキャピタル・キーについてどういう判断を下そうと
テクニカルな解決策(預金金利のフロアの引き下げなど)
も、明確なことがあります。それは、今日の市場情勢を
の導入を検討するでしょう。
考えると、ECBは量的緩和のパラメーターをこの先数ヵ
月間のうちに調整する必要がほぼ確実にあるということ
ECBのキャピタル・キーでは、ソブリン債の購入は、ユーロ
です。
圏全域の人口とGDPに占める各国の割合に応じて分担
する(例えば、ドイツは25.6%、フランスは20.1%)と定めら
“流動性不足が再び議題にあがっている”
* ECBの買い入れにおける制約についての補足: 1) 満期のレンジ: 債券の残存
年限は2年以上31年未満であること。2) 預金金利の制約: 購入時の利回りがECB
預金ファシリティ金利(現在は年率-0.4%)を上回っている国債だけを購入。3) 発行
体/銘柄毎の購入上限: 公的部門資産購入プログラムの一環で、発行体および銘
柄あたり(発行シェアの上限は25%(ただし、個別に検証する)の購入上限は発行
残高の33%とし、集団行動条項(CAC)付きの債券は除く。
出所:Bloomberg、ECB、アリアンツGI グローバルキ・キャピタル・マーケッツ& テマティック・リサーチ (2016年8月3日時点)
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ビューポイント
政府との連携で焦りを感じる日銀
日本では、安倍首相率いる連立政権が参議院選挙で勝
利を収め、参議院の3分の2の議席を獲得したことで「アベ
ノミクス2.0」への強力なサポートを得たようです。これは、
財政支出の拡大を許し、一段の金融緩和との連携を図る
もので、日本のデフレ脱却のスピードを速めるのに役立つ
でしょう 。
ステファン・シューラー
経済対策の落とし穴
シニア・インベストメント・ストラテジスト
安倍首相はつい最近、日本のGDPの5.6%に相当する28
兆1,000億円規模の経済対策の政府案を発表し、経済を
下支えする姿勢を明らかにするとともに、補正予算の規
模を拡大しました。しかし、この経済対策の規模は一見す
ると十分に思えますが、詳細に見ると落とし穴が見受けら
れます。政府が直接負担する財政支出13兆5,000億円は
予想を上回りますが、国と地方が実質的に負担する財政
支出(真水)は7兆5,000億円に留まるうえ、数年間に分け
て投入される可能性があります。それでは実際の財政支
出のタイミングが不明なため、経済成長への即効性もあ
まり期待できないでしょう。
価する猶予を与えるでしょう。市場へのサプライズを好
む黒田日銀総裁の傾向を考えれば、政策担当者たち
は、この猶予を使って現在検討されていないような緩和
措置を探る可能性もあります。
全体を通してみると、日銀は厳しい状況に置かれていま
す。金融政策ツールの3つの側面(金利、量、質)をまだ
使い切っておらず、市場は量的・質的金融緩和の有効
性を疑問視しています。また、確固たる信念を貫き、何
の措置も講じなければ、日銀の金融ツールの有効性に
対する市場の疑念は強まるでしょう 。
ヘリコプター・マネーの議論は一旦棚上げに
新たな経済対策が進む中、日銀は日本経済の下支えに
ついて政府と連携をするとの見方が強まっており、7月28
日~29日の金融政策決定会合前には期待が高まってい
ました。市場が問題にしているのは、経済が依然として脆
弱で価格上昇圧力が弱まってきていることで、期待インフ
レ率は最近さらに低下が続いています。さらに、円高が企
業収益に影を落とし、賃上げの意欲は後退しています。
概して、一段の金融緩和が実施されるのは明らかで、日
銀は弾切れだとの見方を払拭するような迅速かつ確固た
る措置を市場は期待しています 。
財政支出の拡大と金融緩和の個別の効果が薄れ、また
日銀のインフレ目標が達成できない可能性が高まって
いることから、今後は日銀と政府が密に連携して政策に
臨むことが期待されます。
多くの要因が市場の関心を集めていることから、日本の
ヘリコプター・マネーに関する時に活発な議論は、少なく
とも当面は沈静化するでしょう。
しかしながら、1ドル100円の重要ポイントを突破して円
高が進むようなことがあれば、日銀は9月の会合開催を
待たずにどのような追加緩和措置を講じるかを決定しな
くてはならないプレッシャーにさらされるでしょう。
日銀が超えなければならないハードル
しかし、日銀は7月の会合で、市場を驚かせるような解決
策を出すことはできませんでした。資産購入全般のペー
スの拡大や、現行政策金利(マイナス0.1%)の更なる引き
下げも行いませんでした。それでもETFの年間購入額をお
よそ2倍の6兆円に引き上げることや、海外投資を目的と
するドル建て貸付プログラムを240億米ドルに拡大するこ
とも発表しました。また、日銀は日本国債を市中銀行に貸
し出す新たなファシリティの設置も計画しています。これ
は、市中銀行の収益への影響を和らげ、支えることになる
でしょう。今日のマイナス金利を考えれば、極めて有効な
プログラムだと思われます。
“ 日銀はETF購入額を引き上げることで市場の失望を回復させること
を期待している”
7月28日~29日の金融政策決定会合でBOJはETF購入額を引き上
げ、年間6兆円とすることを発表した。
日銀は、9月20日~21日に開催予定の金融政策決定会
合で、現行の金融政策の成果を包括的に評価する予定
であることを発表しました。これは、政策担当者たちが、
来月まで様子を見たうえで追加的措置を検討することを
示唆しており、つまりは追加的金融緩和が実施されるか
どうかの不透明さはその時まで続くことを意味します。し
かしながら、この小休止は、日銀に政府の経済対策を評
出所:トムソン・ロイター、アリアンツGIエコノミクス&ストラテジー
(2016年7月27日時点)
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リサーチから一言
欧州の不動産セクターがシェルター以上の役割を
果たす
数多くある金融機関の中でも、銀行と保険会社が今日の
超低金利環境に苦しむ一方で、低金利の恩恵を受けてい
る金融機関のサブセクターがあります。それは不動産業
界です。不動産業界の好調さは株式市場にも顕著にあら
われ、最近アウトパフォームしている主要銘柄は不動産
株です 。
Dr.ディルク・ベッカー
低金利借入れで収益とキャッシュフローを増大
欧州金融セクター・ヘッド
低金利が不動産会社に恩恵をもたらすのはなぜでしょう
か。それは、低金利のおかげで調達コストが軽減されるか
らに他なりません。不動産会社の多くは、借入比率40%
~60%で運営しており、過去の借入コストは平均で5%を
超えていました。しかし今日の借入コストは2%~3%まで
低下し、直近調達したものは1%以下になっています。こ
のように低コストでの借入れは収益とキャッシュフローに
多大な影響を及ぼします 。
欧州はドイツ主導でアウトパフォーム
Brexitの影響下にある英国を除けば、欧州の不動産セク
ター全体を安全な投資先だと見る投資家が多く、なかでも
ドイツの住宅セクターが特に魅力的だと思われます。そう
した不動産会社は、手頃な価格の住居という不可欠な
ニーズに対応し、さらには難民の流入、好調な経済、低い
空室率、供給不足といった現在ドイツの不動産市場に影
響を及ぼしている幅広いマクロ要因の恩恵も受けている
のです。ドイツの不動産価格と賃料水準はここ数年にわ
たり上昇が続いていますが、他の国と比較してもまだ妥当
な水準にあります。
低金利でバリュエーションが上昇
不動産会社にとって低金利は、借入コストの低下だけで
なく、保有資産評価の上昇にもつながります。不動産の市
場価格は、無リスクレートにおよそ200bpのリスクプレミア
ムを上乗せした金利とリンクしているのが一般的です。金
利が正常な水準にあれば、不動産のキャップレートは6%
(または年間賃料収入の17倍)程度です。ところが、低金
利によってキャップレートは低下し、不動産の評価倍率は
年間賃料収入の20倍、25倍、あるいは33倍にまで跳ね上
がっています。この状況を受けて、多くの不動産会社は
ポートフォリオの評価を引き上げます。すると1株あたりの
純資産価額も上昇し、当然ながら株価が上昇します。
結局のところ、欧州の不動産セクターは全般的に、他のセ
クターをもう一段アウトパフォームする好機があり、とりわ
けドイツの住宅セクターに好機があると見られます。
“ドイツ住宅関連企業は住宅価格上昇に支えられている ”
“ドイツの住宅価格は上昇しているものの、購入可能な範囲で推移”
世界金融危機後、ドイツ住宅価格は堅調に推移。
ドイツでは、70m2のアパートメントは購入者の平均的な年間総所得の
約3倍となっており、非常に購入しやすい環境となっている。
出所:KeplerCheuvreux、アリアンツ・グローバル・インベスターズ
出所:Immobilienscout24 (2016年7月24日時点)
(2016年7月末時点)
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DBIM20160825-1
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