FRB 銀行上級貸出担当者調査(2016 年 7 月)

米国経済
2016 年 8 月 18 日
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FRB 銀行上級貸出担当者調査(2016 年 7 月)
企業向けローンの貸出基準の厳格化が続く
ニューヨークリサーチセンター
上野 まな美
シニアエコノミスト 土屋 貴裕
[要約]

2016 年 7 月の調査によると、企業向けローンにおいては、商工ローンと商業用不動産
ローンともに貸出基準が厳格化された。借入需要は、商工ローンにおいてほとんど変わ
らず、商業用不動産においては増加した。

家計向けローンでは、住宅ローンの全分野における貸出基準にはほぼ変わりがなかった
一方、消費者ローン貸出基準の変化は様々であった。借入需要は、住宅ローンの大半の
分野で増加し、消費者ローンの需要も全分野において増加した。
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FRB(連邦準備制度理事会)の 2016 年 7 月の銀行上級貸出担当者調査(Senior Loan Officer
Opinion Survey on Bank Lending Practices)は、2016 年 4 月から 6 月の 3 ヵ月間における銀
行の企業向け及び家計向けローンの貸出基準、貸出条件、借入需要の変化に関する調査である。
同調査では、米国銀行 71 行と、米国に支店を持つ外国の大手銀行 23 行が対象になった。
企業向けローンに関しては、商工ローンと商業用不動産ローンともに貸出基準が厳格化され
た。借入需要は、商工ローンにおいてほとんど変わらず、商業用不動産においては増加した。
家計向けローンは、住宅ローンの全分野における貸出基準がほぼ変わりなかったが、GSE
(Government-Sponsored Enterprise:政府支援機関)適格住宅ローンの貸出基準を緩和した銀
行があった。住宅ローンの借入需要は、大半の分野で増加した。消費者ローンに関しては、貸
出基準の変化が様々であった一方で、全分野において需要が増加した。
今回、貸出基準の適正水準を問う特別調査が行われた。それによると、投機的格付けの企業
に対するシンジケートローンを除き、商工ローン全分野における銀行の現在の貸出基準は、2005
年から現在までの貸出基準の中央値より緩和されている。しかしながら、商業用不動産ローン
における現在の貸出基準は、一般的に全分野において 2005 年から現在までの貸出基準の中央値
より厳格化されている。企業向けローン全体では、1 年前に行われた同様の調査の回答に比べる
と貸出基準を緩和した銀行が少なく、厳格化した銀行の方が多かった。
住宅ローンの現在の貸出基準は、全分野で 2005 年から現在までの貸出基準の中央値よりも厳
格化されており、サブプライム層向けの消費者ローンも貸出基準が厳格化されている。反対に、
プライム層向けの消費者ローンに対しては、現在の貸出基準が 2005 年から現在までの貸出基準
の中央値よりも緩和されている。
また、今回の特別調査では、非預金取扱金融機関に対する現在の貸出基準についての質問が
新たに加えられた。非預貯金取扱金融機関に対する現在の貸出基準は、2005 年から現在までの
貸出基準の中央値よりも厳格化されているとの回答があった。
商工ローン
商工ローンの貸出基準は、大・中堅企業向け及び中小企業向けともに厳格化された。大・中
堅企業向けの貸出条項の変化に関しては回答が様々であり、資金コストに対する貸出金利のス
プレッドを縮小した銀行があったほか、リスクが高いローンに対するプレミアムを引き上げた
銀行もあった。中小企業向けの貸出条件も回答が様々で、金利のスプレッドを縮小し、金利フ
ロアの使用を減らした銀行もあったが、リスクが高いローンに対するプレミアムを引き上げ、
貸出条項を厳格化した銀行があった。商工ローンの貸出基準や貸出条件を厳格化した米国銀行
の大半は、不確かな経済見通しや業界特有の問題の悪化、リスク許容度の低下を重要な理由と
して挙げている。一方、貸出基準や貸出条件を緩和したと回答した米国銀行は、他の銀行やノ
ンバンクとの競争激化を主な理由としている。
商工ローンの借入需要は、大・中堅企業、中小企業からの需要ともにほとんど変わらなかっ
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た。しかし、借入需要が増加したと回答した大半の銀行は、顧客の在庫や売掛債権の資金ニー
ズの増加、設備投資の増加を重要な理由としている。その反対に、借入需要が減少したと回答
した半数以上の銀行は、顧客の在庫や売掛債権への資金ニーズの減少、設備投資の減少を理由
として挙げた。
中小企業向け商工ローンの貸出基準及び借入需要
大・中堅企業向け商工ローンの貸出基準及び借入需要
(%)
100
(%)
100
(%)
80
80
60
貸出基準
80
貸出基準
借入需要(右軸)
増加
40
借入需要(右軸)
60
40
40
20
20
0
0
増加
厳格化
60
60
厳
格 40
化
20
(%)
80
20
0
0
緩和
-40
-60
-60
-60
-80
-80
-40
-60
-80
減少
緩和
-40
-40
(年)
(注)中小企業は年間売上高が5,000万ドル未満。
(出所)FRB, Haver Analyticsより大和総研作成
貸出高
前年比(右軸)
2,000
(%)
(%)
25
100
20
80
15
60
10
40
大・中堅企業向け
5
拡大
1,500
0
-5
1,000
-15
中小企業向け
20
0
-20
縮小
-10
500
(年)
商工ローンの金利スプレッド
商工ローンの貸出高及び前年比(全商業銀行)
(10億ドル)
2,500
-80
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16
(注)大・中堅企業は年間売上高が5,000万ドル以上。
(出所)FRB, Haver Analyticsより大和総研作成
減少
-20
-20
-20
-20
-40
-60
-20
-80
-25
0
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16
(年)
(出所)FRB, Haver Analyticsより大和総研作成
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16
(年)
(注)大・中堅企業は年間売上高が5,000万ドル以上。中小企業は5,000万
ドル未満。
(出所)FRB, Haver Analyticsより大和総研作成
4/6
商業用不動産ローン
商業用不動産ローンの全分野(建設及び土地開発、非農業用・非住宅用不動産物件、集合住
宅物件)において、全般に貸出基準が厳格化された。特に、建設及び土地開発と集合住宅物件
に対する貸出基準の厳格化が目立った。
商業用不動産ローンの借入需要は、全般的に全ての分野において増加した。
商業用不動産ローンの貸出基準
商業用不動産ローンの借入需要
(%)
(%)
60
80
40
増加
100
20
60
厳
格 40
化
0
減少
20
-20
-40
-20
-60
緩和
0
-80
-40
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16
(年)
(注)全商業用不動産の平均値を示す。
(出所)FRB, Haver Analyticsより大和総研作成
商業用不動産ローンの貸出高及び前年比(全商業銀行)
(10億ドル)
2,000
(年)
商業用不動産価格の推移(前年比)
(%)
20
貸出高
(注)全商業用不動産の平均値を示す。
(出所)FRB, Haver Analyticsより大和総研作成
(%)
30
前年比(右軸)
1,800
15
1,600
20
10
1,400
10
1,200
0
1,000
5
-10
800
0
600
400
-5
200
0
-10
05
06
07
08
09
10
11
12
(注)2004年第2四半期以前のデータは未公表。
(出所)FRB, Haver Analyticsより大和総研作成
13
14
15
16
(年)
-20
FRB商業不動産価格指数
-30
Green Street Advisors商業
不動産価格指数
-40
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16
(年)
(出所)FRB, Green Street Advisors, Haver Analyticsより大和総研作成
5/6
住宅ローン
住宅ローンの貸出基準は、GSE 適格住宅ローンの貸出基準を緩和した銀行があったが、他の分
野の住宅ローンに対する貸出基準は基本的に変わらなかった。
住宅ローンの借入需要は、大半の分野で増加した。GSE 適格住宅ローン、政府住宅ローン、QM
(Qualified Mortgage:適格)非ジャンボ・非 GSE 適格住宅ローン、QM ジャンボ住宅ローン、
非 QM ジャンボ住宅ローンの需要増加が比較的目立った。
また、リボルビング式 HELOC(Home Equity Lines of Credit:ホーム・エクイティ・クレジ
ットライン)の申請承認に対する信用基準にはほとんど変わりがなかったが、需要は増加した
との回答が多数あった。
住宅ローンの借入需要
住宅ローンの貸出基準
(%)
100
(%)
80
全体
プライム
80
サブプライム
増加
サブプライム
60
プライム
非トラディッショナル
60
非トラディッショナル
全体
40
20
0
減少
厳格化
40
-20
20
-40
0
-60
緩和
-20
-80
-100
-40
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16
(年)
(注)2007年第2四半期より、住宅ローンの分類別貸出基準を発表。2014年
第4四半期からは、7つに分類。回答が3社以下の場合、データは未公表。
(出所)FRB, Haver Analyticsより大和総研作成
住宅ローンの貸出高及び前年比(全商業銀行)
(年)
(注)2007年第2四半期より、住宅ローンの分類別貸出基準を発表。2014年
第4四半期からは、7つに分類。回答が3社以下の場合、データは未公表。
(出所)FRB, Haver Analyticsより大和総研作成
住宅価格の推移
(10億ドル)
(%)
20
貸出高(四半期平均)
2,500
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16
(1991年Q1=100)
250
(2000年1月=100)
210
前年比(右軸)
2,000
15
230
190
10
210
170
5
190
150
0
170
1,500
1,000
130
FHFA住宅価格指数
500
0
05
06
07
08
09
10
11
12
13
14
15
16
-5
150
-10
130
(年)
(注)2004年第2四半期以前のデータは未公表。ホームエクイティローンを含む。
(出所)FRB, Haver Analyticsより大和総研作成
ケース・シラー住宅価格指数
(20都市、右軸)
110
90
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16
(年)
(注)四半期平均。
(出所)FRB , Haver Analyticsより大和総研作成
6/6
消費者ローン
消費者ローンへの貸出意欲が強くなった銀行があり、クレジットカードローンに対する貸出
基準の緩和が見られた。その半面、自動車ローンの貸出基準を厳格化した銀行があったが、他
の消費者ローンの貸出基準は基本的に変わらなかった。
消費者ローンの貸出条件に関しては、資金コストに対するクレジットカードの未払金の金利
のスプレッドを拡大したり、クレジットカードローンに最低必要とするクレジットスコアの引
き下げを行った銀行があったほか、自動車ローンの貸出金利のスプレッドの拡大も報告された。
クレジットカードと自動車ローン以外の他の消費者ローンに対する貸出条件には基本的に変わ
りがなかった。
消費者ローンの借入需要は、全般において増加した。
消費者ローンの借入需要
消費者ローンの貸出基準
(%)
40
(%)
80
70
クレジットカード
クレジットカード以外
増加
60
50
消費者ローン全体
クレジットカード
30
自動車ローン
20
クレジットカード及び
自動車以外
10
40
0
-10
減少
厳格化
30
20
-20
10
-30
0
-40
緩和
-10
-50
-20
-60
-30
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16
(年)
(出所)FRB, Haver Analyticsより大和総研作成
消費者ローンの貸出意欲及び小売・飲食店売上前年比
(%)
40
消費者ローンの貸出意欲
30
小売・飲食店売上前年比(右軸)
(注)2011年第2四半期より、消費者ローンの分類別借入需要を公表。
(出所)FRB, Haver Analyticsより大和総研作成
(年)
家計の負債残高の構成(住宅ローンを除く)
(%)
15
(兆ドル)
1.4
学生ローン
強い
10
20
自動車ローン
1.2
クレジットカード
ホームエクイティローン
1.0
10
5
その他
0
0.8
-10
0
弱い
0.6
-20
-5
-30
0.4
-40
-10
0.2
-50
-60
-15
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16
(年)
(出所)FRB, Census, Haver Analyticsより大和総研作成
0.0
03
04
05
06
07
08
09
10
11
12
13
14
15
16
(年)
(出所)NY連銀, Haver Analyticsより大和総研作成