FRB 銀行上級貸出担当者調査(2016 年 10 月)

米国経済
2016 年 11 月 17 日 全 7 頁
FRB 銀行上級貸出担当者調査(2016 年 10 月)
商業用不動産ローンの貸出基準の厳格化が続く
ニューヨークリサーチセンター
上野 まな美
シニアエコノミスト 土屋 貴裕
[要約]

2016 年 10 月の調査によると、企業向けローンにおいては、商工ローンの貸出基準は基
本的に変わらなかったが、
商業用不動産ローンの貸出基準は厳格化された。借入需要は、
大・中堅企業向け商工ローンの需要が減少したとの回答が米国銀行からあったものの、
中小企業向けの需要はほとんど変わらなかった。商業用不動産においては、建設及び土
地開発ローンの需要が増加した一方で、非農業用・非住宅用不動産物件ローンと集合住
宅物件ローンの需要はほぼ変わりがなかった。

家計向けローンにおいては、住宅ローンの GSE 適格住宅ローンに対する貸出基準を緩和
した銀行が僅かにあったほか、QM ジャンボ住宅ローンや、QM 非ジャンボ・GSE 非適格
住宅ローンに対する貸出基準を緩和した銀行が若干あった。消費者ローン貸出基準は基
本的に変わらなかった。借入需要は、住宅ローンの大半の分野で増加し、消費者ローン
においては自動車ローンとクレジットカードローンの需要が増加した。
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FRB(連邦準備制度理事会)の 2016 年 10 月の銀行上級貸出担当者調査(Senior Loan Officer
Opinion Survey on Bank Lending Practices)は、2016 年 7 月から 9 月の 3 ヵ月間における銀
行の企業向け及び家計向けローンの貸出基準、貸出条件、借入需要の変化に関する調査である。
同調査では、米国銀行 69 行と、米国に支店を持つ外国の大手銀行 21 行が対象になった。
企業向けローンに関しては、商工ローンに対する貸出基準が基本的に変わらなかった一方、
商業用不動産ローンに対する貸出基準は厳格化された。商工ローンの借入需要は、大・中堅企
業向けからの需要が減少したとの回答が米国銀行からあったが、中小企業からの借入需要はほ
とんど変わらなかった。また、商業用不動産の借入需要は、建設及び土地開発ローンの需要が
増加したとの回答があった一方で、非農業用・非住宅用不動産物件ローンと集合住宅物件ロー
ンにおいては、ほぼ変わりがなかった。
今回、商工ローンの借入需要に関する 2 つの特別調査が行われた。1 つ目は、顧客が他行やノ
ンバンクから借入を行うようになった理由と、反対に他行やノンバンクでなく、自行で借入を
行うようになった理由の調査である。顧客が他行やノンバンクから借入を行うようになった理
由は、他行やノンバンクの価格条件、ノンバンクの非価格条件、他行の非価格条件と社債発行
の価格条件がより魅力的となったためとの回答が大半であった。一方、顧客が自行で借入を行
うようになった理由としては、他行の価格条件と非価格条件、ノンバンクの価格条件、そして
ノンバンクの非価格条件の魅力低下が主な理由として挙げられている。
2 つ目の特別調査は、現在の商工ローンの借入需要と、今後 6 ヵ月間にわたっての借入需要を
比較した見通しである。それによると、商工ローンの借入需要は企業の規模に関係なく、今後 6
ヵ月間基本的に変わらないと銀行はみている。
家計向けローンは、住宅ローンの貸出基準において、GSE(Government-Sponsored Enterprise:
政府支援機関)適格住宅ローンに対する貸出基準を緩和した銀行が僅かにあったほか、QM
(Qualified Mortgage:適格住宅ローン)ジャンボ住宅ローンや、QM 非ジャンボ・GSE 非適格
住宅ローンに対する貸出基準を緩和した銀行が若干あった。他の住宅ローンに関しては、貸出
基準がほとんど変わらなかった。住宅ローンの借入需要は、大半の分野において増加した。消
費者ローンに関しては、貸出基準は基本的に変わらず、借入需要は自動車ローンとクレジット
カードローンにおいて増加した。
また、特別調査として、FICO スコア1に基づくクレジットカード申請承認の可能性評価が行わ
れた。それによると、3 ヵ月前と比較して FICO スコア 620 の申請者に対するクレジットカード
の承認を行わないと回答した銀行が多く、720 のスコアの申請者に対しては、承認の可能性が高
いとの回答があった。
1
FICO 社による信用格付けであり、米国で最も一般的に利用されている。FICO スコアは 300~850 の間のスコア
で決められ、2015 年における全米平均は 695 であった。
3/7
商工ローン
商工ローンの貸出基準は、米国銀行においては大・中堅企業向け及び中小企業向けともに基
本的に変わりがなかった。大・中堅企業向けの貸出条件に関しては回答が様々であり、貸出限
度を引き上げた銀行もあった半面、資金調達コストに対する貸出金利のスプレッドを縮小した
り、金利フロアの使用を減らした銀行も若干あった。しかし、他の貸出条件は基本的に変わり
がなかった。中小企業向けの貸出条件の変化も様々であり、融資限度の引き上げや、資金調達
コストに対する貸出金利のスプレッドの縮小、金利フロアの使用を減少した銀行があったほか、
貸出枠に掛かる費用を下げた銀行も見られた。しかし、その他の貸出条件は、基本的に変わり
がなかった。
商工ローンの貸出基準や貸出条件を厳格化した米国銀行の大半は、不確かな経済見通しを重
要な理由として挙げている。また、業界特有の問題の悪化や、他の銀行やノンバンクとの競争
の減少、リスク許容度の低下、商工ローンの流通市場における流動性の低下、そして、監督上
の処分や会計基準の変化などの法規制への懸念増加を理由として挙げた銀行も多数あった。そ
の一方で、貸出基準や貸出条件を緩和したと回答した米国銀行の大半は、他の銀行やノンバン
クとの競争激化を主な理由としており、その他にも経済見通しの改善や、リスク許容度の上昇、
商工ローンの流通市場における流動性の上昇、銀行における流動性の向上が理由として多く挙
げられている。
商工ローンの借入需要は、大・中堅企業からの需要が減少したとの回答があったが、中小企
業からの需要はほとんど変わらなかった。対照的に、貸出限度に関する問い合わせが増加した
と回答した銀行もあった。商工ローンの借入需要が減少したと回答した大半の銀行は、在庫金
融や売掛債権、工場・設備投資、M&A に対する顧客のニーズの減少を理由としている。また、他
の銀行やノンバンクがより魅力的となったことにより、顧客の借入が他の銀行やノンバンクへ
移ったことも理由に挙げている。顧客の手元資金の増加を理由とした銀行もかなりあった一方
で、現金と流動資産に対する顧客の予備的需要の減少を理由とする銀行もあった。反対に、借
入需要の増加として、在庫金融や売掛債権、工場・設備投資、M&A に対する顧客のニーズの増加
を理由に挙げる銀行が多かった。他の銀行やノンバンクの魅力低下によって顧客の借入が自ら
の銀行に移ったとの回答や、現金と流動資産に対する顧客の予備的需要の増加を理由とする銀
行も数多くあったほか、顧客の手元資金の減少を理由とした銀行もあった。
4/7
中小企業向け商工ローンの貸出基準及び借入需要
大・中堅企業向け商工ローンの貸出基準及び借入需要
(%)
100
(%)
100
(%)
80
80
60
貸出基準
80
貸出基準
借入需要(右軸)
増加
40
借入需要(右軸)
60
40
40
20
20
0
0
増加
厳格化
60
60
厳
格 40
化
20
(%)
80
20
0
0
緩和
減少
緩和
-40
-40
-60
-60
-60
-80
-80
-40
-40
-60
-80
(年)
(注)中小企業は年間売上高が5,000万ドル未満。
(出所)FRB, Haver Analyticsより大和総研作成
貸出高
前年比(右軸)
2,000
(%)
(%)
25
100
20
80
15
60
10
40
大・中堅企業向け
拡大
5
1,500
0
-5
1,000
-15
中小企業向け
20
0
-20
縮小
-10
500
(年)
商工ローンの金利スプレッド
商工ローンの貸出高及び前年比(全商業銀行)
(10億ドル)
2,500
-80
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16
(注)大・中堅企業は年間売上高が5,000万ドル以上。
(出所)FRB, Haver Analyticsより大和総研作成
-20
減少
-20
-20
-20
-40
-60
-20
-80
-25
0
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16
(年)
(出所)FRB, Haver Analyticsより大和総研作成
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16
(注)大・中堅企業は年間売上高が5,000万ドル以上。中小企業は5,000万
ドル未満。
(出所)FRB, Haver Analyticsより大和総研作成
(年)
5/7
商業用不動産ローン
商業用不動産ローンの全分野(建設及び土地開発、非農業用・非住宅用不動産物件、集合住
宅物件)において、貸出基準が厳格化されたとの回答が米国銀行からあった。特に、建設及び
土地開発ローンと集合住宅物件ローンの貸出基準が厳格化されたとの回答が、非農業用・非住
宅用不動産物件ローンに比べて多かった。
商業用不動産の借入需要は、建設及び土地開発ローンの需要が増加したとの回答があった一
方で、非農業用・非住宅用不動産物件ローンと集合住宅物件ローンにおいては、ほぼ変わりが
なかった。
商業用不動産ローンの貸出基準
商業用不動産ローンの借入需要
(%)
(%)
60
80
40
増加
100
20
60
厳
格 40
化
0
減少
20
-20
-40
-20
-60
緩和
0
-80
-40
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16
(年)
(注)全商業用不動産の平均値。
(出所)FRB, Haver Analyticsより大和総研作成
商業用不動産ローンの貸出高及び前年比(全商業銀行)
(10億ドル)
2,500
(年)
商業用不動産価格の推移(前年比)
(%)
20
貸出高
(注)全商業用不動産の平均値。
(出所)FRB, Haver Analyticsより大和総研作成
(%)
30
前年比(右軸)
15
2,000
20
10
10
1,500
0
5
-10
1,000
0
500
-5
0
-10
05
06
07
08
09
10
11
12
(注)2004年第2四半期以前のデータは未公表。
(出所)FRB, Haver Analyticsより大和総研作成
13
14
15
16
(年)
-20
FRB商業不動産価格指数
-30
Green Street Advisors商業
不動産価格指数
-40
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16
(年)
(出所)FRB, Green Street Advisors, Haver Analyticsより大和総研作成
6/7
住宅ローン
住宅ローンの貸出基準は、GSE 適格住宅ローンの貸出基準を緩和した銀行があったほか、QM
ジャンボ住宅ローンや、QM 非ジャンボ・GSE 非適格住宅ローンの貸出基準を緩和した銀行が若
干あった。その一方で、他の住宅ローンに対する貸出基準はほとんど変わらなかった。
住宅ローンの借入需要は、政府住宅ローンとサブプライム住宅ローンを除き、大半の分野で
増加した。特に、GSE 適格住宅ローンでの借入需要が増加したとの回答が多く、QM 非ジャンボ・
GSE 非適格住宅ローン、QM ジャンボ住宅ローン、非 QM ジャンボ住宅ローン、非 QM 非ジャンボ
住宅ローンの増加もある程度見られた。
一方、リボルビング式 HELOC(Home Equity Lines of Credit:ホーム・エクイティ・クレジ
ットライン)の申請承認に対する銀行の信用基準はほとんど変わりがなかったが、HELOC の借入
需要が増加したとの回答が多数あった。
住宅ローンの借入需要
住宅ローンの貸出基準
(%)
100
(%)
80
全体
プライム
80
サブプライム
増加
サブプライム
60
プライム
非トラディッショナル
60
非トラディッショナル
全体
40
20
0
減少
厳格化
40
-20
20
-40
0
-60
緩和
-20
-80
-100
-40
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16
(年)
(注)2007年第2四半期より、住宅ローンの分類別貸出基準を発表。2014年
第4四半期からは、7つに分類。回答が3社以下の場合、データは未公表。
(出所)FRB, Haver Analyticsより大和総研作成
住宅ローンの貸出高及び前年比(全商業銀行)
住宅価格の推移
(10億ドル)
(%)
20
貸出高(四半期平均)
2,500
(年)
(注)2007年第2四半期より、住宅ローンの分類別貸出基準を発表。2014年
第4四半期からは、7つに分類。回答が3社以下の場合、データは未公表。
(出所)FRB, Haver Analyticsより大和総研作成
(1991年Q1=100)
250
(2000年1月=100)
210
前年比(右軸)
2,000
15
230
190
10
210
170
5
190
150
0
170
1,500
1,000
130
FHFA住宅価格指数
500
0
05
06
07
08
09
10
11
12
13
14
15
-5
150
-10
130
16
(年)
(注)2004年第2四半期以前のデータは未公表。ホームエクイティローンを含む。
(出所)FRB, Haver Analyticsより大和総研作成
ケース・シラー住宅価格指数
(20都市、右軸)
110
90
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16
(年)
(注)四半期平均。
(出所)FRB , Haver Analyticsより大和総研作成
7/7
消費者ローン
消費者ローンへの貸出意欲が強くなった銀行が増えた半面、クレジットカードローンや自動
車ローン、その他の消費者ローンに対する貸出基準は基本的に変わらなかった。
消費者ローンの貸出条件に関しては、クレジットカードローンにおいて変わりがなかったが、
自動車ローンの承認に最低必要とされるクレジットスコアの引き上げや、資金調達コストに対
する貸出金利のスプレッドを拡大した銀行が若干あった。また、自動車ローンのクレジットス
コアを満たさない顧客に対する承認条件を緩和した銀行もあったものの、他の自動車ローンの
承認条件はほぼ変わりがなかった。
消費者ローンの借入需要は、自動車ローンとクレジットカードローンの需要が増加したとの
回答があった一方で、それ以外の消費者ローンの需要は基本的に変わらなかった。
消費者ローンの借入需要
消費者ローンの貸出基準
(%)
80
(%)
40
70
30
自動車ローン
20
クレジットカード及び
自動車以外
クレジットカード
クレジットカード以外
増加
60
50
消費者ローン全体
クレジットカード
10
40
0
-10
減少
厳格化
30
20
-20
10
-30
0
-40
緩和
-10
-50
-20
-60
-30
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16
(年)
(出所)FRB, Haver Analyticsより大和総研作成
消費者ローンの貸出意欲及び小売・飲食店売上前年比
(%)
40
消費者ローンの貸出意欲
30
小売・飲食店売上前年比(右軸)
(注)2011年第2四半期より、消費者ローンの分類別借入需要を公表。
(出所)FRB, Haver Analyticsより大和総研作成
(年)
家計の負債残高の構成(住宅ローンを除く)
(%)
15
(兆ドル)
1.4
学生ローン
強い
10
20
自動車ローン
1.2
クレジットカード
ホームエクイティローン
1.0
10
5
その他
0
0.8
-10
0
弱い
0.6
-20
-5
-30
0.4
-40
-10
0.2
-50
-60
-15
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16
(年)
(出所)FRB, Census, Haver Analyticsより大和総研作成
0.0
03
04
05
06
07
08
09
10
11
12
13
14
15
16
(年)
(出所)NY連銀, Haver Analyticsより大和総研作成