解答第14回(レベル0、A、B)

力学2演義スタンダード問題 14(阿久津)(2016年7月19日実施)解答1
http://wwwacty.phys.sci.osaka-u.ac.jp/~acts/mechanics2/mechanics2.html#engi
レベル0:復習・基礎確認問題(必須問題)
[0.1] 1次元の場 ϕ(x, t) を考える。ラグランジアン密度を
L[ϕ(x, t), ϕt (x, t), ϕx (x, t)] とすると
∫
∫
∂ϕ
∂ϕ
, ϕx =
)、作用 S =
dt dx L[ϕ(x, t), ϕt (x, t), ϕx (x, t)] の停留条件は、場のラ
(ϕt =
∂t
∂x
(
)
(
)
∂L
∂ ∂L
∂
∂L
ρ
T
グランジュ方程式
−
−
= 0 である。L = (ϕt )2 − (ϕx )2 のとき
∂ϕ ∂t ∂ϕt
∂x ∂ϕx
2
2
(ρ, T は定数)、波動方程式を導け。
(解)第13回 [A.2] 参照。
[0.2] 中心力ポテンシャル U (r) のもとでの粒子の運動を考える(r:動径座標)。座標原点のまわ
りの角運動量ベクトル ⃗
ℓ = ⃗r × p⃗(p⃗ は運動量)は保存量である。内積 ⃗r · ⃗ℓ がゼロであること
を示し、そのことから、粒子の軌道が平面内にあることを結論付けよ(⃗
ℓ ̸= 0 としてよい)。
⃗
⃗
⃗
⃗
⃗
⃗
⃗
⃗
⃗ をもちいよ。
必要ならば、スカラー3重積の性質 A · (B × C) = B · (C × A) = C · (A × B)
(解)⃗r · ⃗
ℓ = ⃗r · (⃗r × p⃗) はスカラー3重積の形をしているので、スカラー3重積の公式をも
ちいると
⃗r · (⃗r × p⃗) = p⃗ · (⃗r × ⃗r) .
⃗r × ⃗r = 0 であるから、結局 ⃗r · ⃗ℓ = 0 つまり、軌道上の点 ⃗r は 原点を通り、⃗ℓ に直交する面
内にある。⃗
ℓ は保存量であり、定ベクトルであるから、⃗ℓ に直交する面は、固定された平面で
ある。
レベルA:基本問題(必須問題)
k
[A.1] 中心力ポテンシャルが U (r) = (k は定数)の場合の粒子の運動を考える(質量 m)。[0.2]
r
より、粒子は平面運動をするので、この平面を xy 面にとり、2次元極座標(r, ϕ)で記述す
る。保存する角運動量の値を ℓ とする。ハミルトニアン H(r, ϕ, pr , pϕ ) は
p2ϕ
p2r
k
H(r, ϕ, pr , pϕ ) =
+
+
2
2m 2mr
r
(1)
とする。(1)正準方程式をもちいて pϕ と ϕ̇ との関係を求めよ。(2)ϕ は H にあらわれ
ないので循環座標であり、ϕ に共役な正準運動量 pϕ は保存する。このことから
mr2 ϕ̇ = ℓ
(2)
が成立することを示せ。(3)角運動量保存則をもちいると、ハミルトニアンから ϕ の自由
ℓ2
度を消去できて、その代わり、遠心力ポテンシャル
が加わった、有効ハミルトニアン
2mr2
H有効 (r, pr ) =
ℓ2
k
p2r
+
+
2
2m 2mr
r
(3)
をもちいて r の運動(時間発展)をもとめることができることを示せ(r に対する正準方程
式で、角運動量保存則をもちいる)。
(解)(1)
ϕ̇ =
∂H
pϕ
=
⇔ pϕ = mr2 ϕ̇.
∂pϕ
mr2
(2)xy 面内で運動している場合の角運動量は xpy − ypx であり、これは3次元的角運動量
の z 成分に相当する。角運動量方向を z 軸に選んであるので、この角運動量の値が ℓ であ
る。一方
x = r cos ϕ
ẋ = ṙ cos ϕ − r sin ϕϕ̇
y = r sin ϕ
ẏ = ṙ sin ϕ + r cos ϕϕ̇
より
xpy − ypx = x(mẏ) − y(mẋ) = mr2 ϕ̇.
よって、
pϕ = mr2 ϕ̇ = 一定値 = ℓ.
(3)正準方程式から、r の自由度に関する方程式は
∂H
pr
= ,
∂pr
m
p2ϕ
∂H
k
= −
= − 3 − 2.
∂r
mr
r
ṙ =
p˙r
ここで、角運動量保存則をもちいると pϕ = ℓ として
pr
∂H
= ,
∂pr
m
∂H
ℓ2
k
= −
= − 3 − 2.
∂r
mr
r
ṙ =
p˙r
一方、
H有効 (r, pr ) =
p2r
ℓ2
k
+
+
2
2m 2mr
r
をもちいて、正準方程式を書くと
∂H有効
pr
= ,
∂pr
m
∂H有効
ℓ2
k
= −
= − 3 − 2.
∂r
mr
r
ṙ =
p˙r
となり、全く同じ方程式が得られる。この H有効 は ϕ に関する自由度の変数は含まず、その
意味で ϕ に関する自由度は消去されており、r の運動は H有効 だけで決まる。
[A.2] [A.1] と同じ設定で考える。ただし、中心力は斥力とする(k > 0)。x 軸の負の側の遠方か
ら、ほぼ原点をめがけて運動してきた粒子が、原点付近で大きく軌道を変えて別の方向へ運
動する現象を考える(粒子のポテンシャル散乱)。x → −∞ では、x 軸に平行ながら、わず
かに x 軸より b だけ下方にずれた軌道をとり、そこでの速度が v0 であったとする。
(1)角
運動量 ℓ と b, v0 には ℓ = mbv0 の関係があることを示せ。ちなみに b は衝突パラメーター
(または衝突径数)と呼ばれる。
(解1)x → −∞ では ⃗r = (−x, −b, 0), p
⃗ = (mv0 , 0, 0). よって ⃗ℓ = ⃗r × p⃗ の z 成分 ℓz は
(−x)0 − (−b)mv0 = mbv0
となり、これが保存する角運動量値に等しいので ℓ = mbv0 が成立する。
(解2)|⃗r × p
⃗| = |⃗r||⃗p| sin θ(θ:⃗r と p⃗ が成す角)。x → −∞ では |⃗p| = mv0 、r sin θ = b が
成立するので、|⃗
ℓ| = |ℓ| = mv0 b が成り立つ。
レベルB:標準・応用問題
1
[B.1] [A.1] の H有効 で記述される系に対し、W3 型の正準変換をもちいて、r → Q = の変数変
r
pr
換をする。具体的には、W3 = W3 (pr , Q) = − をもちいて
Q
r=−
∂W3
,
∂pr
P =−
∂W3
,
∂Q
H ′ (Q, P ) = H有効 (r, pr )
の関係を設定する。(1)
H ′ (Q, P ) =
Q4 P 2 ℓ2 Q2
+
+ kQ
2m
2m
mQ̇
となることを
Q4
示せ。(3)エネルギー保存則を Q̇ をもちいて書くと(E はエネルギー値)
となることを示せ。(2)正準方程式をもちいて、P と Q̇ の関係が P =
E=
m 2 ℓ2 Q2
Q̇ +
+ kQ
2Q4
2m
となることを示せ。
(解)
r = −
∂W3
∂pr
1
,
Q
∂W3
P = −
∂Q
pr
= − 2.
Q
=
よって
r=
1
,
Q
pr = −Q2 P.
これを H有効 (r, pr ) に代入すると、正しく H ′ (Q, P ) の表式を得る。
(2)
Q̇ =
∂H ′
Q4 P
mQ̇
=
⇔ P = 4.
∂P
m
Q
(3)H ′ (Q, P ) = E の左辺に、前問の P の表式を代入すればよい。
(4)
[B.2] 前問の結果を利用して、粒子の軌道の形をもとめる。角運動量保存則(2)をもちいると、Q
の時間微分 Q̇ が、軌道上での Q の ϕ 微分に置き換えられる:
dQ
dQ
= dt
dϕ
dϕ
dt
dQ
⇒
=
dt
(
ℓQ2
m
)
dQ
.
dϕ
(1)これを(4)に代入して整理し、Q′ =
dQ
とおくと
dϕ
1 ′ 2 1 2 mk
mE
(Q ) + Q + 2 Q = 2
2
2
ℓ
ℓ
(5)
となることを示せ。
(2)この式は軌道の形を決める微分方程式であり、その形から、中心の
1
ずれた調和振動子の問題と等価である。このことをもちいて、軌道の形 Q = Q(ϕ) =
が
r(ϕ)
Q(ϕ) = A cos(ϕ + α) − B
と書けることを示せ(A, B の値を具体的に決めよ。α は「初期条件」で決まる定数))。
(解)(1)代入して整理するだけ。
(2)(5)の左辺を平方完成する:
1 ′ 2 1
(Q ) +
2
2
⇕
1 ′ 2 1
(Q ) +
2
2
(
)2
(
)2
mk
1 mk
mE
Q+ 2
−
= 2
2
ℓ
2 ℓ
ℓ
(
)2
(
)2
mk
mE 1 mk
Q+ 2
= 2 +
.
ℓ
ℓ
2 ℓ2
mk
Q̃ = Q + 2 ,
ℓ
mE 1
Ẽ = 2 +
ℓ
2
(
mk
ℓ2
)2
と置いて書き直すと
1 ′ 2 1 2
(Q̃ ) + Q̃ = Ẽ.
2
2
(6)
これは、調和振動子における関係式を同型であり、解 Q̃(ϕ) は
Q̃(ϕ) = A cos(ϕ + α)
の形になる。この形を(6)に代入すると
A2 = 2Ẽ
を得る。よって
√
Q̃(ϕ) = 2Ẽ cos(ϕ + α).
結局 Q(ϕ) は
√
Q(ϕ) =
=
となる。
√
2Ẽ cos(ϕ + α) −
2mE
+
ℓ2
(
mk
ℓ2
)2
mk
ℓ2
cos(ϕ + α) −
mk
ℓ2
(7)
[B.3] さらに前問の解析を進め、衝突パラメーター b で衝突してきた粒子の散乱角(衝突前の遠方
での運動方向と、衝突後の遠方での運動方向の成す角)を θ とすると、
( )
θ
2Eb
cot
=
2
k
の関係があることを示せ。
(解)遠方での直線軌道は r → ∞ での漸近的ふるまいになるが、これは Q → 0 に対応す
る。このときの角度 ϕ は(7)において Q = 0 とおいて
√
(
)2
2mE
mk
mk
+
cos(ϕ + α) − 2 = 0
2
2
ℓ
ℓ
ℓ
⇕
mk
ℓ2
cos(ϕ + α) = √
(
)2 .
2mE
mk
+
2
ℓ
ℓ2
(8)
一般に、|a| < 1 に対して、方程式
cos x = a
の解は −π ≤ x ≤ π の範囲に2つある。この2解を x1 , x2 (x1 < x2 )とすると
x1 = −x2
(9)
の関係がある。よって、x1 − x2 = 2x1 が成立する。(8)の解を ϕ1 , ϕ2 とすると、入射方向
の角度が ϕ1 であり、散乱して遠ざかる方向の角度が ϕ2 である。散乱角 θ は入射方向の延
長線と散乱方向の成す角であり
θ = (ϕ1 + π) − ϕ2
= π − (ϕ2 − ϕ1 )
= π − [(ϕ2 + α) − (ϕ1 + α)]
= π − 2(ϕ2 + α) ((9)をもちいた。)
の関係がある。よって
θ
π
=
− (ϕ2 + α).
2
2
これから
θ
= cos(ϕ2 + α)
2
mk
ℓ2
= √
(
)2 ,
2mE
mk
+
ℓ2
ℓ2
√
θ
θ
=
cos
1 − sin2
2
√ 2
2mE
ℓ2
= √
(
)2 ,
2mE
mk
+
2
ℓ
ℓ2
√
θ
1 2ℓ2 E
cot
=
.
2
k
m
sin
[A.2] で示した衝突パラメーター b に関する関係式
ℓ = mbv0
において、無限遠方で成立する式
√
2E
v0 =
m
の置き換えを行うと
ℓ2 = m2 b2
2E
= 2mb2 E.
m
よって
θ
1
cot =
2
k
を得る。
√
2ℓ2 E
2Eb
=
m
k