付加価値貿易統計と多国籍企業 - R-Cube

立命館国際地域研究 第42号 2015年 12月
59
<論 文>
付加価値貿易統計と多国籍企業
― 日米企業の貿易関係を中心に ―
小 山 大 介
On Trade in Value added Statistics and Multinational Enterprises
KOYAMA, Daisuke
The joint OECD–WTO initiative announced Trade in Value-added(TiVA)statistics for
2013. These statistics may capture global goods and services flows with value added, thus
shedding light on global value chains(GVCs)including the global business activities of
multi-national enterprises(MNEs)and enabling the formulation of responsive economic
policies.
This paper outlines the TiVA statistics and then examines TiVA trends for Japan and the
United States in the Asia region. It also analyzes intra-firm trades in Japanese and
American MNEs MNE-related statistics from the US Bureau of Economic Analysis, US
Census Bureau, and Ministry of Economy, Trade and Industry(Japan).
The presented analysis is expected to shed light on parent company–foreign affiliate
relations and global intra-firm division of labor structure.
Keywords:Multi-national Enterprises(MNEs), Trade in Value-added(TiVA), Foreign
Direct Investment, Intra-firm Trade,
キーワード:多国籍企業、付加価値貿易(TiVA)、海外直接投資、企業内貿易
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小山 大介:付加価値貿易統計と多国籍企業
はじめに
多国籍企業の海外事業活動とはどのようなものか。多国籍企業による海外事業活動の進展は、
世界経済全体にどのような課題を投げかけているのか。これらの諸課題は、1960 年代以降の多
国籍企業・世界経済研究のなかで常に重大な問題となってきた。
多国籍企業は、この 50 年の間に、その活動領域を「質」的にも「量」的にも飛躍的に拡大
しており、
2015 年 7 月現在、最大の多国籍企業であるウォルマート・ストアーズの売上高は、
4,857
億ドルに達している1)。世界の巨大企業 500 社の売上総額は約 31 兆ドルと、2014 年アメリカ
の GDP 額の 1.8 倍となっている2)。またトヨタ、フォルクスワーゲンといった自動車大手の
自動車生産台数は、1,000 万台時代を迎えている。
これらの多国籍企業は、グローバル化した世界経済のなかで、広範な生産・流通・販売ネッ
トワークを形成し、経済のグローバル化を進める中心主体であり続けている。だが、統計的に
多国籍企業の海外事業活動を明らかにすることには、常に困難がつきまとい、現在においても
その活動実態を十分につかめてないのが実情であろう。このような背景には、企業の経済活動
が国境を越えて展開されており、なおかつ物品のみならずサービスなどの無形資産にも取引が
広がっているのに対して、各種経済統計については、IMF、WTO、OECD、UNCTAD 等国際
機関が中心となって整備し、統計手法の統一も進みつつあるが、基本的に国民国家を中心とし
て収集されており、企業活動の実態を十分に追跡できていないことが、理由として挙げられる
だろう。
このような統計上の限界があるなかで、OECD が中心となって 2013 年に発表した付加価値
貿易(Trade in Value-added: TiVA)統計は、国際的なプロジェクトによって国際産業連関表
をもとに構築された、いわば新しい貿易統計であり、多国籍企業に関する従来の統計データに
くわえ、これまでには、明らかにすることができなかった領域へと踏み込んだ研究が、可能と
なることが期待されている。
そこで本論文では、この新しい統計である付加価値貿易(TiVA)統計に着目し、多国籍企
業の海外事業活動分析への活用の可能性を探る。そのため、まず付加価値貿易統計の考え方、
期待される役割・分析視角を整理した後、日本とアメリカにおける付加価値貿易を手がかりと
して、実際の公表データを活用し、両国の貿易構造分析を試みる。そして、次にアメリカ経済
分析局(BEA)や国勢調査局(Bureau of Census)、日本の経済産業省が定期的に公表し、時
系列分析が可能となっている従来からの多国籍企業関連統計と比較検討することで、多国籍企
業研究のさらなる深化へと繋げたいと考える。
なお、本著での着眼点は、多国籍企業の活動領域の拡大と経済のグローバル化の実態を把握
することで、多国籍企業が世界経済において、いかなる役割を担い、現代世界経済がいかなる
状況にあるのかを探ることにある。
立命館国際地域研究 第42号 2015年 12月
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Ⅰ 多国籍企業研究と付加価値貿易の考え方
1、多国籍企業研究の困難性
多国籍企業研究は難しい学問領域である。それは多国籍企業が国境を越える取引を行う経済
的主体であるだけでなく、グローバル化を推進するために多種多様な活動を展開する政治的主
体でもあることに依拠している。そのため多国籍企業論は、究極的には「政治経済学」となる
と言われている3)。海外事業活動ひとつとっても、単に貿易や海外での取引を行うだけでなく、
親会社・子会社間、あるいは子会社間で企業内貿易・取引を行い、企業内世界分業体制の構築
が進んでいる4)。さらに多国籍企業は、戦略提携やクロスボーダー・M&A、アウトソーシング
等の戦略を駆使し利潤の極大化を図り、各国経済はもとより、各国経済の基盤をなす地域経済
に与える影響は計り知れない。
ところでこれまで多国籍企業は、経済学、経営学、法学、社会学などの多様な学問領域で研
究が進められてきた。国際経営の分野では企業へのアンケート調査、ヒアリング調査、海外現
地調査、各企業の個別経営資料等を利用し研究が行われ、国際経済学においては、貿易統計、
直接投資統計を中心としてマクロ経済統計が主に活用されている。また多国籍企業を世界経済
論や国際政治経済学の視点から分析した研究5)では、アメリカ多国籍企業の海外事業活動の研
究に重点が置かれており、国際機関が発表する直接投資統計やアメリカの多国籍企業に関する
商務省の統計6)が利用されてきた。
このように広範で特色ある多国籍企業研究ではあるが、利用可能な統計は、各国・地域政府
が発表する貿易・直接投資統計を中心とした資料に依拠しているのが現状であり、時系列分析
が可能な資料も限られている。またアンケート調査や個別企業研究のみでは、経済のグローバ
ル化や世界経済全体における生産力の発展、企業内世界分業の展開過程を分析することは難し
く、OECD が発表した付加価値貿易(TiVA)に関する一連の統計は、多国籍企業の海外事業
活動をより精密に分析するための、新しい手段として検討する価値があると考えられる。
2、付加価値貿易(TiVA)統計の考え方
付加価値貿易(Trade in Value-added:TiVA)とは、実額で表示された従来の財・サービ
ス貿易統計と異なり、「世界中で使用された財・サービスを各国で生み出された付加価値
(value-added)によって計測した」統計である7)。基礎データは、各国の貿易統計を中心に構
築されている国際産業連関分析の手法を応用して作成されている。
この付加価値貿易統計をグローバルなレベルで構築するため、OECD と WTO が共同プロ
ジェクトを組み、先進各国や UNCTAD もプロジェクトに協力することで構築された統計デー
タである。日本においては、これまでアジア各国を中心に国際産業連関表を作成してきた、
IDE-JETRO(日本貿易振興機構・アジア経済研究所)がプロジェクトに参画している。
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小山 大介:付加価値貿易統計と多国籍企業
統計が入手可能な国・地域は、OECD 加盟国を中心として 54 ヵ国・地域に達しており、
EU、ASEAN など各地域でまとまったデータについても公表されている。通常の貿易統計と
異なる点は、品目別のデータではなく、業種別のデータであるという点であり、第一次、第二次、
第三次産業の 48 業種における付加価値貿易額を見ることができる。業種別統計であるため、
各国・地域の付加価値貿易額には、生産活動によって生み出された付加価値とサービスによっ
て生み出された付加価値額が含まれている。1995 年、2000 年、2008 年から 2011 年までの時系
列データが公表されていることから、10 年スパンでの統計分析も可能であるだけでなく、デー
タ更新も行われている8)。
では付加価値貿易統計は、通常の財・サービス貿易統計とどのように異なり、どのようなこ
とを明らかにすることができるのであろうか。OECD において事例として挙げられているのが、
アップル社のスマートフォン生産に関するサプライチェーン網についてである。それによると
アップル社は、iPhone を供給するために中心的部材を中国、ドイツ、韓国、アメリカなどか
ら調達しており、その総コストは 187.51 ドルであるとされている9)。また、Yuquing Xing
and Neal Detert の研究では、iPhone3G の主要部材と生産コストが説明され、総コスト
178.98 ドルのうち、組立てに必要となる製造コストはわずか 6.50 ドルであると説明している。
ここでも、中心的な部材は、日本や韓国、ドイツ、アメリカ等、全世界の多国籍企業から調達
され、それを中国で組立て、完成品は最終消費地であるアメリカへと輸出されるとしてい
る 10)。ここで重要なのは、中心的な部材は、全世界に立地する多国籍企業によって海外から中
国へと輸出され、中国国内で追加された付加価値は、組立てによって生み出された部分のみで
あるということである。そして完成品は、アメリカへと輸出され、最終的な利益が実現するの
だが、中国の通常の貿易統計に計上される貿易収支黒字は、付加価値ベースで計算するとかな
り少なくなるというのである 11)。また中国国内経済への波及効果は、実額で示された貿易収支
黒字額に比して少なく、逆に中心的部材を供給している日本やドイツ等の対米黒字は、実額よ
りさらに大きくなるということである。
さらに同プロジェクトに参画している UNCTAD は、貿易統計における二重計算の問題を強
調する。図 1 は、通常の貿易統計の貿易額計上方法と付加価値貿易統計におけるそれを分かり
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図 1 付加価値貿易(TiVA)統計の概念
立命館国際地域研究 第42号 2015年 12月
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やすくするため、比較・概念化したものである。これによると通常の貿易統計においては、国
境を越えて取引が行われると、取引金額がそのまま計上され、A 国から最終消費国である E 国
へと完成品が到達するまでに、各国で取引額が積み上げられ、最終的に合計 175 単位が取引総
額として計上される。だが付加価値貿易統計では、完成品の総付加価値が 60 単位であり、そ
れがどの国で生み出され、最終消費地 E 国へと移転されたがが重要となる。さらに A 国から
D 国は、最終的に E 国において付加価値を実現しており、統計では付加価値輸出はすべて E
国向けとして計上されるのである。
このようにグローバルなレベルで生産ネットワークが構築され、多国籍企業の海外事業活動
の展開による、中間財貿易の拡大にともない、貿易統計の二重計算部分が増大し、UNCTAD
の試算では 2010 年段階で 5 兆ドル、全貿易額の実に 28%を占めるとされている 12)。このこと
から付加価値貿易統計の発表によって、従来の貿易統計のみでは分析することが出来なかった
付加価値部分での財・サービスの流れと最終消費市場、世界分業の進展における各国・地域へ
の波及効果、多国籍企業の海外事業活動等について、さらに深く分析することが可能になると
考えられる。
ところで、付加価値貿易分析を行うために「カギ」となる用語が 3 つ存在している。それは、
①国内付加価値(Domestic value added)、②外国付加価値(Foreign value added)、③中間財・
サービスの再輸出(Re-exported intermediate imports)である。①は輸出国の国内で生産さ
れた付加価値部分の輸出を指し、GDP 統計に計上され、国内の雇用や投資、所得の拡大に貢
献するとされる。②は、輸出に占める外国付加価値額およびその比率を指し、GDP 統計には
計上されない 13)。中間財貿易の拡大にともない必然的にこの金額や比率は上昇することになる。
③は海外から輸入した財・サービスをどれだけ再輸出したのかを示している。この部分おいて
は、GDP 統計に計上されることはないが、中間財・サービスを輸入し、国内で何らかの付加
価値を付けることにより、付加価値部分のみ GDP に反映されることになる。
これらの統計を中心として、
40 以上のデータを国別・地域別あるいは業種別に閲覧可能となっ
ており、この統計集を総称して付加価値貿易(Trade in Value-add)統計と呼ぶ。
3、付加価値貿易統計分析への期待と限界
では付加価値貿易統計の分析が進むことにより、どのようなことが期待されているのであろ
うか。もちろん、これらの統計の活用や分析が進むことで、多国籍企業を含む各国間の生産・
流通・販売ネットワークの実態が明らかになることが期待されるが、OECD では以下の 6 点に
ついてその政策的な重要性を強調している 14)。それは、第 1 にグローバル・インバランス問題
における付加価値ベースでの分析による最終受益国の析出、第 2 に市場アクセスと保護貿易主
義への反論による自由化・規制緩和、あるいは自由貿易協定等の締結根拠の提供、第 3 に貿易
の減少がマクロ経済に与える影響の分析、第 4 に貿易と雇用との関係分析、第 5 に貿易と地球
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小山 大介:付加価値貿易統計と多国籍企業
環境、特に二酸化炭素排出の実態把握、第 6 に貿易、成長、競争力との関係分析である。特に、
第 2、第 4、第 6 における重要性は、従来の貿易論では明らかにできなかった財・サービスの
流れをより深く分析し、国際分業の進展が各国の雇用や経済成長に寄与することを明らかにす
ることを目的としている 15)。つまり、貿易の拡大が各国・地域の経済成長に貢献することを明
らかにし、さらなる関税や非関税障壁の撤廃、自由貿易協定(FTA)等の締結による、域内あ
るいはグローバルな自由化、規制緩和を求めるための根拠を示すための「道具」として期待さ
れているのである。
しかし、同プロジェクトに共同参画している国際機関のうち、OECD・WTO と UNCTAD
では、統計への期待や政策的動機付けが大きく異なっていると言える。WTO については、
OECD 同様に貿易の自由化が発展途上国・地域の経済成長に繋がっており、それはグローバル・
バリュー・チェーン(GVCs)の拡大からも説明できることを根拠として、自由化や規制緩和
を進めようとしていることがうかがえる 16)。だが UNCTAD では、付加価値貿易、グローバル・
バリュー・チェーン(GVCs)分析についても、発展途上国・地域の経済発展、雇用拡大等に
軸足が置かれているだけでなく、多国籍企業の役割について注意深く分析が行われている。ま
た UNCTAD では付加価値貿易分析により、これまでの産業政策、貿易政策のあり方が変わる
としながらも、過度なグローバル化により、国内経済に「負」の影響を及ぼすような市場開放
については、適切な規制や社会的対話、市民社会による運動が求められるとしている 17)。この
なかで多国籍企業の海外事業活動については、事業の持続的発展のためにも、社会的責任がま
すます重要になるとしている。そこには自由化・規制緩和一辺倒の通商政策は、国内経済にとっ
て適切な政策とはなり得ないという意思が込められている。
付加価値貿易統計の限界や課題についても指摘しておく必要があるだろう。確かに、付加価
値貿易統計は、実額表記であった従来の貿易統計では、見ることができなかった付加価値の流
れを最終需要国の視点から明らかにし、各国・地域の貿易・直接投資分析に新しい視角を与え
ている。しかし当該統計だけでは、多国籍企業の親会社・子会社間の支配関係、子会社間ネッ
トワーク、多国籍企業関連貿易の実態について明らかにすることはできない。また、第三国イ
ンボイス 18)の活用が増加するにつれ、貿易統計の二重計算部分が拡大している点についても、
そこに潜む多国籍企業の移転価格(トランスファー・プライシング:transfer pricing)の存
在を無視することはできない。
また、国際産業連関表を応用して構築されている統計であることから、精度の問題が常につ
きまとうことになる。第 1 に同統計は推計値であり、実際の動向を反映していない可能性ある
という点である。これは、産業連関分析の技術的問題とも言える点であり、輸出財生産への輸
入中間財の投入比率を産業毎に決定していく点が実態を反映していないのではないかと指摘さ
れている 19)。第 2 に国際プロジェクトによって、データの整合が図られているが、各国で産業
分類が異なる場合、その整合によって大きな誤差が生じる可能性がある。さらに各国の貿易統
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計が FOB 価格か CIF 価格かによっても誤差が生じるのである。
このことから、多国籍企業研究には、付加価値貿易統計の分析を進めながらも、従来の貿易
統計や直接投資統計、多国籍企業関連統計などを活用しながらの、多角的な分析が必要となろう。
Ⅱ 付加価値貿易統計による国際貿易分析
1、付加価値貿易統計と各国の全体像
前節では、付加価値貿易統計の概要について説明をくわえたが、本節では実際に付加価値貿
易統計を使い、各国・地域の全体像を把握するとともに、試論的に日本とアメリカを取り上げ、
両国の付加価値貿易の特徴を析出する。
まず付加価値貿易統計のなかで特徴的なデータと言えるのが表 1 であろう。この表は主要国
を総輸出額の大きい順に並べ、その輸出額を国内付加価値額と外国付加価値額とに分類し、総
輸出の国内付加価値比率を示したものである。前節でも説明したように、外国付加価値額は、
総輸出に占める海外で生産された付加価値額にあたる。この表を見ると、アメリカ、ドイツ、
日本などの先進各国では国内付加価値額が大きく、80%台となっているのに対して、中国、韓
国、台湾、メキシコ、マレーシア、タイといった新興国・発展途上国・地域では、総じて 60%
台となっている。シンガポールやルクセンブルクにおいては、その比率がさらに低下し 50%台
となっている。またロシア、サウジアラビアなどの産油国では、国内付加価値額が先進国より
表 1 2009年各国における総輪出額に占める国内外付加価値額(単位:%、10億ドル)
出所:OECD データベース(http://stats.oecd.org/Index.aspx?DataSetCode=TIVA_OECD_WTO アク
セス日:2014年9月10日)より作成。
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小山 大介:付加価値貿易統計と多国籍企業
も高く、それぞれ 93.1%、97.0%となっている 20)。
次に表 2 で付加価値輸入について確認してみよう。付加価値輸入額でも、輸出と同様に国内
付加価値と外国付加価値が示されている。輸入における国内付加価値とは、総輸入額のうち、
国内で生産された付加価値の金額や割合を示したものであり、製品であれば部品を輸出し、海
外で組立てて輸入する逆輸入がこれに該当すると考えられる。また輸入されるものに国内の知
財やサービスが含まれていれば、国内付加価値額に計上される。この表においては、先進国、
発展途上国・地域と問わず、外国付加価値額が総輸入額の 70%から 80%の間に位置しているが、
グローバル化が進むなかで、総輸入額の 20%から 30%は、自国で生産された付加価値が含ま
れるようになっている。
表 3 で輸入中間財・サービスの再輸出比率を見ると、日本やアメリカではその比率が低いの
に対して、先進国のなかでもフランスやドイツ、イタリアでは相対的に再輸出比率が高くなっ
ている。2009 年には、リーマン・ショックによる世界同時不況と貿易額の低迷から、再輸出比
率は全体的な低下が見られるが、中国や韓国、フィリピンでは 50%台、ハンガリー、アイルラ
ンド、台湾では 60%台、マレーシアでは実に 72.6%に達している。また、各地域における国
際金融の中心地であり、地域統括拠点が多く立地しているルクセンブルク、オランダ、シンガ
ポールにおいては再輸出比率が高くなっているが、台湾については低下傾向となっている。
このように付加価値貿易統計によって各国の状況をごく簡単に説明したが、全体的に EU 各
国、アジア各国・地域においては、中間財・サービスの再輸出比率が高く、そのため輸出に占
める国内付加価値額の水準が低くなっている。付加価値輸出の動向については、Robert C.
表 2 2009年各国における総輪入額に占める外国付加価値額(単位:%、10億ドル)
出所:OECD データベース(http://stats.oecd.org/Index.aspx?DataSetCode=TIVA_OECD_WTO アク
セス日:2014年9月10日)より作成。
立命館国際地域研究 第42号 2015年 12月
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表 3 主要国における輸入中間財・サービスの再輸出比率(単位:%)
出所:OECD データベース(http://stats.oecd.org/Index.aspx?DataSetCode=TIVA_OECD_WTO アク
セス日:2014 年 9 月 10 日)より作成。
Johnson が論文のなかで 5 つの分析結果を示している。それは① 1970-80 年代と比べて今日の
国内付加価値額が低下傾向にあること、②製造部門よりもサービス部門での付加価値が大きく
なっていること、③各国の付加価値輸出比率の幅(差)が増大していること、④輸出総額と付
加価値輸出額とのギャップが拡大あるいは異なっていること、⑤国内付加価値比率は貿易相手
国によって大きく異なっていることである 21)。だがこれらの分析結果は、多国籍企業の海外事
業活動が拡大し、企業内世界分業体制が構築されるにつれて表われる動向として、必然的に生
まれる動向であると考えられる。
2、日米における付加価値貿易とその収支構造
次に日本とアメリカを手がかりとして、両国の付加価値貿易動向の分析を行うことにする。
表 4 は 2009 年における日米中 3 ヵ国の付加価値貿易動向を示したものである。輸出、輸入、
貿易収支の各項目の上段には、財・サービスの取引総額が記載されており、下段には付加価値
ベースでの取引総額が記載されている。また貿易収支の上段が通常の貿易収支となり、下段が
付加価値貿易収支となっている。統計の特徴として貿易収支は、上段、下段とも合計額で一致
し、各国・地域別の構成が異なっている。2009 年の統計を分析に利用しているため、日本の貿
易収支は黒字 22)であり、また参考に中国のデータをくわえている。
この表を見ると、日米両国とも輸出・輸入において先進国間貿易では、それほど数値に違い
はないが、新興国・発展途上国・地域との貿易では、上段と下段で金額に大きな違いが存在し
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小山 大介:付加価値貿易統計と多国籍企業
表 4 2009 年の各国の貿易・付加価値貿易収支(単位:百万ドル)
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注:各国データ上段は貿易収支、下段は最終需要における付加価値収支に対する付加価値収支を示している。
出所:OECD データベース(http://stats.oecd.org/Index.aspx?DataSetCode=TIVA_OECD_WTO アク
セス日:2014年9月10日)より作成。
ている。つまり日本では、フランス、ドイツ、アメリカとの貿易は実額と付加価値輸出額が近
い水準にあるのに対して、韓国、中国、台湾、マレーシア、シンガポール、タイでは大きな乖
離が見られる。付加価値ベースで見たとき、通常の貿易統計は、相当程度の過大評価が発生し
ているということになる。アメリカにおいても、韓国、メキシコ、中国、台湾、マレーシア、
シンガポールとの間で貿易額に大きな開きが見受けられる。輸入においても日米両国ともほぼ
同様の傾向が見られる。実額で表示されている上段の輸入額よりも、外国で生産された付加価
値がどれだけ最終需要向けに輸入されたかを表す、付加価値輸入額が低くなっているのである。
これらの現象が発生する要因として、輸出では①当該国へと輸出される財・サービスに占める
国内付加価値部分が少ない、②現地市場向けに輸出されたものではなく、中間財・サービスと
して輸出されていること、などが考えられ、輸入においては、逆に輸入元で生産された付加価
値額が低いことや中間財・サービスとして輸入され、何らかの付加価値が加えられ再輸出され
ていることが想定される 23)。国際分業という点からは、日本ではアジアを中心に、アメリカで
はアジア及びメキシコとの関係が深いことを表している。
さらに通常の貿易収支と付加価値貿易収支とを比較すると、ここでも数値に大きな乖離が存
在していることが分かる。付加価値貿易では、最終需要が重要となるため、いわば「剰余価値
の利潤への転換」がどこで実現されたのかが計上されることになる。日本の付加価値貿易収支
では、韓国、中国、台湾の収支が大きく減少しており、マレーシア、シンガポールにいたっては、
黒字から赤字となっている。これに対して、フランスでは付加価値貿易収支が黒字となってお
り、対アメリカでは実額の 2 倍以上の黒字を確保しているのである。日本はもっぱら最終消費
市場をアメリカに依存しているのである。
立命館国際地域研究 第42号 2015年 12月
69
アメリカは 2009 年において全体で 3,900 億ドルもの貿易収支赤字を計上しているが、実額
で 1,890 億ドルもの赤字であった中国が、付加価値貿易収支では 1,265 億ドルの赤字となって
いる。だがドイツ、日本、韓国、台湾、香港、シンガポールでは、実額以上の貿易収支赤字を
計上しており、グローバルな中間財・サービス貿易を通じて、巨大市場であるアメリカへと財・
サービスが流入しているのである。
3、日米両国における業種別動向
さらに業種別に付加価値貿易統計を分析することにしよう。表 5、6 は日本とアメリカの付
加価値貿易収支を主要業種別に示したものである。まず注目しなければならない点は、日本と
アメリカにおいて、貿易の担い手が異なる点である。日本においては、輸送機械、電気機器、
機械などいわゆる「リーディング産業」に取引が固まり、卸・小売業、運輸・保管分野でも貿
易額の上昇が見られるが、アメリカでは化学製品、電気機器、輸送機械にくわえ、卸・小売業、
運輸・保管はもちろんのこと、金融やビジネスサービスにおいても貿易が相当程度行われてい
る。これは、付加価値貿易統計には、物品だけでなくサービス貿易が含まれていることが要因
であるが、アメリカにおけるサービス化の進展度合いがうかがえ、金融やビジネスサービス分
野の企業が貿易の担い手として、重要な位置を占めていることが明らかとなっている。
さらに業種別に通常の貿易収支と付加価値貿易収支を比較すると、日本では金属で貿易収支
黒字が同水準であるが、機械、電気機器、輸送機械では、貿易収支黒字の過大評価が発生して
表 5 2009 年日本における貿易収支と付加価値貿易収支の差異(単位:10 億ドル)
出所:OECD データベース(http://stats.oecd.org/Index.aspx?DataSetCode=TIVA_OECD_WTO アク
セス日:2014年9月11日)より作成。
70
小山 大介:付加価値貿易統計と多国籍企業
表 6 2009 年米国における貿易収支と付加価値貿易収支の差異(単位:10 億ドル)
出所:OECD データベース(http://stats.oecd.org/Index.aspx?DataSetCode=TIVA_OECD_WTO アク
セス日:2014年9月11日)より作成。
いる。つまりこれらの業種では、中間財の輸入と再輸出が活発に行われており、輸出品に占め
る国内付加価値額・比率が低くなっているのである。輸出における国内付加価値部分が低いと
いうことは、当該産業における国内経済への波及効果が、従来の貿易統計から想定される水準
より低くなっていることを暗に示している。また食品・飲料・たばこ、繊維、卸・小売業の貿
易収支赤字は、付加価値貿易収支ではより金額が少なく赤字幅は過大評価されているといえる。
アメリカでは、2009 年に貿易収支黒字を確保した業種は、木材・製紙・パルプ、機械、卸・
小売、ビジネスサービスのみとなっている。このうち、木材・製紙・パルプおよび卸・小売に
ついては、貿易収支黒字の過大評価が発生しており、ビジネスサービスにおいては、付加価値
貿易収支とほぼ同水準となっている。アメリカにおいて大幅な貿易収支赤字を計上している業
種のうち、鉱業については実額よりも赤字幅が大きくなっている。しかし、繊維については、
付加価値ベースではその金額は半分以下になっているのをはじめ、電気機器、輸送機械等でも
付加価値貿易収支赤字は低く抑えられている。このことが中国やメキシコとの貿易における貿
易収支赤字額と付加価値貿易収支赤字額との乖離に繋がっていると考えられる。
ここまで付加価値貿易統計の全体像を掴むとともに日米両国を事例として、付加価値貿易構
造分析を試みた。これらの分析は、非常に初歩的な分析であるが、通常の貿易統計とは異なる
視点を与えてくれるものであった。多国籍企業研究に必要となる親会社と子会社との支配・従
属関係については明らかにすることが難しいが、国内経済と貿易との関係を含めて新しい分析
視角を与えているといえよう。
71
立命館国際地域研究 第42号 2015年 12月
Ⅲ 多国籍企業関連統計による企業内貿易分析
1、アメリカ商務省の多国籍企業関連統計
次に本節では、日米企業による海外事業活動のうち貿易動向について簡単に確認しておきた
い。現代世界経済における貿易の中心的担い手は、いうまでもなく多国籍企業である。多国籍
企業は、企業内貿易によって国境を横断する取引に直接的に関与するだけでなく、多国籍企業
関連貿易によって間接的にも価格決定等に影響を与える、いわば政治的存在でもある。これら
多国籍企業が行う企業内世界分業の実態を把握してこそ、現代世界経済の統合過程が明らかと
なる。そのため付加価値貿易統計だけでなく、これら多国籍企業関連統計も駆使する必要があ
り、それらの統計をここで確認しておこう。
アメリカにおいて多国籍企業による貿易データを公表している機関は、2 つ存在している。
アメリカ商務省経済分析局(BEA)とアメリカ国勢調査局(Bureau of the Census)である。
まず BEA の統計から説明しよう。BEA では第二次世界大戦直後からアメリカ企業の海外事業
活動に着目し、直接投資統計等の収集が行われてきた。貿易においても 1966 年以降、アメリ
カ多国籍企業および外国企業グループによるアメリカ市場における貿易活動のデータが集積さ
れている。表 7、8 は、BEA 発表の統計データをもとにアメリカ多国籍企業による貿易および
表 7 2009 年アメリカ多国籍企業の外国子会社による販売(単位:百万ドル)
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出所:BEA, U.S. Direct Invesmtment Abrolad 2009 Revised Benchmark Data, April 2013, U.S.
Department of Commerce より作成。
表 8 2009 年アメリカ多国籍企業による業種別貿易活動(単位:百万ドル)
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出所:BEA, U.S. Direct Invesmtment Abrolad 2009 Revised Benchmark Data, April 2013, U.S.
Department of Commerce より作成。
72
小山 大介:付加価値貿易統計と多国籍企業
販売活動を示したものであるが、この統計ではアメリカ企業による多国籍企業関連貿易と親会
社・子会社間による企業内貿易、子会社間による現地販売、第三国間企業内取引を分析するこ
とができる 24)。また BEA によって公表されているデータは、定義の変更に注意する必要があ
るが、その広域性から時系列分析が可能となっている 25)。
第 7 表でまず注目すべき点は、アメリカ多国籍企業によって行われている多国籍企業関連貿
易金額が示されている点である。この貿易額は、輸出においてアメリカ全体の 52.1%、輸入で
は 45.3%を占める規模に達している。さらに輸出のうち 1,815 億 9,400 万ドルは子会社向けの
企業内輸出となっており、多国籍企業関連貿易の 32.5%を占めている。輸入においても 2,155
億 200 万ドルは外国子会社からの輸入であり、これも多国籍企業関連貿易の約 30%に達してい
る。日本、中国、韓国などアジア地域との貿易では、輸出入の多くが企業内貿易となっている
ことがわかる。さらに、外国での取引状況を見ると、現地販売だけでなく、国境を越える各国・
地域間取引にアメリカ企業の外国子会社が深く関与しており、日本では企業内取引比率が
77.0%に達しているのである。表 8 でアメリカ多国籍企業の業種別貿易状況を見ても、特に製
造業で企業内貿易の割合が高くなっているのである。このことからも、グローバルな財・サー
ビスの流れを把握するとき、多国籍企業親会社と子会社間の支配・従属関係は欠くことのでき
ない視点であるといえよう。
さて、もうひとつの企業内貿易統計を提供しているのが、アメリカ国勢調査局である。この
統計は、通関統計を積み上げることによって作成されており、作成方法は至って単純である。
それは、輸出業者と輸入業者が貿易を行う度、取引が企業内か否かを記載することによって収
集されているのである 26)。よって基本的に記載漏れは発生しないだけでなく、すべての貿易業
者を対象としている。表 9 は、そのセンサスデータをもとに作成したアメリカにおける企業内
貿易の動向を示している 27)。これによると、輸出で 30%前後、輸入では 50%程度が企業内貿
易であることが分かる。また貿易の自由化や非関税障壁の撤廃が進むなかにあっても、時期を
問わず一定程度の企業内貿易が存在し、その比率は低下傾向にあるとはいえないのである。
2、日本企業の海外事業活動に関する資料
では日本における多国籍企業分析の実情はどのようなものなのだろうか。日本における多国
籍企業に関する統計は、アメリカの統計と比較すると精度面において劣ると言わざるをえない
が、経済産業省によって整備された調査報告書が存在している。この「海外事業活動基本調査」
は、1971 年から行われており、アンケート調査形式であることから、毎回の回答率が異なるが、
貿易はもとより現地での取引状況まで読み取ることができる網羅型の統計となっており、親会
社の資本金規模別分析も可能となっている。
表 10 は、2009 年度実績から日系現地法人の売上と仕入状況を抜き出したものだが、上段の
売上項目では、現地販売額だけでなく、親会社への輸出、第三国向け輸出を見ることができ、
73
立命館国際地域研究 第42号 2015年 12月
表 9 センサスベースによる企業内貿易(単位:100 万ドル、%)
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注:貿易統計は通関情報をもとに作成するセンサスベースとなる。
出所:アメリカ商務省センサス局統計データ(http://census.gov/foreign-trade/statistics/press-release/
index.html アクセス日:2015 年 8 月 7 日)より作成。
表 10 日本企業の中国、NIEs3 における取引状況(2009 年度実績、百万円)
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注:「NIEs3」はシンガポール、台湾、韓国、
「ASEAN4」はマレーシア、タイ、インドネシア、フィリピ
ンで構成される。
出所:経済産業省「第 40 回海外事業活動基本調査(2009 年度実績)
」データ(http://www.meti.go.jp/
statistics/tyo/kaigaizi/result/result_43.html アクセス日:2015 年 8 月 9 日)より作成。
下段の仕入項目では親会社からの企業内輸入、第三国からの輸入についても把握することがで
きる。
この表によると、まず現地法人の日本への輸出および輸入の大部分は企業内貿易によって行
われており、現地販売・調達においても日系企業との取引が多くなっている。次に第三国との
取引は売上総額の約 3 割、仕入総額の約 2 割に達しており、域内取引が活発に行われている。
ここでも際立っているのが、日本企業の企業内貿易・取引の実態である。つまり日本の貿易統
計は、このような企業内貿易の実態を背後に宿しているだけでなく、企業内貿易収支は、表 10
記載の全地域において黒字を計上している。このことは、多国籍企業の企業内世界分業構造の
実態把握のための、重要なキーワードの 1 つである。
このように、日米多国籍企業の貿易・取引を概観しただけでも、貿易統計のなかに相当程度、
多国籍企業による企業内貿易や取引が含まれていることを明らかにすることができた。これら
の取引には、従来から移転価格(トランスファー・プライシング)が含まれているだけでなく、
直接投資動向や現地生産・雇用等にも直接的な影響を及ぼしており、無視して分析を進めるこ
74
小山 大介:付加価値貿易統計と多国籍企業
とはできないのである。
おわりに:複眼的視点からの多国籍企業分析
ここまでごく簡単に付加価値貿易統計について解説を行い、日本とアメリカの貿易を手がか
りとして付加価値貿易統計分析を行った後、多国籍企業に関する統計によって企業内貿易の実
態を明らかにしてきた。付加価値貿易統計は、
2013 年から公表が開始された新しい統計であり、
各国間でのデータ統合や統計精度の問題を抱えているが、多国籍企業研究や世界経済分析に新
しい分析視角を提供していると言える。付加価値貿易統計で分析するグローバルな貿易構造は、
従来の貿易統計とは異なる実態を示しており、公表されているデータが膨大かつ、更新が続い
ていることからも、さらに詳細な分析や研究成果の発表が続くものと思われ、本論文はその出
発点に立ったにすぎない。
だが付加価値貿易統計は、従来の貿易統計と同様の視点からの分析に終始してしまうと、貿
易や投資がある意味「無機質」なものであるとの錯覚を招きかねない。アメリカや日本におけ
る企業内貿易・取引状況が物語っているように、全世界の貿易の約 3 割は企業内貿易によって
占められており、グローバルあるいはリージョナルな自由貿易体制が構築されつつある現代に
おいても、相当程度企業内貿易や取引が存在し続けているのである。そしてそこには、多国籍
企業の基本的性格とも言える、親会社と子会社間の関係が潜んでいる。また貿易統計の二重計
算部分についても、多国籍企業による企業内貿易・取引との因果関係をより詳しく分析するこ
とが必要となろう。
現代世界経済の基本構造を明らかにする上でも、付加価値貿易統計を活用するだけでなく、
従来から使われている多国籍企業関連統計等を総動員することにより、複数の視点から多国籍
企業を見つめ直し、現状分析を進めなければならないだろう。
注
1)Brian O Keefe The World Largest Corporation Fortune Global 500 Fortune, Volume 172 Number2,
August 1, 2015, Time inc., p.F-1.
2)Ibid., p.F-10.
3)宮崎義一著『現代資本主義分析 10 現代資本主義と多国籍企業』岩波書店、1982 年、68 ページ。
4)企業内世界分業の概念については、杉本昭七『現代帝国主義の基本構造』大月書店、1978 年、2-3 ペー
ジを参照。
5)例えば、関下稔『現代多国籍企業のグローバル構造』文眞堂、2002 年などを挙げることができる。
6)アメリカ商務省が発表する 2 つの統計とは、
「U.S. Direct Investment Abroad」と「Foreign Direct
Investment in the United States」の 2 種類を指し、前者がアメリカ多国籍企業による対外直接投資、
後者が外国多国籍企業による対内直接投資統計となる。
7)OECD ホームページ
(http://www.oecd.org/sti/ind/measuringtradeinvalue-addedanoecd-wtojointinitiative.htm アクセス
立命館国際地域研究 第42号 2015年 12月
75
日:2015 年 8 月 5 日)参照。
8)2015 年 8 月現在、OECD 統計データにおいて付加価値貿易統計は、2015 年 6 月に最終更新が行われ
ており、2010 年、2011 年データが追加されている。
9)WTO OMC, Trade in Value-added: concepts, Methodologies and Challenges(Joint OECD-WTO
Note), p.2,(http://www.oecd.org/sti/ind/measuringtradeinvalue-addedanoecd-wtojointinitiative.
htm アクセス日:2015 年 8 月 6 日)。
10)Yuqing Xing and Neal Detert, How the iPhone Widens the United States Trade Deficit with the
peple Republic China , ADBI Working Paper Series, No.257, December 2010, ADBI Institute,
Tokyo, pp.1-2.
11)Ibid.,pp.3-4.
12)UNCTAD, World Investment Report Global Value Chains: Investment and Trade for Development,
United Nations, New York and Geneva, 2013, pp.122-125.
13)Ibid.,pp.126-127.
14)op.cit.pp.5-9.
15)op.cit.pp.8.
16)World Trade Organization, World Trade Report 2014 Trade and development: recent trends and the
role of the WTO, WTO Publications, Geneva, pp.113-122.
17)op.cit.pp.185-187.
18)インボイスとは、貿易決済に必要な送り状のことであり、輸出業者が輸入業者宛に発行する貿易書類
である。第三国インボイスとは、この送り状を貿易決済のために、第三国経由で発行することであり、
地域統括拠点などで決済を一括処理する場合等に活用されている。
19)萩野覚「付加価値貿易指標の改善に係る OECD の取り組み -2015 年 3 月開催 OECD 財貨サービス貿
易統計作業部会に係る出張報告を兼ねて -」『季刊国民経済計算』No.157、内閣府経済社会総合研究所、
2015 年 6 月、51 ページ。
20)付加価値貿易統計では、輸出産業のうち、第一次産業の比率が大きくなると国内付加価値額が上昇す
る傾向がある。そのため、サウジアラビア等の産油国による輸出に占める国内付加価値比率は 90%以
上となっている。
21)Robert Johnson, Five Facts about Value-added Exports and Implications for Macroeconomics and
Trade Research, Journal of Economic Perspectives, Volume 28, Number 2, Spring 2014, pp.123-127.
22)日本の貿易収支は、2011 年を画期として赤字化しており、2014 年においてもその動向に変化はない。
23)例えば、日本国内で主要部品を生産し、海外で組立を行い日本へと逆輸入する場合は、最終消費地で
ある日本向けの製品であっても、輸入に占める国内付加価値部分が上昇し、輸入元で生産される付加
価値部分が低下することになる。
24)多国籍企業関連貿易(MNC-Associated trade)とは、貿易活動に多国籍企業が関与している貿易のこ
とを指す。
25)アメリカ多国籍企業による企業内貿易、企業内世界分業の時系列分析については、佐藤秀夫「ベンチ
マークサーベイデータに見る米国多国籍企業の展開 -1966 年から 2002 年まで -」『研究年報 経済学』
第 67 巻、第 1 号、東北大学、2005 年 9 月、あるいは小山大介「米国ベンチマーク・サーベイによる
多国籍企業の時系列分析(1)- 多国籍企業による企業内貿易の深化 -」『経済論叢』第 181 巻、第 4 号、
京都大学経済学会、2008 年 4 月等を挙げることができる。
26)Tanweer Akram, Haider A. Khan, J. Scott Holladay, U.S. Intra-Firm International Trade , SSRN
Working Paper, November 14, 2007, pp.4-5.
27)企業内貿易は、通常「Intra-firm trade」と呼ばれるが、アメリカ国勢調査局では「Related Party
Trade」と表現されている。
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