工学基礎物理 解説 2-3 質点系の力学③ ばねでつながれた2物体の運動 (高専の応用物理p 42 問題3) Aug. 2016 ©T. Hasegawa 前回(2-2 換算質量と相対座標)では、一軸上を運動し、衝突する2物体の運動が、重心系での相対座標と換算質量 で書き直すことができることを見てきた。しかし、そもそも、このような衝突問題は、2年で学んだ運動量保存 則を普通の座標系(実験室系)で、簡単に解くことができる。重心系などわざわざ出すまでもないわけだ。ここ では、もう少し複雑な問題で、相対座標と、換算質量のご利益を見ていくことにしよう。例に取り上げるのは、 ばねにつながれた2体の運動である(教科書 p42 の問2) 。 1. ばねにつながれた2物体の運動方程式 図1のように、ばねにつながれた2物体(質点 1、2)の運動を考える。質点 1 の質量を m1、位置を x1、質点 2 の 質量を m2、位置を x2 とし、x1 > x2 とする。ばね定数を k、自然⾧を l とする。まず、質点 1、2 の運動方程式を素 直に立ててみることにしよう。1 と 2 の間の距離は、x1 – x2 (>0)であり、ばねの自然⾧は l であるから、ばねの伸 び量は、(x1 – x2) – l である。この値が正である(x1 – x2 が l より大きい)ときには、ばねは引き延ばされて、縮も うとする。負の値のときは、逆に伸びようとする。x 軸の正方向を右側にとると、質点 1、2 の運動方程式はそれ ぞれ、 =− ( = ( − − )− )− ・・・(1) ・・・(2) となる。(x1 – x2) – l の符号次第で、ばねが伸び、縮みの 2 パターンがあること、それぞれのパターンで、質点 1、 2 の受ける力の方向が変わることを注意せよ。また、質点 1、2 の受ける力は、大きさが同じで向きが逆で、合わ せるとゼロになる。あたかも作用反作用として働いていることがわかる。質点 1、2 からなる質点系には外力が 働いていないということができる。 さて、これらの式は、単振動の式によく似て見える。しかし、たとえば(1)式は、x1 だけの式ではなく、x2 が入 っているため、このままでは、一個の質点の単振動のように簡単に解くことはできなさそうである。 図1 1 2. ばねにつながれた2物体の「重心」の運動方程式 教科書では重心の運動方程式を求めさせている。まずはそれに従ってみよう。重心の座標を X とすると、 + + = ・・・(3) となる。重心は、質点系の全質量が集まった点と考えることができるので、その質量は、 + がって、重心の運動方程式は、重心にかかっている力を F(未知)として、 である。した ( + ) = ( + ) =0 ・・・(4) + ・・・(5) と書くことができるだろう。実際には質点系には外力が働いていないため、F = 0 であり、 となるはずである。(4)式が実際に成立しているかどうかを確かめてみよう。 (3)式より、 ( + ) = であるが、この式の右辺は運動方程式、(1)、(2)式の足し算になっている。すなわち、(1)、(2)、(5)式より、 ( + ) = + =− ( − ) =0 )− + ( − )− =0 となり、(4)式が成り立っていることがわかる。以上より、重心 X についての運動方程式は、 ( である。重心の速度を V とすると、 + = = 0 = であり、重心は等速直線運動することがわかる(C = 0 の場合は止まったまま) 。 ・・・(6) ・・・(4 再) ・・・(7) 3. ばねにつながれた2物体の「相対運動」の運動方程式 重心の運動は分かったが、肝心の 2 物体の運動がまだわかっていない。前回のプリント「2-1 質点系の力学 2」 で、任意の 2 物体の運動は、重心運動と相対運動に分けることができることがわかった。 「任意の運動」である ので、外力が働かないかぎりはどんな運動にも当てはまる。このばねでつながれた 2 物体の運動にも適用できる 考え方である。そこで、2 物体の相対座標 x = x1 – x2 (>0)がどう振る舞うかを考えてみよう。(1)、(2)式を変形し て、 ( =− = ( 2 − − )− )− ・・・(1’) ・・・(2’) であるから、上 2 式を辺々引けば、 ( − )=− ( となるが、x = x1 – x2 であるので、結局、 =− である。もう少し整理すると、 )− − − − )− ( − ) + + =− ( ( − ) ・・・(8) となる。この(8)式が、相対座標 x に関する運動方程式となる。この式に見覚えがある人は少ないだろうが、以前 解いたことがある、単振動の式、 ( ) =− ( ) ・・・(9) と見比べてみると、(8)式が単振動の式に類似していることがわかるだろう。すなわち(8)式は、位置が x、質量が = + ・・・(10) で、振動の中心が x = l であるような単振動を表している1。このを換算質量2というが、前回のプリントで算出 した換算質量と同じ形をしていることがわかるだろう。また、前回のプリントでは、換算質量と相対座標は、重 心系で見た質点系の運動を表していたが、ここでも、換算質量と相対座標は重心系の者であることをコメントし ておく。 (8)式を、換算質量を用いて書き直すと、 =− ( − ) となる。さらに x’ = x – l とおくと、 ′ から、 = ′ =− ′ ・・・(11) となる。(11)式は単振動の式(9)と全く同じ形をしている。たとえば、t = 0 にばねの伸びが A だったとすると、 (11)の単振動の解は、 = cos ・・・(12) となる(詳細は課題にまわす) 。したがって、x’ = x – l から、 = + 1 cos (8)式の再右辺の(x – l)は、原点を中心とする振動を l だけずらしたことに相当する。x = l のとき、右辺がゼロ となり、 ⁄ がゼロになるが、これは、ばねが自然⾧になり質点には力が働いていないこと、すなわち振 動の中心であることを意味している。 2 ・・・(13) 単位も kg である。確認せよ。 3 図2 となる。すなわち、質点 1、2の相対座標は、周期 = 2 の単振動を行う。 以上から、ばねにつながれた 2 つの質点の運動を、重心の運動と、質点の相対運動に分けて解くことができたわ けである。式からわかる 2 つの質点の運動を模式的に図 2 に示す。重心は、等速直線運動を続ける。これは、質 点系に外力が働いていないことに対応している。その重心に乗って、質点は相対運動を単振動として行っている。 この二つの運動を合成したものが、実際の運動となる。たとえて言うなら尺取虫のように、質点同士が振動を繰 り返しながら、系全体として等速直線運動を行う、ということになる。 最後に、重心 X と相対座標 x の解から、質点 1、2 の位置 x1、x2 を求めてみよう。(13)式より、 = − = + ・・・(14) cos また、(7)式より、重心は速度 C の等速直線運動をするので、初期条件を t = 0 で X = 0(原点にいた)とすると、 + + = ・・・(15) = である。(14)、(15)式を連立させると、やや繁雑な計算を経て、 = = ( + ) + ( + ) − + + + cos − cos ・・・(16) ・・・(17) となる。これが、x1、x2 のダイレクトな表現である。式をよく見ると、確かに、質点 1、2 ともに、Ct で並進運動 しつつ、単振動をしていることはわかるだろう。確かに、質点1、2の運動をこのように個別に記述することは 可能である。しかし、これを見てすぐに、1、2が互いに重心を中心に伸縮振動をしていることを読み取ること は困難ではないか。やはり、重心と相対運動に分けたほうが、理解が容易ではないだろうか。 このように、重心系、換算質量、相対座標は、複雑な問題において、その運動を簡単化するために大きな威力 があることがわかる。 (おわり) 4
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