バーゼル問題の初等的解法

バーゼル問題の初等的解法
1. 目的
バーゼル問題
1
1
1
1
π2
1
+
+
+
+
+
·
·
·
=
12 22 32 42 52
6
を高校数学の範囲で証明する.高校数学の範囲でも証明方法はいくつかあるが,ここでは
フーリエ級数を用いた方法を紹介する(ただし,フーリエ級数自体は証明には明示的には
出てこない).
2. 証明
以下,0 ≤ x ≤ π とする.まずは和積の公式
(
(
)
)
1
x
1
x − sin k −
x
2 sin cos kx = sin k +
2
2
2
から始める.これを k = 1 から k = n まで足すと
)
(
n
x
x ∑
1
x − sin
2 sin
cos kx = sin n +
2
2
2
k=1
となる.よって

 sin(2n + 1)t
sin t
Dn (t) =

2n + 1
(t ̸= 0)
(t = 0)
とおくと,Dn (t) は 0 ≤ t ≤ π/2 で連続で
−2
n
∑
cos kx = 1 − Dn
k=1
(x)
2
が成り立つ.
x(2π − x)
をかけて 0 から π まで積分すると,左辺は
4π
∫
n ∫
n
−1 ∑ π
1 ∑1 π
2(π − x) sin kx dx
x(2π − x) cos kx dx =
2π k=1 0
2π k=1 k 0
}
{[
]π
∫
n
1 ∑2
1 π
cos kx
=
−
cos kx dx
−(π − x)
2π k=1 k
k
k 0
0
ここで,両辺に
n
n
1 ∑ 2π ∑ 1
=
=
2π k=1 k 2
k2
k=1
1
となり,一方で右辺は
1
4π
∫
π
(
x(2π − x) 1 − Dn
0
( x ))
2
∫ π
∫ π
2
8
1
x(2π − x)dx −
dx =
t(π − t)Dn (t)dt
4π 0
4π 0
∫ π
2 2
π2
−
t(π − t)Dn (t)dt
=
6
π 0
となる.よって,n → ∞ で剰余項について
∫
π
2
t(π − t)Dn (t)dt → 0
0
となることが示されれば
∞
∑
π2
1
=
n2
6
n=1
が示される.
3. 剰余項の評価
評価したい剰余項の積分の積分区間を
∫
0
π
2
∫
t(t − π)Dn (t)dt =
0
π
2(2n+1)
sin(2n + 1)t
dt +
t(π − t) ·
sin t
∫
π
2
π
2(2n+1)
t(π − t) ·
sin(2n + 1)t
dt
sin t
と二つに分けて評価する.まず,前半部分は
∫ π
∫ π
2(2n+1)
2(2n+1)
sin(2n + 1)t 1
π3
t(π − t) ·
dt ≤
tπ ·
dt =
0
sin t
2t/π
4(2n + 1)
0
後半部分は
∫ π
[
]π
2
1
sin(2n + 1)t cos(2n + 1)t 2
t(π − t) ·
dt = −
t(π − t) ·
π
2n + 1
sin t
sin t
π
2(2n+1)
2(2n+1)
(
)′
∫ π
2
1
t(π − t)
cos(2n + 1)t dt
+
π
2n + 1 2(2n+1)
sin t
∫ π
(
)′
1 2
t(π − t)
=
cos(2n + 1)t dt
π
2n + 1 2(2n+1)
sin t
(
)
∫ π
t(π − t) ′ 2
1
dt
≤
π
2n + 1 2(2n+1)
sin t
∫ π
(π − 2t) sin t − t(π − t) cos t 2
1
dt
=
π
2n + 1 2(2n+1)
sin2 t
2
となる.ここで
g(t) =
とおくと,0 < t ≤
g(t) =
(π − 2t) sin t − t(π − t) cos t
sin2 t
π
で
2
π − 2t − t(π − t)/ tan t
π − 2t − t(π − t)/t
t
π
≥
=−
≥−
sin t
sin t
sin t
2
かつ
(π − 2t)t − t(π − t) cos t
−t2 + t(π − t)(1 − cos t)
=
sin2 t
sin2 t
−t2 + 2t(π − t) sin2 2t
t(π − t)
π2
=
≤
≤
t(π
−
t)
≤
4
2 cos2 2t
4 sin2 2t cos2 2t
g(t) ≤
が成り立つので,
∫ π
∫ π
2
2
1
sin(2n + 1)t π2
π3
t(π − t) ·
dt ≤
dt <
π
π
2n + 1
sin t
4
8(2n + 1)
2(2n+1)
2(2n+1)
と評価できる.
以上より,n → ∞ で
∫ π
2
π3
π3
3π 3
t(π − t)Dn (t)dt ≤
+
=
→0
0
4(2n + 1) 8(2n + 1)
8(2n + 1)
となるので,求める等式が示された.
4. 補足
以下は高校数学の範囲外になる.この証明の背後にあるのは,ディラックのデルタ関数 δ(x)
のフーリエ級数展開
(
)
∞
1 1 ∑
+
δ(x) =
cos nx ,
−π ≤ x ≤ π
π 2 n=1
である(等号は超関数の意味で成り立つ).これを変形して
∞
)
x(2π − x) (
x(2π − x) ∑
1 − 2πδ(x) = −
cos nx
4π
2π
n=1
とし,両辺を 0 から π まで積分すると,求める等式が得られる.その際,δ(x) は x がか
かっているために積分値に影響を与えず,
∫ π
∫ π
)
x(2π − x)
x(2π − x) (
1 − 2πδ(x) dx =
dx
4π
4π
0
0
3
となることに注意する.
証明に出てきた Dn (t) はフーリエ級数の理論で重要な役割を果たすディリクレ積分核と
呼ばれるものである.今回の証明では,
∫ π
∫ π
(x)
sin 2n+1
x
2
x(2π − x)Dn
dx =
x(2π − x) ·
dx
x
2
sin 2
0
0
が 0 に収束することが重要であり,その証明も記したが,実はリーマン・ルベーグの補題
f (x)
により,
が (0, π) で可積分なら
sin x2
∫
π
f (x) ·
0
sin 2n+1
x
2
dx → 0
x
sin 2
(n → ∞)
となることが知られている.このとき,可積分条件より f (0) = 0 でなければならないこ
とも考慮すると,δ 関数が消えて
∫
π
f (x) dx = −2
0
∞ ∫
∑
n=1
π
f (x) cos nx dx
0
が成り立つので,f (x) を変えることにより様々な等式を証明することができる.例えば
f (x) =
とすれば
∞
∑
π4
1
=
n4
90
n=1
が,
f (x) =
とすれば
x2 (2π − x)2
48π
x3 (2π − x)3
1440π
∞
∞
∑
1
π2 ∑ 1
π6
−
=
n6 15 n=1 n4
3150
n=1
が示される.
4