一様磁場中の荷電粒子の運動:2次元調和振動子との等価性(正準形式による議論) 1.一様定磁場中の荷電粒子のハミルトニアン 一様定磁場中の荷電粒子(質量 m、電荷 q )を考える。磁場方向を z 軸にとり、 ⃗ = (0, 0, B0 ) B (1) とする。B0 は場所にも時間にも依らない定数である。この磁場に対するベクトルポテンシャルを ⃗ = B0 (−y, x, 0) A 2 (2) にとる。荷電粒子の z 方向の運動は等速直線運動であって、ある意味自明であるので、運動を xy 面内に限定した2次元運動を考えることにする。 ⃗ = B0 (−y, x) として、荷電粒子のハミルトニアン H(⃗r, p⃗) は ⃗r = (x, y), p ⃗ = (px , py ), A 2 H(⃗r, p⃗) = ⃗ 2 (⃗p − q A) 2m (3) となる。この p ⃗ は正準運動量であって m⃗r˙ とは異なることに注意する必要がある。2乗を展開し て、成分をもちいて具体的に書くと H(x, y, px , py ) = 1 2 q 2 B02 2 qB0 (px + p2y ) + (x + y 2 ) + (−xpy + ypx ). 2m 8m 2m (4) サイクロトロン運動の角速度 ωc は ωc = qB0 m (5) であるから、これをもちいて 1 2 1 ( ω c )2 2 ωc (px + p2y ) + m (x + y 2 ) − (xpy − ypx ) 2 2 ]2 [ 2 ] [2m2 ) ( ( 2 py px 1 ωc 1 ωc )2 2 2 = + m x + + m y 2m 2 2 2m 2 2 ωc − (xpy − ypx ) 2 H(x, y, px , py ) = (6) (7) (8) と書き直せる。右辺の第1項、第2項はそれぞれ、x 方向の調和振動、y 方向の調和振動をあらわ すハミルトニアンであり、第3項は、これら2つの調和振動子間の相互作用、として解釈できる。 2.回転座標系での記述:正準変換による、2次元調和振動子との等価性 基底ベクトルを z 軸の周りに角速度 α で回転させる(反時計回りを正の回転方向とする)。新た な基底での位置ベクトル成分 X, Y は、逆に角速度 −α で ベクトルを回転させた場合 の成分と同 じになる。よって、静止座標系での位置ベクトル成分 x, y とは次の関係式になる: ( ) ( )( ) X cos αt sin αt x = . (9) Y − sin αt cos αt y 成分で書けば X = (cos αt)x + (sin αt)y Y = −(sin αt)x + (cos αt)y. (10) (11) 逆に解けば x = (cos αt)X − (sin αt)Y (12) y = (sin αt)X + (cos αt)Y. (13) この変換 x, y → X, Y にともなって、運動量も変換 px , py → Px , Py を受ける。これらの変数変換 が正準変換となるためには、変換の母関数が存在すればよい。少し考えると、次の「3」型1 の母 関数 W3 で変換できることがわかる: W3 (px , py , X, Y, t) = px [−(cos αt)X + (sin αt)Y ] + py [−(sin αt)X − (cos αt)Y ] . (14) 実際、この母関数を使うと ∂W3 = ∂px = ∂W3 − = ∂py = − (cos αt)X − (sin αt)Y (15) x (16) (sin αt)X + (cos αt)Y (17) y (18) となり、座標の変換を再現している。運動量に関しては ∂W3 = ∂X = ∂W3 − = ∂Y = − (cos αt)px + (sin αt)py (19) Px (20) −(sin αt)px + (cos αt)py (21) Py (22) となり、運動量の変換は座標の変換(10)、 (11)と同じ変換になっていることがわかる。ハミルト ニアンについては、(4)を構成する3要素 p2x + p2y , x2 + y 2 , −xpy + ypx (23) のいずれも回転不変であるので2 H(x, y, px , py ) = H(X, Y, Px , Py ) 1 ωc 1 ( ω c )2 2 = (X + Y 2 ) + (−XPy + Y Px ). (Px2 + Py2 ) + m 2m 2 2 2 が成立する。正準変換にともなって、変換後の変数に対するハミルトニアン H ′ は ∂W3 ∂t = H + αpx [(sin αt)X + (cos αt)Y ] + αpy [−(cos αt)X + (sin αt)Y ] H′ = H + 1 (24) (25) (26) (27) = H + αX [(sin αt)px − (cos αt)py ] + αY [(cos αt)px + (sin αt)py ] (28) = H + αX(−Py ) + αY Px (ω ) 1 1 ( ω c )2 2 c = (Px2 + Py2 ) + m (X + Y 2 ) + + α (−XPy + Y Px ). 2m 2 2 2 (29) (30) 見慣れた表現で書くと、{q}, {p}, H → {Q}, {P }, H ′ の変換に際し W3 = W3 ({p}, {Q}, t), ∂W3 ∂W3 , Pi = − , qi = − ∂pi ∂Qi ∂W3 H′ = H + , ∂t とする処方。 2 実際に変換形を代入して確認できる。「ベクトルの大きさの2乗」「ベクトルの外積(ベクトル積)の z 成分」と いう観点からも回転不変性は結論づけられる。 よって α=− ωc 2 (31) にとると 1 ( ω c )2 2 1 2 2 H = (P + Py ) + m (X + Y 2 ) 2m x 2 2 ′ となり、これは2次元調和振動子(角振動数 (32) ωc )のハミルトニアンである。 2 3.ラーモアの定理: 「弱い磁場の影響は回転座標系で取り除ける」 前節で示されことは「回転座標系の角速度をうまく選べば、定磁場中の荷電粒子は、2次元調和振 動子と同じ」ということである。調和振動子のポテンシャル項は ( 2 ) 1 ( ωc )2 2 q 2 B02 (X 2 + Y 2 ) (33) m (X + Y ) = 2 2 8m2 であって、磁場 B0 の2次になる。よって、磁場が弱い場合にはほとんど無視できることになる。 言い換えると、磁場が弱い場合、適切に選んだ回転座標系では実質的に磁場のない場合の運動にな る。このことはしばしばラーモアの定理と呼ばれる。
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