従業員の安否確認 - 東京海上日動WINクラブ

2016 August Special-1
東京海上日動 WINクラブ
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従業員の安否確認
地震が発生すると、企業は従業員の安否を確認することから取りかからねばなりません。しかしながら、日本を襲っ
た過去の地震災害において、必ずしも安否確認がうまくいった企業ばかりではありません。本稿では、従業員の安否確
認にどのような手段を用いるべきか、また、平時に何を備えておくべきか等について解説します。
Ⅰ.安否確認の難しさ
東日本大震災では、地震発生当日に多くの人が電話による安否確認を試みました。しかし、一度に多くの電話連絡が
殺到したため、通信のキャパシティを遥かに超過し、結果、携帯事業者各社は最大 90%の通話規制を行いました。加
えて、被災地では地震の揺れと津波により、基地局を含む多くの通信インフラが使えなくなりました。
先日の熊本地震の際も、地震発生直後から電話連絡の集中で通信状態が悪化し、繋がりにくくなりました。そのため
Facebook や Twitter、LINE などの SNS を活用して連絡を行うケースが多く見受けられました。従業員全員の安否の
確認が取れるまで1週間程度の日数と、相当な手間を費やした企業も少なくありません。
Ⅱ.様々な安否確認手段
従業員に対する安否確認には①メール、②電話、③災害用伝言サービス、④独自に整備した安否確認システム、⑤SNS
等さまざまな方法があります。
その内容と特徴を次ページ図表2に取り纏めました。電話やメールは手軽で簡便である反面、上記のとおり災害時は
通信規制や通信状態の悪化により利用できない可能性が高いなど、それぞれ一長一短があります。どの通信手段が有効
かは実際に災害が起きてみるまで分かりませんので、企業はそれぞれの特性を踏まえた上で、自社に合った安否確認手
段を複数選択しておくことが重要でしょう。
【図表 1:従業員に対する安否確認手段利用状況】
なお、安否確認手段を会社で準備していても、
利用者がその存在や使い方を知らなければ、いざと
62%
58%
58%
57%
51%
51%
メール
いう時にその役割を果たしません。安否確認方法を
日頃から周知すること、安否確認手段を使用した訓
通話
練を行っておくことなどが重要になります。
業員に対する安否確認手段について、
「メール」
と
「通
37%
32%
35%
災害用伝言サービス
東京商工会議所の公表資料によれば、企業から従
25%
28%
28%
独自に整備した安否確認システム
話」が過半数を超えています(図表 1 参照)
。災害
SNS
時の安否確認に有効な「災害用伝言サービス」や「独
自に整備した安否確認システム」を活用している企
特に準備してない
業は約3割にとどまっており、未だに普及が進んで
2014年
2015年
2016年
9%
12%
16%
9%
10%
10%
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70%
いないことが分かります。一方、ソーシャル・ネッ
トワーキング・サービス(以下、SNS)の利用率は
【出典】東京商工会議所「会員企業の防災対策に関する
アンケート調査結果」をもとに弊社作成
未だに低いものの、年々増加傾向にあることが分
かります。
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【図表2:安否確認手段の解説】
安否確認手段の例
① メール
概要
メリット・デメリット
 会社メールや個人携帯メールなどに一斉
に安否問合せメールを発信し、各従業員か
 災害時にメール発信/返信が遅延する恐
れがあるものの、メール自体は届く。
 災害時にメールを送るためのパソコンが
らの返信にて安否確認する方法。
 あらかじめ全従業員の連絡先を登録して
使えない可能性がある。
おく必要がある。
② 通話
 自宅や個人携帯電話などの電話番号を複
数記載した緊急連絡網を使用し、音声通話
 各従業員の安否や負傷状況を詳しく確認
できる。
 災害時は音声通話がつながりにくくなる。
にて安否を確認する。
 緊急連絡網は全従業員に配布し、常時携帯  緊急連絡網等の携帯は個人情報の管理上
を意識付ける。
③ 災害用伝言サービス
リスクを伴う。
 「災害用伝言ダイヤル(171)
」に社員
が自らの安否を録音・登録する方法や、通
 家族間など10名以下の少人数を対象と
する安否確認には有効。
信会社各社による「災害用伝言サービス」  一人一人のメッセージを確認する必要が
で携帯電話・PHS からのインターネット
あるため、従業員数が多い会社には不向
接続により文字で登録・確認する方法があ
き。
る。
④ 独自に整備した
安否確認システム
 各企業の専用サイトなどを通じて、従業員  サービス提供会社によって、対象者の状況
が安否情報を回答する方法。
を集計、レポートとして出力することや、
(システムによっては、専用メールを送受
次の連絡事項を迅速に送信することもで
信する方法もある。
)
きる。
 導入や開発に費用がかかる。
⑤ SNS
 Twitter、LINE、Google パーソンファイ  メール送受信の遅延影響を受けにくい。
ンダーなどメール送受信を使用せず、ハッ  会社へ従業員個人のアカウントを教えた
シュタグやグループを作成して安否確認
くないという従業員が多く存在する。
 スマートフォンを利用していないと使い
に活用する方法。
ずらい。
【出典】NPO法人事業継続推進機構「中小企業BCPステップアップ・ガイド(4.0版)
」をもとに弊社作成
Ⅲ.従業員の家族の安否確認について
また、
従業員が一番心配するのは家族の安否です。
家族の安否が分からなければ社員の帰宅を止めるのが難しくなり、
会社の復旧に従事してもらうことが難しくなります。東京商工会議所の「会員企業の防災対策に関するアンケート」調
査によると、家族との安否確認手段として、
「災害用伝言サービス等、通話以外の手段を確保するよう従業員に周知して
いる」企業は約4割にとどまり、残りの約6割の企業は安否確認手段を周知していない状況が明らかになっています。
企業は従業員に対して、あらかじめ家族等との連絡手段を複数確保するよう周知・指導しておくことも忘れてはなり
ません。
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