物理 復習プリント (物理・第1篇「力と運動」 その4 剛体のつりあい2)

物理
復習プリント (物理・第1篇「力と運動」 その4 剛体のつりあい2)
Jul. 2016 ©T. Hasegawa
剛体の転倒の条件を導出するには、まず合力のための作用点の設定や、最大静止摩擦力に課される条件があるこ
と、など、少々複雑な考え方をする必要がある。また、剛体の形状により、転倒の条件が変わってくる(縦⾧の
方が転倒しやすい)。ここで、いくつかの解き方、考え方をまとめてみたので参考にしてほしい。さらに、授業で
は触れなかったが、モーメントの考え方を適用することも可能である。その点についても言及する。
1. 力のつりあいと、転倒の条件、滑り出す条件
1-1 力のつりあい
図1
荒い床面(静止摩擦係数)に置かれた剛体(質量 m)が、張力 T で引っ張られている。床面からの摩擦力でつ
りあっているときの状況が図1(a)である。剛体には、張力 T、重力 mg、垂直抗力 N、静止摩擦力 f がかかってい
る。剛体は動かないので、力のつりあいが成り立っており、垂直方向に、
水平方向に、
=
=
である。剛体にかかる張力と重力による合力は、それぞれ作用線上を移動させて、図1(b)の F1 のように書くこ
とができる。この F1 が剛体を移動させようとする力である。一方、剛体を押しとどめようとする力(抗力)は、
垂直抗力と、静止摩擦力である。問題はこれらの抗力が、どの作用点で剛体に作用しているかである。
垂直抗力と、静止摩擦力による合力を F2 とする。剛体がつりあっている(並進も回転もしない)ことから、F2 は、
F1 と同一作用線上に反対向きの力になっているはずである。したがって、垂直抗力と摩擦力の作用点は、図 2(b)
の点 P になることがわかる。
この状況で、静止摩擦係数をとすると、最大静止摩擦力は fmax = mg となるので、これを超える張力 T で剛
体を引っ張ると、水平方向のつりあいが成り立たず、剛体は滑り始める。すなわち、滑り始める条件は、
である。
>
1
(1)
図2
滑らない条件(T < mg)で、さらに、徐々に T を大きくしていくと、図2(a)のように、F1 作用線の延⾧が床と
交わる点 P は、剛体の角 A に接近する。
さらに、T を大きくして、図 2(b)のように F1 の作用線が剛体と床面が接している面から外れてしまうことを考
えてみよう。この場合はもはや、剛体をつりあわせるような抗力 F2 を設定することができなくなり、A を中心に
回転(傾く)してしまう。
1-2 転倒の条件(または滑り出す条件)
もう少し、詳しく転倒の条件を調べてみよう。図 3 のように、横幅が W の物体(直方体とする)を、高さ h の位
置にくくりつけた糸で引っ張ることを考える。どんな条件のときに直方体が滑り出したり倒れたりするだろうか。
(1) 直方体が滑り出すための T の条件
先ほどみたように、張力が最大静止摩擦力より大きくなれば滑り始める。
(T がこれ以下であれば動かない)
>
(1)
(2) 直方体が転倒しない条件
張力 T が大きくなって、図 2(b)のように、F1 の作用線が、直方体の底面から外れてしまうと、直方体は転倒する。
転倒しない T の最大値は、図 2(a)または図 3 のように、作用線がちょうど角 A を通るときである。このとき、T
と mg で作られる三角形と、図 3 の三角形 ABO が相似形となる。すなわち、F1 の作用線と底面のなす角をとし
て、
tan
=
ℎ
=
2
となる。このときの張力 T が、F1 の作用線が直方体の底面を通
る(転倒しない)場合の最大の T となる。すなわち、
(2)
2ℎ
が転倒しない条件となる。T がこれより大きいと、転倒する。
直方体が倒れる前に滑り出すためには、滑り始めるときの張
力 T = mg が(2)式を満たせばよいので、
2ℎ
すなわち、
2ℎ
図3
2
(3)
が条件となる。逆に、がこの値より大きい(最大静止摩擦力が大きい)と、直方体は、(2)以上の張力で引っ張
られたときに転倒する。この答えが意味するところは、最大静止摩擦力がある値以下であれば物体は滑り出して
くれるが、あまりに最大静止摩擦力が大きいと、張力が十分大きいときに、直方体がつんのめって転倒する、と
いうことである。
1-3 転倒の条件と引っ張りの位置(高さ h)
(2)式を見ると、高さ h と横幅 W が出てきている。h が大きいと(引っ張りの位置が高い)
、より小さな T で転倒
してしまうことがわかる。一方、横幅 W が大きいと、転倒に必要な T は大きくなる。この意味するところは、

引っ張りの位置が高い、または直方体の背が高いと、たやすく転倒する。

幅と高さの比 w / h が同じ直方体の転倒条件は同じ(倒れやすさが同じ)

引っ張りの位置が低い、または直方体の背が低いと、転倒しにくい(滑りやすい)
。
ということである。背が高くてバランスの悪い物体が倒れやすい、または、高いポイントを押したり引いたりす
ると、倒れやすいというのは、日常的に経験することであるが、その理由がこの転倒の条件である。
1-4 転倒の条件をモーメントから計算する
実は、転倒の条件はモーメントの計算からも求めることができる。転倒に必要な最小の T をモーメントから求め
てみる。転倒の可能性がある最小の T は図 3 のような状況で、合力 F1 が角 A を通るときである。回転軸を A に
設定すると、N と f はモーメントがゼロである。T と mg に関して、A からの腕の⾧さを考えると、モーメントの
つりあいは、
ℎ=
1
2
となる。このつりあい条件より T が大きくなれば、直方体は A を中心に反時計回りに回る。その条件は、上式よ
り、
>
2ℎ
となる。この式は、転倒しない条件(2)式のちょうど逆になっており、つじつまが合うことがわかる。
2. 斜面に置かれた直方体の転倒条件
斜面に置かれた直方体の転倒条件もよく聞かれる問題である。解き方は、上で解いた、平面上の直方体とほとん
ど同じである。糸の張力 T で引っ張られる代わりに、重力の斜面平行成分で引っ張られると考えればよい、
。
次の図 4 の状況を考えよう。角度の斜面に、質量 m の直方体(高さ h、幅 W)が置いてある。静止摩擦係数は
とする。
3
直方体がつりあって静止しているとき、斜面に垂直、水平成分のつ
りあいの式は、
である。
=
=
cos
sin
(1) 直方体が滑り始めないための条件
最大静止摩擦力 fmax = mgcos、が重力の斜面下向きの成分より大
きければよいから、
cos
すなわち、
図4
sin
tan
である。
(4)
(2)直方体が倒れる条件(どんなで倒れるか)
重力(mgcosと mgsinの合力でもある)の作用線が直方体の角に達するときである(ちょうど図 4 の状況)
。こ
のとき、mgcosと mgsinの比が、h / 2 と w / 2 の比に等しくなるので、
(平面上の直方体の三角形の比と同じ状
況)
sin θ
= 2
ℎ
cos
2
すなわち、 tan
=
ℎ
このより大きい角度であれば、重力の作用線は直方体の底面を外れてしまう。よって、
tan
>
ℎ
(5)
が、直方体が転倒する条件となる。この式から w / h が小さい、すなわち縦⾧の直方体の方が、(5)式を満たすの
値が小さくなり、転倒しやすいことがわかる。
(3)直方体が滑る前に転倒する条件
滑らない条件(4)式と、転倒の条件(5)を同時に満たす tanが存在すればよい。すなわち、
となればよいので、
ℎ
tan
ℎ
が求める条件となる。やはりこの問題でも、静止摩擦係数が、直方体の縦横比によって決まる値で制限を受ける
ことがわかる。
(第 1 篇「力と運動」その 4 剛体のつりあい 2 おわり)
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