微分方程式Ⅰ 参考資料 10 2016 年度前期 工学部・未来科学部 2 年 担当: 原 隆 (未来科学部数学系列・助教) ■ 行列の指数関数*1 定数係数連立微分方程式 { ( ′ ) ( )( ) x (t) x(t) x′ (t) = ax + by a b ⇔ = · · · (∗) y ′ (t) = cx + dy c d y ′ (t) y(t) ( ) ( ) a b a−T b は 、係 数 行 列 を A = の 特 性 多 項 式 を ΦA (T ) = det とおくと c d c d−T ( ′) ( ) x x ′ = A と表せる。このようにして見ると、連立微分方程式 (∗) は微分方程式 y = ky の y′ y 「ベクトル版」と捉えることが出来るだろう。さて、微分方程式 y ′ = ky の一般解は y = ekx y(0) と 指数関数 を用いて表された*2 。したがって 連立微分方程式 (∗) の解も「行列の指数関数」etA を ( ) x(t) ベクトル の左から掛ければ得られるのではないだろうか? y(t) 定義 (行列の指数関数 )) ( 連立一次方程式 x′ (t) y ′ (t) ( ) x(t) =A の解の基本系 ψ 1 (t), ψ 2 (t) が与えられたとき、行列 A の y(t) 指数関数 etA を etA = (ψ 1 (t) ψ 2 (t))(ψ 1 (0) ψ 2 (0))−1 で定める。 ( ) x(t) このとき = C1 etA ψ 1 (0) + C2 etA ψ 2 (0) である。 y(t) 例 { ) ( ) 1 1 (1) 連立微分方程式 の固有値は 0, 2 で、それぞれ固有ベクトル , ′ −1 1 y (t) = x + y ( ) ( ) ( ) 1 1 1 を持つため (各自確認すること!)、解の基本系として e0·t = , e2t が取れる。 −1 −1 1 ( ) 1 1 したがって係数行列 A = の指数関数は 1 1 x′ (t) = x + y ( ( )( )−1 ( ) ( )−1 ( ) 1 e2t + 1 e2t − 1 e2t 1 e2·0 1 e2t 1 1 −1 e = = = e2t −1 e2·0 −1 e2t 2 1 1 2 e2t − 1 e2t + 1 { ( ) ( ) x′ (t) = − y −i i (2) 連立微分方程式 の固有値は −i, i で、それぞれ固有ベクトル , ′ 1 1 y (t) = x ( ) ( ) − sin t cos t を持つため (各自確認すること!)、解の基本系として , が取れる*3 。した cos t sin t tA *1 *2 *3 1 −1 時間の関係であまり深入り出来ません。詳細は笠原皓司著『新微分方程式対話』(日本評論社) 第 7 週や泉英明著『コ ア・テキスト 微分方程式』(サイエンス社) の 3.2 章などを参照して下さい。 ここで y(0) はいつもは C と書いていた「任意実数」のこと。実際、y = Cekt とおくと y(0) = C である。 参考資料 9 で扱ったようにオイラーの公式を用いて計算する。 ( がって係数行列 B = e tB ) 0 −1 1 の指数関数は 0 ( )( − sin t cos t − sin 0 = cos t sin t cos 0 { cos 0 sin 0 )−1 ( ) ( ) 0 −1 − sin t cos t 1 = cos t sin t −1 −1 0 ( ) cos t − sin t = (回転行列) sin t cos t ( ) 1 (3) 連立微分方程式 の固有値は 1 (重根) で固有ベクトル を持つため (各 ′ 1 y (t) = 2x − y ( )( ) ( ( ) ( t) ( ) ) 2 −2 1 e 1 1 et + 2tet t t t 自確認せよ!)、解の基本系として e = t ,e + te = 1 e 0 0 2tet 2 −2 ( ) 3 −2 が取れる*4 。したがって係数行列 C = の指数関数は 2 −1 ∗ etC = ( t e et x′ (t) = 3x − 2y et + 2tet 2tet )( e0 e0 e0 + 2 · 0 · e0 2 · 0 · e0 )−1 = ( t e et ) ( ) et + 2tet 1 0 −1 2tet −1 −1 1 ( t ) e + 2tet −2tet = 2tet et − 2tet 定理 (行列の指数関数のマクローリン展開) etA = I2 + tA + 1 1 (tA)2 + (tA)3 + . . . . . . 2! 3! が成り立つ。 【証明】 連立微分方程式の解の存在と一意性定理 を用いる。i = 1, 2 に対してベクトル値関数 ψ̃(t) ( ) 1 2 を ψ̃ i (t) = I2 + (tA) + (tA) + . . . . . . ψ i (0) と定めると、 2! ( ) 1 1 ′ ′ 2 3 = (I2 ) + (tA) + (tA) + (tA) + . . . . . . ψ i (0) 2! 3! ( ) ( ) 1 1 = A + tA2 + t2 A3 + . . . . . . ψ i (0) = A I2 + tA + (tA)2 + . . . . . . ψ i (0) = Aψ̃ i (0) 2! 2! ( ′ ) ( ) ( ) x (t) x(t) x(0) より ψ̃ i (t) は初期値問題 =A , = ψ i (0) の解となる。一方で etA ψ i (0) も ′ y (t) y(t) y(0) ′ ψ̃ i (t) 同じ初期値問題の解なので、 連立微分方程式の解の一意性定理 より ψ̃ i (t) = etA ψ i (0) が成り立 つ。この等式を並べて書くと ) ( 1 1 2 3 e (ψ 1 (0) ψ 2 (0)) = I2 + tA + (tA) + (tA) + . . . . . . (ψ 1 (0) ψ 2 (0)) 2! 3! tA となるので、右から (ψ 1 (0) ψ 2 (0))−1 を掛ければ良い (ψ 1 (0), ψ 2 (0) は線形独立となるように取っ ていることに注意)。 *4 参考資料 9 のようにして無理矢理 2 つ作る。発展的。 □
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