本文は - 化学と生物

Book Review
書評
分子細胞生物学 第 7 版
日本農芸化学会
H. Lodish ほか 著
石浦章一,榎森康文,堅田利明,須藤和夫,仁科博史,山本啓一 訳
A4 変型判,フルカラー,1,080 頁,本体価格 8,300 円
東京化学同人,2016 年
本書は,分子細胞生物学のスタンダード教科書として
世界的に広く使われている Molecular Cell Biology の
以前の版からであるが各節の最後にはまとめが箇条書
日本語訳である.日本語訳は 1989 年の初版から 4∼5 年ご
きで並べられていて,知識を整理するのを手助けしてくれ
とに再版を重ね,前回の第 6 版は 2010 年 11 月に発行され
る.各章の最後には「将来の展望」や「重要な単語」とと
た.以前の訳で学ばれた読者も多いに違いない.今回の版
もに「重要概念の復習」(章末問題)がまとめられている.
では I. 化学的・分子的基礎(1∼3 章)から始まり,II. 遺
中でも章末問題は今回の第 7 版で大きく作り直されたり追
●
伝学と分子生物学(4∼8 章),III. 細胞の構造と機能(9∼
化学と生物 ても取り上げられている(21 章).
加されたりして最新の研究成果が反映されている.また,
19 章),IV. 細胞の増殖と分化(20∼24 章)まで全部で 24
「データの分析」は実験結果の解釈の訓練に役立つ.これ
章から構成されており,綺羅星のごとき著名な先生方が訳
らに関しては,模範解答があればより理解が深まると感じ
に携わられている.
るのは怠惰な私だけであろうか.章末にところどころ挿入
まえがきでも述べられているように,学部学生や大学
されている「古典的実験」のコラムは生物学研究の歴史を
院生の教育に長い経験をもち,常に教育の質を高める努力
学ぶうえで最高の教材であり,古典に立ち帰ることの重要
をしている原著者らは,本書の執筆にあたり,ここ数年間
性を教えてくれる.専門課程レベルの学生から教員,研究
のうちに生まれた革新的技術を起爆剤として著しい進歩を
者まで分子細胞生物学に携わるすべての人にとって必読の
遂げてきた生命科学の新たな展開を取り入れている.たと
一冊である.
えば,次世代 DNA 配列決定法の技術的解説と,それがも
(石丸喜朗)
たらした大量のゲノム情報についての解説が新たに追加さ
れている(5, 6 章)
.また,2012 年のノーベル生理学・医
Copyright © 2016 公益社団法人日本農芸化学会
学賞受賞の対象となり日本中が沸き立った iPS 細胞につい
Book Review
化学と生物 Vol. 54, No. 8, 2016
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