平成 28 年度 解析力学 講義ノート [12](担当:井元信之) 第4章 72 前回の演習問題の答 2016 年 7 月 14 日 ハミルトン形式の力学 [問 4.4]調和振動子の座標と運動量を無次元化して円軌道を得るために施した変数変換 座標と運動量にまたがる変換 q≡ 正準変換 I で W = qQ として (4.44) を使うと √ mω x , p≡ ! 1 px mω (4.25) は正準変換である。その母関数は何か? 正準変換 のそれぞれについて求めよ。 p = Q II と P III = −q (4.55) を得る。あるいは正準変換 IV で W ′′′ = −pP として (4.50) を使うと、 ′ 解答:正準変換 II を用いる場合、母関数 W ′ は x と p の関数で、(4.48) 式(の後ろの 2 式)は px = ∂W お ∂x √ √ ∂W ′ ∂W ′ ∂W ′ よび q = ∂p となる。(4.25) 式を使うとこれは = mω p および = mω x を意味するから、 q=P Q= (4.56) ∂x −p ∂p √ W ′ = mω xp となる。 を得る。これは単に座標と運動量を入れ替える変換である。 ′′ 正準変換 III を用いる場合、母関数 W ′′ は q と px の関数で、(4.50) 式(の後ろの 2 式)は x = − ∂W ∂px ′′ ′′ ′′ 次に、q, p から R, Θ への変換 (4.29) を考える。そのとき見たように、これは正準変換のはずである。いま正 q x および p = − ∂W となる。(4.25) 式を使うとこれは ∂W = − √mω および ∂W = − √pmω を意味する ∂q ∂px ∂p 2′′ qp xとすると、 準変換 I で から、 W = (q /2) cot Θ √ W = − mω となる。 " q2 ! p = q cot Θ および R = 1 + cot2 Θ (4.57) 2 m 2 [2]一次元デカルト座標を動く質量 m の質点の運動エネルギー T ( ẋ) = ẋ において、独立変数を ẋ から運動量 2 . を得る。これは書き換えると p ≡ ∂T /∂ ẋ に変更し、T のルジャンドル変換を p で表せ。 # $ " q 1! 2 −1 Θ = tan および R = p" + q 2 # (4.58) df p 2 答:ルジャンドル変換の理論によれば、変数変換 x → u ≡ に伴う f (x) のルジャンドル変換 dx あるいはこれを逆に解いて (4.29) を導く。 g(u) は xu − f を u の関数で表したものであるから、今の場合 x → ẋ 、u → p 、f → T と読み替え 以上、座標と運動量にまたがる変換 2p 例からわかるように、ハミルトン形式の力学では座標とか運動量とか 1 2 1 2 れば、答 = ẋp − T = p− p = p となる。 m 2m 2m いう言葉は本来の意味を忘れてもよく、共役な変数あるいは正準変数と呼ぶ方が適切である。 時間に依存しない座標変換 そうは言ってもラグランジュの方法でおなじみの座標だけの変換も正準変換であることは言っておく必要があ る9 。3 次元デカルト座標から球座標への変換は、正準変換 III で W ′′ = − (px r sin θ cos φ + py r sin θ sin φ + pz r cos θ) と選ぶことにより導かれる。 [問 4.5]このことを確認せよ。x, y, z, pr , pθ , pφ を計算し、x, y, z が座標変換の式になっていること、および pr , pθ , pφ が問 4.1 の答を再現することを確認すればよい。 一般の座標変換は W ′ (q, P ) = f (q)P とおくことにより p = ∂W ′′ ∂q = ∂f ∂q P のように表される。 時間に依存する座標変換:減衰振動の例 時定数 γ の減衰を伴う振動子のラグランジアンを L = 式 m(q̈ + 2γ q̇ + ω 2 q) = 0 を得る10 。一般座標は p ≡ H= ∂L ∂ q̇ m 2 2 (q̇ − ω 2 q 2 )e2γt とすると、減衰項を伴う運動方程 = mq̇e2γt 、ハミルトニアンは 1 2 −2γt m 2 2 2γt p e + ω q e 2m 2 (4.59) である。時間に陽に依存するこのハミルトニアンを母関数 W ′ (t, q, P ) = qP eγt により正準変換すると、p = P eγt 、 Q = qeγt 、H̃ = 1 2 2m P + m 2 2 2ω Q + γP Q となって、時間に陽に依存しないハミルトニアンとなる。もちろん 本来エネルギー散逸のある系を見かけ上時間に依存しないハミルトニアンにしているので、変換後の運動方程 式を解いて得られる保存量が質点のエネルギーというわけではない。 9 座標のみの変換を点変換という。座標に引きずられて (4.25) のように運動量も変換されるのもそのうちに入る。したがって点変換は 正準変換である。 10 これは散逸関数を使わずラグランジアンに減衰項を繰り込む方法である。 1 4.2. 正準変換 73 時間に依存する変換:位相空間の回転 再び q と p 運動量にまたがる位相空間内での変換である。ハミルトニアンが H = (ω/2)(p2 + q 2 ) である系、 第 4 章 ハミルトン形式の力学 すなわち規格化された調和振動子を考える。位相空間では円周上を等角速度 ω で動く。そこで、同じく角速度 ので、これを (4.41) に入れ、両辺に dt をかけ適当に移項すると、 4.2. 正準変換 73 ω で回転する Q と$! P に変換して、軌跡が一点にとまるようにすることを考える。いま正準変換 I で母関数と ! " " ! " % # ∂W ∂W ∂W H − H̃ + dt = pj − dqj + Pj + dQj (4.43) して 時間に依存する変換:位相空間の回転 ∂t ∂qj ∂Qj q 2 cos ωt − 2qQ + Q2 cos ωt (4.60) 2 sin ωt 再び q と p 運動量にまたがる位相空間内での変換である。ハミルトニアンが H = (ω/2)(p2 + q 2 ) である系、 j W (t, q, Q) = って ∂W ∂W ∂W j j H̃ = H + より , pj = , Pj = − (4.44) ω で動く。そこで、同じく角速度 とする。 (4.44) すなわち規格化された調和振動子を考える。位相空間では円周上を等角速度 ∂t ∂q ∂Q ω で回転する QH̃と=PHに変換して、軌跡が一点にとまるようにすることを考える。いま正準変換 I で母関数と Q = −p sin ωt + q cos ωt および q = P sin ωt + Q cos ωt (4.61) 関数 W が時間に陽に依存しない場合は となる。具体例は後ほど示す。 して を得る。第二式の Q に第一式右辺を代入すると qP2 cos = pωt cos ++ q sin −ωt 2qQ Q2ωt cosを得るから、併せて ωt W (t, q, Q) = (4.60) 換 II:q1 , · · · , qn , P1 , · · · , Pn の関数として母関数を選ぶ場合 2 sin ωt P = p cos ωt + q sin ωt および Q = −p sin ωt + q cos ωt (4.62) とする。(4.44) より 70 第 4 章 ハミルトン形式の力学 場合 ! " dW ∂W # ∂W Q= −p∂W sinṖωt + q cos ωt および = に入れ、両辺に + q̇jdt + あるいは逆に解いて j となるので、これを (4.41) をかけ適当に移項すると、 q = P sin ωt + Q cos ωt (4.45) dt ∂t ∂q ∂P j j j ! " $! " ! " % p = P# cos ωt − Q∂W sin ωtP = および q+=q P + Q cos ωt を得る。第二式の Q∂W に第一式右辺を代入すると p cos ωt∂W sinsin ωtωt を得るから、併せて が、今度はこれを直接 (4.41) に入れても進まないので、先に (4.41) を適切な形に変形しておく。いま H − H̃ + dt = pj − dqj + Pj + dQj (4.43) ∂t ∂q ∂Q j j j P Q̇ + Ṗ Q であることを使うと (4.41)を計算することにより、変換されたハミルトニアンを求めると は を得る。∂W/∂t P = p cos ωt + q sin ωt および Q = −p sin ωt + q cos ωt したがって ′ # # # dW ω 2 ∂W ∂W pj q̇j − H = − Ṗj Qj − H̃ + ただし W ′H̃≡∂W WH(P, + Pj Q 2(4.46) = H̃ = H + , p = , PjQ) =− −j (P + Q ) (4.44) dt あるいは逆に解いて j j j j 2 j ∂t ∂qj ∂Q p = P cos=ωtH−となる。具体例は後ほど示す。 Q sin ωt および q = P sin ωt + Q cos ωt 特に母関数 W が時間に陽に依存しない場合は される。これに (4.45)となる。ここで を入れ、両辺に dt p2をかけ適当に移項すると、 + q 2 = P 2 + QH̃2 となることを使うと ! " $! " ! " % # を計算することにより、変換されたハミルトニアンを求めると を得る。 ∂W ′ ∂W/∂t ∂W ′ ∂W ′ H − H̃ + dt = pj − dqj + Qj − dPj ∂W (4.47) ∂t ∂qj ∂P H̃j = H + =0 正準変換 II:q1 , · · · , qn , P1 ,j· · · , Pn の関数として母関数を選ぶ場合 ∂t ω って H̃ = H(P, Q) − 2 (P 2 + Q2 ) (4.61) (4.63) (4.62) (4.64) (4.63) (4.65) (4.64) この場合 となり、変換後の正準方程式は ! ′ " ∂W ′ ∂W ′ ∂W # ∂W ∂W 2 H̃ = H + , 2 +pjqdW == P 2∂W , QQ2jとなることを使うと = dP となる。ここで p + =j + q̇j 0 + および Ṗj ∂t ∂q ∂Pj = dt ∂t ∂qj ∂Pj dt (4.48) dQ (4.45) =0 (4.66) dt 。 ∂W H̃ = H + =0 (4.65) となるが、今度はこれを直接 に入れても進まないので、先に (4.41) を適切な形に変形しておく。いま となって、P も Q (4.41) も定数(ただし一般に異なる定数)となる。この P と Q は、言ってみれば p と q の位相空 の正準変換を与える W ′ (q1 , · · · , qn , P1 , · · · , Pn ) を探すにあたり、まず W (q1 , · · · , qn ,∂t Q1 , · · · , Qn ) を何 d Q̇ + Ṗ′ Q であることを使うと (4.41) は dt P Q = P 間の初期振幅と初期位相に相当する。調和振動子の動きに合わせて動く位相空間に乗ってみれば、それは動か してから (4.46) を使って W を q , · · · , q , P , · · · , P の関数として求める、などという手続きを踏む必 j 1 n 1 n となり、変換後の正準方程式は # # # dW′ ′ dQ ′ ·,P ない P, Q となる。 い。もともと W 自体が任意なのだから、 (4.46) (q1 ,= · ·0· , qnおよび , PW ) を仮定し、 pj q̇j − H = −は忘れていきなり Ṗj Qj − H̃ + WdP ただし W (4.46) 1 , · ·≡ n+ = 0 Pj Qj (4.66) dt dt dt j j j 元の調和振動子 x, px における楕円軌道を無次元化して q, p 空間で円軌道にし、さらに回転する Q, P に変換 を使って正準変換を構築すればよい。具体例は後ほど示す。 となって、(4.45) P もQ も定数(ただし一般に異なる定数)となる。この P と Q は、言ってみれば p と q の位相空 と変形される。これに を入れ、両辺に dt をかけ適当に移項すると、 して結局「何も動かない、一点だけの軌道」にしてしまった。ここまでする意義は何であろうか ? ! " " ! " % 間の初期振幅と初期位相に相当する。調和振動子の動きに合わせて動く位相空間に乗ってみれば、それは動か ′ ′ ′ # $! ∂W ∂W ∂W q と p になることが知られている。 換 III:p1 , · · · , pn , Q1 , ·たとえば光すなわち電磁波では、電場の · · , Qn の関数として母関数を選ぶ場合 H − H̃ + dt = pj − cos 成分と dqj + sin Qj 成分がそれぞれ − dPj (4.47) ∂qj ∂Pj → ない P, Q となる。 ∂t j 11 これは高い角振動数 ω で回転する 。これほど速く振動する q や p を直接測ることは難しい。しかし実際は q 変換 II と同様 元の調和振動子 x, px における楕円軌道を無次元化して q, p 空間で円軌道にし、さらに回転する Q, P に変換 # したがって や p の振動を逐一追いたいということはまず無く、それより、基準となる光や電磁波に対する相対位相が重要 ′ ′ W ′′ ≡ W − p∂W q (4.49) j j ∂W ∂W ′ して結局「何も動かない、一点だけの軌道」にしてしまった。ここまでする意義は何であろうか ? H̃ = H j+ , pj = , Qj = (4.48) であることが多い。相対位相は振動しない定数(あるいは時間とともにゆっくり動く変数)で、それはまさに ∂t ∂qj ∂Pj たとえば光すなわち電磁波では、電場の cos 成分と sin 成分がそれぞれ q と p になることが知られている。 ば 12 となる。 Q や P である。干渉計の出力、ホログラフィー、ホモダイン検波やヘテロダイン検波は基準 との「位相差」 ∂W ′′ ∂W ′′ ∂W ′ 11 これは高い角振動数 ω で回転する 。これほど速く振動する q や p を直接測ることは難しい。しかし実際は q H̃ = H + , q = − , P = − (4.50) ′ j jP ) を探すにあたり、まず W (q , · · · , q , Q , · · · , Q ) を何 所望の正準変換を与える W (q , · · · , q , P , · · · , 1 n j 1 n 1 n 1 n ∂t ∂p ∂Qj を測っているのである。だから、実際に測っているのは Q や P であるし、その方が重要である。 や p の振動を逐一追いたいということはまず無く、それより、基準となる光や電磁波に対する相対位相が重要 もう一つの意義は、要するに初期条件を決めれば以後が決まるということだから、 「運動とともに動く位相空 であることが多い。相対位相は振動しない定数(あるいは時間とともにゆっくり動く変数)で、それはまさに 要はない。もともと W 自体が任意なのだから、(4.46) は忘れていきなり W ′ (q1 , · · · , qn , P1 , · · · , Pn ) を仮定し、 間に観測者が乗れば、動かない初期条件をいつまでも見る」ことに相当する。これは次に述べることに繋がる。 Q や P である。干渉計の出力、ホログラフィー、ホモダイン検波やヘテロダイン検波は基準12 との「位相差」 (4.48) を使って正準変換を構築すればよい。具体例は後ほど示す。 ′′ か仮定してから (4.46) W を使って q11,,······,,qQnn, P , · · · , Pn (4.50) の関数として求める、などという手続きを踏む必 。これも (4.49) は忘れて最初から (p1 , · ·W · , ′pnを, Q ) 1を決め、 を使って正準変換を構築 よい。 換 IV :p1 , · · · , pn , P1 , ·を測っているのである。だから、実際に測っているのは · · , Pn の関数として母関数を選ぶ場合 Q や P であるし、その方が重要である。 # もう一つの意義は、要するに初期条件を決めれば以後が決まるということだから、 「運動とともに動く位相空 ≡1W (4.51) 正準変換 III :p1 , · · ·W , p′′′ , · ·+ · , Qn (P の関数として母関数を選ぶ場合 j Qj − pj qj ) n, Q 11 12 可視光の場合数百テラヘルツである。 (テラヘルツ = 10 j ヘルツ) 間に観測者が乗れば、動かない初期条件をいつまでも見る」ことに相当する。これは次に述べることに繋がる。 12 ホログラフィーでは基準となる波は参照波あるいは参照光とよばれ、ホモダイン・ヘテロダイン検波では局発光と呼ばれる。干渉計 正準変換 II と同様 で基準となるのは位相変調を受けない光路に分岐した自分自身である。ディラックの言う「光子はそれ自身と干渉する」に対応している。 # W ′′ ≡ W − とすれば (4.49) pj qj j 11 可視光の場合数百テラヘルツである。 (テラヘルツ = 1012 ヘルツ) 12 ホログラフィーでは基準となる波は参照波あるいは参照光とよばれ、ホモダイン・ヘテロダイン検波では局発光と呼ばれる。干渉計 ∂W ∂t ′′ ∂W ′′ ∂pj ∂W ′′ ∂Qj H̃ = H + , qj = − , Pj = − (4.50) で基準となるのは位相変調を受けない光路に分岐した自分自身である。ディラックの言う「光子はそれ自身と干渉する」に対応している。 である。これも (4.49) は忘れて最初から W ′′ (p1 , · · · , pn , Q1 , · · · , Qn ) を決め、(4.50) を使って正準変換を構築 すればよい。 ⎪ Qn = Qn (t, q1 , · · · , qn , p1 , · · · , pn ) ⎭ ⎫ ⎪ P1 = P1 (t, q1 , · · · , qn , p1 , · · · , pn ) ⎪ ⎪ ⎬ 74 ············ ⎪ ⎪ ⎪ 自然な運動による時間発展 P = P (t, q , · · · , q , p , · · · , p ) ⎭ n 7 n 1 n 1 (2.9) 式の注 3 で書いたように、 および t1 Ldt を作用積分と呼ぶ。これを S で表すと、 dPj ∂ H̃ " t2 j#に対して) = − " t2 (すべての dt ∂Qj dq S= ハミルトン形式の力学 n ! t2 。これに伴い適切な関数 H̃(t, Q1 , · · · , Qn , P1 , · · · , Pn ) が存在して dQj ∂ H̃ = dt ∂Pj 第4章 (4.37) Ldt = $ " − H(p, q) dt = p q2(4.38) p dq − dt t1 t1 q1 つとき8 、この変換を 正準変換(canonical transformation )という。前節のハミルトンの原理によれ " t2 (4.67) H(p, q)dt t1 8) が成り立つためには となる。ただし⎛q1 ≡ q(t1 )、p1 ⎞ ≡ p(t1 ) である。いま系の時間発展が正準方程式に則ったものである場合を考 % t1 ( ⎝ ⎠=0 える。その条件の下に作用 の全微分をとると、積分の始点と終点の時間のずれしか寄与しないから、 δ Pj Q̇j − S H̃dt (4.39) t0 j よい。しからばこの式と (4.32) が同時に満たされるためには dS = p2 dq2 − p1 dq1 − [H(p2 , q2 ) − H(p1 , q1 )] dt ( ( pj q̇j − H = Pj Q̇j − H̃ (実は不十分) (4.40) (4.68) となる。ここで q , p1 を変換前の一般座標と一般運動量 q, p とみなし、q2 , p2 を変換後の Q, P とみなすと、 j j1 % & dS = P dQ − pdq − H̃(P, Q) − H(p, q) dt (4.69) dW (正) (4.41) dt dW = pdq − P dQ − (H − H̃)dt (4.70) なるだろうが、これは実は不十分である。なぜなら 2.2.3 の注 11 で「ラグランジアンには不定性があ な関数 W (t, q1 , q2 , · · · , qn ) の微分 dW/dt を付け加えてもラグランジュの運動方程式は変わらない」と とを思い出してほしい。このことから となるから、(4.41) の両辺に dt をかけて得られる ( j pj q̇j − H = ( j Pj Q̇j − H̃ + ただし W は (t, Q1 , · · · , Qn , P1 , · · · , Pn ) の微分可能な任意の関数である。この W を正準変換の母関 。 とを比較すると、これは「S(q, Q) の符号を変えたものは正準変換 I の母関数 W (q, Q) になる」ことを意味す る。すなわち、正準方程式に則った時間発展は — 系が現実にとる運動は — そのものが正準変換にほかなら は変数として一見 t と q1 , · · · , qn , p1 , · · · , pn および Q1 , · · · , Qn , P1 , · · · , Pn の 4n + 1 個の変数を含む ない。 えるが、(4.36) および (4.37) の 2n 個の変換式があるので、独立な変数は 2n + 1 個である。そのうち だから、結局 2n 個が独立変数として残り、それは大文字小文字の座標と運動量の計 4n 個から選ばれ 個から 2n 個を選ぶ方法は無数にあるが、四種類ほど挙げておこう。 I:q1 , · · · , qn , Q1 , · · · , Qn の関数として母関数を選ぶ場合 合 4.2. 正準変換 75 + , dW ∂W ( ∂W ∂W = + q̇j + Q̇j dt ∂t ∂qj ∂Qj 電磁場のゲージ変換 j (4.42) 標系など変換自体が t に陽に依存する場合も想定しているが、そうでない場合は引数の最初の t を省く。 節では時間に依存しない変換だったためハミルトニアンの候補は必然的にエネルギーである必要があった。したがって (4.38) 電磁気学で知られているように、微分可能な任意の関数 χ(t, r) を用いたゲージ変換 適切な関数」をいろいろ探しに行くことはせず、変換 (4.26) によるエネルギーの表現 (4.27) をハミルトニアン候補としてみ は結果的に正準方程式を導かず正しくなかった)、あるいは (4.29) によるエネルギーの表現 (4.30) をハミルトニアン候補とし ∂χ A !→ à = A + ∇χ および φ !→ φ̃ = φ − た(こちらは正準方程式になった)。 (4.71) ∂t に対してラグランジュの運動方程式は変わらない。ただし A はベクトルポテンシャル、φ は電位ポテンシャル である。これを正準変換の観点から見る。いま、電磁場中を動く質量 m、電荷 e の荷電粒子のラグランジアン は (3.107) を再掲して L= m 2 |ṙ| + e (A · ṙ) − eφ 2 (4.72) ∂L = mṙ + eA ∂ ṙ (4.73) 1 2 |p − eA| + eφ 2m (4.74) で与えられる。一般運動量は p≡ であるからハミルトニアンは H= となる。ゲージ変換 (4.71) により r、p、H は r !→ r̃ = r (変わらず) , p !→ p̃ = p + e∇r χ および H !→ H̃ = H − e ∂χ ∂t (4.75) と変換される。これより ! " ∂χ p · dr − p̃ · dr̃ − (H − H̃) = −e ∇χ · dr + = −e dχ ∂t (4.76) となる。これは正準変換 III で母関数 W ′′ = −p · r̃ − eχ(t, r̃) の場合に相当する。実際 (4.50) 三番目の式より p̃ = −∇r̃ W ′′′ = p + e∇r̃ χ (4.77) したがって ∂χ r !→ r̃ =∂W r (′ 変わらず∂W ) , ′ p !→ p̃ ∂W = p′ + e∇r χ および H !→ H̃ = H − e ∂t , pj = , Qj = (4.48) H̃ = H + となる。 ∂t ∂qj と変換される。これより (4.75) ∂Pj ! p · dr − p̃ · dr̃ − (H − H̃) = −e ∇χ · dr + " 所望の正準変換を与える W ′ (q1 , · · · , qn , P1 , · · · , Pn ) を探すにあたり、まず W (q1 , · · · , qn , Q1 ,∂χ · · · , Qn ) を何 = −e dχ ∂t か仮定してから (4.46) を使って W ′ を q1 , · · · , qn , P1 , · · · , Pn の関数として求める、などという手続きを踏む必 (4.76) 要はない。もともと W 自体が任意なのだから、(4.46) は忘れていきなり W ′ (q1 , · · · , qn , P1 , · · · , Pn ) を仮定し、 ′′ となる。これは正準変換 III で母関数 W = −p · r̃ − eχ(t, r̃) の場合に相当する。実際 (4.50) 三番目の式より 第 4 章 ハミルトン形式の力学 76 (4.48) を使って正準変換を構築すればよい。具体例は後ほど示す。 4.3 p̃ = −∇r̃ W ′′′ = p + e∇r̃ χ (4.77) ハミルトン・ヤコビの方程式とリウビルの定理 正準変換 III:p1 , · · · , pn , Q1 , · · · , Qn の関数として母関数を選ぶ場合 となり、(4.50) 二番目の式より ポアソンの括弧式 4.3.1 正準変換 II と同様 r = −∇p W = r̃ (4.78) # W ≡ W − p q (4.49) j j 力学の問題を解くということは質点(単一または複数)の位置の時間変化を求めるというのが通常の意味で ′′′ ′′ とすれば j となり、(4.50) 一番目の式も併せて (4.75) の三式をすべて再現する。すなわち電磁場のゲージ変換は正準変換 ある。しかし「運動エネルギーの時間変化が知りたい」あるいは「角運動量の時間変化が知りたい」など、力 である。 ∂W ′′ ∂W ′′13 。力学量は力学変数とも呼ばれるが、それが時間に陽に依存する定 ∂W ′′ 学量の時間依存性を求めたいこともある H̃ = H + , q =− , P =− (4.50) j j ∂t ∂pj ∂Qj 義の場合は質点の運動と無関係に時間に依存し、かつ質点の運動に伴う座標(一般座標)と運動量(一般運動 である。これも (4.49) は忘れて最初から W ′′ (p1 , · · · , pn , Q1 , · · · , Qn ) を決め、(4.50) を使って正準変換を構築 ! 量)の関数であることを通じても時間に依存する。たとえば運動エネルギー T や角運動量 i ri × pi は時間 すればよい。 に直接は依存せず、質点の座標と運動量の変化を通じて時間に依存する。 正準変換 IV :p1 , · ·いずれにせよ時間に依存するので力学変数を一般に · , pn , P1 , · · · , Pn の関数として母関数を選ぶ場合 F (t) とすると、その時間変化の割合は W ′′′ ≡ W + # j dF (P pj qj ) " j Qj −∂F # dF ∂F " = + dt ∂t i # dt = ∂t + i ∂F dqi ∂F dpi + ∂qi dt ∂pi dt $ ∂F ∂H ∂F ∂H − ∂qi ∂pi ∂pi ∂qi $ (4.51) (4.79) となる。これに正準方程式 (4.16) を適用すると、 となる。 第 4 章 ハミルトン形式の力学 76 4.3 (4.80) ハミルトン・ヤコビの方程式とリウビルの定理 4.3.1 ポアソンの括弧式 力学の問題を解くということは質点(単一または複数)の位置の時間変化を求めるというのが通常の意味で ある。しかし「運動エネルギーの時間変化が知りたい」あるいは「角運動量の時間変化が知りたい」など、力 学量の時間依存性を求めたいこともある13 。力学量は力学変数とも呼ばれるが、それが時間に陽に依存する定 義の場合は質点の運動と無関係に時間に依存し、かつ質点の運動に伴う座標(一般座標)と運動量(一般運動 ! 量)の関数であることを通じても時間に依存する。たとえば運動エネルギー T や角運動量 i ri × pi は時間 に直接は依存せず、質点の座標と運動量の変化を通じて時間に依存する。 いずれにせよ時間に依存するので力学変数を一般に F (t) とすると、その時間変化の割合は # $ dF ∂F " ∂F dqi ∂F dpi = + + dt ∂t ∂qi dt ∂pi dt (4.79) i となる。これに正準方程式 (4.16) を適用すると、 となる。 dF ∂F " = + dt ∂t i # ∂F ∂H ∂F ∂H − ∂qi ∂pi ∂pi ∂qi $ (4.80) 13 クレーンやジェットコースターの強度設計のためには、質点の運動の反作用である束縛力の時間変化は知りたいところであろう。量 子力学との関係で言えば、系の状態の変化に着目するシュレーディンガー描像と力学量の変化に着目するハイゼンベルク描像の違いに対 比される。 4.3. ハミルトン・ヤコビの方程式とリウビルの定理 77 いま任意の二つの力学変数 u と v に対し、 {u, v} ≡ # ! " ∂u ∂v ∂u ∂v − ∂qi ∂pi ∂pi ∂qi i (4.81) と書いて、この {u, v} のことを u と v の ポアソンの括弧式 または ポアソン括弧(Poisson bracket または Poisson’s bracket expression)という。これを使うと (4.80) は dF ∂F = + {F, H} dt ∂t (4.82) 4.3. 77 特に Fハミルトン・ヤコビの方程式とリウビルの定理 が直接時間に依存しない場合は dF = {F, H} (4.83) dt いま任意の二つの力学変数 u と v に対し、 # となる。さらにもし {F, H} = 0 ならば F は運動の恒量となる。 ! " ∂u ∂v ∂u ∂v {u, v} ≡ − (4.81) ∂qi ∂pi ∂pi ∂qi ところで q と p を定義しなければ (4.81) が計算できないので、本来ポアソンの括弧式は {F, H}q,p と書くべ i きであろう。ところが正準変換(ただし時間に依存しない正準変換)で q, p を Q, P に変換してもポアソンの と書いて、この {u, v} のことを u と v の ポアソンの括弧式 または ポアソン括弧( Poisson bracket または 括弧式は変わらないことが示される。したがってポアソンの括弧式は純粋に二つの力学変数のみで決まる。 Poisson’s bracket expression)という。これを使うと (4.80) は dF ∂F = + {F, H} (4.82)) [問 4.6]ポアソン括弧式が点変換に対し不変であることを示せ。 (応用問題:正準変換に対しても不変であることを示せ。 dt ∂t 特に F が直接時間に依存しない場合は ポアソン括弧式の性質をいくつか列挙する。 dF = {F, H} (4.83) dt ・ {qi , qj } = {pi , pj } = 0 , また異なる i, j に対して {qi , pj } = 0 (4.84) となる。さらにもし {F, H} = 0 ならば F は運動の恒量となる。 ・ {q, p} = 1 ⇒ i, j をまとめて {qi , pj } = δi,j (4.85) ところで q と p を定義しなければ (4.81) が計算できないので、本来ポアソンの括弧式は {F, H}q,p と書くべ ・ {u, c} = {c, u} = 0 ただし c は定数 (4.86) きであろう。ところが正準変換(ただし時間に依存しない正準変換)で q, p を Q, P に変換してもポアソンの 括弧式は変わらないことが示される。したがってポアソンの括弧式は純粋に二つの力学変数のみで決まる。 ・ u と v に対し線形(比例則、分配則が成立) (4.87) ・ {u, v} + {v, u} = 0(交換則不成立) (4.88) [問 4.6]ポアソン括弧式が点変換に対し不変であることを示せ。 (応用問題:正準変換に対しても不変であることを示せ。) ・ {u, {v, w}} + {v, {w, u}} + {w, {u, v}} = 0 ポアソン括弧式の性質をいくつか列挙する。 ・ {uv, w} = u {v, w} + v {u, w} $ % $ % ・ {q i, j に対して {qi , pj } = 0 ∂ i , qj } = {pi , p∂j } = 0 , また異なる ∂ ・ {u, v} = u, v + u, v ∂t ∂t ∂t $ % {qi , pj } = δi,j ・ {q, p} = 1 $⇒ i, j%をまとめて d d d ・ {u, v} = u, v + u, v dt c} = {c, u}dt= 0 ただし cdtは定数 ・ {u, ・ u, v が共に運動の恒量のとき {u, v} も運動の恒量。 ・ u と v に対し線形(比例則、分配則が成立) ∂u ∂u ・ {u, pi } = , {u, qi } = − ∂q ∂p ・ {u, v} + {v, u} i = 0(交換則不成立) i (4.89) (4.90) (4.84) (4.91) (4.85) (4.92) (4.86) (4.93) (4.87) (4.94) (4.88) また ・ {u, {v, w}} + {v, {w, u}} + {w, {u, v}} = 0 (4.89) dF d2 F = {F, H} , = {F, {F, H}} , · · · (4.95) ・ {uv, w} = (4.90) dtu {v, w} + v {u, w} dt2 $ % $ % ∂ ∂ ∂ より ・ {u, v} = u, v + u, v 2 (4.91) ∂t ∂t τ ∂t τ $ % $ % F (t + τ ) = F (t) + {F, H} (t) + {F, {F, H}} (t) + · · · (4.96) 2! d d 1! d ・ {u, v} = u, v + u, v (4.92) dt dt dt ちなみに、量子力学では上記で時間 t 以外のすべての力学量を通常の数でなく演算子(表現法を決めれば行 ・ u, v が共に運動の恒量のとき {u, v} も運動の恒量。 (4.93) ∂u ∂u 列となる)として表し、ポアソンの括弧式の代わりに演算子(あるいは行列)の交換子とし、括弧の形を変え ・ {u, pi } = , {u, qi } = − (4.94) ∂qi ∂pi て [u, v] ≡ uv − vu と表す。表現法を決めれば u と v は行列になるが、行列では一般に uv ̸= vu である。この また ような規則で (4.82) や (4.83) の代わりに dF d2 F = {F, H} , = {F, {F, H}} , · · · (4.95) dF ∂F dF dt dt2 ih̄ = + [F, H] , F が直接時間に依存しない場合は ih̄ = [F, H] (4.97) dt ∂t dt より τ τ2 F (t + τ ) = F (t) + {F, H} (t) + {F, {F, H}} (t) + · · · (4.96) 1! 2! ちなみに、量子力学では上記で時間 t 以外のすべての力学量を通常の数でなく演算子(表現法を決めれば行 列となる)として表し、ポアソンの括弧式の代わりに演算子(あるいは行列)の交換子とし、括弧の形を変え て [u, v] ≡ uv − vu と表す。表現法を決めれば u と v は行列になるが、行列では一般に uv ̸= vu である。この ような規則で (4.82) や (4.83) の代わりに 第 4 章 ハミルトン形式の力学 78 ちなみに、量子力学では上記で時間 t 以外のすべての力学量を通常の数でなく演算子(表現法を決めれば行 列となる)として表し、ポアソンの括弧式の代わりに演算子(あるいは行列)の交換子とし、括弧の形を変え て [u, v] ≡ uv − vu と表す。表現法を決めれば u と v は行列になるが、行列では一般に uv ̸= vu である。この ような規則で (4.82) や (4.83) の代わりに ih̄ dF ∂F = + [F, H] , dt ∂t F が直接時間に依存しない場合は ih̄ dF = [F, H] dt (4.97) としたものはハイゼンベルクの運動方程式と呼ばれる。h̄ はプランク定数を 2π で割ったものである。なお上記 のポアソンの括弧式の性質 (4.84)∼(4.93) はそのまま量子力学的交換子にも成り立つ。その証明は、q, p, u, v, w などを正方行列とすればよいので、むしろ量子力学の方が楽なくらいである。 [問 4.7] (4.84) 以降 13 個の性質を証明せよ。 (簡単なものから 1 ページくらいの計算を要するものもあるので、漸次で きるものから確かめよ。) 第4章 ハミルトン形式の力学 これを (4.41) に入れ、両辺に dt をかけ適当に移項すると、 ! " " ! " % # $! ∂W ∂W ∂W H − H̃ + dt = pj − dqj + Pj + dQj ∂t ∂qj ∂Qj (4.43) j H̃ = H + ∂W , ∂t ∂W , ∂qj pj = Pj = − ∂W ∂Qj (4.44) が時間に陽に依存しない場合は H̃ = H となる。具体例は後ほど示す。 1 , · · · , q n , P 1 , · · · , Pn の関数として母関数を選ぶ場合 78 dW ∂W # = + dt ∂t j 4.3.2 ! ∂W ∂W q̇j + Ṗj ∂qj ∂Pj 第4章 " ハミルトン形式の力学 (4.45) ハミルトン・ヤコビの方程式 度はこれを直接 (4.41) に入れても進まないので、先に (4.41) を適切な形に変形しておく。いま 調和振動子では変換に次ぐ変換の結果、 (4.65) のようにハミルトニアンを 0 にして (4.66) のように位相空間 Ṗ Q であることを使うと (4.41) は # j での動きを一点に止めてしまった。これは調和振動子でなくても「運動そのものが正準変換である」ことを考 # # dW ′ pj q̇j − H = − Ṗj Qj − H̃ + ただし W′ ≡ W + (4.46) Pj Qj dt えると一般化できる。一点に止めるということは運動を逆に追うことなので、運動方程式を解くことと同等で j j ある。これを実現する母関数が満たすべき方程式を考える。そのような方程式が見つかったとすると、 「それ 。これに (4.45) を入れ、両辺に dt をかけ適当に移項すると、 ! " $! " ! " % ′ # ∂Wを解いて母関数を求める」という新たな問題解法を提供することになる。 ∂W ′ ∂W ′ H − H̃ + dt = pj − dqj + Qj − dPj (4.47) ∂t たとえば正準変換∂qIIj において母関数を ∂Pj W ′ (t, q1 , · · · , qn , P1 , · · · , Pn ) とする。q, p から Q, P への正準変換は j (4.48) で与えられる。ハミルトニアン H̃ を 0 にする条件は (4.48) の第一式より H̃ = H + ∂W ′ , ∂t pj = ∂W ′ , ∂qj Qj = ∂W ′ ∂Pj ∂ ′ (4.48) W (t, q, P ) = −H(t, q, p) ∂t である。このような W ′ が見つかったとすると、H̃ = H + ∂ 変換を与える W ′ (q1 , · · · , qn , P1 , · · · , Pn ) を探すにあたり、まず W (q1 , · · · , qn , Q1 , · · · , Qn ) を何∂t (4.98) W ′ = 0 なのだから、正準方程式より (dPi /dt) = −(∂ H̃/∂Qi ) = 0 となるので Pi を定数に留め置くことができる。その定数を αi とすると、本 ら (4.46) を使って W ′ を q1 , · · · , qn , P1 , · · · , Pn の関数として求める、などという手続きを踏む必 来 t, q1 , · · · ,(4.46) qn , P1は忘れていきなり , · · · , Pn の関数であった母関数 q1 , · · · , qn のみの関数となるので、正準変換 (4.48) の ともと W 自体が任意なのだから、 W ′ (q1 , · · · , qn , P1W , · · ·は , Pt, n ) を仮定し、 ′ 二番目の式を用いて (4.98) の右辺の p も q の関数にしてしまうことができる。その結果は て正準変換を構築すればよい。具体例は後ほど示す。 ! " ∂ ′ ∂W ′ ∂W ′ W (t, q1 , · · · , qn , α1 , · · · , αn ) = −H t, q1 , · · · , qn , ,···, ∂t ∂q1 ∂qn (4.99) p1 , · · · , pn , Q1 , · · · , Qn の関数として母関数を選ぶ場合 と同様 となる。これを ハミルトン − ヤコビの偏微分方程式(Hamilton−Jacobi’s equation)またはハミルトン − ヤ コビの方程式という。そろそろ正準変換 I∼IV ごとに W, W ′ , W ′′ , W ′′′ と書き分ける意味も薄れて来ているの # W ′′ ≡ W − (4.49) pj qj で、上式の W ′ を Wj と書こう。一般にはそれをハミルトン − ヤコビの偏微分方程式と呼ぶ。この方程式は、 母関数となり得る W なら何でも必ず満たさなければならない方程式、ではない。運動方程式を解く代わりに ∂W ′′ ∂W ′′ ∂W ′′ H̃ = H̃ H+ , qj = − , Pj = − (4.50) = 0∂tとするような母関数を求めればよかったので、そのような母関数が満たすべき方程式である。そこでそ ∂pj ∂Qj のような特定の母関数を、 Wn )でなく S (4.50) と書いて、 も (4.49) は忘れて最初から W ′′ (p1 , · · · , pn , Q1 , · · · , Q を決め、 を使って正準変換を構築 ∂ ! ∂S ∂S " コビの方程式という。そろそろ正準変換 I∼IV ごとに W, W ′ , W ′′ , W ′′′ と書き分ける意味も薄れて来ているの で、上式の W ′ を W と書こう。一般にはそれをハミルトン − ヤコビの偏微分方程式と呼ぶ。この方程式は、 母関数となり得る W なら何でも必ず満たさなければならない方程式、ではない。運動方程式を解く代わりに H̃ = 0 とするような母関数を求めればよかったので、そのような母関数が満たすべき方程式である。そこでそ のような特定の母関数を、 W でなく S と書いて、 4.3. ハミルトン・ヤコビの方程式とリウビルの定理 ! " ∂ ∂S ∂S S(t, q , · · · , q , α , · · · , α ) = −H t, q , · · · , q , , · · · , 1 n 1 n となる15 。一方 (4.48) ∂t の第二式より pn= 1∂S(t,x) であるから、上式を用いて ∂q1 ∂qn ∂x 79 (4.100) とも書かれる。この dS(x) S は ハミルトンの主関数( Hamilton’s principalpfunction )と呼ばれる14 。後はこの方程 2 ! p= = 2m[E − U (x)] (2 番目の等式では + U = E を用いた。) (4.104) dx 2m 式を解いて行けばよいが、この先の計算は、 (1)1 次元ポテンシャル中の運動の例、 (2) 一般の場合、(3) 中心力 " ! 場の例で見て行こう。 これより S(x) = dx 2m[E − U (x)] となって、 # ! S(t, x) = −Et + dx 2m[E − U (x)] (4.105) 1 次元ポテンシャル中を動く 1 個の質点 となり、時間の関数と空間の関数の和となる。二項目の dx での不定積分に含まれる積分定数は作用の次元を ハミルトニアンは 2 p 持つので、時間 t の項に −E(t − t0 ) の形で繰り込むことができる。この意味で (4.105) の積分定数は時間の原 H= + U (x) (4.101) 2m 点を t0 にずらす効果しかない。運動を特徴付けているのは (4.103) の積分定数であるエネルギー E である。 であり、正準変換後の H̃ を 0 とする主関数 S(t, x) が満たすべきハミルトン − ヤコビの方程式は 特に U = 0 の自由粒子の場合は ! " ∂S(t, x) ∂S(t, x) + H x, =0 (4.102) √∂t ∂x S(t, x) = −Et + 2mE x + 積分定数 = −Et + px + const. (4.106) である。S は t と x だけでなく、(4.99) における α の自由度が一つあるはずだが、次に現れるエネルギー E が となって、 S(t, x) = const. を保つ時空の点は速度 E/p で伝わる。ちなみに量子力学ではこの式を作用量子 h̄ その定数の自由度を担う。いま U が(したがってハミルトニアンが)時間 t に直接依存していないので、エネ (プランク定数を 2πconst. で割ったもの)で割り i を掛け、E = h̄ω 、p = h̄k の関係を使って指数関数の指数にし、 ルギー保存則 H = ≡ E より、 $ % ∂S(t, x) = −E → S(t, x) exp = −Eti S(t, + const. (ただし x には依存)≡ −Et + S(x) (4.103) x) = e−i(ωt−kx) (4.107) ∂t h̄ 14 つまり正準変換の母関数を W とし、それが満たすハミルトン − ヤコビの偏微分方程式の解のことを S と書くのだが、文献や書物に よって初めから S と書いたりもしている。 という平面波で表す。すなわち量子力学において自由粒子のエネルギー E と運動量 p が決まっている場合は、 角振動数 ω ≡ E/h̄、波数 k ≡ p/h̄ の平面波となる。(const. から来る初期位相は省略した。) 4.3. ハミルトン・ヤコビの方程式とリウビルの定理 79 一般の場合 ∂S(t,x) となる15 。一方 (4.48) の第二式より p = ∂x であるから、上式を用いて 最も簡単な例である「1 次元ポテンシャル中を動く 1 個の質点」で行った計算を参考に一般化しよう。ハミ dS(x) ! p2 p= = 2m[E − U (x)] (2H̃ 番目の等式では +の第 U = 2E式から を用いた。 ルトン − ヤコビの方程式 (4.99) を導いたときは、 = 0 を使って (4.38) Pi =)const.≡ (4.104) αi を導 dx 2m ∂ いた。これを正準変換 " !(4.48) の第二式 pj = ∂qj W (q1 , · · · , qn , P1 , · · · , Pn ) に入れることにより、 これより S(x) = dx 2m[E − U (x)] となって、 # ∂ pj = W (q1 , · · · , q! (4.108) n , α1 , · · · , αn ) S(t, x) =∂q−Et + dx 2m[E − U (x)] (4.105) j を得る。しかしこれだけではまだ式の数が n 個で、W を求めるのに必要な解くべき変数 q1 , · · · , qn と p1 , · · · , pn となり、時間の関数と空間の関数の和となる。二項目の dx での不定積分に含まれる積分定数は作用の次元を の 2n 個に足りない。 持つので、時間 t の項に −E(t − t0 ) の形で繰り込むことができる。この意味で (4.105) の積分定数は時間の原 dQ ∂ H̃ 実は同様に Qi = const. も言える。それは (4.38) の第 1 式 dtj = ∂P において H̃ = 0 とすればよい。そこ j 点を t0 にずらす効果しかない。運動を特徴付けているのは (4.103) の積分定数であるエネルギー E である。 ∂ で Qi = const.≡ βi と置こう。そうすると正準変換 (4.48) の第一式 Qj = ∂P W (q , · · · , q , α , · · · , αn ) は 1 n 1 j 特に U = 0 の自由粒子の場合は √ ∂ (q1 , · · · , qn , α1 , · · · , αn ) j = 2mEW S(t, x) = −Etβ+ ∂αj x + 積分定数 = −Et + px + const. (4.109) (4.106) ということになる。そこで最終的には (4.108) と (4.109) の 2n 個の連立微分方程式から q1 , · · · , qn と p1 , · · · , ph̄n となって、 S(t, x) = const. を保つ時空の点は速度 E/p で伝わる。ちなみに量子力学ではこの式を作用量子 を求めればよい。その結果得られる W を主関数 S とすればよい。 (プランク定数を 2π で割ったもの)で割り i を掛け、 E = h̄ω 、p = h̄k の関係を使って指数関数の指数にし、 $ % i 次にハミルトニアンが時間 t に直接依存しない場合に限定しよう。この場合エネルギー保存則 H =(4.107) const. exp S(t, x) = e−i(ωt−kx) h̄ = E より、ハミルトン − ヤコビの方程式 (4.99) は という平面波で表す。すなわち量子力学において自由粒子のエネルギー E と運動量 p が決まっている場合は、 ∂ W (q1 , · · · , qn , α2 , · · · , αn ) = −E → W (q1 , · · · , qn , α2 , · · · , αn ) = −Et + S(q1 , · · · , qn ) (4.110) 角振動数 ω ∂t ≡ E/h̄、波数 k ≡ p/h̄ の平面波となる。(const. から来る初期位相は省略した。) 15 ハミルトンの主関数 S(t, x) のうち t に依らない部分を S(x) と書いている。 一般の場合 最も簡単な例である「1 次元ポテンシャル中を動く 1 個の質点」で行った計算を参考に一般化しよう。ハミ ˜ 角振動数 ω ≡ E/h̄、波数 k ≡ p/h̄ の平面波となる。(const. から来る初期位相は省略した。) 4.3. ハミルトン・ヤコビの方程式とリウビルの定理 79 一般の場合 ∂S(t,x) となる15 。一方 (4.48) の第二式より p = ∂x であるから、上式を用いて 最も簡単な例である「1 次元ポテンシャル中を動く 1 個の質点」で行った計算を参考に一般化しよう。ハミ dS(x) ! p2 p= = 2m[E − U (x)] (2H̃ 番目の等式では +の第 U = 2E式から を用いた。 ルトン − ヤコビの方程式 (4.99) を導いたときは、 = 0 を使って (4.38) Pi =)const.≡ (4.104) αi を導 dx 2m ∂ いた。これを正準変換 " !(4.48) の第二式 pj = ∂qj W (q1 , · · · , qn , P1 , · · · , Pn ) に入れることにより、 これより S(x) = dx 2m[E − U (x)] となって、 # ∂ pj = W (q1 , · · · , q! (4.108) n , α1 , · · · , αn ) S(t, x) =∂q−Et + dx 2m[E − U (x)] (4.105) j を得る。しかしこれだけではまだ式の数が n 個で、W を求めるのに必要な解くべき変数 q1 , · · · , qn と p1 , · · · , pn となり、時間の関数と空間の関数の和となる。二項目の dx での不定積分に含まれる積分定数は作用の次元を の 2n 個に足りない。 持つので、時間 t の項に −E(t − t0 ) の形で繰り込むことができる。この意味で (4.105) の積分定数は時間の原 dQ ∂ H̃ 実は同様に Qi = const. も言える。それは (4.38) の第 1 式 dtj = ∂P において H̃ = 0 とすればよい。そこ j 点を t0 にずらす効果しかない。運動を特徴付けているのは (4.103) の積分定数であるエネルギー E である。 ∂ で Qi = const.≡ βi と置こう。そうすると正準変換 (4.48) の第一式 Qj = ∂P W (q , · · · , q , α , · · · , αn ) は 1 n 1 j 特に U = 0 の自由粒子の場合は √ ∂ (q1 , · · · , qn , α1 , · · · , αn ) j = 2mEW S(t, x) = −Etβ+ ∂αj x + 積分定数 = −Et + px + const. (4.109) (4.106) ということになる。そこで最終的には (4.108) と (4.109) の 2n 個の連立微分方程式から q1 , · · · , qn と p1 , · · · , ph̄n となって、 S(t, x) = const. を保つ時空の点は速度 E/p で伝わる。ちなみに量子力学ではこの式を作用量子 を求めればよい。その結果得られる W を主関数 S とすればよい。 (プランク定数を 2π で割ったもの)で割り i を掛け、 E = h̄ω 、p = h̄k の関係を使って指数関数の指数にし、 $ % i 次にハミルトニアンが時間 t に直接依存しない場合に限定しよう。この場合エネルギー保存則 H =(4.107) const. exp S(t, x) = e−i(ωt−kx) h̄ = E より、ハミルトン − ヤコビの方程式 (4.99) は という平面波で表す。すなわち量子力学において自由粒子のエネルギー E と運動量 p が決まっている場合は、 ∂ W (q1 , · · · , qn , α2 , · · · , αn ) = −E → W (q1 , · · · , qn , α2 , · · · , αn ) = −Et + S(q1 , · · · , qn ) (4.110) 角振動数 ω ∂t ≡ E/h̄、波数 k ≡ p/h̄ の平面波となる。(const. から来る初期位相は省略した。) 15 ハミルトンの主関数 S(t, x) のうち t に依らない部分を S(x) と書いている。 一般の場合 最も簡単な例である「1 次元ポテンシャル中を動く 1 個の質点」で行った計算を参考に一般化しよう。ハミ ルトン − ヤコビの方程式 (4.99) を導いたときは、H̃ = 0 を使って (4.38) の第 2 式から Pi = const.≡ αi を導 いた。これを正準変換 (4.48) の第二式 pj = pj = ∂ ∂qj W (q1 , · · · , qn , P1 , · · · , Pn ) に入れることにより、 ∂ W (q1 , · · · , qn , α1 , · · · , αn ) ∂qj (4.108) を得る。しかしこれだけではまだ式の数が n 個で、W を求めるのに必要な解くべき変数 q1 , · · · , qn と p1 , · · · , pn の 2n 個に足りない。 実は同様に Qi = const. も言える。それは (4.38) の第 1 式 dQj dt = ∂ H̃ ∂Pj において H̃ = 0 とすればよい。そこ で Qi = const.≡ βi と置こう。そうすると正準変換 (4.48) の第一式 Qj = βj = ∂ ∂Pj W (q1 , · · · , qn , α1 , · · · , αn ) ∂ W (q1 , · · · , qn , α1 , · · · , αn ) ∂αj は (4.109) ということになる。そこで最終的には (4.108) と (4.109) の 2n 個の連立微分方程式から q1 , · · · , qn と p1 , · · · , pn を求めればよい。その結果得られる W を主関数 S とすればよい。 次にハミルトニアンが時間 t に直接依存しない場合に限定しよう。この場合エネルギー保存則 H = const. = E より、ハミルトン − ヤコビの方程式 (4.99) は ∂ W (q1 , · · · , qn , α2 , · · · , αn ) = −E → W (q1 , · · · , qn , α2 , · · · , αn ) = −Et + S(q1 , · · · , qn ) ∂t 15 ハミルトンの主関数 S(t, x) のうち t に依らない部分を S(x) と書いている。 (4.110)
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