メディア社会文化論 2011年12月20日 2.マクルーハンのメディア論とそこか ら発展させた議論 2.1 マーシャル・マクルーハンの略歴 • マクルーハン(1911-1980)「カナダの社会学者・文明批 評家。「メディアはメッセージである」とするメディア論 を展開。著「グーテンベルグの銀河系」「メディアの理 解」など」(広辞苑) • 主著 『グーテンベルグの銀河系』(1962)邦訳みすず 書房 • 『メディア論(人間拡張の原理)』(1964)邦訳みすず書 房 • 多分、歴史上最も著名で、批判も賛美も含め(毛嫌い する人も多い)最も言及されるメディア論の学者 Marshall McLuhan 左http://jackiebreckenridge.wordpress.com/2009/09/03/marshall-mcluhan/ 右http://rpo.library.utoronto.ca/display_rpo/edition/mcluhan.html マクルーハンの代表的著作の邦訳書 http://ecx.images-amazon.com/images/I/51T62KnzDjL._SL500_AA240_.jpg及び http://ec3.images-amazon.com/images/I/61AjAEwz0rL._SS500_.jpg Marshall McLuhan (みすず書房のウェブによる略歴 http://www.msz.co.jp/book/author/13941.html) 1911年、カナダのアルバータ州エドモントンに生れる。マニトバ 大学で機械工学と文学を学んだ後、英国ケンブリッジ大学のト リニティー・カレッジに留学。F.R.リーヴィス、I.A.リチャーズを識る。 帰米後1937年、カトリックに改宗、1942年、エリザベス朝の詩人 トーマス・ナッシュについての論文で博士号を取得。アメリカの ウィスコンシン大学やセントルイス大学をはじめ諸大学で教鞭 をとり、1946年にカナダのトロント大学教授となる。「スワニー・ レビュー」や「ケニヨン・レビュー」などの諸雑誌に、数多くの文 学研究論文を発表。1951年に最初のメディア論『機械の花嫁』 を刊行し、この分野での独創的な研究に手を染める。 1962年、西欧文化における活版印刷の影響を扱った大著 『グーテンベルクの銀河系』を、ついで1964年に『メディア論』を 刊行し、現代文明論・メディア論の先駆者となる。1980年トロン トの自宅で死去。 2.2 マクルーハンの 思想的バックグラウンド ①カナダ人であること ②元々は英文学者(エリザベス朝の文学研究) ③ 元来、テレビや若者文化が理解できなかっ た(それらの擁護者として名を売っているの に) ④ プロテスタントからカトリックに改宗 ⑤オングやイニスの影響 ⑥晩年、自己批判の書物を書く。 ①カナダ人であること • カナダ 1)メディアリテラシー教育の最も盛んな国 • 隣の大国アメリカの商業主義の影響を嫌う 2)アメリカよりもリベラルな政治文化風土(反戦、 国民皆医療制度) 3)英語圏(プロテスタント)と仏語圏(カトリック) 双方を抱える国(国民の 59.7%が英語・23.2% が仏語を母国語に) ②元々は英文学者(1) (エリザベス朝の文学研究) • トーマス・ナッシュ(1567-1601)と共にジョン・ ダン(1572-1631)などの形而上詩人やシェイ クスピアのソネットを研究 (ダンの肖像はwikipedia日本版より) • ダン「イギリスの形而上派 の代表的詩人・神学者。逆説 と奇想に満ちた恋愛詩と宗教 詩はマニエリスム文学の極致 とされる・・・」(広辞苑) ②元々は英文学者(2) • ダンら形而上詩人を再評価したのがT.S.エリ オット(1888-1965) http://nobelprize.org/nobel_prizes/literature/laureates/1948/eliot-bio.html ②元々は英文学者(3) • エリオット「イギリスの詩人・批評家。アメリカ 生れ。宗教と伝統を重んじる。・・・詩「荒地」 「四つの四重奏」、詩劇「寺院の殺人」、批評 集「伝統と個人的才能」など。ノーベル賞。 (1888-1965)」(広辞苑) • マクルーハンはエリオットの詩もよく引用する。 • エリオットはアメリカからイギリスに帰化し、プ ロテスタントからアングリカンチャーチに改宗 ②元々は英文学者(4) • メディアの歴史的展望は、文学史研究の一環 として確かなもの。 • しかし近未来への展望は、思いつきに過ぎな い面もあり、という批判は多く受ける。 • もっともそこが評価の高いところでもある。 ③元来、テレビや若者文化が 理解できなかった • • • • アメリカのウィスコンシン大の若手教員時代 若者文化、テレビ文化理解不能 それらを批判する論文を多く書く。 →マスコミがそれらの擁護者のようにマク ルーハンを祭り上げる • →若者文化、テレビ文化の擁護者に自己規 定 ④プロテスタントからカトリックに改宗 • 1937年改宗 • マクルーハンの活字文化批判にはプロテスタ ント批判の側面が強いといわれる・・・濱野保 樹 • エリオットのプロテスタントからアングリカン チャーチへの改宗に対応か? • マクルーハンの着想にヒントを与えたオング もカトリック(しかも司祭) ⑤オングやイニスの影響 オング(1) • オングWalter Jackson Ong(1912-2003) • 「オング神父は米国のイエズス会の宣教師に して、英文学と文化史、宗教史並びに哲学の 教授である」 (http://en.wikipedia.org/wiki/Walter_J._Ongより意訳) • 「彼はミズーリ州カンサスシティに、プロテスタ ントの父とローマ・カトリックの母の間の子供 として、生をうけた」 オング(2) • 「大学卒業後、印刷出版の仕事に携わり、そ の後1935年イエズス会に入り、46年司祭に叙 任される」 • 「1941年にセントルイス大学に提出した彼の 修士論文は、若きマーシャル・マクルーハン の指導を受けた」 • →いわば英文学者マクルーハンの教え子で もあった(37-44年マクルーハンはセントルイ ス大の教員) オング(3) http://en.wikipedia.org/wiki/File:Walter-ong.jpg オング(4) • オングとの相互引照(師弟が 本質的でないとこ ろで相互に言及し合っている) • 「ラメ(ラムス)の研究はなかなかなされなかった が、幸いウォルター・オングがついに内容の濃い 研究を発表してくれたのである」(マクルーハン 『グーテンベルクの銀河系』邦訳p.221) • オング『声の文化と文字の文化』(藤原書店) (1982→1991) (図情図書館801-O65) • オングはマクルーハンの「地球村」にも言及する (邦訳 p.280) ⑤オングやイニスの影響 イニス(1) • ハロルド・イニス(Harold Adams Innis、1894年11 月5日-1952年11月8日)は、カナダの経済学者、 社会学者。専門は、経済史、メディア論。 • マックマスター大学卒業後、1920年、シカゴ大学 で博士号取得。それ以降、トロント大学で教鞭を とる。 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%83%AD%E3%83%AB%E3%83%89%E3%83%BB%E3%82%A4%E3%83%8B%E3 %82%B9 • 代表作『コミュニケーションのバイアス』1951(邦 題『メディアの文明史』(新曜社))(図情図書館 361.45/I-54) イニス(2) http://en.wikipedia.org/wiki/File:Harold_Innis_public-domain_library_archives-canada.jpg イニス(3) • イニス・・・トロント大のマクルーハンの年長の 同僚 • 『コミュニケーションのバイアス』の影響を、マ クルーハンは受ける。 • もっとも同書の「序文」はマクルーハンが書い ている。 • 「彼の競争者のマクルーハン同様、イニスは メディアについて深く省察したことで知られて いる」http://fr.wikipedia.org/wiki/Harold_Innisより意訳 イニス(4) • 「イニスの同僚にして知性面での弟子でもあ るマーシャル・マクルーハンはイニスが夭折し たことを人間知性の災害的な損失と痛く悲し んだ」 http://en.wikipedia.org/wiki/Harold_Innisより直訳 • 「イニスはトロント大学経済学部長として、英 米の大学出身の、カナダの歴史や文化を知 らない人物にあまり頼らなくて済むよう、カナ ダの研究者の幹部を作ることに奔走した」 http://en.wikipedia.org/wiki/Harold_Innisより大意 ⑥晩年、自己批判の書物を書く • • • • 彼の有名な「地球村」などの発想 自己批判する著作を晩年に記す。 しかし仏語 紹介されず(濱野保樹) →大活躍した1950-1960年代のマクルーハンの 文章のみがもて囃される 2.3「メディアはメッセージである」 ①・・・メディア概念の重層性の議論 • 「メディアはメッセージである」・・・マクルーハ ンの最も有名な言葉 • メディア・・・外側・乗り物、 • メッセージ・・・内側・乗せられる物、情報 →「外側は内側で(も)ある」?? 「乗り物は乗せられる物で(も)ある」?? 「メディアはメッセージである」② • メディアと情報の区分を相対化ないしは無効 化 • 実体ではなく機能で分ける(中井正一の発想 に近い) 「メディアはメッセージである」③ 具体的局面で考えると • ラブレターを藁半紙のような再生紙にワープ ロで印字して渡しても、効果があるか? • 情報は無色透明、中立であるか否か • 同じ発言でも誰が言うかで、捉えられ方は異 なる。 • 真理性よりも真実性 「メディアはメッセージである」④ 【マクルーハン以前の普通の考え方】 • 情報と媒体の二元論・・・情報(メッセージ)と 媒体(メディア、乗り物)とは、別個のもの、全 く切り離されたものという考え方 【マクルーハンの考え方】 • メッセージ性のない、無色透明な媒体そのも のというものはない。媒体そのものが何であ るかということ自体にメッセージ性がある。情 報媒体それ自体が情報を発信している。 「メディアはメッセージである」④ • 「メディアはメッセージである」・・・メディア概念 が無限に広がる • →メディア概念の重層性(吉見俊哉) メディア概念の重層性① メッセージ1VSメディア1 ↓ 〔メッセージ2VSメディア2〕 ↓ 【〔メッセージ3〕VSメディア3】 ↓ 【メッセージ4】VSメディア4 メディア概念の重層性② • 含まれるものと含むものと関係が無限に連鎖す る。 • 「電気の光というのは純粋なインフォメーションで ある.それがなにか宣伝文句や名前を描き出す のに使われないかぎり,いわば,メッセージをも たないメディアである.この事実はすべてのメ ディアの特徴であるけれども,その意味するとこ ろは,どんなメディアでもその『内容』はつねに別 のメディアである,ということだ」(McLuhan 1964=1987 8) メディア概念の重層性③ • メディアと内容とは,関係性のなかで把握さ れる • メディアは実体的にメディアであるわけではな い。内容も固定的に内容であるのでもない • 関係性のなかで相対化される. メディア概念の重層性④ • 「書きことばの内容は話しことばであり,印刷 されたことばの内容は書かれたことばであり, 印刷は電信の内容である.もし『話しことばの 内容はなにか』と問われたら,『実際の思考 のプロセスで,それ自体は非言語的なもの』 ということにならざるをえない」(McLuhan 1964=1987 8) • このマクルーハンの議論を延長すると・・・ メディア概念の重層性⑤ • 「印刷は電信の内容である」(上記の引用)→ • 《印刷は電信,出版物,新聞といったメディア の内容である》.さらにこれを拡張する.《電 信,出版物,新聞は,電話線・電話会社,出 版社,新聞社といったメディアの送信される 内容である》.さらに《出版物,新聞は図書館 というメディアの選別される内容である》. メディア概念の重層性⑥ この捉え方のメリット 前回の授業の以下の矛盾も解消に ①資料⊆メディア(後述) ②資料=メディア 記録されざるメディア(媒体材料)、資料、 マスメディアまでを統合的に見られる 2.4 熱いメディアvs冷たいメディア ① • 熱いメディア・・・新聞などの活字メディア、映 画、写真、ラジオ、講義 ・・・一方向的、あるいは単一の感覚を高精細度 で拡張するメディア 2.4 熱いメディアvs冷たいメディア ② • 冷たいメディア・・・テレビ(映画に対するテレ ビ)、電話(ラジオに対する電話)などの電気メ ディア(一般にマクルーハンのこの「電気メ ディア」を、現代の状況にあわせて「電子メ ディア」と捉える論者が多い)、漫画(写真に 対する漫画は低精細度)双方向的、演習 ・・・低精細度のメディア、あるいは双方向的なメ ディア 2.4 熱いメディアvs冷たいメディア ② • マクルーハンの「熱い、冷たい」の分類・・・ 個々のメディアで単独に取り出すと訳分から なくなる • あくまでも対にして、相対的な意味で理解す る。 • あと日常感覚の「熱い」「冷たい」とあえて逆 になっている 2.4 熱いメディアvs冷たいメディア ③ • 「電話が冷たいメディア、すなわち「低精 細度」のメディアの一つであるのは、耳 に与えられる情報量が乏しいからだ。さ らに、話されることばが「低精細度」の冷 たいメディアであるのは、与えられる情 報量が少なく、聴き手がたくさん補わな ければならないからだ」メディア論』邦訳 p.23) 。 2.4 熱いメディアvs冷たいメディア ④ • 「一方、熱いメディアは受容者によって 補充ないし補完されるところがあまりな い。したがって、熱いメディアは受容者に よる参与性が低く、冷たいメディアは参 与性あるいは補完性が高い」(『メディア 論』邦訳p.23) 2.4 熱いメディアvs冷たいメディア ⑤ • 参与性の高低が二つを隔てるポイントに。 • 参与性高い・・・冷たいメディア • 参与性低い・・・熱いメディア 2.4 熱いメディアvs冷たいメディア ⑤ • 「熱いメディアと冷たいメディアの使用上の基本 的な差違を指摘する一つの方法は、交響楽の演 奏の放送と交響楽のリハーサルの放送とを比較 対照してみることである。これまでにCBCカナダ 放送が放映した最上の出しものの二つが、グレ ン・グールド(1932-82)のピアノ・リサイタルのレ コード吹き込みの模様と、イゴール・ストラヴィン スキー(1882-1971)がトロント交響楽団を指揮し た自作のリハーサルの模様だった。テレビのよう な冷たいメディアが本当に用いられると、この場 合のようにプロセスへ巻き込まれないわけにい かなくなる。」(『メディア論』邦訳p.32) 2.4 熱いメディアvs冷たいメディア ⑥ • 演奏・・・完成品・・・パッケージメディア的・・・ 参与性(相対的に)低い • リハーサル・・・未完成品・・・開かれたメディア、 モザイク(モザイクについては後述)状・・・参 与性(相対的に)高い イーゴリ・ストラヴィンスキー http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%BC%E3%82%B4%E3%83%AA%E3%83%BB%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83% A9%E3%83%B4%E3%82%A3%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%BC • 1882年6月17日 - 1971年4月6日)は、ロシア の作曲家で、初期の3作品『火の鳥』、『ペト ルーシュカ』、『春の祭典』で特に知られる他、 指揮者、ピアニストとしても活動した。サンクト ペテルブルク近郊のオラニエンバウム(現・ロ モノソフ)に生れ、ニューヨークで没した。 指揮するストラヴィンスキー http://userdisk.webry.biglobe.ne.jp/010/284/57/N000/000/000/stravinsky05.jpg グレン・グールド略歴① http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B0%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%B0%E3%83%BC%E3 %83%AB%E3%83%89 • グレン・グールド(Glenn Herbert Gould, 1932年9 月25日 - 1982年10月4日)は、カナダのピアニス ト、作曲家。 • かねてより、演奏の一回性へ疑問を呈し、演奏 者と聴衆の平等な関係に志向して、演奏会から の引退を宣言していたグールドは、1964年3月 28日のシカゴ・リサイタルを最後にコンサート活 動からは一切手を引いた。これ以降、没年まで レコード録音及びラジオ、テレビなどの放送媒体 のみを音楽活動の場とする。同年には、トロント 大学法学部より、名誉博士号を授与された。 グレン・グールド略歴② http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B0%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%B0%E3%83%BC%E3 %83%AB%E3%83%89 • 1977年、グールド演奏によるバッハの「平均 律」第2巻 前奏曲とフーガ第1番ハ長調の録 音が、未知の地球外知的生命体への、人類 の文化的傑作として宇宙船ボイジャー1号・2 号にゴールデン・レコードとして搭載された。 • ピアノという楽器の中で完結するようなピアニ ズムを嫌悪し、自分は「ピアニストではなく音 楽家かピアノで表現する作曲家だ」と主張し たグールドであったが、第1の業績が斬新で 完成度の高いそのピアノ演奏であることは異 論のないところである。 グレン・グールド略歴③ http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B0%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%B0%E3%83%BC%E3 %83%AB%E3%83%89 • グールドは、ピアノはホモフォニーの楽器では なく対位法的楽器であるという持論を持って おり、ピアノ演奏においては対位法を重視し た。事実、グールドのピアノ演奏は、各声部 が明瞭で、一つ一つの音は明晰であり、多く はペダルをほとんど踏まない特徴的なノン・レ ガート奏法であった。 マクルーハンとグールド① • 単にトロント大学繋がりというのではない。 • グールドもマクルーハンを評価。 • レコード>>>演奏会という部分は、リハの 番組を重んじるマクルーハンと対立しそう。 • ただしピアノで完結しないこと、モノフォニーで なくポリフォニー志向であることなど、マク ルーハンと合致する。 マクルーハンとグールド② • 『グレン・グールド書簡集』(邦訳、みすず書房、 1999年)にマクルーハン宛の書簡が2本掲載 されている(pp.160-162;202-203)。 • その注によると、マクルーハンはグールドの 持っているラジオ番組で、インタビューを受け ている。 帽子を被って演奏したり脚を組んで演奏するグールド http://book-dvd.blog.ocn.ne.jp/photos/uncategorized/2008/11/16/glenn_gould003.jpg http://pds.exblog.jp/pds/1/200910/22/61/d0103561_224938100.jpg 2.4 熱いメディアvs冷たいメディア ⑥ • 「小ぎれいに整った番組はラジオやレコード のような熱いメディアに向いている。フランシ ス・ベーコン(1561-1626大法官、イギリス経験 論の父)は熱い散文と冷たい散文を対照させ ることに倦むことがなかった。 2.4 熱いメディアvs冷たいメディア ⑦ • 「方法」に則って書いたもの、すなわち完全に 仕立てあげられたものを、警句で書いたもの、 すなわち「報復は一種の野蛮な正義である」 というような単一の観察と、対照させてみた。 受動的な消費者は完成品を求めるけれども、 知を追い求める者は警句に赴くのではないか。 そうベーコンは言うのであった。警句は不完 全であり、深いところで参加を求めるからに他 ならない」(『メディア論』邦訳p.32)。 2.4 熱いメディアvs冷たいメディア ⑧ • 文学研究者の本領発揮 • 受け手の解釈の可能性、参与性で(冷たいメ ディアを)プラスに評価 • 象徴主義(サンボリズム)、反小説(アンチロ マン)、ヌーヴェルヴァーグ • 作品の完成を拒む • 作品を作るという行為そのものを描き、作る 行為を相対化 2.4 熱いメディアvs冷たいメディア ⑨ →作ることの意味を問う芸術の潮流 • 前衛芸術の作者の相対化、作品の完成性へ の崩壊の流れ≒マクルーハンの芸術理論(芸 術の志向性) →「冷たいメディア」擁護 2.4 熱いメディアvs冷たいメディア1 ⑩ (写真のインパクトを論じる中で) • 「詩人や小説家は、われわれがそれを用いて洞 察力を獲得し、われわれ自身や世界をつくりあ げていく、あの精神の内的身振りというものに目 を転じた。このようにして、芸術は外界との対応 から内面での創造へと移っていった。既知の世 界に対応する一つの世界を描き出す代わりに、 芸術家たちは創造の過程を提示して、公衆がそ れに参加できるようにする方向へ変わった。いま やわれわれには創造過程に参与する手段が与 えられたのである」(『メディア論』p.198) 2.4 熱いメディアvs冷たいメディア ⑪-活字文化批判① • 活字文化批判との絡み • オーラルコミュニケーション・・・双方向性ある • この反対が活字文化 • 講義(一方向)と演習(双方向) • 文字、活字文化批判--民衆をエリートが支 配する道具としての文字 2.4 熱いメディアvs冷たいメディア ⑫-活字文化批判② • 活字文化批判ないしは「熱いメディア」批判 • 価値中立的でないという問題(ウェーバーの 方法、「メディア社会学」の授業参照) • ただし彼の批判する「活字文化」の内実は? • 表音文字批判・・・アルファベット批判 • 表意文字(漢字等)には、やや肯定的 2.4 熱いメディアvs冷たいメディア ⑬-アルファベットの特質① • 全ての文字を25文字に集約→文字が普及し やすい。文字そのものは誰でも読める(単語 の発音はたとえ無理でも)→世界中に普及す る。 • 単語を形の束縛から解放→より抽象化→言 葉のより普遍的な流通 • 具象性の少ない文字。より抽象的に→地域 の隅々、あるいは世界の隅々に伝わる。 2.4 熱いメディアvs冷たいメディア ⑭-アルファベットの特質② • 国旗と、それを意味する文字を比較 • 「かりに、星条旗を掲げる代わりに、一枚の布 に「アメリカの旗」と書いて掲げたら、どういう ことになるか。記号は同一の意味を伝えるで あろうけれども、効果は完全に異なるであろう。 星条旗の視覚的なモザイクを文字形式に移 し変えてしまえば、それと一体化したイメージ や経験の質の多くが奪い去られてしまうであ ろう」(『メディア論』邦訳p.84)。 2.4 熱いメディアvs冷たいメディア ⑮-表意文字① • 表意文字・・・国旗に近い要素を留める • 「表音文字で書かれたことばは、象形文字や中国の 表意文字のような形式で確保されていた意味と知覚 の世界を犠牲にする。しかしながら、こういった文化的 に豊かな文字の形式は、部族のことばからなる呪術 的に不連続で伝統的な世界から、冷たく画一的な視 覚メディアの世界に、突然に転移する手段を提供しな かった。中国社会は幾世紀にもわたって表意文字を 使用してきたが、その家族および部族の継ぎ目のな い微妙な網の目が脅威にさらされることがなかった」 ( 『メディア論』邦訳p.85)。 2.4 熱いメディアvs冷たいメディア ⑯-表意文字② • →表意文字・・・部族の言葉 • ・・・要するに部族の生活に密接に結びついた 言葉である。・・・よって画一的ではない。 • これは誰が話すかということにも関わり、メ ディア(話し手とか声)のメッセージ性と不即 不離の関係 2.4 熱いメディアvs冷たいメディア ⑰-表意文字③ • 「二〇〇〇年前の古代ローマの属領ガリアが そうであったように、こんにちアフリカでアル ファベット文字を身につけて一世代もすれば、 少なくとも部族の網から個人を解き放つのに 充分である」( 『メディア論』邦訳p.85)。 • →要するに、部族社会から個人を解放するの が、アルファベットなどの表音文字 2.4 熱いメディアvs冷たいメディア ⑱-表意文字④ • 「この事実は、アルファベットで綴られたことば の「内容」には関係がない。それは人の聴覚 経験と視覚経験が突然に裂けた結果である」 ( 『メディア論』邦訳p.85) 。 • 「内容」=メッセージより「聴覚」「視覚」といっ たメデフィアの変化の方が重要→ここも「メ ディアはメッセージ」のバリエーション 2.4 熱いメディアvs冷たいメディア ⑲-表意文字から表音文字へ① • 前のスライドの「聴覚経験と視覚経験」の分 離とは何か? • 「表音アルファベットのみがこのような経験の 明確な分割をおこない、その使用者に耳の代 わりに目を与え、その使用者をこだますること ばの魔術の陶酔と親族の網目から解き放つ のである」 ( 『メディア論』邦訳p.85) 。 2.4 熱いメディアvs冷たいメディア ⑳-表意文字から表音文字へ② • アルファベットなどの表音文字 • →視覚優位の社会 • 「表音アルファベットは視覚の機能を強化し拡 張するものであるが、文字文化の内部で、そ れ以外の聴覚、触覚、味覚などの感覚の役 割を縮小させる」(『メディア論』邦訳p.86)。 2.4 熱いメディアvs冷たいメディア 21-論理の線形性① • 表音文字文化-論理の線形性→話が論理的な 前後関係によって構成される→因果関係で物事 を捉える。 • しかし因果関係のない連続というものもあるとマ クルーハンはいう。 • 「西欧の文字文化をもった社会では、なにかがな にかから「続いて生じる」というのが、あたかも、 そのような連続を作り出す原因のようなものが 作用しているかのように感じられ、いまなお、い かにももっともなこととして受け入れられるので ある」(p.87)。 2.4 熱いメディアvs冷たいメディア 22-論理の線形性② • 「こんにちの電気の時代に、われわれは非ユー クリッド幾何学を自由自在に作れるような気がす るのと同じように、自由自在に非線条(sic)論理 学を作れるようにも感ずる。・・・一行省略・・・結 びつけられた線状の連続は、心理ならびに社会 の組織に普遍的な形式となっているが、これま でにそれをマスターしたのはアルファベット文化 だけだった」(同ページ)。 • ハイパーテクスト、マルチメディアの構造・・・複 線的・非線形的に情報が流れる
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