メディア社会文化論(第2回) 2014年10月09日 2.マクルーハンのメディア論とそこか ら発展させた議論 2.1 マーシャル・マクルーハンの略歴 • マクルーハン(1911-1980)「カナダの社会学者・文明批 評家。「メディアはメッセージである」とするメディア論 を展開。著「グーテンベルグの銀河系」「メディアの理 解」など」(広辞苑) • 主著 『グーテンベルグの銀河系』(1962)邦訳みすず 書房 • 『メディア論(人間拡張の原理)』(1964)邦訳みすず書 房 • 多分、歴史上最も著名で、批判も賛美も含め(毛嫌い する人も多い)最も言及されるメディア論の学者 Marshall McLuhan 左http://jackiebreckenridge.wordpress.com/2009/09/03/marshall-mcluhan/より 右http://rpo.library.utoronto.ca/display_rpo/edition/mcluhan.htmlより マクルーハンの代表的著作の邦訳書 http://ecx.images-amazon.com/images/I/51T62KnzDjL._SL500_AA240_.jpg及び http://ec3.images-amazon.com/images/I/61AjAEwz0rL._SS500_.jpgより Marshall McLuhan (みすず書房のウェブによる略歴 http://www.msz.co.jp/book/author/13941.html) 1911年、カナダのアルバータ州エドモントンに生れる。マニトバ大学で機 械工学と文学を学んだ後、英国ケンブリッジ大学のトリニティー・カレッジ に留学。F.R.リーヴィス(大衆文化、マルクス主義に対抗したエリート文化 を擁護した文芸批評家、ミルトン、シェークスピアの重視)、I.A.リチャーズ (実践批評を唱える)を識る。帰米後1937年、カトリックに改宗、1942年、 エリザベス朝の詩人トーマス・ナッシュについての論文で博士号を取得。 アメリカのウィスコンシン大学やセントルイス大学をはじめ諸大学で教鞭 をとり、1946年にカナダのトロント大学教授となる。「スワニー・レビュー」 や「ケニヨン・レビュー」などの諸雑誌に、数多くの文学研究論文を発表。 1951年に最初のメディア論『機械の花嫁』を刊行し、この分野での独創的 な研究に手を染める。 1962年、西欧文化における活版印刷の影響を扱った大著『グーテンベル クの銀河系』を、ついで1964年に『メディア論』を刊行し、現代文明論・メ ディア論の先駆者となる。1980年トロントの自宅で死去。 2.2 マクルーハンの 思想的バックグラウンド ①カナダ人であること ②元々は英文学者(エリザベス朝の文学研究) ③ 元来、テレビや若者文化が理解できなかっ た(それらの擁護者として名を売った以前) ④ プロテスタントからカトリックに改宗 ⑤著名なメディア論者オングやイニスからの影 響 ⑥晩年、自己批判の書物を書く。 ①カナダ人であること カナダ 1)メディアリテラシー教育の最も盛んな国 隣の大国アメリカの商業主義の影響を嫌う 2)アメリカよりもリベラルな政治文化風土(反戦、 国民皆医療制度) 3)英語圏(プロテスタント)と仏語圏(カトリック) 双方を抱える国(国民の 59.7%が英語・23.2% が仏語を母語に) ②元々は英文学者(1) (エリザベス朝の文学研究) • トーマス・ナッシュ(1567-1601)と共にジョン・ ダン(1572-1631)などの形而上詩人やシェイ クスピアのソネットを研究 (ダンの肖像はwikipedia日本版より) • ダン「イギリスの形而上派 の代表的詩人・神学者。逆説 と奇想に満ちた恋愛詩と宗教 詩はマニエリスム文学の極致 とされる・・・」(広辞苑) ②元々は英文学者(2) • ダンら形而上詩人を再評価したのがT.S.エリ オット(1888-1965) http://nobelprize.org/nobel_prizes/literature/laureates/1948/eliot-bio.html ②元々は英文学者(3) • エリオット「イギリスの詩人・批評家。アメリカ 生れ。宗教と伝統を重んじる。・・・詩「荒地」 「四つの四重奏」、詩劇「寺院の殺人」、批評 集「伝統と個人的才能」など。ノーベル賞。 (1888-1965)」(広辞苑) • ミュージカル『キャッツ』の原作者でもある。 • マクルーハンはエリオットの詩もよく引用する。 • エリオットはアメリカからイギリスに帰化し、プ ロテスタントからアングリカンチャーチに改宗 ②元々は英文学者(4) • メディアの歴史的展望は、文学史研究の一環 として確かなもの。 • しかし近未来への展望は、思いつきに過ぎな い面もあり、という批判は多く受ける。(広辞 苑で社会学者とまず表示されるが、社会科学 の専門的訓練は受けていない) • もっともそこが評価の高いところでもある。 ③元来、テレビや若者文化が 理解できなかった • アメリカのウィスコンシン大の若手教員時代 「若者文化、テレビ文化理解不能」と。 それらを批判する論文を多く書く。 • →マスコミがそれらの擁護者のようにマク ルーハンを祭り上げる →若者文化、テレビ文化の擁護者に自己規定 (ミイラ取りがミイラに) ④プロテスタントからカトリックに改宗 • 1937年改宗 • マクルーハンの活字文化批判にはプロテスタ ント批判の側面が強いといわれる・・・濱野保 樹 • エリオットのプロテスタントからアングリカン チャーチへの改宗に対応か? • マクルーハンの着想にヒントを与えたとされる 弟子のオングはカトリック司祭(神父) ⑤オングやイニスの影響 オング(1) • オングWalter Jackson Ong(1912-2003) • 「オング神父は米国のイエズス会の宣教師に して、英文学と文化史、宗教史並びに哲学の 教授である」 (http://en.wikipedia.org/wiki/Walter_J._Ongより意訳) • 「彼はミズーリ州カンサスシティに、プロテスタ ントの父とローマ・カトリックの母の間の子供 として、生をうけた」 オング(2) • 「大学卒業後、印刷出版の仕事に携わり、そ の後1935年イエズス会に入り、46年司祭に叙 任される」 • 「1941年にセントルイス大学に提出した彼の 修士論文は、若きマーシャル・マクルーハン の指導を受けた」 • →いわば英文学者マクルーハンの正規の教 え子であり修道士であった(37-44年マクルー ハンはセントルイス大の教員) オング(3) http://en.wikipedia.org/wiki/File:Walter-ong.jpg オング(4) • オングとの相互引照(師弟が 本質的でないとこ ろで相互に言及し合っている) • 「ラメ(ラムス)の研究はなかなかなされなかった が、幸いウォルター・オングがついに内容の濃い 研究を発表してくれたのである」(マクルーハン 『グーテンベルクの銀河系』邦訳p.221) • オング『声の文化と文字の文化』(藤原書店) (1982→1991) (図情図書館801-O65) • オングはマクルーハンの「地球村」にも言及する (邦訳 p.280) ⑤オングやイニスの影響 イニス(1) • ハロルド・イニス(Harold Adams Innis、1894年11 月5日-1952年11月8日)は、カナダの経済学者、 社会学者。専門は、経済史、メディア論。 • マックマスター大学卒業後、1920年、シカゴ大学 で博士号取得。それ以降、トロント大学で教鞭を とる。 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%83%AD%E3%83%AB%E3%83%89%E3%83%BB%E3%82%A4%E3%83%8B%E3 %82%B9 • 代表作『コミュニケーションのバイアス』1951(邦 題『メディアの文明史』(新曜社))(図情図書館 361.45/I-54) イニス(2) http://en.wikipedia.org/wiki/File:Harold_Innis_public-domain_library_archives-canada.jpg から イニス(3) • イニス・・・トロント大のマクルーハンの年長の 同僚 • 代表作の著名な『コミュニケーションのバイア ス』の影響を、マクルーハンは受ける。 • もっとも同書の「序文」はマクルーハンが書い ている。 • 「彼の競争者のマクルーハン同様、イニスは メディアについて深く省察したことで知られて いる」http://fr.wikipedia.org/wiki/Harold_Innisより意訳 イニス(4) • 「イニスの同僚にして知性面での弟子でもあ るマーシャル・マクルーハンはイニスが夭逝し たことを人間知性の災害的な損失と痛く悲し んだ」 http://en.wikipedia.org/wiki/Harold_Innisより直訳 • 「イニスはトロント大学経済学部長として、英 米の大学出身の、カナダの歴史や文化を知 らない人物にあまり頼らなくて済むよう、カナ ダの研究者の幹部を作ることに奔走した」 http://en.wikipedia.org/wiki/Harold_Innisより大意 ⑥晩年、自己批判の書物を書く • 彼の有名な「地球村」などの発想を自己批判 する著作を晩年に記す。 • しかし仏語 • 紹介されず(濱野保樹による) →大活躍した1950-1960年代のマクルーハンの 文章のみがもて囃される 2.3「メディアはメッセージである」 ①・・・メディア概念の重層性の議論 • 「メディアはメッセージである」・・・マクルーハ ンの最も有名な言葉 • メディア・・・外側・乗り物、 • メッセージ・・・内側・乗せられる物、情報 →「外側は内側で(も)ある」?? 「乗り物は乗せられる物で(も)ある」?? 「メディアはメッセージである」② • メディアと情報の区分を相対化ないしは無効 化 • 本講義のスライドの前の方での議論と同様。 • 実体ではなく機能で分ける(中井正一の発想 に近い) 「メディアはメッセージである」③ 具体的局面で考えると • ラブレターを藁半紙のような再生紙にワープ ロで印字して渡しても、効果があるか? • 情報は無色透明、中立であるか否か • 同じ発言でも誰が言うかで、捉えられ方は異 なる。 • 真理性よりも真実性 「メディアはメッセージである」④ 【マクルーハン以前の普通の考え方】 • 情報と媒体の二元論・・・情報(メッセージ)と 媒体(メディア、乗り物)とは、別個のもの、全 く切り離されたものという考え方 【マクルーハンの考え方】 • メッセージ性のない、無色透明な媒体そのも のというものはない。媒体そのものが何であ るかということ自体にメッセージ性がある。情 報媒体それ自体が情報を発信している。 「メディアはメッセージである」④ • 「メディアはメッセージである」・・・メディア概念 が無限に広がる • →メディア概念の重層性(吉見俊哉) メディア概念の重層性① メッセージ1VSメディア1 (より小さい単位) ↓ 〔メッセージ2VSメディア2〕(少し大きい単位) ↓ 【〔メッセージ3〕VSメディア3】 ↓ 【メッセージ4】VSメディア4 (より大きい単位) メディア概念の重層性② • 含まれるものと含むものと関係が無限に連鎖す る。 • 「電気の光というのは純粋なインフォメーションで ある.それがなにか宣伝文句や名前を描き出す のに使われないかぎり,いわば,メッセージをも たないメディアである.この事実はすべてのメ ディアの特徴であるけれども,その意味するとこ ろは,どんなメディアでもその『内容』はつねに別 のメディアである,ということだ」(McLuhan 1964=1987 8) メディア概念の重層性③ • メディアと内容とは,関係性のなかで把握さ れる • メディアは実体的にメディアであるわけではな い。内容も固定的に内容であるのでもない • 関係性のなかで相対化される. メディア概念の重層性④ • 「書きことばの内容は話しことばであり,印刷 されたことばの内容は書かれたことばであり, 印刷は電信の内容である.もし『話しことばの 内容はなにか』と問われたら,『実際の思考 のプロセスで,それ自体は非言語的なもの』 ということにならざるをえない」(McLuhan 1964=1987 8) • このマクルーハンの議論を延長すると・・・ メディア概念の重層性⑤ • 「印刷は電信の内容である」(上記の引用)→ • 《印刷は電信,出版物,新聞といったメディア の内容である》.さらにこれを拡張する.《電 信,出版物,新聞は,電話線・電話会社,出 版社,新聞社といったメディアの送信される 内容である》.さらに《出版物,新聞は図書館 というメディアの選別される内容である》. (参考)メディア概念の重層性のモデル図にマクルー ハンの文章を当てはめる (ひらめき(メッセージ1)VS脳神経(メディア1)) ↓ 〔話し言葉(メッセージ2)VS書かれた言葉(メディア 2)〕 ↓ 【書かれた言葉〔メッセージ3〕VS印刷された言 葉(メディア3)】 ↓ 印刷された言葉【メッセージ4】VS電気通信(メディ ア4) 2016/7/9 出版・流通論 33 (参考)マクルーハンの議論を少し展開させると・・・ 閃き(メッセージ1)VS脳神経(メディア1) ↓ 〔考え・脳内の文章(メッセージ2)VS言語(メディ ア2)〕 ↓ 【発言・会話〔メッセージ3〕VS音声(メディア 3)】 ↓ 書かれた文章【メッセージ4】VS紙・文字 (メディア4) 2016/7/9 出版・流通論 34 (参考)この図の意味するところ • メディアとメッセージの組み合わせが、脳から 感覚器官まで通じている 2016/7/9 出版・流通論 35 メディア概念の重層性⑥ この捉え方のメリット スライド25の以下の矛盾も解消に ①資料⊆メディア(後述) ②資料=メディア 記録されざるメディア(媒体材料)、資料、 マスメディアまでを統合的に見られる
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