2011-02-15 第1章 実世界のモデル化と形式化 8.モデルの信頼性 太田守重 [email protected] 地理情報科学教育用スライド ©太田守重 ここで学ぶこと これまで示してきたように、実世界の諸現象は、概念として、もしくは個物とし てモデル化される。従ってモデルの信頼性は,スキーマレベル及びインスタン スレベルで評価される.スキーマレベルの信頼性は,形式的には一般地物モ デルに準拠しているか否かで評価できるが,型や型同士の相互関係の表現に ついては,そのスキーマに関係する人々の合意が信頼性を保証する.一方イ ンスタンスレベルの信頼性は,その正確さで評価でき、大きく5つに分類できる. それは完全性 (completeness),位置正確度 (positional accuracy) ,時間正確 度 (temporal accuracy) ,論理一貫性 (logical consistency),及び主題正確度 (thematic accuracy)である. ここでは、スキーマレベル及びインスタンスレベスに分けて、信頼性評価の 基本的な知識を学ぶ。最後に、空間データの要求仕様を記述する空間データ 製品仕様書についても紹介する。 地理情報科学教育用スライド ©太田守重 応用スキーマの信頼性 形式的な評価:一般地物モデル(GFM)に照らした妥当性の確認 1. 地物型の定義、継承、及び関連が、UML及びGFMの規則に準拠している か? 2. 属性(空間、時間、場所)が、それぞれのスキーマに準拠して定義されて いるか? 3. 関連役割や継承の定義にもれはないか? 4. 操作の定義にもれはないか? 合意形成:関係者間の合意形成を通じた妥当性の確認 1. 2. 3. 4. タスクフォース内部の合意 有識者の理解 公開による周知 改訂可能性の確保 地理情報科学教育用スライド ©太田守重 応用スキーマの信頼性ーUML及びGFMへの準拠 UMLへの準拠: GFMはUMLクラス図の記法を制限して使用している。 そこで、GFMが示す範囲内でUML表記法に従っていることを確認する。 応用スキーマの作成に、UMLによるモデリングを支援するソフト(*)を使用すれ ば、UMLへの形式的な準拠が保証される。 (*) 例えば、ArgoUML, astah* communityなど GFMへの準拠: 応用スキーマが、第2章2節に示したGFMによる応用スキーマのための規則 に従っていることを、確認する。 地理情報科学教育用スライド ©太田守重 応用スキーマの信頼性ー属性が基本スキーマに準拠するか 属性の定義には、以下の要素が完備しなければいけない。 1. 属性名(メンバー名) 2. 定義:属性の意味 3. データ型:基本スキーマ(*)に含まれるデータ型 4. 基数:多重度の下限と上限 (*)基本スキーマ: 以下のスキーマは応用スキーマを作成するための基本スキーマである。 1. 空間スキーマ、時間スキーマ、場所スキーマ及び基本データ型のような、属性 の型として使われるデータ型を定義するスキーマ 2. 参照系のためのスキーマ 3. 被覆スキーマ 地理情報科学教育用スライド ©太田守重 応用スキーマの信頼性ー関連役割や継承の定義 関連役割の定義には以下の要素が完備しなければいけない。 1. 関連種類(関連(association)、集成(aggregation)、又は合成( composition)) 2. 役割名:相手の地物型の役割を示す名前 3. 定義:地物型に与えられた役割の説明 4. 基数:多重度(下限、上限) 継承の定義には以下の要素が完備しなければいけない。 1. 最下位の地物型は具象型でなければいけない。 2. 多重継承は避ける。 3. 自分自身に対する継承はできない。 地理情報科学教育用スライド ©太田守重 応用スキーマの信頼性ー操作の定義 操作の定義には以下の要素が完備しなければいけない。 1. 操作名:(メンバー名) 2. 定義:操作の説明 3. 引数:操作に入力されるパラメータ(名前とデータ型の対) 4. 戻り値:捜査の結果返されるデータの型 地理情報科学教育用スライド ©太田守重 応用スキーマの信頼性ー合意形成 タスクフォース内部の合意: 利害関係者がタスクフォースを形成して、共用する応用スキーマを設計する ことが行われるが、その中で合意形成が行われる。 有識者の理解: 内部の合意がとれた段階で、その分野に知見をもつ有識者の意見を求め、 改良した原案を作る。 公開による周知: さらに、必要に応じて原案を公開し、パブリックコメントを求める場合もある。 以上の段階を経て、応用スキーマは一定の信頼性を確保したことになる。 改訂可能性の確保: 利用中に気が付く問題点や、新たな需要への対応などが求められるので、 応用スキーマは一定の期間をおいて、改訂を行うべきである。 地理情報科学教育用スライド ©太田守重 インスタンスの信頼性 インスタンスは品質の評価を経て信頼性を確保することができる。評価要素は大 きく5つに分かれる。 品質:明示的又は暗示的に示される要求を、インスタンス(データ)が満たす程度。 品質評価要素: 1. 完全性 2. 論理一貫性 3. 位置正確度 4. 時間正確度 5. 主題正確度 地理情報科学教育用スライド ©太田守重 インスタンスの信頼性ー完全性 完全性:アイテム(地物,地物属性及び地物関係)の存在及び欠落 1. 過剰:データ集合内の過剰なアイテムの存在の度合い 2. 漏れ:データ集合からのアイテムの欠落の度合い 例: ある自治体の道路管理者が、管理している照明灯(地物)の本数を現場で数 えたら5625本だった。これに対して自治体が保有している照明灯台帳(データ 集合)上の本数は5635本であった。確認したところ、撤去した照明灯が一部、 台帳に残っていたことが判明した。 この場合の完全性は「過剰」で、その度合いは、(5635 – 5625) / 5625 = 0.0018、 つまり、0.18%になる。 地理情報科学教育用スライド ©太田守重 インスタンスの信頼性ー論理一貫性 論理一貫性:データ集合,地物,属性及び関係に関する論理的規則の遵守 の度合い。以下の種類がある。 1. 書式一貫性:アイテムがデータ集合の物理構造を規定する規則に従って 格納されている度合い。例)XML で記述されたデータ集合は,XML の文法 に従わなければならない。 2. 概念一貫性:概念スキーマ規則の遵守の度合い。例)データ集合は,対 応する応用 スキーマを遵守しなければならない。 3. 定義域一貫性:属性値が定義域に含まれる度合い。例)定義域が1 から 10 までの整数であるときは,属性値は,その範囲になければならない。 4. 位相一貫性:明示的に符号化した位相的特性の正しさの度合い。例)道 路のネットワーク中のノードは全て,エッジの端点となる。したがって,孤 立したノードがあればエラーとなる。 地理情報科学教育用スライド ©太田守重 インスタンスの信頼性ー位置正確度 位置正確度:地物の空間位置の正確度。以下の種類がある。 1. 絶対正確度(外部正確度):測定された座標値と真又は真とみなす座標 値との近さ。例)地図上で計測した照明灯の平面直角座標と、現場で測 量用GPSで計測した値のずれ。GPSによる値はこの場合真と見なされる 値と考えられる。 2. 相対正確度(内部正確度):地物の相対位置と真又は真とみなす個々の 相対位置との近さ。例)航空写真測量用の図化機で計測した道路縁か ら施設までの距離と、現場で巻き尺ではかった値のずれ。 地理情報科学教育用スライド ©太田守重 インスタンスの信頼性ー時間正確度 時間正確度:地物の時間属性及び時間関係の正確度。以下の種類がある。 1. 時間測定正確度:測定された時間属性の示す時間と真又は真とみなす時 間との近さ。例)事故を目撃した人が、昼の12時頃といった場合、真の時 間との差は±30分程度と考えられる。 2. 時間一貫性:事象系列の順序関係の正しさの度合い。例)竣工日は撤去日 より遅くなることはない。 3. 時間妥当性:報告されたトランザクション時間と真又は真とみなす値との近 さ備考 トランザクション時間は,データベースに登録されたデータがもつ時 間で,一般的には,アイテムの登録日時(タイムスタンプ)など。例)実世界 に起きた現象を報告する電子メールのタイムスタンプと、実際に現象が起き た時点の差。 地理情報科学教育用スライド ©太田守重 インスタンスの信頼性ー主題正確度 主題正確度:地物の主題属性の正しさ又は正確度。以下の種類がある。 1. 分類の正しさ:地物,地物属性又は地物関連に割り当てられた分類値と真 値と見なされる値(例えば,ground truth,基準になる参照データ集合)との 比較 2. 非定量的主題属性の正しさ:他と区別するための符号(非定量的属性)の 正しさの度合い。例)土地利用分類の正確さ 3. 定量的主題属性の正確度:大小又は順序を示す数(定量的属性)と真又は 真とみなす数との近さ。例)地図上で測った道路の幅員と、現場で巻き尺で 測った値の差 地理情報科学教育用スライド ©太田守重 空間データ製品仕様書 空間データ製品仕様書:空間データの使用目的,内容及び品質など作成され るべき空間データに対する要求事項を明確にするための仕様書。これによっ て、応用スキーマのUMLクラス図及び文書、品質要求などがひとまとめに示 されることになる。以下の項目を含む。 1. 概覧:対象とする製品の概要説明 2. 適用範囲:空間データの地理的、時間的な範囲 3. データ製品識別:製品の名称 4. データ内容及び構造:応用スキーマのUMLクラス図及び文書 5. 参照系:空間参照系及び時間参照系の指定 6. データ品質 :品質要求及び検証の方法 7. データ製品配布 :データ提供方法、メディアなど 8. メタデータ:空間データの説明情報のためのルールの指定 9. その他:その他必要に応じて(例:描画のための規則など) 地理情報科学教育用スライド ©太田守重 まとめ 実世界の現象の抽象概念を地物とよぶが、地物は型(クラス)またはインス タンス(オブジェクト)として表現される。これは、実世界の現象のモデルであ る。地物型及び地物型同士の関係は応用スキーマで表現できるが、これが GFMに準拠していれば、関係者の理解が得やすくなる。また、GFMに準拠し ていることが応用スキーマの形式的な信頼性確保の条件になる。しかしその 内容については、関係する人々の合意こそが、信頼性の証しとなる。 地物インスタンスについては、品質要求に対する適合性で、信頼性をはか ることができる。品質要素は大きく5種類あり、データの作成目的に応じた評 価基準が定められ、空間データ製品仕様書に示される。評価結果はデータ のためのデータであるメタデータに記載することによって、関係者は自分の 目的に合致したデータか否かを判断することができる。 地理情報科学教育用スライド ©太田守重 参考文献 1. 有川正俊、太田守重監修(2007)『GISのためのモデリング入門』ソフトバン ククリエイティブ 2. 国土地理院、地図情報レベル2500データ作成の製品仕様書(案)、国土 地理院技術資料A・1-No.295-1、 http://psgsv.gsi.go.jp/koukyou/download/detasakusei/2500index.html 3. (財)日本規格協会、JIS X 7113:2004 地理情報ー品質原理 4. (財)日本規格協会、JIS X 7114:2009 地理情報ー品質評価手順 5. ISO, ISO 19131:2007 Geographic Information – Data product specifications 地理情報科学教育用スライド ©太田守重
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