レスベラトロールによるヒトケラチノサイトの増殖阻害は SIRT1/ARNT

J Dermatol Sci. 2014 ;75(1):16-23.
Resveratrol inhibition of human keratinocyte
proliferation via SIRT1/ARNT/ERK dependent
downregulation of AQP3
レスベラトロールによるヒトケラチノサイトの増殖阻害は
SIRT1/ARNT/ERK依存的なアクアポリン3の発現低下
を介している
2015/10/05
M1小松 俊之
皮膚の構造
www.kagayaki-cl.com/
表皮ケラチノサイトの分化
垢となって剥がれ落ち
る
未分化な細胞で増殖能を
持ち、AQP3が発現して
http://besty.jp/curation/1594/
いる
改
AQP3に関して
水分子やグリセロールを輸送
netnature.wordpress.com 改
・表皮ケラチノサイトに高発現な水とグリセロールのトランスポーター
(J Biol Chem 2002;277:17147–53. )
・過剰発現でケラチノサイトの増殖と表皮肥厚化が起こり、AQP3KOマウスは皮膚腫瘍
形成に抵抗性を持つ→乾癬やアトピー性皮膚炎、皮膚癌等の過増殖を伴う病態に関与
していると考えられる
(J Invest Dermatol 2011;131:865–73.), (J Invest Dermatol 2008;128:2145–51.)
・細胞の増殖に関わるEGFRやERK1/2が阻害されると、AQP3の発現が低下する
(Int J Mol Med 2008;22:229–36.), (Cancer Chemother Pharmacol 2008;62:857–65.)
レスベラトロールに関して
・ブドウやブルーベリー、クワを含む様々な植物種において
見つかっているポリフェノールの一種
・フレンチパラドックスとの関係が指摘されている (赤ワイン)
・さまざまな細胞種において、抗増殖、抗酸化、抗炎症、抗転移、
抗血管新生作用等を示すことが知られている
・酵母、線虫、ハエ、魚類、マウス等で、種を超えた寿命延長効果が報告されている
・芳香族炭化水素受容体= aryl hydrocarbon receptor (AhR)に結合して核に移行
→AhR nucler translocator (ARNT)とヘテロ二量体形成
→下流遺伝子の発現制御、ERK経路と相互作用
・SIRT1遺伝子を活性化し、様々な生理活性を示す
長寿遺伝子または抗老化遺伝子とも呼ばれ、飢餓やカロリー制限、運動によって
活性化する
ヒストン脱アセチル化酵素であり、遺伝子の発現を抑制→遺伝子の損傷を防ぐ
背景と目的
・AQP3は増殖に関与し、アトピー性皮膚炎や乾癬、皮膚腫瘍形成
といった過増殖を伴う皮膚病への関与が報告されている
・AQP3は細胞の増殖に必要なEGFRやERKを介して増加する
・ポリフェノールの一種のレスベラトロールは、抗増殖作用を持つ
AhRに結合し、AhR/ARNT二量体を介して遺伝子発現を制御する
さらに、Sirt1シグナルを介して、様々な生理活性を示す
本研究では、レスベラトロールの抗増殖作用
のメカニズムを上記の経路に注目し調べた
レスベラトロールの細胞毒性試験
NHEKsをレスベラトロール0-100μMで24時間処理した。
AAD cell viability assayで、細胞の生存率を調べた。
レスベラトロールは、40μMまでは細胞毒性を示さず、
50μM以上では、濃度依存的に毒性を示した。
レスベラトロールの細胞増殖への影響
NHEKsをレスベラトロール20または40μMで24時間処理した。
BrdU (最終濃度が10μM)を処理から16時間後に添加した。
レスベラトロールは、濃度依存的に細胞の増殖を抑制した
AQP3と細胞増殖
(B)siRNAの確認、ウェスタンブロット (c) NHEKsにAQP3のsiRNAまたはSi-controlを添加し、
24時間培養した。BrdU (最終濃度が10μM)を処理から16時間後に添加した。
AQP3のノックダウンによって、細胞の増殖が抑制された
レスベラトロールによるAQP3の発現抑制 ①
NHEKsをレスベラトロール20または40μMで24時間処理した。
RT-PCR法にて、AQP3の遺伝子発現を調べた
レスベラトロールは、濃度依存的にAQP3の遺伝子発現を低下させた
レスベラトロールによるAQP3の発現抑制 ②
NHEKsをレスベラトロール20または40μMで24時間処理した。
ウェスタンブロット法にて、AQP3のタンパク質の発現量を調べた。
レスベラトロールは、濃度依存的にAQP3のタンパク質の発現量を低下させた
レスベラトロールと増殖マーカー
NHEKsを40μMレスベラトロール (A,B)で24時間処理した。
EGFRやERKのリン酸化や、AQP3をウェスタンブロットで定量した。
レスベラトロールは、 ERKのリン酸化を阻害しAQP3の発現を低下させた
(EGFRのリン酸化は抑制しなかった)
U0126と増殖マーカー
NHEKsを 10μMのU0126 (MEK/ERK阻害剤)((C,D)で24時間処理した。
EGFRやERKのリン酸化や、AQP3をウェスタンブロットで定量した。
U0126は、 ERKのリン酸化を阻害しAQP3の発現を低下させた
(EGFRのリン酸化は抑制しなかった)
レスベラトロール・ARNTと増殖マーカー
NHEKsにSi-controlまたはsiARNTをトランスフェクトし、
レスベラトロール40μMで24時間処理した
レスベラトロールによるERKのリン酸化抑制と、AQP3の発現低下は、
ARNTのノックダウンによって抑制された
レスベラトロール・AhRと増殖マーカー
NHEKsにSi-controlまたはsiAhRをトランスフェクトし、
レスベラトロール40μMで24時間処理した。
レスベラトロールによるERKのリン酸化抑制と、AQP3の発現低下は
AhRのノックダウンでは抑制されなかった
レスベラトロールとSIRT1①
NHEKsをレスベラトロール20または40μMで処理した。
(A) ARNTのqRT-PCR解析, 12時間(B) SIRT1のqRT-PCR解析,3時間
レスベラトロールは、ARNTとSIRT1の遺伝子発現を濃度依存的に増加した
レスベラトロールとSIRT1②
NHEKsをレスベラトロール20または40μMで処理した。
(D) si-SIRT1とsi-ControlのトランスフェクションによるARNTのqRT-PCR解析,12時間
SIRT1のノックダウンによって、レスベラトロール
によって誘導されるARNTの発現上昇が抑制された
レスベラトロールとSIRT1③
NHEKsをレスベラトロール20または40μMで処理した。
(E) si-SIRT1とsi-ControlのトランスフェクションによるERKのリン酸化とAQP3の
発現量のウェスタンブロットによる定量,24時間 (F)Eのタンパク質の定量値
SIRT1のノックダウンによって、レスベラトロール
によるリン酸化ERKとAQP3の減少が抑制された
まとめ
レスベラトロールは、SIRT1/ARNT/ERK/AQP3経路を介してNHEKsの増殖を抑制する
1. レスベラトロールは、SIRT1の発現を
誘導する。
2. SIRT1は、ARNTの発現を誘導する。
3. ARNTはERKを脱リン酸化する。
(EGFRは脱リン酸化しない)
4.ERKの脱リン酸化により、AQP3の発現
が低下する。
5.AQP3の発現低下によって、NHEKsの
増殖は低下する。
(レスベラトロールのこの作用は、ARNT
を介するが、AhRまたはAhR/ARNT複合
体は解さない。)