要 報告番号 甲 乙 第 約 号 氏 名 山 本 恒 久 主 論 文 題 名 Cardiac Sirt1 mediates the cardioprotective effect of caloric restriction by suppressing local complement system activation after ischemia-reperfusion (カロリー制限はSirt1による心筋補体経路の抑制を介して心筋虚血再灌流傷害を抑制 する) (内容の要旨) カロリー制限(Caloric restriction: CR)は食餌自由摂取状態から30-60%摂取カロリー を減じた食事制限療法である。げっ歯類(ラットやマウス)においてCRが平均寿命と最 大寿命を延ばすばかりか加齢関連疾患の罹患率を減じ、加齢に伴う生理機能の低下を軽 減し、様々なストレスに対する応答性を高めることが報告されている。私はCRが心筋細 胞 の 虚 血 ス ト レ ス 耐 性 を 改 善 し、虚 血 再 灌 流 傷 害 を 軽 減 す る こ と を 観 察 し て き た。一 方、サーチュイン(Sirtuin)はCRによって活性化され、寿命・老化と密接に関係する長 寿遺伝子であることが知られている。そこで本研究ではCRによる虚血ストレス耐性に心 筋サーチュイン1(Sirt1)が関与しているか否か、もしそうであるならばSirt1依存性心筋 虚血ストレス耐性の分子機序を明らかにすることを目的とした。 3ヶ月齢の心筋細胞特異的Sirt1遺伝子欠損マウス(Sirt1 knockout mice: Sirt1 KO)と野 生型マウス(対照群)を自由食摂取群とCR群にわけて3ヶ月間飼育した。CRを行った対 照群の心臓ではSirt1 mRNA発現の増加と核内移行の増加を認め、心筋Sirt1の活性化を確 認した。単離した心臓をランゲンドルフ摘出灌流心モデルにより虚血再灌流傷害を与え 心機能を評価した。虚血再灌流後の左心室の機能は対照群ではCRにより収縮機能・拡張 機能ともに改善を認め、灌流液中の乳酸脱水素酵素(Lactate Dehydrogenase: LDH)量も 減少しておりCRによる虚血心保護効果が確認された。一方、Sirt1 KO群ではCRによるこ れらの心保護効果は認められずCRの虚血心保護効果は心筋Sirt1依存性であることが確認 された。Sirt1依存性心筋虚血ストレス耐性の分子機序解明のためDNAマイクロアレイ解 析を行った。CRを行った対照群では補体Complement component 3(C3)の発現が抑制さ れていたのに対し、Sirt1 KO群ではCRをしても補体C3の発現に変化を認めず、Sirt1の標 的分子として補体C3に着目した。ラット初代培養心筋細胞へSirt1活性化剤のレスベラト ロールで刺激をすると補体C3のタンパク質発現の抑制が確認され、活性化した心筋Sirt1 が心筋細胞のC3のタンパク質発現を抑制していることが確認された。さらにC3遺伝子欠 損マウスでは、CRによる虚血心保護効果が認めないことを確認した。 以上より、CRによる虚血ストレス耐性には心筋Sirt1が関与していること、そしてSirt1 は心筋細胞の補体C3の発現を抑制することで虚血再灌流時における補体の活性化を介す る心筋傷害を軽減し、心筋虚血ストレス耐性を惹起していることが明らかとなった。
© Copyright 2024 ExpyDoc