必ず、名前、学籍番号を書いて出してください。

道徳教育(他学部)
7月25日(金)5限
第十四回「人間の幸福とは何か?-すばらしい新世界-」
前回の感想より①
• ケア:他人の求めに応えること、という言葉がまだ理解し
きれていないなと自分で思いました。他人の求めに応える
→問題解決能力としてみると僕たちは元からケアリングの
要素が入った内容を学習しているのではないかと思いまし
た。(理学部 物理学科)
• 私はスクールホームとは先生が生徒一人ひとりをしっかり
見て、話を聞いてあげることだと思う。ケアリングを教育
の中心に据え、生徒が悪いことをしても頭ごなしに叱るの
ではなく、なぜそうしてしまったのか、何があったのかを
誰かが聞いてあげることは必要だと思う。しかし、完全に
ケアリングの方向に向かうことには賛成できない。なぜな
らケアリングが進行していけばそれはやがて生徒のわがま
まにつながるのではないかと思うからだ。たとえば出来の
悪い生徒がいて私見をするのが嫌と言っているから、個別
試験にしてあげよう、夏休みを増やしてあげようというの
は教育のいい結果ではないと思う。(園芸学部 緑地環境
学科)
前回の感想より②
• ケアリングを中心に扱う時、一番重要になるのは「人間関係」で
あると思った。物や人をケアするときには思いやりが必要不可欠
だと思うが、それは「人間関係」の中から学ばれるはずであるし、
つながりも人とつながる時は明らかに「人間関係」である。関心
も人と話しているうちに気になることが出てきて、今までなかっ
た物への関心が生まれることもよくあるように感じる。物などへ
の関心は一概に人間関係から生まれるとは言えないが、無視でき
ない大きな要因であると思う。前述したとおり、「人間関係」は
ケアリングに非常に重要だからケアリングを中心にする教育にお
いては学校での「人間関係」をつくることが必須であると思う。
授業で先生が挙げた例に沿うなら、ケアリングを中心とする学校
では授業に全てグループワークが導入されると考えられる。「人
間関係」を中心に考えるときにテストは果たしているのか、とい
う疑問が出てくる。なぜならテストにおける評価は人間関係をつ
くる上で悪影響が無視できないほどの大きさであるからだ。テス
トの点数における評価では間違いなく序列が生まれ、そこから格
差が生まれる。ケアリングの意味では格差は致命的になる。なの
で、テストはケアリングを中心とする教育ではいらないと思う。
(理学部 数学・情報数理学科)
前回の感想より③
• フェミニズムの思想は家庭で行われる3Cに対して学校で
行われる3Rが存在するという昔のあり方に対して、最近
崩れてきた家庭の3Cを補うために学校で3Cと3Rの両
方を行うことを考える思想だと思う。学校を読み書き計算
を教えるだけの機関ではなく、新たな家として考えること
がスタートになっている。この方法には合理的なようで少
し問題があるように思う。学校には家庭よりも大きな権力
の差が存在する。3Cを行うにはもう少し権力の差が小さ
い場所が必要ではないか。(理学部 化学科)
• スクールホームでは一つのクラスに様々な学年の人を入れ
てみるというのを考えた。勉強面や普段の生活などで下の
学年の人は上の学年の人を頼ったり挑もうとするだろうし、
上の学年の人は下の学年の人の成長の手助けや成長を楽し
む、負けないように頑張ろうという気持ちが出て、単なる
成績の向上を目指すだけの空間ではなくなると考えたから
だ。(法経学部 経済学科)
前回の感想より④
• 私は人に対する3Cと人以外の事物(理論、生物など)に
対する3Cは全くの別物であると思う。理由は漠然として
いるが、例えば「人は平等だ」という文面は受け入れられ
るのに、「人と牛は平等だ。牛にも生存権があるから殺し
てはいけない」などという文面は到底受け入れられない。
対等であろう人への3Cと物への3Cは別物であり、人へ
の3Cは人との接触の中でしか育まれないものだと考えた。
(理学部 数学・情報数理)
• 3Cを中心としたスクールホームを実現させ、その中で
育った子どもたちが社会に出た時、新しい公的領域を重視
した社会に対応し、変えていくことができるのか気にか
かったので、社会に出た後のことまでしっかり考えて教育
をしなければいけないと感じた。(文学部 史学科)
前回の感想より⑤
• 学校に求めるものが変わってきているというのは家庭が変
わったからだというのは安易であると感じた。確かに昔よ
り女性の社会進出が進み、家庭というものは変わってきて
いると思う。育メンと言う言葉が出てきたりと、男性も積
極的に家庭に参加するようにはなってきている。しかし、
もともと家庭と学校を切り離して考えること自体が変なこ
とだと思う。この二つはどうしてもつながり続けるもので
あるし、切っても切れないものである。一方が変わったか
らもう一方も変えるのではなく、どちらも同時に変わって
いくという感じがするが、家庭に求めるとか学校に求める
とかは本当はないのではないかと思う。確かに家族愛を学
校で求めることは難しい。しかし、学校があるからこそ
(家族愛を感じにくい場所があるからこそ)家庭に戻った
時、家族愛を感じる。それは求めずとも存在するものであ
ると思う。(理学部 化学科)
前回の感想より⑥
• 個々の生徒に注目、配慮しながら尊重し、わが子のように生徒4
0人を扱うこと、それは良い面はあるが、教師はパンクすると
言っていたことが印象的だった。私はこの“ケアリング”というも
のに懐疑的である。それは上記の発言と同じで、ケアリング自体
はいいけれど、ケアリングを特定の人が行う、また教師などその
適性を個人の人格に還元されやすい“聖職”にケアリングを求める
ことには反対である。それは多数の人を一人でケアすることの限
界と特定の人がケアリングを担うことにより、ケアリングという
そもそも人の間にある、人間関係をどのようにつくるかにかかわ
る行為をいつでも受身的に受け取る人が多くなったり、ケアリン
グと言いうものを人の間から奪ってしまったり、育てていくチャ
ンスをなくしてしまう可能性があると考えたからです。でも教師
が一方的にケアリングをするのではなく、生徒間のグループワー
クを通してケアリングというのを学んでいくのであれば、ケアリ
ングを受け取ることも時に与えることも行うことにつながり、興
味のあるものになるのではないかと考える。この場合、数学の能
力を上げることと協同していくことのどこに評価を置くのか。市
場で働く時には前者が優位に働くことが多いので、学校だけでな
く、社会もケアリングを通した協同に意味を見出していく必要が
あり、それがどのように可能なのかに興味をもった。(科目等履
修生)
人間の幸福とは何か?
• 教育には答えがないということをこれまでの授業の中で強調し
てきました。
• その中で、教育の目的の一つに子どもの幸福(幸せ)の実現と
いうことを挙げてきましたが、幸福が何かということについて
の答えは保留してきました。(cf 狼に育てられた子)
• 今日の題材であるオルダス・ハクスリーの『すばらしい新世
界』という小説は、人間の幸福とそれを実現するための教育や
社会建設の方法について、一つの「答え」を定めて、ユートピ
ア社会を描いています。
• この小説の中で示される「答え」はある意味で完璧であり、
人々は(この世界の定義によれば)幸福に暮らすことができて
いるにもかかわらず、とても薄気味悪く、人間らしさを失った
世界であるように見えます。
• 「この世界の何が問題なのか?」、「ここから私たちが学べる
ことは何なのか?」、といったことを考えながら今日の話を聞
いてもらえればと思います。
『すばらしい新世界』
• オルダス・ハクスリーによるSF小説。
• 第一次世界大戦と第二次世界大戦の間にあたる1932
年に書かれた。
• 当時はドイツでヒトラーを中心とするナチズムの勢力が
躍進し、イタリアではムッソリーニを中心とするファシ
ストの独裁体制が確立した。また、旧ソ連では工業化社
会と農業集団化による社会主義国家建設を目指してス
ターリンが第一次五カ年計画に着手し始めていた。
• ハクスリーはこのように世界各国で科学技術を最大限に
利用しながら、個人としての人間の価値を無視した全体
主義社会が生まれ始めていることに危機感を覚え、風刺
的な意味合いを込めてこの小説を書いたと言われている。
舞台設定
• 時代はフォード紀元632年(西暦2495年?)。「共有、
均等、安定」を標語とする世界国家。
• T型フォードで知られ、自動車の大量生産技術を生み出したヘ
ンリー・フォードがこの世界では神に近い存在(宗教は否定さ
れているので神ではない)として崇められている。(隔週木曜
日に行われる団結礼拝の儀式では人々は十字ではなく、T字を
切る)
• この世界(以下、「世界」と呼ぶ)では、大量生産、大量消費
による社会の経済的な繁栄と安定、人々の幸福が目指されてい
る。
• ここで言う、「幸福」とは肉体的、精神的な「快楽」のことで
あり、苦痛のない状態を指していると考えられる。
• こうした目的を達成するため、「世界」では未来の科学技術の
力を最大限に発揮しながら社会の秩序を完璧に統制し、予定調
和的な楽園を創り上げている。
人工授精と階級分け
• 「世界」では子どもは全て人工孵化所と呼ばれる場所で、人工授
精によって培養ビンの中から生まれる。
• 女性は卵子を提供する者以外は生まず女として子どもを産むこと
のできない体で生まれる。生まず女以外の女性は、妊娠しないよ
うに避妊薬を与えられたり、マルサス式避妊訓練と呼ばれる訓練
を受ける。
• 人は生まれる前からアルファ、ベータ、ガンマ、デルタ、エプシ
ロンの順に階級分けされる。将来的に高い階級は複雑な精神労働
を、低い階級は単純な肉体労働を担うことになる。
• アルファやベータ階級は卵子を受精させた後に孵化機に戻される
が、それ以下の階級は一個の卵子を何十にも分裂させるボカノフ
スキー法という処理を施され、生物学的に不完全な個体として生
まれてくる。
• さらに、生まれた後の酸素供給量に差を設けるなどして、それぞ
れの階級に相応しいレベルの知能や体格を設定する。
• この世界では完全な分業が成され、少数の支配者層を除いては、
人々は自分の仕事以外の社会の全体像についてはほとんど理解で
きないようにコントロールされる。つまり、人々から社会に対す
る疑問が生まれないようにし、社会の安定を図っている。
条件反射教育
• 子どもは条件反射教育によって、社会の秩序や自分の階級の生
き方に疑問を抱かないように完璧に社会化される。
• 条件反射教育には寝ているときに繰り返し同じフレーズを聞か
される睡眠時教育や、電気ショックを使って特定の物事に対す
る恐怖を植え付ける方法など、様々なタイプがある。
• 例えば、熱帯で鉱夫や鉄鋼工などになる予定の子どもには胎児
の段階から暑いトンネルと冷たいトンネルを通り、冷たいトン
ネルには強いエキス光線による不快感が伴うようにし、寒冷に
対する恐怖と、暑さで元気づくような性質を植え付ける。
• 「これこそ幸福と美徳の鍵である。自分がなさねばならぬこと
を好むということ。すべての条件反射教育が目的とするのはま
さにこれだ。人々をしてその免れがたい社会的宿命を愛するよ
うにさせることだ」(人工孵化・条件反射育成所所長の言葉)
• 条件反射教育には死に対する不安を取り除く教育も含まれる。
どんな幼児もみな危篤者病院で週二日午前中を過ごし、死亡者
が出る日にはチョコレート・クリームがもらえるようになって
いる。これにより、死に対する不安が社会の安定を乱すことの
ないようにする。
幸福(快楽)の完全な保障①
• 人々は社会の安定のために奉仕させられるだけではなく、
社会から快楽という形での幸福を完全に保障されている。
• 子どもは人工授精によって生まれるため、家族はなく、
男女の恋愛とセックスは快楽のためだけに存在する。享
楽的な生活が奨励され、「万人は万人のものである」と
いう条件反射教育で植え付けられた道徳により、一人の
相手とだけ行う恋愛が戒められている。
• 一対一の恋愛は個人主義を助長し、妻や子どもや恋人と
いった激しい感情の種は社会の安定を乱すと「世界」で
は考えられている。
• 触感映画(観るだけでなく、体の感覚も引き起こす映
画)や電磁気ゴルフ、エスカレーター式テニスなど、最
新技術による娯楽には事欠かない。
幸福(快楽)の完全な保障②
• 精神的に憂鬱な感情に襲われた時に備えて、ソーマという麻
薬が用意されている。ソーマが引き起こす陶酔状態は全ての
不安や憂鬱を忘れさせる。さらに、ソーマには使用後に身体
的な苦痛を伴う副作用もない。
• 「ソーマ一立方センチは十の憂鬱を癒す」という条件反射教
育で使われる格言があり、人々は憂鬱を感じた時にはすぐに
ソーマを飲むように仕込まれている。
• 「世界」では薬学や生化学の技術によって「老い」が克服さ
れている。このことで、老齢に伴う生理学的特徴とともに精
神的特徴も根絶された。
• 老人も若者のように働き、セックスをする。老人も快楽から
逃れる暇はなく、考え込んだりする暇がない。
• 苦痛が除去され、快楽が完全に保障された人々は社会秩序を
疑うことはなく、「今では全ての人は幸福である」という条
件反射教育によって植え付けられた言葉を心から信じ込んで
いる。
あらすじ①
• バーナード・マルクスはアルファ階級に属しているものの、
アルファ階級の標準から背丈が7㎝近くも低く、体つきも
細いために、人工孵化所で血液大溶液にアルコールが混入
してしまったという噂を持たれて周囲からからかわれてい
た。
• そのため、彼は「世界」の中で疎外感を感じ、「世界」の
社会規範に対しても疑問を抱くようになった。彼は自由を
求めており、社会機構の一部とならずに独立した存在であ
りたいと考えていた。
• 一方、マルクスの友人であるヘルムホルツ・ワトソンは情
緒科学大学の講師を務め、知的に並はずれた才能ゆえに世
間一般からの孤立感を深めていた。そして、やはりマルク
スのように「世界」の秩序に対して疑問を抱くに至った。
あらすじ②
• ある日、マルクスは想いを寄せるレーニナ・クラウンとい
う女性を誘って、ニューメキシコにある野蛮人保護地区を
見物しに行く。
• 野蛮人保護地区とは、インディアンや混血児の住む地域。
ここでは女性から子どもが生まれ、人々は家族を持つ。ま
た、「世界」の中では例外的に宗教が残されている。
• いわば野蛮人は現在の私たちの世界と同じような生活をし
ているわけなのだが、「世界」の人びとにとっては気味が
悪く、動物園に動物を見に行くような気持ちで行く所。
• そこでマルクスとレーニナは白人の青年ジョンに会う。
• ジョンはリンダという昔はロンドンで働いていたベータ階
級の女性の子どもである。リンダはマルサス式避妊訓練を
受けていたにもかかわらず、妊娠をしてしまった。ジョン
が生まれる前に夫と野蛮人保護地区に旅行に出かけ、そこ
で事故に合って帰れなくなってしまった。野蛮地区には人
口流産所もなく、ジョンを生まざるをえなかった。
あらすじ③
• ジョンは母親のリンダから「世界」の話を聞かされ、文字が
読めるように教育され、村の老人からは宗教的な世界観につ
いて聞かされて育った。
• また、ジョンはリンダの愛人ポぺが持ってきた「シェイクス
ピア全集」(「世界」では発禁処分を受けている)を手に取
り、読む機会を得た。シェイクスピアの言葉の一つひとつが
彼に大きな影響を与えた。
• マルクスはジョンとリンダをロンドンに連れ帰る。
• 野蛮人集落で育った文明人の子どもとしてジョンは科学の興
味の対象となり、世間の注目を集めた。
• しかし、ジョンは「世界」に対して全く馴染むことができず
にいた。人間とは思えない不完全な容姿のデルタ、エプシロ
ン階級が働く工場を見学して嘔吐し、触感映画などの娯楽は
低級にしか感じなかった。
あらすじ④
• また、ジョンはレーニナに想いを寄せていたが、シェイクス
ピアの世界のような恋愛観をもつジョンにとって、恋愛に快
楽だけを求めるレーニナのアプローチはあまりに不道徳であ
り、お互いに噛み合わずに困惑していた。
• そんな中、ジョンの母親のリンダが死亡する。悲しみに暮れ
るジョンは、死に対する条件反射教育を受けている子どもた
ちの無邪気なはしゃぎように激怒し、外に出る。(「世界」
で他人の死を悲しむ者はいない)
• すると、ジョンはソーマの配給を求める下層階級の人々の群
れに遭遇する。この不快な光景に我慢ができなくなったジョ
ンは、「君たちは自由に人間らしくなりたくないのか!」と
叫んで配給用のソーマを投げ捨て、人々と乱闘騒ぎを起こす。
• 駆けつけたマルクスとワトソンとともに逮捕されたジョンは、
「世界」の西欧駐在総統のムスタファ・モンド(以下、総統
と呼ぶ)の書斎に呼び出される。ここから物語のクライマッ
クスシーンであるジョンと総統との会話が展開される。
総統との会話①
• ジョンは「世界」に対する疑問を総統に対してぶつける。人工授
精で好きなように人間を生み出せるなら、なぜ全てアルファ階級
の人間を作らないのか。
• 総統はこの疑問を一笑に付す。アルファの人間がエプシロン階級
の仕事をしなければならないとすれば、気が狂ってしまう。
• 知能を抑えられ、条件反射教育を受けたエプシロン階級の者だけ
がエプシロン的犠牲を払うことができる。エプシロン階級は自分
たちがみじめな仕事をしているという自覚がなく、むしろ簡単で
頭も筋肉も疲れさせずにすむ仕事を気に入っている。ほどよい労
働と、たっぷりの快楽を与えられて、満足しているのである。
• 実は「世界」ができるまでの歴史の中で、既に2万2千人のアル
ファ階級の人間だけで社会を創る実験が行われていた。
• しかし、低級な仕事に割り当てられた人間は高級な仕事にありつ
こうとして絶えず陰謀を企て、高級な仕事をもつ人間は現状にし
がみつこうとしてこれに対抗して陰謀を企て、6年もしないうち
に内乱で2万2千人中、1万9千人もの人が殺されてしまった。
• 残存者たちはついに諦めて、世界総統たちに島の統治をもう一度
やって欲しいと嘆願したという。
総統との会話②
• ジョンは「世界」ではなぜ人間らしい文化が禁止してしまうのか
(例えばシェイクスピアの『オセロ』が発禁処分になっている)、
総統に問いかける。
• 実は、総統は「世界」で禁止されている芸術や、宗教についても
ジョンよりはるかに教養があり、昔は物理学者として純粋科学の
研究に従事していた。
• しかし、総統は「世界」における安定と幸福(快楽)のために芸
術や宗教を禁止するのみならず、科学の研究でさえも「世界」の
安定と幸福に役立つ限りの範囲に制限しなければならなかった。
• 芸術が引き起こす激しい感情や、宗教が求める現世を超越した崇
高さは、社会不安の産物であり、「世界」の安定と両立しない。
• また、科学における真理の追究も、それが社会の安定や幸福と両
立する内は「世界」にとって有益だが、真理が至高の価値になっ
てしまい、安定と幸福を脅かすような場合には有害になる。
• 自由や、芸術、宗教、真理を求める心など、総統はおよそ人間ら
しいものをあえて犠牲にして、幸福と安定を求める「世界」を創
りだしたのである。
総統との最後の会話
総統 「われわれは物事を愉快にやるのが好きなんだよ」
ジョン「ところが、私は愉快なのがきらいなんです、私は神を
欲します、詩を、真の危険を、自由を、善良さを欲し
ます。私は罪を欲するのです」
総統 「それじゃ、全く、君は不幸になる権利を要求しているわ
けだ」
ジョン「それならそれで結構ですよ。私は不幸になる権利を求
めてるんです」
総統 「それじゃ、いうまでもなく、年をとって醜くよぼよぼに
なる権利、梅毒や癌になる権利、食べ物が足りなくなる
権利、シラミだらけになる権利、明日は何が起こるかも
しれぬ絶えざる不安に生きる権利、チブスにかかる権利、
あらゆる種類の言いようもない苦悩にさいなまれる権利もだ
な」
ジョン「私はそれらのすべてを要求します」
総統 「じゃあ、どうぞお好きに」
物語の結末
• マルクスとワトソンは、総統によって「島」に送られる。「島」
では彼らのように何かの具合で、「世界」での共同体生活に適応
できず、自分自身の独立した思想をもつようになった人間(つま
りは我々の社会でいう普通の人間)が「世界」から隔離されて暮
らしている。「世界」に適応できず、孤独を感じる彼らにとって、
ある意味ではこれは幸福なこととも言える。
• しかし、ジョンは野蛮地区育ちの文明人に対する研究を続けたい
という理由で、二人とともに「島」に行くことを総統に許しても
らなかった。
• ジョンは実験材料にされることを嫌って、文明から遠く離れた地
へと逃げ出し、そこで一人、隠遁者のような生活を送る。
• しかし、「世界」のジャーナリズムはジョンを放っておかず、住
み家を発見されてしまう。再び、ジョンは世間の好奇の目にさら
され、大勢の見物客に見舞われる。ジョンは文明を捨てた野蛮人
として、狂った狂人のような扱いを受ける。
• 「世界」に居場所を見いだせなくなったジョンは一人、自殺を遂
げる。
グループワーク
• 総統は条件反射教育を受けていない、いわば普通の思
考能力を備えた人間です。その総統が人間の歴史から
学び、極めて真面目に考え出したのが「世界」でした。
• 「世界」が導き出した幸福についての「答え」(快楽
としての幸福)のある種の完璧さの前に、自由や人間
らしい生き方を求めるジョンは自らの正しさを証明す
ることができませんでした。
• では、「世界」の出した「答え」は正しいのでしょう
か?間違っているとすれば、何が間違っているので
しょうか?
• もしそれを可能にするための技術があったならば、人
は「世界」のような生き方を求めるのでしょうか?皆
さんはどう考えますか?
• その他、考えたこと、疑問に思ったことなど、自由に
話し合ってみて下さい。
感想シート
• 今日の授業の中で考えたこと、疑問や質問、グループワーク
の中で話し合ったこと、授業に対する要望、なんでもかまい
ません。
• 感想の紹介は匿名で行いますが、プライベートなことにかか
わるなど、どうしても次回の授業で紹介してほしくない部分
などがあればその旨を記してください。
• 必ず、名前、学籍番号を書いて出してください。
• 授業中に伝えきれなかった質問、意見はメール、もしくはブ
ログを利用してください。
メール [email protected]
HP http://moral-education.seesaa.net/
ユーザー名 moral-education
パスワード
449281
参考文献
• オルダス・ハクスリー 『すばらしい新世界』 (講談社文庫、光
文社古典新訳文庫など、複数の訳あり)
ハクスリーに興味をもった人のために・・
• オルダス・ハクスリー 『素晴らしい新世界ふたたび』(高橋衛右
訳)
近代文芸社
小説ではなく、『すばらしい新世界』から30年近く経った現実の世
界についての評論
• オルダス・ハクスリー 『知覚の扉』(河村錠一郎 訳) 平凡社
ライブラリー
ハクスリー自身が実験として麻薬を服用し、そこから見えた世界につ
いて語っている
その他、小説では『恋愛対位法』、『ガザに盲いて』などが有名。
4ヶ月間ありがとうございました
• 短い間ですが、つたない僕の授業に毎週取り組んでいただき、本当に
ありがとうございました。
• グループワークや感想シートなど、皆さんがくれる反応から僕が学ん
だことは本当に大きかったです。教育者は学びながら教えるものだと
いうのが僕の持論ですが、そのことを強く実感することができました。
• 道徳教育(教育全般に言えることですが)における「答えのなさ」を
強調して、4ヶ月間授業をしてきました。
• その中で、「答えのなさ」は「何でもあり」ということを意味するの
ではなく、何がよい教育なのか、子どものために何ができるのかを問
い続ける「自由」と「厳しさ」を意味することが伝わっていれば嬉し
いです。
• 教師になってから、学校の方針や、学習指導要領、先輩教師の言葉、
偉い講師の先生の言うことなど、「答えのように見えるもの」に出会
うことがあると思います。その時に、そうした「答え」に従わされる
圧力があったり、自分自身「答え」にすがりたくなる誘惑に出会うか
もしれません。
• 難しいことですが、そんな時に安易な「答え」に流されず、子どもの
心と出会い、自分の頭で考えられるような教師になってくれたら嬉し
いです。
• 守備範囲は限られていますが、今後も大学での学びや進路のことなど、
相談があればメールで連絡を下さい。