第9章:成層圏突然昇温など

第9章:成層圏突然昇温など
--惑星波動による平均東西風の変化について-9−1: EP-フラックスによる解析について

f R
1
v'T' 
p' w'
2
N H
u c
Andrews McIntyre(1976)によって導入された、変換された(transformed)オイラ—平均で惑星波動の振る舞いをみること
がよくなされる。

惑星波動のとき、南北熱フラックスがf(コリオリ項)をとおした鉛直EP-フラックスで、その項を東西風の変化の式にくりこ
む。さらに子午面循環は近似的に流体の重心の平均運動に等しい。
6章で導出したように、
v*  v 
w
*
1 R 
(  v' T' / N 2 )
 H z
 w
R 
2
(v' T' / N )
H y
u
1
*
 f0 v 
 F  X
t

v *
1 w *

0
y
 z
T
H

N 2w *  J / cp
t
R
のように変換すると、準地衡風系では
熱力学の式で、擾乱の効果が見えないこと(非断熱が鉛直循環を直接駆動する形)、運動の方程式において、東西平均
風の加速の項が、EP flux (Eliassen-Palm flux)の発散によって表現されることが特徴となる。
Fy    u' v'
Fz   f0
R
v' T' / N 2
H
この量は惑星波の運動量を南北、鉛直に運ぶ指標で、psudo-運動量フラックスとも呼ばれる。
運動量フラックスの発散によって、風(運動量)が直接変化することを示していて、物理的に理解しやすい表現になってい
る。また循環は、近似的に重心の平均的な南北、上下の運動状態を記述していると考えられる。
惑星波のEliassenPalm フラックスを
図にのせておこう。
解析で非常に有効
な手法で、よく使わ
れている.
ー>波の振幅と位
相の表現から、波
の運動量の流れと
いう考え方へ?
図:定常planetary
wave のEliassenPalm flux。1963
年から1969年ま
での1月で波数1
である。
Sato(1980, J. M.
S. J. )より。年に
より非常に異なる
ことに注意。
9−2:成層圏突然昇温について
西風
東風
ここらあたり
冬の成層圏は基本的な平均東西風は西風である
ー>東風に変わるときがある。
西風中の定常惑星波動の伝播の様子(これは波
のエネルギの流れ)
突然昇温の現象について述べておこう。図は北緯80度、10hPaの1978年10月から1979年5月までの東
西に平均した温度の時間変化を示したものである。冬から春への温度変化のなかで(低温からだんだん温度
が上がりつつあるとき)、時々急に温度が上がっている。このときは3度起こっている。この様な突然の温度増
加現象を成層圏の突然昇温と呼んでいる。英語ではstratospheric sudden warming 。また極の高温は温度風
の関係から東風になる可能性があるので(夏の状況)、10mb以下で60度から極向きに温度が増加して東
風が出来るとそれを major stratospheric warming 、と呼んでいる。かなり不規則で(2年に一回程度)、どの
年にmajor warmingが起こるかわかっていない。対流圏の年々の状況にもよるであろうし(惑星波の生成問題
と関わる)、また赤道下部成層圏の準2年振動と関係があるともいわれているが(これは波の伝播問題と関わ
るであろう)。
1978
1979
表:majorな突然昇温の起こった年。Andrews et al.(1987)
より
例:1979年の突然昇温のときの平均東西風の時間的変化Andrews
et al.(1987)の教科書より。
12月8日/78年
前図に対応したときの平均東西風の
変化の様子を示そう。それぞれ12月
8日、1月25日、2月6日、2月26日、
3月3日である。12月8日は冬のはじ
めで西風が強い。1月25日および2月
6日は温度が上がっており、それにと
もない極域に東風が吹いているが10
mbでは東風になっていないので(1月
25日はなっているようにも見える?)
minorとしている。また2月26日には1
0mbで東風になっているのでこれは
major warmingとなっている。
1月25日
2月26日
2月6日
3月3日
補足図:
2/6
2/26
1/25
1/25
2月
major
warming
20N
warm
cold
40N
180
最後のwarmingに対応した、10mbでの Planetary
wave の振舞いを図に示す。日にちはそれぞれ2月1
7日、2月19日、2月21日、2月26日、3月1日、3
月5日の温度(5度おき、dashed curve)とハイト(0。
2kmおき)を示す。major warming のときの振舞いを
示している。はじめ気圧場の水平構造は極渦が引き
延ばされて、楕円のような構造になっていて、渦の中
心が少しpoleから離れている。それにアリューシャン
高気圧が付随している。(b)では(a)のような定常・
惑星波の構造が少し変形しつつある。ー>次へ
0
a : 2月17日
b : 2月19日
図:1979年の突然昇温のときの10mbの温度
と高度の分布。Andrews et al.(1987)の教科書よ
り。
c : 2月21日/
1979年
warm
(c)で大きな変
化が起こって
いる。低気圧
の渦が2つに
分離されたよ
うな形になり、
極が高温にな
りつつある。
(d)では極が
高温になり、ま
た極が高気圧
になっている。
極の高気圧に
ともない東風
が吹く。そして
しばらく時間
(数日、放射の
緩和時間)が
たった後また
冬の状態(完
全ではない
が)に戻る。
180
0
cold
e : 3月1日
warm
f : 3月5日
d : 2月26日
このような現象をMatsuno (1971)によるPlanetary wave の鉛直伝播と、その波と平均東西流(および平均温度場)との相
互作用の観点から見てみよう。概略を述べると以下のようになるであろうか。あるとき対流圏においてPlanetary wave が
増幅される。この増幅の機構は対流圏のBlochingと関係があるらしいがまだ明確になっていないようである。ともかく惑星
波が強まってその波が鉛直へ伝播していく。上方に伝播し波の振幅は密度factorによりさらに強められる。そのとき
transientな波の非線形により平均流を変化させる。このとき波が定常であればEliassen-Palmの定理により何の変化もも
たらさない。しかしいまは波が急に増幅したので、上の定理は破綻していて平均流は変化していく。そのため例えば前の
平均東西風の図の(d)のように図の(a)に比べ大きな東風が極の方に作られたと理解される。
数値実験による説明:波動に関する時間発展の式(形は線形)

  1  cos '
1
2 '
p ' 
2 2 
(   )
( 2
)

4
a
(
)
t
 cos   sin  
cos2  sin 2  2
pz N 2 z 


q 1 '
0
 cos  
7章では時間変化の項を落とし、線形の問題で解かれていた。
Zonal mean equation:(QBOの場合と同様に東西平均場が変化する)
u
1

 2sin  v  
(u' v' cos 2  )
2
t
a cos  
 
1
 '
2
(
)N w  
(
v' cos  )
t z
a cos   z


( pv cos  ) 
( pw cos  )  0
a
z
のような式をcoupleして解いてある。擾乱が東西平均場を変え(下の方の式)、変わった平均場を擾乱が感じて(上の方の
式)… のように発展していく。
結果の例示:
高
度
点線は観測
西風
下部境界での惑星波動の振幅変動、t=0から波を
強制する
波数1の振る舞
東風
緯度
初期 t=0(初期条件)における平均東西風
計算された波動振幅の時間変化、β平面モデルで初
期は一定の風(33m/s)の場合、shadeの部分が東風、
30度と90度に壁で、60度での様子
時間変動の様子:
高
度
時間
60Nの平均東西風の時間変化、西風であったところ
から東風が生成されている。波数1の強制
波数2の場合の波の振幅の時間変化。->下図
に対応
温度下降
高
度
初期条件からの極の温度の時間変化、成
層圏は温度が上昇、中間圏は温度下降して
いる、波数1の場合。
平均東西風の時間変化、西風であったとこ
ろから東風が生成されている。波数2の場
合。
水平の構造:
t=0で波を
forcing
10日後
緯
度
平均東西風の時間変化、波数2の場合
西風
緯
度
東風
水平パターンの時間的変化の様子(30km)、波数2の場
合、極の低気圧が高気圧に変わっている。
波の振幅の時間変化
上方伝播に限ったオイラー平均的説明:惑星波に伴って、熱輸送がある。北側で上昇流が作られ、
Charney-Drazinの定理の破れのために連続の式から南北風は北風、それにコリオリが働いて、東
風をつくる。
 (  )  N2 w    v   
t z
y z
波
の
鉛
直
伝
播
熱輸送の効果の方が
勝って温度上昇
対応した東西風変化
EP フラックスの説明:鉛直伝播する定常惑星波動では(Matsuno and Nakamura, 1979)
u
1 
f R
 fv * 
( 2
v'T')
t
 z
N H
1 
1
1 
1


(
p' w') 
(
p' u0 (z)
)
 z u0 (z)
 z u0 (z)
x
1 


p'
 z
x
西向き
東向き+
のような形になる。
最後の項は、惑星波の鉛直変位
しめす。
東風加速
にともなう応力を
概念的には、平均東西風として、西風が吹いている。

図のA点で、矢羽はEの方をむいている。下のほうから
定常惑星波が伝播している。波にともなって流体粒子
面は凸凹している(図のB点に対応しており、鉛直変位
のx微分が+のとき圧力偏差は+になっているので、
その積は+となる)。その鉛直微分はAで波がなく、Bで
波が伝播しているとすればz-微分は - (負)となり、力
として -加速(東風加速、西風を減速)のようになってい
る。
西風
南風
波数1が主
EP-フラックスによる解析:図はや
はり1979年のmajor warmingの
ときのもので矢印は前に述べた
Eliassen-Palmのフラックス。
加速は
 u  fv*  X  (  a cos  )  1  F  D
0
F
t
で与えられる。*のついて残差
循環はこの場合小さいと仮定す
る、但し理論的に;実際は決し
て無視される量ではない)、簡
単には右辺のEliassen-Palm
flux の発散が平均東西風を変
化させると思う。図には収束に
よる加速 ものっている。時間的
に非常に複雑な変化を示してい
る。21日あたりは波が収束して
東風をつくっている。一方、28
日ではEP-fluxは発散になって
おり、西風を作っているようであ
る。
太い矢羽根は
波2の寄与
最近の南半球オゾンホールの様子(1998-2003年、 9月25日のみ)、全オゾン
1998
2001
基本の構造は南極で少なく、オーストラリアの南の方で多いというパターンが多い。
オゾンホールの形が年によりすこしづつ異なっているー>運動の様子を反映している。
特に2002年はかなり形態が異なっている? ー> この年に突然昇温が起こった。
2000
2003
2002年オゾンホールの急激な変動(9月19-29日)
9月19日
オゾン全量
左図に対応した、南半球の10hPa等圧面高度分布図
(約30kmの高度) 。単位はm、等値線間隔は200mの
高さの違いを示す。
図は廣岡、森、他 (2004) から
9月29日
波数1から2が卓越している
10hPa(約30kmの高度)に
おける東西に平均した温
度、東西風の時間変化の
様子(5月ー10月)、縦軸
は緯度をあらわす。
極でオゾンが増大してい
る時期ー>極の方が温
度が高温になり、西風が
東風に変わっている
(Majorの突然昇温になっ
ている)
右下3つの図ー>惑星
波動に対応したものの
10hPaの高度の凸凹を
東西に波の数で分解し
てその成分の大きさの
変化をしめしたもの。
緯
度
波の数k=1の大きさ
波の数k=2
波の数k=3
大気の変動の仕方が年によって異なる
2001年との
比較:
2002年と2001年の南緯60度における東西に
平均した東西風の時間と高度(縦軸)の図
2001年で
は東西風が
東風になら
ずに、西風
が長い期間
吹いている。
緯
度
特別な年であった2002年で9月の終わり頃
(波の形態がものすごく変形した時)に東風に
かわっている様子をしめす。
2001年は比較的ゆっくり季節変動をしている
図。
波の数k=1
波動の強さ
は2002年ほ
どには強く
なっていない。
波数2、3の
振幅は大き
くなっていな
い。
高
度
波の数k=2
緯
度
2002
波の数k=3
2001
2002年と2001年のEP flux(矢羽根の長さ)が異なることー>大きな変動をおこす
2002年
2001年
波の数k=1
波の数k=2
波の数k=3
2002年は波の活動が強く、成層圏の中にまで侵入している様子がみえる、上から東西に波に分けて波数
が小さいもの(k=1, 2, 3)から並べている(南緯50−70度平均)。色は波の東西風への作用の度合いをし
めす。矢の右向きは極向きを意味する。
対流圏の様子が重要のようである:予測実験との違いから
実況
9月19日−21日の対
流圏の様子
k=2のEP-flux
傾圧波動( k=4-6 )によるEP-flux、
大きな活動度がある
予測を外している例
東西風が異なっている
9月13日を初期値にした
ときのモデル結果の対流
圏のパターン
9月13日を初期値にしたときのモ
デル結果のEP-flux
9−3:Downward controlについて
Haynes et al., JAS, 1991
成層圏の中で力が働いた時の大気の応答についての議論で、時間がt=∞たった時を考える
1

1 
(v * cos  ) 
( w * )  0
a cos  
 z
のような残差循環についての連続の式が成り立つから、流線関数を導入する。

v*  
1

 cos  z
w* 
1

a cos  
一方、定常状態での運動方程式は
 

1

u
v * 
(u cos  )  2sin  w *
 F
z
a cos  

角運動量mを導入する
m  acos  (u  acos  )

上式の運動方程式は

 (, m )
 m
 m


 a 2 F cos 2 
 (, z)
 z
z 
m
 (m , z)
divided
by


 (, z)
 (, m )
 (, z)  (  )  a 2 F cos 2 
 (m , z)
z m
m /
 (, z)

Local なforcingを与えた数値実験例
境界条件は上端の無限で、
w *   0 z  
   0 z  
a 2 F cos2 
 (, z)   z {
}dz
m /
2
2
 a F cos 
1

*
w 
 { m / }dz
 cos   z

ある高度の鉛直流はそれより上にある
Fの分布だけできまる。外力は下方の
みに影響を及ぼす。極限の式
中緯度forcingにより、赤道では上昇流
(a), (b)放射減衰がないときのuと流れの応答、(c),(d)は4日放射
減衰で10日後、(e),(f)は20日、30日後の流れ
別例:熱帯圏界面の温度変化について
Kerr-Munslow and Norton, JAS, 2006, pp1410-1419
熱帯圏界面の温度の1年振動:北半球の冬に低温化、夏
に高温化 ECMWF ERA-15 data、1979-2001の平均
90hPa, 10N-10Sでの温度変化、実線が温位変化、
dashが鉛直移流の効果、dotは水平移流、dot-dash
は非断熱、triple dot-dashがその他
残差鉛直移流によって温度が変動、
w * N2
w*
東西風変化について

夏にw*が弱くなる
EPDが東西風加速に対して主、その変動に対して、3
点dot-dashが対応:u’w’と言っている。
90hPa, 10S-10N平均
彼らは赤道Rossby波と言っている。
ー>downward controlではないと言っている。
9−4:Arctic Oscillationにつ
いて
AOの高度別パターン
東西風の南北構造
下方伝播の様子
極で低圧偏差のとき、中緯
度では高圧パターン
時間的変動、下方伝播のように見える、赤がweak, warm
vortexである、赤□はmajorまたはearly final昇温、Cはカナ
ダwarming、filterがかかっている
Baldwin and Dunkerton, 1999か
ら
GCMの中のAOとEP-flux ( Kornich et al., GRL, 2003 )
GCM中のAOの高度別パターン
300hPa(上)と10hPa(下)におけ
るAOのパターン
東西平均した東西風anomalyとEP-flux anomaly
補足:AOの簡単モデルによる説明 (Eichelberger and
Holton, 2002, JGR
EP-flux とその発散、t =590 〜 t =650までのあいだの時
間変動、t=605で大きな減速、t = 635でひん曲がり:南北
伝播の重要性の指摘
15m/s間隔
類似のパ
ターンが得
られている。
5m/s間隔
東西風の sinly 第1モード(全体的)とsin2ly 第2モード(南北
反対)の時間変動、影は西風に対応
ー>AOによくにた振動
対応した東西風の変動、10m/s間隔