第五回 翻訳と通訳

通訳翻訳論 第五回
http://www.geocities.jp/nagatasae/
2004tuuyaku.htm
翻訳と通訳の共通点と相違点
翻訳通訳のプロセス (1)理解

起点言語の受容

文字言語または音声言語の理解
語義、統語法、語用(ボトムアップ的理解)
テクストのコード解析
表層構造におけるメッセージ
背景知識による推論(トップダウン的理解)
コンテクストの参照
テクストのタイプ
深層構造における意義
発信者の意図
テクスト間的意味(パロディ、本歌取り、引用など)
翻訳通訳のプロセス (2)転換-1
○ 指示対象となる事物
何が書いてあるのか
○ テクストの意義
何が言いたいのか
× 起点言語テクストを構成する記号表現
文字や音声の形式
原則として、記号表現は保持されない
翻訳通訳のプロセス (2)転換-2
翻通訳者の取りうる手段











等価置き換え:学術用語など一義的に定訳がある場合
補足説明:最終受容者に理解されにくい概念
変容適合:同様、類似の連想を喚起する記号表現を充当
類似代用:近接する意味を持つ語句で代用
模倣:文体や詩の形式のスタイルを真似る
不変換:メタ言語的使用、音声や文字自体に意味がある
新語の創作:新しい表現と概念の創造
統合:説明的表現を一語で表す
削除:メッセージに関わらないまたは受容不可能な語句
再編成:テクスト構成の変更、情報提示順序の整理
翻訳通訳のプロセス (3)表出-1

目標言語の視聴覚記号として表出



テクスト周辺情報の参照
伝達可能性と伝達必要性の検討
もっとも受容しやすい形式を選択
T/I Filter
CM
R
S
CM
R
翻訳通訳のプロセス (3)表出-2

翻訳通訳行為における情報の取捨選択





起点言語のテクストに含まれる指示対象(何について
語っているか)と、テクストの意義(何のために語って
いるのか)は目標言語においても保持される。
翻通訳者は指示対象と意義の保存のために記号表
現を捨て去る。
記号表現はSL内部でのみ機能するため、翻通訳者
によって閉め出される。
TL変換後に潜在情報となる記号表現がある。
SLで潜在している情報が顕在化することがある。
SLのコンテクスト依存情報がTLにおいて顕在化する、
または翻通者によって引き出され、説明される。
翻通訳の評価


特定のテクスト、特定の相手、特定の目的、特
定の歴史的状況、特定の文化背景、特定の場
所における、最良の翻訳と通訳
社会通念としての最適な記号表現




標準的な国語表記と音声表出
言語使用域に照らして適切なスタイル
訳出表現の芸術性
翻訳、通訳における知名度の問題


出版社、エージェンシーの信頼性
翻通訳者個人の知名度
翻訳・通訳における技術
語学力と翻訳通訳の熟練技術の違い
語学力:ある個別言語内の運用力を問題にする
翻通訳技術:二つの個別言語間を自由に行き来する能力
高い語学力を前提とする
起点言語
受容・理解
言語の四技能
翻
訳
・
通
訳
行
為
目標言語
再構成・表出
言語の四技能
翻訳と通訳の相違点

テクスト全体の予知


翻訳:訳出すべき内容は事前に全て提示される
テクスト全体を読んでから訳し始める
段落ごとに読みつつ翻訳する
文単位で翻訳する
通訳:話し言葉を時間軸に沿って順次訳出する
テクスト全体を全て聞いてから訳すことはまれ
逐次通訳:
短文逐次:一文ごと
一般的逐次通訳:段落ごと、1~3分ごとに訳出
同時通訳:情報単位ごとに切り分けて訳出
翻・通訳の時間的制約
●:最も普通,○:割に多い,△:少ない,×:ほとんどない
訳出する時点でどこまでの情報が提供されているか。
翻訳
逐次
同時
時間的制約
一字一句
×
×
△
高
情報単位
×
×
◎
一文単位
○
△
△
段落
○
◎
×
テクスト
◎
×
×
低
逐次通訳と同時通訳

逐次通訳:一般的にパラグラフごとに訳出


同時通訳:一般的に情報単位ごとに訳出



後続するパラグラフの情報は推論は可能だが確定は
できない。
一文の後半も確定できない状況のまま訳出開始
テクスト(発言)の冒頭では特に後続情報が未知
テクスト全体の意義や意図を事前に把握するこ
とで訳出の精度は上がる。
音声言語の特徴

何度も繰り返し受容することは不可能




表出された瞬間に消え去る
一度聞いてすぐに内容を理解する必要
頭ごなし(順送り)の情報処理
通訳のための記憶保持



記憶保持と再生支援のためのノート(逐次通訳)
原発言との適切な距離を維持(同時通訳)
訳出の完成度を上げるチャンキング(同時通訳)
空間と時間

翻訳





文字テクスト
紙に印刷されて流通
字幕、インターネットなどはモニターで閲覧
翻訳による産出物は「空間」を必要とする。
通訳




音声テキスト
時間軸に沿って提示される
発言者と交代でまたは同時に時間を占有する
通訳による産出物は「時間」を必要とする
発信者と受信者

翻訳



オリジナル・テクストは原則的に他の個別言語に訳出
されることを前提しない
翻訳者、読者は作者にとって未知であり、直接的な反
応を観察することができない
通訳



オリジナル・テクストは常に訳出されることを前提する
話し手、聞き手、通訳者が同じ場所にいて、それぞれ
の反応を見ることができ、コミュニケーションの当事者
である意識が生まれやすい
参与者の反応による調整が可能である
テクストタイプと情報伝達(1)









一般翻訳:文字→文字
字幕翻訳:文字・音声・映像→文字・音声・映像
テレビ字幕:音声・映像→文字・音声・映像
放送通訳:音声・映像→音声・音声・映像
原稿つき同時通訳:文字・音声・視覚情報→音声・視覚
情報
即興型同時通訳:音声・視覚情報→音声・視覚情報
原稿付き逐次通訳:文字・音声・視覚情報→音声・視覚
情報
逐次通訳:音声・視覚情報→音声・視覚情報
電話通訳:音声→音声
テクストタイプと情報伝達(2)

翻訳者・通訳者が発信する情報のみに頼る



翻訳:文字から文字へ
電話通訳:音声から音声へ
オリジナルの視聴覚効果も受容者に伝達




映画、テレビ字幕:オリジナル音声と映像
二カ国語放送:オリジナル映像
同時通訳:オリジナル視覚情報
逐次通訳:オリジナル視覚情報・聴覚情報
通訳=オリジナル視聴覚情報+訳出言語情報
まとめ:翻訳と通訳の共通点

共通点






異なる二つの個別言語間で行われる
発信者と受信者のコミュニケーションに役立つ
受信→理解→転換→発信の過程
目標言語で伝達されるのは起点言語の意味と意義の
うち伝達が必要な部分である
伝達の可能性は様々な制約を受けるが翻通訳者は
伝達の必要性に応じて種々の方策を用いる
いずれも人による言語行為であるため、訳出の良否
は個人の資質(知識)に依存する
まとめ:翻訳と通訳の相違点

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
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



テクスト全体を事前に提示されるか否か
空間を必要とするか時間を必要とするか
反復利用と流通が可能かどうか
起点言語テクストの情報を記憶する必要性
時間的制約による説明や解説の制限
起点言語と目標言語の語順の影響の有無
発信者・媒介者・受信者が可視であるか
訳出を前提しているか否かによるテクストタイプ
の違い