- リスク・プーリングとリスク分散 - 多々納 裕一 京都大学防災研究所社会システム研究分野 危機管理政策論(5月9日講義) Disaster Prevention Research Institute Kyoto University 危機管理政策論(5/9) 目次 リスクのプーリング リスクが独立の場合 リスクに相関がある場合 保険会社の役割(リスク・プーリング・アレンジメン トの管理者) 契約コストの種類 前払いの保険料と事後的に徴収される賦課金 分散化のその他の例・・・株式市場 Hirokazu Tatano Disaster Prevention Research Institute Kyoto University 危機管理政策論(5/9) プーリング・アレンジメント (リスク・プーリング・アレンジメント) プーリング・アレンジメント ・・・事故によって被る可能性のある損失を数 人または多数の人の間で均等に負担しあう ことを取り決めること Hirokazu Tatano Disaster Prevention Research Institute Kyoto University 危機管理政策論(5/9) 2者間のプーリング・アレンジメント (損失が独立の場合) 花子 太郎 どちらも事故にあう確率は 0.2 (事故に遭わない確率は0.8とする) 事故を引き起こしたときは損失 2500万円 を支払う 事故にあわなかったときは自分の資金は変化しないものとする. 期待コスト 0.8 0 0.2 2500 500万円 標準偏差 0.8 (0 500)2 0.2 (2500 500)2 1000万円 Hirokazu Tatano Disaster Prevention Research Institute Kyoto University 危機管理政策論(5/9) 2者間のプーリング・アレンジメント プーリング・アレンジメントを行うことにより, 損失及びその損失が生起する確率は変化 確率 損失全体 各人によって 支払われる損失 二人とも事故にあう 0.2×0.2=0.04 5000万円 2500万円 太郎だけ事故にあう 0.2×0.8=0.16 2500万円 1250万円 花子だけ事故にある 0.2×0.8=0.16 どちらも事故にあわない 0.8×0.8=0.64 2500万円 1250万円 0万円 0万円 期待損失 0.04 5000 {0.16 2500} 2 0.64 0 500万円 標準偏差 0.04 (2500 500)2 {0.16 (1250 500)2} 2 0.64 (0 500)2 707万円 期待損失を変化しない.標準偏差は減少する. Hirokazu Tatano Disaster Prevention Research Institute Kyoto University 危機管理政策論(5/9) プーリング・アレンジメント(卵の例) 「すべでの卵を一つのバスケットには入れな い」 太郎と花子は自分のたまごの半分はバスケット 1にもう半分はバスケット2に入れる. バスケット1は太郎が、バスケット2は花子が運 ぶ 目的地についたら,割れなかった卵を二人で分 ける Hirokazu Tatano Disaster Prevention Research Institute Kyoto University 危機管理政策論(5/9) 多数の人々や企業による プーリング・アレンジメント 人数を増やすとどうなるか? →損失の平均は変わらず、その標準偏差は 減少する!歪度も減少する! 確 率 密 度 4人の場合 0 500 1000 1500 2000 2500万円 0 20人の場合 500 1000 1500 2000 2500万円 Hirokazu Tatano Disaster Prevention Research Institute Kyoto University 危機管理政策論(5/9) 損失が連続的な分布に従う場合 -ある企業が直面する損失の確率分布 確 率 密 度 プーリング・アレンジメントを行う場合 プーリング・アレンジメントを行わない場合 0 500 1000 損害 2500万円 Hirokazu Tatano Disaster Prevention Research Institute Kyoto University 危機管理政策論(5/9) プーリング・アレンジメントに参加する人数の 増加の効果 • プーリング・アレンジメントに参加する人数 が増えれば増えるほど確率分布は損失の 期待値に近づき、標準偏差は減少する 確 率 密 度 損害 0 100 200 300万円 Hirokazu Tatano Disaster Prevention Research Institute Kyoto University 危機管理政策論(5/9) 異質的な損失の確率分布を持つ場合 異なる損失の確率分布をもつ個人(企業) 同士がプーリング・アレンジメントしたとして も,各個人(企業)の直面している損失の標 準偏差が減少することは変わらない. また、参加者数が限りなく大きい場合,その リスクは無視できる(標準偏差は0と考える ことが出来る) Hirokazu Tatano Disaster Prevention Research Institute Kyoto University 危機管理政策論(5/9) 損失に相関がある場合のリスク・プーリング 結論・・・リスク軽減の大きさは,損失が独立のときよ りも小さい 様々な損失の相関 頻度の相関・・・ある人が損失を被れば,他の人 も損失 を被る傾向にあるとき ハリケーンや地震・・・多数の人々が同時に被災 伝染病・・・同時期に感染(同時に医療コストが増大) 強度の相関・・・ある人が大きい損失を被れば,他の人 も大きな損失を被る傾向にあるとき 予期せぬインフレ・・・人々の医療支出の増加 Hirokazu Tatano Disaster Prevention Research Institute Kyoto University 危機管理政策論(5/9) 正の相関がある場合の損失分布 相関がないとき,太郎,花子が同時に被害 をうける確率は0.2×0.2=0.04 (頻度の)相関があるとき,同時に被害をう ける確率は0.04よりも大きい また,同時に被害を受けない確率も 0.8×0.8=0.64より大きい 極端な事象が生じる確率が大きくなる! Hirokazu Tatano Disaster Prevention Research Institute Kyoto University 危機管理政策論(5/9) 正の完全相関 太郎が事故にあうときは必ず花子も事故にあう場合 二人とも事故を起こす確率は一人が事故を起こす確率に等しい 二人とも事故を起こさない確率は一人が事故を起こさない確率に 等しい 各人によって 支払われる損失 確率 損失全体 二人とも事故にあう 0.2 5000万円 2500万円 太郎だけ事故にあう 0 0万円 0万円 花子だけ事故にある どちらも事故にあわない 0 0万円 0万円 0.8 0万円 0万円 Hirokazu Tatano Disaster Prevention Research Institute Kyoto University 危機管理政策論(5/9) 正の相関がある場合とない場合の損失 の確率密度関数 プーリング・アレンジメント後の損失の密度関数 確 率 密 度 無相関 正の相関 0 100 200 300 400 500万円 正の相関がある場合,損失のばらつきは大きくなる (標準偏差は大きくなる) Hirokazu Tatano Disaster Prevention Research Institute Kyoto University 危機管理政策論(5/9) 正の相関がプーリング・アレンジメントの リスク軽減に与える影響 平 均 損 失 の 標 準 偏 差 正の完全相関 完全相関よりも小さな正の相関 無相関 参加者の数 正の相関がある場合,参加者の数が増えても 標準偏差は0にはならない Hirokazu Tatano Disaster Prevention Research Institute Kyoto University 危機管理政策論(5/9) 保険会社の役割 プーリング・アレンジメントの管理者としての 保険会社 契約の募集(マーケティング及び流通) 応募者の選別(アンダーライティング) 保険金請求の監視(損害査定) 賦課金の徴収 保険会社がなければ,それぞれの行程を プーリング・アレンジメントの各参加者が行う 必要性がある(非効率) Hirokazu Tatano Disaster Prevention Research Institute Kyoto University 危機管理政策論(5/9) 契約コスト 太郎と花子,また他の参加者が直接,契約 を作成したり、その契約を遵守させたりする ことは費用がかかる.→契約コストの存在 保険会社の役割は契約コストを下げること Hirokazu Tatano Disaster Prevention Research Institute Kyoto University 危機管理政策論(5/9) 契約コストの種類 流通コスト 参加者を募るのに必要なコスト 独立保険代理店,保険ブローカー 専属営業職員,保険会社従業員 直接販売(電話販売,通信販売,オンラインマーケティング) 契約条件を定めるコスト 保険引受費用 アンダーライティングに要する費用 参加の可能性のある人の期待損失を評価するプロセス 期待損失額が200万円の人たちは,期待損失額が400万円 の人とプーリング・アレンジメントしたがらない. Hirokazu Tatano Disaster Prevention Research Institute Kyoto University 危機管理政策論(5/9) 契約コストの種類 損害調査コスト ある参加者に損害が発生した場合,その参加 者の損害額を正確に評価する必要性がある 保険金請求の監視の必要性 不正請求,損失の過大な見積もり 集金コスト 資金収集のための連絡費用 各参加者に各負担金を確実に支払わせるため に必要な費用 Hirokazu Tatano Disaster Prevention Research Institute Kyoto University 危機管理政策論(5/9) 前払いの保険料と事後的に徴収される賦課金 保険会社は,保険契約者に対して,損失が発生す る前に保険料を確定させ徴収する(既に生じた損失に対 して,保険契約者に損失を負担させる法的権利を有していない). 事後的に徴収する賦課金ではなく,前払確定保険 料を採用するメリット 損失を被っていない人から賦課金を徴収するための費 用が高い 保険金の支払いの遅延の可能性 参加者の賦課金システムによるリスク 確定的な前払いとは異なり,事後の賦課金には不 確実性が存在する. Hirokazu Tatano Disaster Prevention Research Institute Kyoto University 危機管理政策論(5/9) リスク分散化のその他の例 株式市場 起業家 株式公開することで,その企業に関連するリスクを 他人と共有するメカニズムを提供 投資家 一つの会社に投資するのではなく,多数の異なる株 式に投資することにより,株式から得られる収益の 分散を減少させることが可能 ただし,株価も正の相関をもつ(たとえば,景気の動 向や金利の変動など)ため,リスクを完全に分散化 させることは出来ない(システマティック・リスクの存 Hirokazu Tatano 在) Disaster Prevention Research Institute Kyoto University 危機管理政策論(5/9) 要約 損失に相関がない場合,プーリング・アレンジメン トにより各参加者のリスク(標準偏差)を軽減可能 軽減されるリスクの大きさは参加者の数が増えれ ば増えるほど大きい(無相関であれば,リスクは0 へと近づく) 損失の相関が大きくなると,リスク軽減の大きさは 小さくなる 保険会社は,流通,アンダーライティング,損害調 査を含む、プーリングアレンジメントに関連した契 約コストを節約するための機関 Hirokazu Tatano
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