- リスクの認識と測定 - 多々納 裕一 京都大学防災研究所社会システム研究分野 リスクマネジメント Disaster Prevention Research Institute Kyoto University リスクマネジメント 目次 リスクの認識 事業リスク・エクスポージャの認識 個人のエクスポージャの認識 確率と統計の基礎概念 確率変数と確率分布 確率分布の特徴 期待値,分散,標準偏差,標本平均,標本標準偏差, 歪度,予想最大損失,VaR,相関 損失の頻度と強度の評価 Hirokazu Tatano Disaster Prevention Research Institute Kyoto University リスクマネジメント リスクマネジメントの意思決定プロセス 1. 2. 3. 4. 5. 損失を引き起こす全ての重要なリスクの認識 損失の潜在的な発生頻度と強度の評価 リスク管理手法の開発及び選択 選択されたリスクマネジメント手法の実行 選択されたリスクマネジメントの手法と戦略の適 合性と実行度合いの継続及び監視 Hirokazu Tatano Disaster Prevention Research Institute Kyoto University リスクマネジメント 事業リスク・エクスポージャの認識 リスクを認識をしない リスクを暗黙で保有 リスクの認識の必要性 財産ロス・エクスポージャ 賠償責任損失 人的資源の損失 外部経済の影響から生じる損失 Hirokazu Tatano Disaster Prevention Research Institute Kyoto University リスクマネジメント 財産の評価方法 簿価・・・購入価格-減価償却費 市場価値・・・所有者の次に高く評価をする者がその 財産に対して支払ってもよいと考える価値 企業固有価値・・・現在の保有者にとっての財産価値 新規再調達費用・・・損害を被った財産の新規購入費 用(財産の市場価値を超えることが多い) Hirokazu Tatano Disaster Prevention Research Institute Kyoto University リスクマネジメント 財産ロス・エクスポージャ 直接損失 どのような種類の財産が損失のリスクにさらされている のか? どのような要因が損失へと導きうるのか? 損失にさらされている財産の価値はいくらか? もし財産が失われた場合には再調達されるだろうか? Hirokazu Tatano Disaster Prevention Research Institute Kyoto University リスクマネジメント 財産ロス・エクスポージャ 間接損失 無保険財産の再調達のために,外部資金調達をする必要があるか? 直接損失に続いて業務を一時停止あるいは縮小するだろうか? 業務を一時停止あるいは縮小するならば,その期間はどれくらいか? 通常の利益はいくら失われるか?一時停止あるいは減産にも関わらず どのような業務支出が継続するか? 通常水準の生産が回復した後に,収入の減少は続くのか?もしそうな らば,どのような行動がこれらの損失を軽減し,そのコストはいくらか? もし損失前の水準で業務を継続するならば,どのような設備,資源が必 要か?また,代わりの設備あるいは資源を使用することから追加的に 費用なコストは何か?いくらか? Hirokazu Tatano Disaster Prevention Research Institute Kyoto University リスクマネジメント 賠償責任損失 企業には,サプライヤー,顧客,従業員,株主,公的機関をはじめ, 多くの利害関係者が関係 潜在的な法的賠償責任損失に直面 賠償金,裁判費用 評判の損失 損失発生後に損失を最小化するために必要な 費用 Hirokazu Tatano Disaster Prevention Research Institute Kyoto University リスクマネジメント 人的資源の損失 従業員の傷害,障害,脂肪,退職,離職 傷害,障害,死亡,および退職に対しての従業 員の補償(労働者災害補償保険etc) 生産の中断や従業員が同等の能力をもった別 の従業員で費用0で代替不可能のとき 間接損失が発生 Hirokazu Tatano Disaster Prevention Research Institute Kyoto University リスクマネジメント 外部経済の影響から生じる損失 企業外部の要因 インプット・アウトプットの価格変化 為替の大きな変化 例えば原油価格上昇 多国籍企業のコストを増加,収入の減少 重要なサプライヤーや購入者の倒産 例えばサプライチェーン Hirokazu Tatano Disaster Prevention Research Institute Kyoto University リスクマネジメント 個人のエクスポージャの認識 現在および将来に向けて計画されている資 金源とその利用を分析することで,個人や 家のエクスポージャを認識可能 資金の利用可能性の減少や資金の利用増 加を引き起こす潜在的な出来事はリスク・エ クスポージャ- Hirokazu Tatano Disaster Prevention Research Institute Kyoto University リスクマネジメント 個人・家庭が直面しているリスク 一家の大黒柱の死亡,障害リスク 退職前の収入の落ち込み →生命保険,失業保険etc 医療支出リスク →国民健康保険etc 個人の損害賠償責任リスク →損害賠償責任保険(例えば自動車事故) 退職後の収入面の落ち込み 長寿リスク →貯蓄or国民年金などの公的プログラムの利用 Hirokazu Tatano Disaster Prevention Research Institute Kyoto University リスクマネジメント 確率と統計 確率変数・・・結果が不確実な変数 変数 X に関して, コインの表が出たら X 1 コインの裏が出たら X 1 コインを投げる前は X は不確実 投げた後は X が確定し,X 1 または X 1 Hirokazu Tatano Disaster Prevention Research Institute Kyoto University リスクマネジメント 確率分布 表と裏が出る確率が同じならば, 確率 0.5 X -1 +1 起こりうる結果 Hirokazu Tatano 平均,分散,標準偏差 px N 期待値 i i i 1 N 分散 2 pi (xi ) 2 i 1 N 標準偏差 i 1 pi (xi ) 2 計算してみよう • さいころを振り,目の数に100をかけた値だけ お金をもらえるとする(たとえば目の数が2な ら200円) .1~6が出る目の確率はそれぞ れ同一とする(それぞれ1/6) • もらえるお金の期待値は? • もらえるお金の分散は?標準偏差は? 確率分布関数(例1) 確率密度 0 100 200 300 起こりうる結果 400 500万円 確率分布関数(例2) A B 確率密度 0 100 200 300 400 500万円 分布Aと分布Bの期待値,標準偏差の違いから どんなことが言えるだろう? Disaster Prevention Research Institute Kyoto University リスクマネジメント 標本平均と標本標準偏差 確率分布が未知のとき,標本平均,標本標準偏差は その確率分布の未知の期待値,標準偏差を推定す るのに有効 標本平均・・・分布からの結果の標本の平均 平均損失は期待値とは通常異なる 標本標準偏差(または標本分散) ・・・標準偏差との違いは, 1. 結果の標本のみを用いる 2. 期待値は未知,代わりに標本平均を利用 3. 結果と標本平均の偏差の二乗は実際に結果 が起こった回数の割合をかける Hirokazu Tatano Disaster Prevention Research Institute Kyoto University リスクマネジメント 標本平均と標本標準偏差(例) 例 さいころを5回ふったところ, 1,6,5,4,6 の順で目が出た. このとき標本平均は?標本標準偏差は? (なお,さいころの各目が出る確率はわかって いないものとする.) Hirokazu Tatano 確率分布の歪度 確率密度 確率密度 正の歪度 起こりうる結果 起こりうる結果 確率分布の左右の対称性の度合い 確率分布の歪度 • 確率分布を損失の発生分布とした場合 確率密度 0 100 確率密度 200 300 400 0 100 200 300 400 500 大損失の可能性を評価するとき,重要 損失の期待値が同じでも歪度の違いにより大損失の可能性が異なる. Disaster Prevention Research Institute Kyoto University リスクマネジメント 予想最大損失 確率密度 面積=0.01 0 1 2 3 4 5 6 (億円) 予想最大損失を1%水準でとるとき, この確率分布関数の予想最大損失は5億円 Hirokazu Tatano Disaster Prevention Research Institute Kyoto University リスクマネジメント VaR(Value at Risk) 保有資産の確率変動の分布 確率密度 面積=0.01 250万円以上の損失を 被る確率は1% -300 -200 -100 0 100 400 200 300(万円) Hirokazu Tatano 確率変数の相関(correlation) • 確率変数間の関係の度合い 例:サングラスの売り上げと傘の売り上げ 自動者の販売台数と製造物賠償責任請求 の総額 肉の消費量と魚の消費量 • 無相関 例:車の需要とテレビの需要は無相関? 損失の頻度と強度の評価1 • 頻度の評価・・・損失の数をエクスポージャーの数で 割る 例・・・1万人の従業員を有する工場で,10年間で5 00人の従業員が工場で負傷した場合,ある従業員 が1年あたりに負傷する割合は? • 強度の評価 例・・・500人の負傷による企業が被った総コストは 10億円であった.このとき,各一人当たりの補償額 の期待値は? 損失の頻度と強度の評価2 • 損失の頻度と強度が無相関であれば,期待 損失は頻度と強度の積で算出可能 – 期待損失は保険が企業価値を増大させるか否か を判断する上での重要な尺度 • 一般に,損失分布の推定を行う場合,高頻度 損失に対してはその標準偏差は小さく,低頻 度損失に対してはその標準偏差は大きい. – めったに起こらないが潜在的に大規模な損害は 予想しにくく,大きなリスクを生みやすい まとめ • リスクマネジメントのプロセスはリスクの認識から • 企業の認識すべきリスク・・・財産リスク,賠償責任リスク,人 的資源リスク及び外部経済の影響から生じるリスク • 個人の認識すべきリスク・・・所得リスク,支出リスク,資産リ スク,長寿リスク • 確率分布・・・起こりうる結果とそれらが起こる確率を分布に したもの • 期待値・・・起こりうる結果の加重平均(起こりやすさに起こり うる結果をかけたもの) • 標準偏差(分散)はある確率変数の期待値まわりの変動性 を示す尺度(リスクの予想の難しさと解釈可能) • 歪度は分布の対称性を測る尺度
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