日 本 遺 産 も の が た り

日本遺産ものがたり
本遺産構成文化財
日
豆田町重要伝統的建造物群保存地区内
寺子屋 三遷堂
(大分県日田市)
年 月1日号 第1385号
平成
7
日本遺産構成文化財
備前国和気郡井田村延原家文書
(岡山県備前市)
第4話
文字社会の広がり
遺産ものがたり」。今回のキーワードは「文字」です。
へいのうぶんり
「兵農分離」
と呼ばれる体
江戸時代の大きな特徴に、
制がある。武士は城下町に住み、百姓は村に住む。江
を 伝 え た。 村 で も 日 常 の あ ら ゆ る 場 面 で 文 書 を 用い
るため、法令やお触れなどを文書で出し、意思や情報
兵農分離体制の中、武士と百姓の意思疎通になくて
はならなかったのが、文字である。武士は村を統治す
が
「お国なまり」
と呼ばれ、地方差が著しかった江戸時
も、どこでも意思疎通が可能であった。口頭での会話
お家流さえマスターすれば、大名から百姓まで、誰で
た。注目すべきは、ここで学ぶくずし字が、
「お家流」
と
そのため、町や村には必ずと言ってよいほど寺子屋
(手習塾)
が設けられ、人々はこぞって読み書きを習っ
た。岡山県備前市の
「井田村延原家文書」(日本遺産構
代にあって、文字の共通化は画期的な出来事といえる。
呼ばれる和様書道で全国的に統一されていたことだ。
成文化財)など、全国の村で膨大な数の古文書が現存
子屋
「三遷堂」
は、貴重な寺子屋の遺産といえる。
の
「豆田町」(日本遺産構成文化財)
の一角に現存する寺
なかった。
藩の商人との契約や決済も、文書なくしては成立しえ
現代でも、私たちが手紙を書くとき、相手の立場や
性別、用件に応じて、書き方を使い分け、会話以上の
のことも、江戸時代の学びの重要な特色である。
「書礼」と呼ばれ、
また、寺子屋などでの文字学びは
文書を書くうえでの礼儀作法も同時に教えられた。こ
さんせんどう
情報が激しく行き交うようになった。経済活動も活発
このように、江戸時代には、すべての身分の人々が
文字を学ばなければ、生活に支障が生じる社会が生ま
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水戸市 歴史文化財課 関口慶久
代の文字社会にあったのである。
「礼節」
が求められることがある。その本源が、江戸時
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〒310~8610 水戸市中央1~4~1
たわけではなく、普及は限定的だった。江戸時代の文
及したが、庶民階級はすべての人々が文字を必要とし
れた。当時の西欧諸国では、上流階級は文字学びが普
となり、取引先は遠国の藩にまで及んだ。こうした他
町 に 住 む 商 人 や 職 人 た ち も同 様 だ。江 戸 時 代の 城
下町は、平和の到来
(第3話参照)
によって、人、物、金、
いたむらのぶはらけもんじょ
しており、村における文字の普及を物語っている。
文字学びの主要な場となった寺子屋だが、現存する
遺産は意外なほど少ない。こうした中、大分県日田市
戸時代、両者が対面する機会はめったになかった。
字の広がりは、世界的にも珍しい現象だったのである。
日本遺産に認定された「近世日本の教育遺産群―学ぶ心・礼節の本源―」の歴史的魅力を語る「日本
―近世日本の教育遺産群―
広報みと
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水戸市の人口 人口…270,840人(男132,755人、女138,085人) 世帯数…118,535世帯 -平成28年6月1日現在(平成27年国勢調査速報値基準)-